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第六話 童話迷宮 その2 溶け出す世界


 「魔法使いの世界・・・」


ミコトが発した言葉を聞いたなないろは、魔法猫クロシロウに教わったことを思いだす。


 ー魔力で空間を切り取り、異空間へと接続、限定的な空間とするのが『結界』

  対して、

  魔力で空間そのものを塗り替え『支配』するのが『魔法使いの世界(マギウス・ユニバース)

 『結界』は区切られた限定的空間だが

 『世界(マギ・バース)』は魔力の強さに応じてどこまでも広がっていく。

  『世界』とは魔法使いの『精神の発現』『心の(かたち)』であり『価値観』の象徴

  そして『世界』内では魔法使いは無限の力を発揮できるー


ハッと思い立つなないろ。


「じゃ、じゃあ、どこかに魔法使いが!?」


キョロキョロと周囲を見回すが

どこにもそれらしい姿は確認できない。


「ちょっと!どこにかくれてるの!?メイちゃんに酷いことしたら許さないんだから!!」


周囲に目を配りながらも、なないろは再びメイに声をかける。


「待ってて!すぐに助けるから!」


ミコトはメイから目を離さないようにしながら、

慎重になないろをガードし言った。


「なな、落ち着いて聞いてください」


なないろとミコトが見守る中、メイの体が光に包まれどんどん小さくなっていく。


「今、此処に他の魔法使いの気配は感じられない・・・

 そして『世界』はメイさんを中心に広がっている・・・」


その間にもメイの体は縮んでいく。

それに反して手足が長く伸び始めると、黒々とした光沢を放つ皮膚に包まれ硬質化していった。

驚き怯むなないろ。


「メ・・・メイちゃん?!」


「ということは目の前にいる彼女こそが、今この『世界』の主という事」


ミコトの言葉に、驚愕の表情でメイを凝視するなないろ。

だが、虚ろなメイの瞳には光が宿っていない。

その姿を見たなないろが叫ぶ。


「メイちゃんが・・・魔法使い!?」


やがて光が収まると、そこには白いドレスを着た幼少の頃の姿に戻ったメイがいた。

しかし、可愛らしい姿とは裏腹に黒々とした手足は昆虫の持つそれを思わせる・・・


「あの姿は・・・やはりエレメンタル・スタイル!」


 なないろのクラスメートの素性についてはは全員調査済みであり、勿論、東条メイについても同様だ。

 結果として彼女ら自身にも、その周囲にも怪しいところなど一つもなかった。

 他の魔法使いと接触した形跡などなかったし

 ましてや自身が魔法使いであったはずがあるわけが無い。


『可能性があるとしたら、何者かが何やら細工したのか?』


ミコトはが『暗い日曜日』が使った禍戦士を思い起こす。


 『アレに似ているか?・・・いや、あれは魔法使いに取り付かせ使う物であったし、

 猪突猛進するだけで『世界』の展開は出来なかった、ということは禍戦士の可能性は消える』


それに今、目の前にいるメイは世界を展開させただけでなく、あまつさえエレメンタル・スタイルへと姿を変えている。

いや、魔法使いから見れば自身の体を変化させるエレメンタル・スタイルへの変身よりも

自身の意識、絶対支配領域を発現する『世界』を拡大展開させる事の方が難しい。


 『ではドクター・ダーク・ドーンの魔改造?

 いや、なないろを狙う錬金術師は他にもいる・・・

 しかし・・・たとえ万が一、何者かの錬金術師による魔改造だったとしても期間が短すぎる・・・

 ダーク・ドーンといえど、この短期間ではミルイの魔改造で手一杯だったはずだ。

 くわえてこの『世界』・・・

 これだけハッキリした『世界』の展開は一朝一夕で簡単にできることではない・・・

 この魔力の強さならなおさらだ』


瞬時に様々な考えを巡らすミコトだったがメイの強力な魔力を前に考えがまとまらないでいた。

だが、ふと、ある可能性に至る。

 

「いや!もしかしたら・・・?」



予想外の事態に動けないでいるミコトを前に

東条メイがゆっくりと動き始めた・・・





 日笠薫が見上げるビルの隙間から除く空に精霊達が乱舞する様は異様ではあるが美しいものでもあった。


 精霊はどこにでもいる、そうユニから聞いていたけど、

 まさかこんなに多くの精霊が周りにいたなんて・・・


空に舞う精霊を呆然と見上げていた薫であったが、ふと、あることに気づく。

それは、視界にいる精霊達が全て東の方に顔を向け、何やら騒いでいるという事。


「あっちに、なにかあるのかな?」


 精霊たちが見ている方角には名神学園があるはず・・・


その時、薫のポケットの中の『欠片』が熱を帯びた。

不審に思った薫がそれを取り出す。


「これ・・・さっきの?」


『欠片』は鼓動が打ち付けるかのように明滅し、薫の手のひらの上でくるくると回り始める。

どんどん回転を早め、呆気にとられて見ていると

突如ピタリと止まり、ある一点を指し示した。


それは精霊たちが見つめ続けているのと同じ東の方角。

何やら胸騒ぎを覚えた薫は意を決し行動に出る。


「よし!行ってみよう!!」


薫は小走りで、彼らの見る方へ向かい進んでいった。







 エレメンタル・スタイルとなったメイがその場でクルクルと回転し始めると

周囲の妖精たちも回転しながらメイの周りに集まってくる。

それはまるでカラクリじかけの時計のよう。

そのメイを中心に空間がゆっくりと渦を巻く。


「メイちゃん!!いったいどうしたの!?」


叫び、めいに駆け寄ろうとするなないろの腕を掴み

自らの胸に抱き寄せるミコト。


「近づいちゃいけない!」


なないろを庇いながら、ミコトは無言で手をかざし精神を集中する。


すると、その身を光が包み込む。

ミコトは右腕を胸の前に構えた後、右に向かって撫でるように滑らすと

彼を中心に光の波紋が周囲へと広がり、

なにか重々しい空気を漂わせていた周囲の空間が、清浄な空気へと塗り替えられていく。

それに伴い、歪んだ『世界』に輝く『世界』が重なり、混ざり合っていった。


ミコトの光と水晶に満たされた『世界』がメイの歪んだ童話の『世界』へと染み込んでいく・・・

やがて完全に一つに混ざり合った『世界』のゆらぎが収まると、その景色が『固定』される。


「こ・・・これは?」


「今、僕の『世界』を展開し、相手の『世界』と重ねました」


「重なった『世界(マギ・バース)』は融合中立世界『イン・バース』と化し、

 現界とはズレた特異空間となります」


「??」


クロシロウに聞いていた魔法使いについての知識は断片的なものであり、

知識が薄いなないろには、今聞いている事のほとんどがちんぷんかんぷんである。


「今は、相手の力と僕の力が拮抗する異空間化した、とだけ

 覚えれいただけたらと・・・しかし」


ミコトの言葉になないろの顔がこわばる。


「この状況を打破する為には・・・相手を倒さねばならない・・・!」







 精霊の様子を伺いながら日笠薫が走る。


「痛ッ!」


だが、走っていた薫は足首に痛みを感じると、ガクンとつまづき膝をついた。


「痛った~・・・」


見ると足首の腫れが大きくなり、鼓動に合わせジンジンと痛みが走る。

薫は、それでも立ち上がり歩きだそうとするが、今躓いた時に怪我を悪化させてしまったのだろう、

猛烈な痛みに、立ち上がることさえ出来なくなってしまった。


「あたたたた!・・・無理しすぎたかな?こうなったらタクシーでも拾って・・・

 ってもうそんなに持ち合わせがな~い!」


頭を抱えた薫はタクシーを諦めて歩き出すが、やはり足首に激痛が走る。


「あたたたた!もう!もう!!どうすりゃいいのよ!!」


その途端、日笠薫の目の前の空間が裂け、夜魔『モンド』が突然顔を出す。


「おおう!?」


目を見開き驚く薫。


「いやいやいやいや!呼んでないから!?」


アタフタと慌てる薫の様子にモンドが首をかしげる。


「アンタの名前はモ・ン・ド!も・う・ど、じゃないから!」


毎度毎度勘違いして出てこられても困るし、いいかげんにここいらでしっかり教え諭さないと。


そう思いながら薫は立ち上がろうとするが足首の激痛によろけてしまう。

その途端、モンドの体がゴムのように変形し、薫の足に絡みついた。


「うをっ!?」


驚いた薫は、怪我をした足をおもいっきり地面についてしまう。

だが、


「あれ?!痛くない・・・?」


改めて足を確認すると、絡みついたモンドの姿が見る見ると形を変え、

両足を包み込むニーソックスと化した。

その様子に薫が問い掛ける。


「もしかして、あんたのおかげ?私の事、助けてくれようとしてる?」


モンドがうんうんと頷く。

勿論、彼女が姿を変えた今、それが見えるわけではない。

だが、モンドを纏った今の薫には彼女の『意思』が見える。


 そうだ!この子は今、私を助けようとしている!


「サンキュ!モンドちゃん!」


そして、みなぎる力が足の痛みを分散させる。


「よ~し、これならいけますよ!!」


陸上のスタートダッシュのポーズをとった薫は一気に足を踏み込んだ!


「レッツら・・・ドン!」


瞬間、ニーソックスの表面に刻まれた文様に光が走る。

そして猛烈なスタート・ダッシュに風が渦巻く!


その直後、

風を切り、髪を震わせ、肌を舐めていく空気の圧力を感じた薫が

眼下に広がる町並みを、あっけにとられた表情で見渡す。


「え?」


右を見ても、左を見ても広がる景色は、空、空、空・・・


「なにこれ??」


あらためて下を見やれば、広がる街並みは遥か下方に見えるばかり。


「はい??」


そう、今の薫は遥な上空へと、一瞬のうちに飛び上がっていたのだ。


「はいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!??」


やっと自身が置かれた状況を把握し、驚きの叫び声を上げながら薫は思った


モンドが足にまとわりついた時、

 100mを3秒台で走れるかも?

と思える程の力の流入を感じたのは確かだが、


 まさか、こんな空高くにまで飛び上がる程だったなんて・・・!


慌てても、もはやどうにもならないこの状況に文字通りなすすべがない薫。

やがて上昇する勢いが徐々に遅くなり、

一瞬の浮遊感が体を包みこむ。

腹の奥がキュっと冷えるような感覚が走った後、


「ふおっ?!」



浮遊感が一転、たちまち薫は遥か下方にむけて落下し始める。


「うわわわわわわ!?これ、これ・・・無事に降りられんのかよ~~~!?」


薫は叫び声を上げながら、速度を上げ落下していった。





 『世界』の中心に立つ東条メイはまどろみの中、夢を見ていた。


それは幼い頃の夢。

なないろと薫に出会う前の、孤独で空想に浸って寂しさを紛らわせていた頃の夢・・・

あの頃、メイは大好きな絵本をいつも持ち歩き、

それを眺めては空想の世界に浸るのが唯一の楽しみであった。

両親は仕事で忙しく家にいることが希であったし

人見知りであったメイは友達もおらずいつも一人ぼっちだったから。


鼻歌を歌いながら、ふわりと床に腰掛けたメイは綺麗な絵で彩られた絵本をめくる。

描かれているのは懐かしい童話の物語。


メイがその絵を目で追い指でなぞるうちに、

絵が蠢きだし物語の登場人物たちが飛び出してくる。

それは、こびとや、王様、白い魔法使いに妖精たち

彼らは恭しくお辞儀をしながらメイを取り囲む・・・


そして始まる愉快な輪舞曲。

右へ左へ華麗なステップ。


メイを中心に動き出したそれらは、

やがて絵の具が溶け出したように異様な姿に変貌していくと狂ったように踊りの速度を増していく・・・

だが、幼いメイは楽しそうに、本当に楽しそうにそれを眺め続けるのだった。






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