第4話。最初だけ盛り上がるやーつ。
衝撃的な2日間を過ごし、この先起こり得る現象に恐れおののいたのは束の間。
それから1ヶ月、何事も無く時が過ぎ、魔王を怖がるのは小学生ぐらいになった。
そう、町民の悪魔に対する恐怖心が無くなったのである。
もちろん最初の1週間は皆衝撃に打ちひしがれた。
町内には心霊グッズが溢れ、神社や寺のお守りが飛ぶ様に売れ、
市役所や警察、消防にも大量の電話が掛かり、金丸の地はパニックに陥った。
しかし、魔王が降臨した光景をビデオに撮る事に成功した者は1人も居らず、ボイスレコーダーにもその声が残っていない事から、警察も取り合ってくれなかった。
だが町民の不安と対称に、あれ以降起こった事と言えば、歩道がヌルヌルになっていた事、河川敷に大きな穴が出来ていた事、マンホールの蓋がピカピカになっていた事ぐらいだった。
誰もこれを魔王が行っている人類を恐怖に陥れる所業と捉える事は無かった。
子供のイタズラ程度にしか考えず、話題にはなるが、実際に被害を受けた人も居ない事から、都市伝説の域を超える事は無かった。
町長なんかは、日ごとに綺麗になっていくマンホールの蓋を見て、いっそ魔王の町として金丸を観光名所にしようと企む始末だ。
自分の身に被害が無いのだから、深く考えるのは止めて受け入れてしまおう。そんな他人事の感覚で金丸町民は魔王の存在を認めている。
でもそれは、己にデメリットが降りかかっていない人間だから言えるセリフだ。
何故こんな言い方をするのか、
それはこれが俺にとって大問題な悪魔の所業だからである。
あの日から俺の左眼球は霧島に釘付けになった。
授業中絶えず禍々しい波動を垂れ流し、夥しい程のローションと紙ヤスリを異形の物に錬成し、偶に体の一部を魔王状態にしてハッとなりすぐ元に戻したりする。
そんな事を隣でされて勉強に集中出来る筈がない。
稀有な事に誰も霧島の行動に気づいて居らず、むしろ驚いて声を漏らす俺の方を不審げに見るだけだった。
中学の頃上級生が髪の色をからかわれ、それに刃向かった事で満場一致で不良認定され、生徒指導部屋の常連になった俺は、勉強する事だけが目をつけられないただ一つの方法だと理解した。
それに気づいた中3の春から、1度も学年で20番以内から外れた事がない。
成績優秀者として高校に入り、成績が良い元不良のボッチとして確固たる地位を築いていた俺の日常が、魔王のせいで崩れ去る。
1週間前に行われた中間試験で、高校に入り始めて100番台を取ってしまったのだ。
これにより教師から不良返りを疑われ、クラスの奴らからも「あぁ、でしょうね」と言う目で見られ、より一層ボッチを極める事となった。
ナオだけは変わらず話しかけてくれるが、校舎の違うアイツのクラスまでわざわざ会いに行くわけにも行かず、俺の心は傷ついていくばかり………。
唯一クラスで話しかけてくれた学級委員の橋本さんも、その日から目も合わせてくれなくなった。
こうなったのは全て霧島のせいだ。
力ずくであいつを殴り飛ばして止めさせたいが、そんな事をしたら俺が高校を辞めさせられる事になる。
どうしたものかと考えた俺は、霧島の家に行き直接話し合おうと考えた。
不良認定をぶり返した俺が、がっこうで大人しい系代表の霧島に話し掛ける様な真似をすれば、イジメや恐喝とも取られ兼ねない。
これは名案だと思った。
しかし彼奴の後ろをストーキングしていると、車に跳ねられたり、上から花瓶が落ちてきたり、お婆さんに道を聞かれたりして毎回見失い、とうとうこの1週間、霧島の自宅を見つける事は出来なかった。
そこで俺は強硬策に出た。
闇討ちである。
霧島が魔王である事は間違いない、ならばあいつが魔王として活動している最中に後ろからバッドで殴れば良い。
魔王に対してそんな陳腐な策で大丈夫かと心配されそうだが、怒りが頂点に達している為、何とかなりそうだと思えてしまう。
「っし、じゃあ行くか」
5月某日の深夜。
父親の革ジャンにジーンズとスニーカー、黒のニット帽にマスクとサングラスを掛け、俺は金属バットを片手に家を出た。