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第五話 トリックスター その4 真昼の夜魔

 うっすらと朝の空気の残る、日差しも眩しい名神学園校舎屋上、

その一角では、もう授業中だというのに二人の女学生が何やら話し込んでいる。

それは魔法使いの八雲ナルミと、その弟子である晴山ルカの二人であった。


「あ~~~退屈っす~~~」


校舎屋上に設置されたベンチの上にだらしなく寝転がった晴山ルカが欠伸をしながら言った。


「なら授業でも受けてきたら?少しは頭が良くなるかもよ?」


八雲ナルミが使い魔の蜘蛛を回収しながら答えるがルカは、


「うぅ~~~~やだ~~~勉強や~~~!」


と唸りゴロゴロと転がる。


 ユニベルサリスがなないろの守りに力を入れてくるのは想定していたこと、

 その他に対した情報は無し・・・か


蜘蛛からもこれといった有力な情報を得られず、

ただ時間を持て余している状況にナルミがポツリと呟く。


「でも、確かにこうしてるだけってのも無駄なもんよね」


ナルミは腰を落としルカを覗き込む。


「どっか遊びに行こっか?」


「マジっすか!?」


喜び勇んで飛び起きるルカ。

その拍子に大きめの制服の肩がズレてはだけてしまうが

ナルミがルカの制服に手をかけ、着付けなおしてやる。

すると制服がビクビクと蠢き、ルカの体にぴったりと吸い付くように整えられた。


「お~~~!」


自身の体ピッタリにフィットした制服を見て感嘆の声を上げるルカ。


「ちょっとエロくないっすか?」


「エロかわいくって私はいいと思うわよ」


しれっと答えたナルミの言葉に気を良くしたルカは

その場でクルッと可愛くターンする。


 おヘソ見えちゃってるしスカートも短すぎる気がしないでもないけど、

 これはこれでカワイイし、師匠も気に入ってるなら、まあいっか~

 エロカワエロカワ。


そんなふうに思いながらも

ふと、浮かんだ疑問を投げかける。


「あ!でもでもそしたら、今から遊びに行ったら今度どっか連れてってくれるって話は

 チャラになっちゃう~とかじゃないっすよね??」


「それとは別よ。ただ単に暇つぶしに行こうってこと」


「やたっ!それならイクイク!イクッス~~~!はやく~~~」


早速、ナルミの手を引っ張りどこへともなく連れて行こうとするルカ。


「もう、相変わらずせっかちねぇ」


手を引かれながらもナルミは魔力を集中させ、体の周囲に雲を発生させると

その中から現れた蜘蛛の群れに命令する。

 

「後は頼むわね」


わらわらと蠢く蜘蛛達は、文字通り蜘蛛の子を散らすように四方八方に消えていく。

そのうちの一部集団が屋上出入り口の屋根裏に巣を張り始めると

それを認識したナルミが、


「じゃあ、行きましょうか」


と、ルカに声をかける。

満面の笑顔を浮かべ、鼻歌交じりのルカに手を引かれ

ナルミ達は階段を足早に下りていった。






「しばらくほうっておいて欲しい」


薫がそう告げた時、一瞬黙り込んだクロシロウであったが、


 昨夜の戦いで『暗い日曜日』も『ヘル・レコード』も続けて仕掛けてくる余力は残っていまい。


そう判断をくだすと薫の意見を尊重し、今は薫から離れ、距離をとっていた。

薫の精神状態をも考慮した結果なのだろう。


その後、一人で公園を後にした日笠薫は住宅街をあてもなくブラブラと歩き続けていた。


小一時間も経った頃だろうか、


 なにか変な感じ・・・まるで誰かに見つめられているような・・・


そう思った薫は、その違和感を確かめる為、行動にうつした。

右に曲がったと思ったら突然左へと進路を変えたりしながら、

入り組んだ住宅街を縫うようにして進んでいく。


 こうすることで違和感の正体がつかめるかもしれない・・・


そして、その歩く速度を少しずつ早めていくと、やがて全力で走り始める。

だが、監視するかのような視線は一向に離れず

薫の跡をピッタリとついていくのだった。

体を横にしながら、さらに細い脇道を抜けていく薫。


その時、薫は自分が感じていた違和感の元を視認した。

それは視界の端に見え隠れする自分をつけ回す大柄で筋肉質の男。


 やっぱり!つけてくる奴がいる!

 何者?魔法使い?暗い日曜日?

 でも・・・魔法使いにしては何か変だ・・・追跡が下手、というかなんというか・・・

 魔法を使えば姿を隠す方法なんていくらでもあるだろうに・・・

 じゃあ、魔法使いじゃないとすれば何?

 もしかして・・・ただの変質者!?


確信した薫は土地鑑を生かし、

猫のようなしなやかさで住宅街を抜けていった。

だが、つけまとう男も苦もなく薫を追いかけ続ける。


恐怖を感じ、ヘロヘロになりながらも息を切らせ走り続ける薫の腕を

突然、力強い男の手が掴み強引に引き寄せた。


「あぶない!!」


怒声が響き渡った一瞬後、

日笠薫がいた空間を猛スピードでスポーツカーが走り抜けていった。


辺りを見回した薫は、夢中で走るうちに

いつも間にか車通りの多い繁華街の大通りへと到達していたことに気づいた。


あわてて、掴んだ腕の主を振り返った薫の目に飛び込んできたのは大柄で筋肉質の男。

その姿を見た薫の顔が恐怖にひきつる。

今、自分の手を掴んでるこの男こそ、

薫をつけまわしていた怪しい人物そのものだったからだ。


「ちょ!?離して!!変質者!!」


「変質者!?」


叫んだ薫のセリフに目を白黒させる謎の男。


「えいッ!!」


謎の男がリアクションをとる間もなく、

掛け声とともに薫のケリがその股間めがけて繰り出された。


「おっと」


だが男は左腕でやすやすと受け流す。


「離して!!」


攻撃が防がれたとみるや、薫は鞄を振り回し、謎の男の腕を強引にはがし駆け出す。

だがその薫の前に、今度は制服姿の警官が立ちふさがった。


「あ~キミ、学生か?学校はどうしたんだね?」


制服姿の薫をみて学校をサボった不良学生とでも思ったのか警官は薫を呼び止める。

薫はこれ幸いとばかりに警官の後ろに隠れると大声で言った。


「ああ!いいところに!

 おまわりさん!こいつです!

 こいつ!変態ストーカーです!!」


「「変態ストーカー!?」」


警官と謎の男が同時に声を上げた。

キョトンとした表情でキョロキョロと周りを見回す男。

警官は瞬時に険しい表情になると男に向き直り、問いかける。


「君!ちょっと話を聞かせてもらえるかね?」


「エエ!?俺ェ!?」


変質者とは自分のことを言ってるんだと気づいた謎の男が

目を丸くし自分を指差す。

ジリジリと男に詰め寄る警官。

謎の男は慌てて否定する。


「いや、待ってくれ!誤解だ!大いなる誤解だ!」


謎の男が慌てて否定している隙をついて、薫はこれを幸いとばかりに走り出す。


「あ!おい!」


みるみる離れていく薫を追おうとする謎の男を

素早く反応した警官が背後から羽交い絞めにした。


「待て!コラ!変質者!!」


突然の騒ぎに周囲に野次馬が群がり、

好奇に満ちた目が謎の男に集中する。


「トホホ・・・大いなる誤解だってのに・・・」


呆れるように呟く謎の男。

そのあいだに薫は人ごみの中へと消えていった。





 息を切らせながら人気のない裏通りに逃げ込んだ日笠薫は

自動販売機の影に身を潜め、あたりの様子を伺った。


「は~~~・・・どうやらおってこないみたいね・・・」


その場にヘタリこむ薫。


「はあ・・・もう、散々だよ・・・」


息を整え一息つき、自販機で缶ジュースを買うと一口呷る。

どうにか落ち着くと人目を避けるように物陰に座り込み、

膝を抱え目を伏せ考えこむ。


こんな状況でも脳裏に浮かぶのは、やはり虹乃なないろの事であった。


いつもの、あのキラキラした笑顔、

昨夜の恐ろしい姿、

そして、今朝の、手を振り払った時に見せた、あの驚きの表情・・・

次々と思い出されるなないろとの日々・・・


「ほんとうに・・・・・・これからどうしよう?・・・」


その時、背後の路地裏から暗い影がじわりじわりと薫に向かって伸びていく。

だが薫は気づかない・・・

暗い影が薫の影に触れたとたん、突然の猛烈な睡魔が薫を襲った。


「・・・あ・・・あれ・・・?なんだか・・・すごく・・・ね・・・む・・・」


目を閉じ意識を失った薫がゆっくりと倒れこむ。

影はその体を優しく受け止め、脚に絡みつき背中を伝い、

包み込むようにしながらズルリズルリと路地裏の闇の中へと引きずっていった。



「はっ!?」


どれだけ時間が経ったのだろう、

いつの間に眠ってしまった日笠薫が目を覚ますと、そこは異様な空間だった。

薄暗い夕暮れのような空に、塵か雪のようなものが舞い、

建物は異様に捻くれていて、ふと目を離し視線を戻すその一瞬の間にも様相が変化している。

そして薫自身は何か、ふわふわと柔らかな綿状の物の上に身を横たえていた。


「なに・・・これ!?」


まるで夢の中のようなその光景。

体を起こしながら薫は


そうだ、昨日見た、あの景色にどこか似ている


と思った。


「魔法使いの、結界!?」


薫が後ずさりすると、周囲がざわつき始める気配が感じられる。

耳を澄ませ、音のする方をジッと凝視目すると、

闇の中から異様な存在達がにじみ出してきた。

にじみは様々な形状に変化するとそれぞれが異形の姿と化す。


蛇のようなもの、獣のようなもの、大きいもの、小さいもの・・・


それら異形の者たちは物陰からぞろぞろと這い出し薫を取り囲む。

その中の、ひときわ大きい体躯をした異形がゆっくりと薫の前に進み出た。


「・・・・・・!」


恐怖で体が動かない薫がただ息を呑む。

そんな薫に近づいた足のない蛇体の異形が(うやうや)しく『何か』を薫に差し出した。

すると異形の両手のひらの上から、淡く光る物体がこぼれ落ちる。


「な、何?」


怯えながらも好奇心を持った薫がその手のひらを覗き込む。

その正体に気付いた時、日笠薫は戦慄した。


「ひっ、ひぃ!?」


異形の手のひらで蠢くソレは大小様々な昆虫であったからだ。

波を打つように蠢く、光る昆虫達。

そしてその中央にひときわ大きく光る何かの欠片。

驚き、後ずさる薫を見て異形の顔が歪む。

いや、つるんとした面に目のようなモノがあるソレは、果たして顔なのだろうか?

人には判別がつかないものであったが、

日笠薫にはそれが笑ったように感じた。


「こいつら・・・魔法使いじゃ、ない?!」


怯える薫に、なおも執拗に虫を差し出す異形。

それを避けようとした薫が仰け反った拍子に、その腕を叩く様に払い除けてしまう。


「うっあ!?」


バラバラとぶちまけられる昆虫達。

その途端、周囲の空気が一変した。


薫を取り囲んでいた異形の者たちが一斉にざわめき始め

2、3歩後ずさる。


なかでも、薫に虫を払われた異形は地面に這い蹲るように蹲り

ブルブルと震えているように見えた。


 と、とにかく逃げなきゃ・・・!


日笠薫が次の行動に移ろうとした時、


『動くナ!ジッとしてロ!』


脳裏に何者かの声が響く。


「だ、誰!?」


日笠薫の問いかけに答えず、念話の主は続けた。


『下手に動くとバレる、私の言う通りにしロ!』


「で、でも・・!」


 バレる?バレるって、なに?


『とにかく動くナ!!』


日笠薫が考えあぐね、ジタバタしていると、

何かを叩く鈍い音が響き、薫を囲む異形の輪がサッと開け

そこからひとりの少女が現れた。

それは、小柄で色白な赤い瞳の少女、

『マギナ・デンタータ』こと牧野安留葉であった。




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