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第五話 トリックスター その3 転校生

魔女会に所属する魔法少女のための寮『魔女の家』

その応接室ではグラン・ギニョールこと昼田操の従者(フォロワー)の生きたぬいぐるみクマルマルが、

ミス・ストーン・ラヴァーとテーブルを挟み、昨夜の出来事について会話をしていた。


「みさおさんの傷は深いが意識もしっかりしてるし、命には別状はないそうです

 アンジェラとワトクも重症ですがなんとか意識を取り戻したと・・・」


ホッと胸を撫で下ろし、うんうんと頷くクマルマル。


「ですが、ワトク以外は皆、名を奪われたままですので封印を解くわけにはいかないでしょう・・・

 アンジェラも厳重監視の上、回復次第、一時封印されることになるでしょうね」


重々しい空気の中、ドアをノックする音が部屋に響く。


ノックをした人物は部屋の中にいる者が返事をするまもなく、

ぶしつけにドアを開けるとドカドカと部屋の中に入ってきた。


「おう、終わったよ」


ラフな格好の上に白衣を羽織った猫背気味のその人物、チカ・リカは

クマルマルを持ち上げてからソファーにどっかりと腰を落とし

為すがままのクマルマルを改めて膝の上に乗せた。


「随分と早いのね」


「ん?ああ、コイツは抜け殻みたいなもんだからな」


長い髪をひと房額から垂らし、目の下にくまを浮かべて少し病的な表情をしたチカ・リカが、

手にした端末をいじると、空中に奇妙な虫のようなモノの映像が浮かび上がる。

それは、ユニベルサリスが捕獲した禍戦士(まがせんし)のコア『魔針虫』の姿であった。


「禍戦士なんてご大層な名前をしてるからマガツモノドモと関わりでもあるのかと思ったが・・・

 コイツからはそんなパターンは検出されなかった」


チカ・リカが指で弾くと、映像がクルクルと回転する。


「まあ、名前については魔改造博士お得意のハッタリさ、気にすることはない」


チカ・リカはミス・ストーン・ラヴァーの前に置いてあるカップを手に取り

一気にあおり、話を続ける。


「さて、肝心なのはコイツの機能なわけだが・・・

 結論から言うとコイツは魔力収集機だ」


「魔力収集機?」


「ああ、コイツに取り付かれた者が化物になるのはユニベルサリスの報告どおりだが

 その化物の行動理念は、より魔力の強い者を襲い、その魔力を吸収することにある」


「なるほど、だからアンジェラたちは禍戦士と共闘せず、一旦立ち去ったのね」


「ビンゴ!そう、敵も味方もお構いなしだからな。

 そして、やがて成長すると宿主をも食らいつくし、

 少しでも魔力を内包した周囲の者、

 すなわち一般人も含む全ての者に襲いかかりはじめるだろう」


「アンジェラが早く倒したほうがいいといったのはそのためか・・・」


「だが、そうして魔力を吸収し成長する化物を

 何故ドクター・ダーク・ドーンがこのタイミングで投入したのか?

 単純にユニベルサリスを倒すための切り札だったのか?いや違うな」


チカ・リカはぐっと前のめりになると


「ここを見てくれ」


空中に浮かぶ魔針虫の映像の一部を指し示す。


「なんかカプセルのようなモノがついているだろう?

 これは魔力嚢つまり収集した魔力を貯めとく袋だ。

 嚢の中には魔力たっぷりの銀色のオタマジャクシのようなモノが入っていたよ・・・

 そしてクロシロウやキズナが破壊した魔針虫の破片の中にこの部分はなかった」


さらにその銀色のオタマジャクシの映像を表示しながら

チカ・リカはなんだか少し楽しそうな表情で説明に力をいれる。


「そう、最初にコイツは抜け殻だと言った理由はここにある

 コイツは断末魔に魔力嚢を切り離す・・・そして解き放たれたオタマジャクシは・・・」


「ドクター・ダーク・ドーンの元へと帰還し、その魔力を受け渡す」


「ビンゴ!」


チカ・リカは両手の人差し指を立てミス・ストーン・ラヴァーを指差した。

おどけているのか真面目にやっているのか

その変わらぬ表情からは、なんとも判断しきれない。


「収集した魔力を何のために使うのか・・・切り札があるとしたら多分それですね」


「それに関してはもっと情報を収集するつもりだが、いかんせん人手不足でな・・・

 上は王冠持ち探索を優先との判断で人員を割り振っているし、

 被害の拡散を未然に防ぐためならそれも仕方あるまいよ」


「・・・・・・」


「聖魔法騎士団はサクーラの処分についてもめているし

 竜ヶ森はあれ以来接触不能。

 さらにだ、魔女会とユニベルサリスが魔法王候補の虹乃君を取り込もうとしてる、

 と主張する奴らも出てきたとあっては・・・

 魔女会も王冠持ち対策の方向性の修正を余儀なくされる

 近いうち虹野君との接触は制限されるはずだ」


クマルマルの頭を撫でながら、


「そうでなくとも魔法使い界隈では、

 魔法使いとは無関係の人間が王になるかもしれない~ってんで

 上を下への大騒ぎだがな」


チカ・リカは考えながら呟く。


「かなりの魔法団体が動きを制限されていると言えるこの事態、

 虹乃君には申し訳ないが、何事も後手後手になるのも無理はない・・・

 本当にそうか?」


「ここには私しかいないし、ぶっちゃけちゃっても構わないわよ?」


ミス・ストーン・ラヴァーの言葉にクマルマルが自分を指差すが

二人は構わずに話を続ける。


「だな。はっきり言おう、

 俺は今回の事件、『暗い日曜日』の内通者がいると思っている」


「・・・・・・」


沈黙するミス・ストーン・ラヴァーを見てにやりと笑うチカ・リカ。


「・・・同じ考えか・・・」


チカ・リカは背もたれに寄りかかり


「こちとら、指をこまねいて見ているだけじゃないがな」


伸びをする。


「とはいえ・・・今一番優先すべき問題は、虹乃君、彼女の状態のほうだが、

 王冠持ちの力が二度も発現したとあってはタダでは済むまいよ・・・

 できればもっとじっくりと時間をかけて身体検査をさせて欲しいんだが」


そして、どこを見るともなく言った。


「もし、意識の変調、重大な記憶の消失等の症状が見られるとしたら・・・

 かわいそうだが、手遅れかもしれん」


神妙な面持ちで黙り込む一同のあいだを、

更に重い空気が包み込んでいく・・・




 朝の日差しの中、登校する生徒たちで賑わう名神学園の校門をくぐった虹乃なないろと東条メイ。


そこにやってきた雷堂願刃がなないろに声をかける。

傍らには光明院蘭と取り巻きの二人が付き従うように立っていた。


「おう!おはようなな、メイ!」


「あ、おはよう・・・」


挨拶をし返すなないろとメイ。

キョロキョロと辺りを見回しながら願刃が問い掛ける。


「なんともないようで安心したよ・・・あれ?薫は?」


「え・・・っと・・・今日は先に行くって、言ってて、

 あ、何か用事があるとかなんとかで・・・」


だが少しぎこちない二人を見て何かを察知した蘭が会話に割って入る。


「珍しいですわね、アナタたちが喧嘩するなんて」


「えっ?!」


思わず声を上げ驚く願刃。

言葉につまり黙り込むなないろとメイ。


「え、マジで?図星?」


黙ったままの二人はトボトボと校舎に向かって歩き続け

その後ろを少し離れて願刃と蘭がどうしたもんかと考えながらついて歩く。

さらに後ろを取り巻きの二人が付いて歩く形だ。


「・・・てか、よくわかったね、光明院」


願刃が小声で呟く。


「ん~?こんな様子の二人、今まで見たことありませんし、

 ならば今まで無かったことを当てはめたら

 喧嘩でもしたに違いないと、思っただけですわ」


光明院蘭の推理?に関心する雷堂願刃


「それが図星だったわけだ・・・」


「さすが!蘭様」


「見事な推理!そこにシビレます!憧れます~」


取り巻きの二人が蘭を覗き込みながら感嘆の声を上げる。



 教室に着いたなないろが躊躇いがちにドアをくぐる。

キョロキョロと周りを見回すが、クラスメートで賑わう教室の中に

日笠薫の姿はなかった。


少しホッとするなないろ。

やはり、少し顔が合わせづらいのだろう。


結局、授業開始前には顔を合わせることになるだろうけど・・・


そんななないろにクラスメートが声をかけてくる。


「おー!虹乃おはよう!」

「なな!昨日は大丈夫だった?」

「みんな心配してたんだよ」


なないろに声をかけるクラスメート達。

そのうちの二人の少女がなないろに駆け寄る。

三神さなえ

徳田リン

の二人である。


「うん、おかげさまでなんともないよ」


「そう!よかった~」


なないろの答えを聞き、安心するやいなや

さなえは唐突に質問してきた。


「ところで!なな!昨日の王子様はななの知り合いだったの?」


「ふぇ?!お、おうじさま!?」


なないろの脳裏にユニベルサリスの姿が浮かぶ。


「ほら!昨日プールでななを助けた謎の美少年!

 リンがあの人がななといっしょの車に乗ってたのを見たって!」


話を振られたリンが答える。


「コンビニの駐車場ででっかい車に乗ってったでしょ」


「あ!」


昨日、帰り道でコンビニに寄ったとき目撃したのだろう、

その時の事をキラキラとした目で無邪気に聞いてくるリン。


「あの車、すごいゴージャスだったよね!なんか執事みたいな人もいたし!

 彼ってどこぞの御曹司?まさに王子様だ~♡」


「そういや、薫も一緒に乗ってたみたいだけど・・・・

 あれ?今日は薫は?一緒じゃないの?」


「う、うん、ちょっとね・・・」


メイと目配せをするなないろ。


「今日もクラス中、昨日の王子様の話題でもちきりだよ~

 うちらのクラスだけでなくほかのクラスにも話がひろがっててね・・・」


なないろの答えも上の空で嬉々として話し続けるリンの声を聞き流しながら

なないろは視線を空いた日笠薫の席に向けながら考え込む。



そんな生徒達の喧騒の中、授業開始のチャイムが鳴り響いた。


次々と自分の席に着席するクラスメート達。

だが、その中に日笠薫の姿は無い。


 薫ちゃん・・・やっぱり私と会うのは嫌なのかな・・・?


ドアを開ける音になないろが顔を上げると

教室に入ってきたのは担任の教師。


「は~い、皆さん、おはようございます!」


教師が教壇に立つとクラス委員の号令に従い生徒たちが起立し

頭を下げ挨拶をする。

なないろも上の空ながらそれに従った。


いつものように出席を取り始めた教師の声。

やがて日笠薫の不在に気づいた教師がなないろに質問する。


「あら?日笠さんは来てないのね?休みの連絡は受けていないのだけれど・・・

 虹乃さん?何か聞いてない?」


「いえ、何も・・・」


「そう・・・」


答えながらなないろは日笠薫のことを考える。

だが、そのどれもがなにやらネガティブな発想になってしまう。


 もしかしたら、ドクター・ダーク・ドーンが薫ちゃんを襲う可能性も!?


いてもたってもいられなくなったなないろはガタっと椅子を鳴らし立ち上がる。

その脳裏に聞き覚えのある声が響いた。


『それはないよ、なな』


『ミコトさん?』


不思議そうになないろを見るクラスメートの視線。


「虹乃さん?」


自分を呼ぶ教師の声に気づき

なないろは静かに席に腰を下ろす。


「な、なんでもないです・・・」


念話の声はさらに続ける。


『どうやら今の薫には少し時間が必要みたいなんだ・・・

 少しのあいだ一人にしてやってくれるかい?』


『でも・・・』


『大丈夫、ドクター・ダーク・ドーンも人気の多い朝からしかけては来ないだろうし

 勿論、護衛もつけてあるから心配しないで?』


『・・・・・・うん』


「さて!それでは!今日は皆さんに紹介したい人がいます!」


教師は手をパンっと叩き嬉しそうな表情を見せながらドアの外に声をかける。


明詞(あかし)くん!」


声に応え、教室のドアが開き制服をきっちりと着こなした少年が足を踏み入れ、

一瞬の沈黙の後、


「「「「「「「「「「「おお~~~~~~~~~~~!!!!」」」」」」」」」」


文字通り、割れんばかりの歓声が教室を震わせる。

それも仕方のない事だろう、

そこにいたのは、昨日プールで溺れたなないろを助けるため颯爽と登場した謎の美少年がたっていたのだから。



その歓声は他の教室にも響き渡り、

光明院蘭も驚きの声を洩らしていた。


「な、何事ですの?」



そう、教師に促され教室に入ってきた少年は誰あろう、

ユニベルサリスその人。


「ミ、ミコトさん!?」


思わずもらしたなないろの声に教室中の視線が集中する。


「「「「「「「「「「「みことさん!?」」」」」」」」」」」


「あっ!」


慌てて口を塞ぐなないろ。


「明詞ミコトです。よろしくお願いします」


姿勢を正し、挨拶をしたミコトがニッコリと微笑んだ。。





 住宅街の一角に設置された小さい公園のブランコに揺られながら日笠薫は呟いた。


「あ~あ、結局休んじゃった・・・皆勤賞は無しか~・・・」


空を仰ぐと青い空に白い雲が優雅に流れていく。

今の薫の心とは真逆の澄み切った清々しい空。


物陰からは魔法猫のクロシロウが薫を見守り、毛づくろいしている。


そんな薫たちを物陰から見つめる目がある事に薫はまだ気づいていない・・・



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