第2話。霧島と言う男。
彼とは小学校から一緒だ。
と言っても親友と言う訳ではない。
ギリギリで市に昇格できない金丸町内では、中学校が三つしかなく、高校も金丸高校と金丸商業の二つだけの為、ほぼエスカレーター式にメンツが変わらない。
ただただ腐れ縁とよっ友が量産される、悲しき田舎のシステム。
ゆえに霧島もよっ友である。
大人数なら遊んだ事はあるが、一対一ではない。同じクラスなら挨拶ぐらいはするが、違うクラスになれば話す事もない、絶妙な距離感の友人。
父親が市役所職員、母親がピアノ教師の一人っ子で、バイオリンとジャパニーズhip-hopをこよなく愛している事ぐらいしか知らない。
小五の時に借りた金属バットを俺がまだ返してない事も、きっともう忘れているだろう。その程度の関係性。
しかし霧島、
悪い事は言わない、考え直せ。
三丁目の高橋君の事件を忘れたとは言わせない。
当時高1だった高橋君が、悪魔を降臨させる為に学校の屋上でソーラン節を 聖飢魔II ver.で踊り、小3の俺らまで全校集会になったのは忘れられない思い出の筈。
お前がやっている事は高橋君の3億倍罪深い。
罪深さ表記で言うと300000000Tk(高橋)だ。
今ならまだやり直せる。
だから今すぐ紙ヤスリとローションで何かを錬成するのは止めるんだ。
そして出来た物を鞄に詰める作業も終わりにしなさい。
さっきからお前が錬成する度に目がチカチカして漢文の予習が全く進まないんだ。
あと鞄からはみ出たゼリー状の物体が俺の上履きに当たりそうで気も抜けない。
だがこれをしなきゃゴリ山に難癖を付けられてしまう。
仕方が無い、俺の通信簿と金丸町内の平和を守る為に一肌脱ぐか。
よし、
「なぁ、霧「ねぇ霧島くん!英語のノート写させて!」
「どうぞ」
「ありがと!4限目までには返すから!」
キーンコーンカーンコーン
鮮やかにタイミングを失った。
クラスで浮いている俺に誰かの話を遮ってでも霧島に話しかけるなんて勇気は無く、
結局その日は声をかける事が出来ず、下校の時刻になった。