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ツクモ白蓮  作者: きな子
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第十七章:みえたもの ―卯月・中旬― 其の弐

 羨望の眼差しになど慣れているとばかりに、純は小夜子に向き直る。

「でも引き取る前に、俺も子猫見に行ってもいいよね? 家族として迎えるんだし」

「もちろんだよ! それじゃ日付決めちゃおっか」

 スケジュール帳を開き、互いの予定を確認し合う。

「基本的に土日は毎朝部活が入ってるから、唯一空いているとしたらこの日なんだけど」

「来週の日曜日だね……。この日は私、奏一郎さんたちとお花見があって……」

 そこで会話に加わったのは静音、そして芽衣だ。

「お花見?」

「奏一郎さんが絶好の場所を知ってるからって、橘さんと桐谷先輩も誘ってお花見を……」

「えー、なにそれ! いいなー、私も行きたい」

 静音が、そう口にした。それからはあまりにも早い展開で──、

「私は恭兄(きょうにぃ)とも仲良いしー、お兄ちゃんとお花見なんてしたことないし」

「この日しかお互いの予定空いてないんだし、いいよね? もののついでってことで」

「……萩尾さんが迷惑でなければ」


 静音の一言を皮切りに、続々と。奏一郎、橘、桐谷、小夜子。そこに静音と芽衣、さらに純までお花見に加わることに。

 静音はともかくとして、芽衣と純。この二人がやたらと積極的だ。来たいのか、心屋に。……お正月にはあれだけ警戒していたはずなのに。果たしてこの二人を呼んでも良いものか? いやいやそうだ、静音だって。桐谷とのいざこざは過ぎたこととはいえ、もう良いのか。会っても平気なのか。小夜子はぐるり、ぐるり。頭の中が一気に忙しくなる。

 けれどそこへ純の一言。そっと耳打ちされた、囁き。


「……大丈夫だよ。悪いようにはしないから」

 無表情にそっと重ねられた薄い笑みは、やはり大人びていて。思わずどきりとさせられてしまう。

 渋滞を起こした思考回路の中、どうにか導き出したのは、

「そ……奏一郎さんに確認してみます……!」

 何とも無難で、けれど妥当な答えだった。


* * *


 外に出てみれば、夕方なれど日はまだ高いところにあった。ペール調の夕暮れに、やっと冬の終わりを感じる。


 結局、静音の課題は終わることはなかった。前髪の寝癖を手櫛で直す彼女と、それを見て微笑む小夜子。階段を無事に下り終えるまで、芽衣と純は二人の背中を見守っていた。


「……小夜子先輩さ、あれ、どうしたの?」

 声を落とし、ぽつり。真剣な面持ちの彼に、芽衣も頷く。

「……(うな)されてた。悪い夢でも見ているのかと思って肩を揺らしたり、名前を呼んだりしたのに。それなのに……」

 細い肩を揺らした。名前も呼んだ。何度も、何度も呼んだ。けれど、

「全然起きてくれなかった。……もう二度と目覚めないんじゃないかと思うくらいに」

「そう。もしかしたら、そうなってたかもね」

 不安そうな芽衣とは対照的に、純は迷い無く続ける。


「誰かが、小夜子先輩の夢の中に入ったんだ」


 何が目的だったかまではさすがにわからないけどね、と冷静に付け加える純。一方の芽衣は冷静になどいられるはずもなく──怒りに、焦りにギリリ、と歯を軋ませた。自然と脳裏に浮かぶのは碧眼の男だ。きっと彼の仕業に違いない。良からぬことを小夜子に仕掛けているに違いない、と。


「……あの白髪(はくはつ)の人ではないと思うよ。小夜子先輩から感じたのは……漂わせる雰囲気こそあの人に近いけれど。それとはまた別物だったように思うから」

 芽衣の気持ちを読み取ったのか、静かに諭す純。その甲斐あって芽衣の怒りは徐々に沈静化していく。……その分だけ、焦燥感は募る。

「それじゃ、それじゃあ何だって言うの? あの男じゃないなら、一体誰が……っ!」

「『心屋』。まずは一緒にそこに行ってみようよ。姉ちゃんにはわからなくても、俺にはわかることもたくさんあるかもしれないよ?」


 自信満々の笑みに、芽衣はふと思い出す。そうだ、こういう分野に関しては自分よりもずっと、弟の方が適任だったということを。彼が持つのは自分のそれとは違う──ひどく繊細な、能力(ちから)だ。


* * *


 眩しいばかりの快晴がここ数日の間、絶え間なく続いている。まだ午前中ゆえにか風にまだ冷たさは残っているものの、降り注ぐ陽光は温もりをたしかに肌に伝えていた。鳥は歌う。猫はじゃれ合い、虫も土の下から顔を出す。

 そんな麗らかな日和にそぐわない会話を繰り広げるのは、二人の男。そのだんだんと近付いてくる賑やかしさに、鳥は飛び立つ。猫は去る。虫も静かに、その場を後に。


「……それにしても、きょーやさぁ。よく行く気になれるよね……」

「何がだ」

「いや……好きな女の子と、その女の子が好いている男からの誘い……なんて普通は行きたくないもんじゃないか? と思って。しかも手土産まで持って……悲惨……」

 遠慮がちに、されどストレートに投げられたその豪速球は、見事に橘の心にクリーンヒット。しかし彼はこれくらいで凹むような男ではない。

「仕方ないだろ! 向こうから誘われない限りは滅多に会えないんだから! 誘われただけ幸運な方だろ!」

「まあ、ぶっちゃけそうだよね。十も年の離れた女子高生と会う理由なんて、俺たちおっさんにはなかなか作れないよね」

「永遠の男子高校生みたいな面構えをしておきながらよくそんなこと言えるな……!」


 ベビーフェイスは、本日も緩い無表情だ。けれどこの桐谷という男、顔立ちこそ甘ったるい雰囲気を醸し出してはいるがその実、人の心の機微には聡いのだ。


「うーん……でもさ、一応の確認なんだけどさ。心屋さんとさよさよって別に付き合ってるわけじゃないんだよね……?」

「ま……まあ、そうみたいだな」

「それなら尚更さ、無理矢理にでも振り向かせてやる~くらいの気概が見たいところなんだけど……」

 ここで、橘の左手の紙袋が音を立てた。ぐしゃり、ぐしゃりと。先程までの美麗な花柄が、枯れかけの花柄へと変貌を遂げていく。


「だから……っ! 彼女が幸せなら俺はそれでいいって言ったろ!?」

「だーかーらーさ。それじゃいつまで経ってもきょーやが幸せになれないでしょ~って言ってるでしょうがよ~……」


 言い争う──といっても片方は実に安穏としたノリであるが──両者。 (いさか)いを取り止めたのはそれから間もなくのこと。『心屋』の前に到着したその瞬間だった。


「いらっしゃい、お二人さん」

 落ち着いた声。和服の衣擦れ。空色の眼。穏やかな微笑み。全てが、二人を歓迎していた。

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拙作『ツクモ白蓮』を含む

小説家になろう掲載作品が多数、

中国の小説サイトに

無断転載されている問題を受けまして

その対策の1つとして「前書き」に小説の本編を

掲載しております。

なお、安全性が保証されていないため、当該サイトにアクセスすることは推奨できません。

というよりも、アクセスしない方が賢明と思われます。


見辛くなってしまっているかもしれませんが

ご理解ご協力のほど、よろしくお願いいたします。


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