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第五話 トリックスター その2 広がる溝

 朝日が昇り、人の姿がポツポツと見え始める繁華街。

しかし、表通りとは裏腹に人気の無い路地裏では

牧野安留葉まきのあるはが慎重に周囲を見回していた。


なないろ捕獲に失敗して逃げてきたドクター・ダーク・ドーンを密かにつけてきた安留葉だったが、

ここに来てその姿を見失ってしまったのだ。


「マギナ・デンタータ』こと牧野安留葉(まきのあるは)は強力な魔法少女である。

だが、その力は戦闘に特化している為、技術を必要とする魔法の才能は微々たるものであった。

故にドクター・ダーク・ドーンの姿を見失った今、

索敵、探索系の魔法も使えず往生してしまったのだ。


焦る気持ちを抑え、周囲を見回す安留葉の目が奇怪な物体を捉える。


銀色の丸い本体から細い尻尾のようなものを生やし

うねうねと蠢きながら、泳ぐように地面を這う小さな物体。

例えるなら銀のオタマジャクシといったところだろうか、

それを見た安留葉は、すぐにその後をつけはじめる。


オタマジャクシを追い、とある横道を抜けると、

そこには改装工事の為、作業用の足場で覆われたビルがあった。


オタマジャクシはそのビルへ入っていくと地下に降りる階段へと進んでいく。


安留葉がそのあとを追い、階段を地下へ向かって降りていくと

シンプルなデザインの看板をつけたバーの扉が見えてくる。


現在は営業を休止しているバーの扉の隙間から頭をねじ込み、

中へと入っていくオタマジャクシ。


扉に手をかけノブを回す安留葉。


鍵はかけられていないのか、容易に開き、

チリリン、とドアベルの鳴る小さな音が響く。


安留葉は躊躇することなく店内へと足を踏み入れる。


だが、次の瞬間、

安留葉は自分が足を踏み入れた筈の店内から外に出たことに気づく。


『中に入ったはずなのに外に出ていた』


間違いない、これは周囲からの干渉を防ぐ為の『結界』による現象の一種だ。


めんどくさそうに再びドアを振り返った安留葉の頭部左右に束ねられた髪が膨らみ、

放射状に伸びたかと思うと、めくれ上がり、安留葉の体を覆い隠す。


安留葉を覆い、球状になった髪の末端は硬化して牙となり、

巨大な『(くち)』へと変化した安留葉が大きく口を開け

ノコギリの刃のように並んだ牙でバーのドアを食い破った。


するとドアを中心に周囲の『空間』がひび割れ、一気に崩れ落ちる。


結界の壁を食い破った『口』が展開し、人の姿に戻ると、

安留葉はバーの店内に踏み込んでいく。


薄暗い空間の左手にカウンター、

右手にはソファーとテーブルが設置してある、ごくありふれた店内を見回すと

ソファーに寝転がった少女がゆっくりと体を起こす。


「遅かったね・・・安留葉なら、もっと早く来てくれると思ってたのに」


少女は安留葉に声をかけながら、指でつまんだオタマジャクシを口に入れ、

粘液質な音を立ててズルズルと吸い込む。

ビチビチと尻尾を動かしながら一飲みにされたオタマジャクシが、

喉を通り腹の中に収まると、

少女は下品にゲップをし、舌舐めずりをする。


「ふむ、いい感じだ」


オタマジャクシを飲み込んだ途端、

少女の腹がぼこんと膨らみ、魔力が増大したのを感じつつも、

安留葉は一歩踏み出し呟く。


「ジーナ・・・」


安留葉の前にいる少女の名はジーナ・マカラ。

今やドクター・ダーク・ドーンに寄生され

その意思と体を乗っ取られてしまっている魔女会所属の魔法少女である。


「で?わざわざ訪ねてきたってことは、私に何か用があるってことですよね?

 それとも・・・」


「ドクター・ダーク・ドーン・・・ジーナの声を使うのはやめロ」


安留葉が咎めるとジーナはペロッと舌を出す。


「てへベロ~ン」


ピンク色の舌は唾液を滴らせながらズルズルと伸びていき

その先端が鎌首をもたげ、うねうねと蠢き不気味な男の顔へと変化する。


その顔は紛れもなくドクター・ダーク・ドーン。


ドクター・ダーク・ドーンの首は更に伸びていき、

安留葉の体まで達すると

巻きつき、顔を付き合わせ言った。


「・・・それとも、ジーナが恋しくて会いに来たのか?」


安留葉はドクター・ダーク・ドーンの首をガシッっと掴むと

力を込め締め上げる。


「ふざけるナ」


「あがががが!死ぬ!しぬksら!」


苦しむドクター・ダーク・ドーンに呼応し

ジーナ・マカラがガクッと膝をつくと

安留葉はハッとして手を離す。


「げほっ!ごほっ!ぐっほ!」


激しく咳き込むドクター・ダーク・ドーンを見下ろし

安留葉が言った。


「めんどくさいことは嫌いダ、

 シンプルにいこウ・・・ワタシは取引に来タ」


「と、取引?」


訝しながらドクター・ダーク・ドーンは縮んでいくと

ジーナ・マカラの口の中へと吸い込まれていく。


「なんだ?言ってみろ」


「ジーナを解放しロ」


ストレートな安留葉の要求に、

キョトンととぼけた顔をするドクター・ダーク・ドーン。


「確かにシンプルな要求だな・・・

 しかして、その代償は?」


「その代わりニ、ワタシの体をお前にやル」


「は?ハハッ!」


嫌味な笑いを洩らすドクター・ダーク・ドーンに構わず

安留葉は続ける。


「ワタシはジーナより強イ、悪くない取引だろウ?」


「健気だねぇ、実に健気だ」


ドクター・ダーク・ドーンは、わざとらしく感動したふりをして

話し続ける。


「確かに、強大な戦闘力に加え、

 結界をも容易く食い破る特殊能力を持ったお前の体は魅力的ではあるな」


と、関心を示しつつ、


「だが、その代わり戦闘力だけに特化し、大した技術を持たぬお前では

 他者を屈服させることは出来ても支配する事は出来ぬではないか」


と、欠点を指摘し、


「おまけに魔法使い共からの信頼も薄いときてる、人質にもむかん」


結論を出すドクター・ダーク・ドーン。


「と、いう訳で却下だな」



一瞬の静寂の後、安留葉が口を開く。



「・・・なら仕方なイ・・・こうなれバ、手足をもぎ取ってでもジーナを連れ戻ス!・・・」


安留葉は覚悟を決め、ゆっくり足を踏み出し、


「ジーナ、ゴメン・・・どんな姿になろうとモ、ワタシが一生、アンタの面倒をみるかラ・・・」


エレメンタル・スタイルへと変身していく。


だが、ドクター・ダーク・ドーンはにやりと笑うと言った。


「フン!早まるな!バ~カ!交渉決裂とは言ってないぞ!!」


(なニ)?」


「お前の提案は却下だ・・・だが、逆にこちらから提案しよう、

 牧野安留葉『マギナ・デンタータ』よ・・・私に忠誠を誓え!

 ジーナを五体満足、無事に取り戻したければな!」


「仲間を裏切れとでもいうのカ?」


「ハハッ!お前の口から仲間を裏切るなどという言葉が出てくるとはな!

 こうして私に取引を持ちかけるだけでも裏切り行為ではないのか?!」


ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべドクター・ダーク・ドーンが言う。


「お前の気持ちなんぞお見通しなんだよ、マギナ・デンタータ!

 本心ではジーナ以外の人間がどうなろうと構わないと思っているくせに!」


マギナ・デンタータは、無言のままドクター・ダーク・ドーンを睨み続ける。


「お前は今日『一人で』ここに来た!

 仲間と共に力を合わせるという選択をせずにな!

 それはすなわち、お前が誰も信用していないという事の証明だよ!」


図星を突かれるマギナ・デンタータ。


「もっとも、例えユニベルサリスを連れてきたとしても

 今の奴では私とジーナを分離させることは出来んがな・・・」


ドクター・ダーク・ドーンは呟き、左手の薬指にはめた指輪をかざす。


「加えて奴らは今、虹乃なないろに御執心で

 ジーナのことなど、二の次、三の次だ・・・」


調子づいたドクター・ダーク・ドーンは更にたたみ掛ける。


「マグナ・マグスは散った王冠持ち探索の指揮で不在、

 ユニベルサリスはなないろの守護を優先、

 魔女会上層部はジーナの抹殺もやむ無しとの判断を下し、

 竜ヶ森ははなっからジーナの身の安全など考えもしない!

 唯一信頼のおける聖魔法騎士団のグレン・フィーネは命令違反で謹慎中ときている!

 もはや奴らにとって大事なのは王たる力を持つなないろの方で、

 ジーナのことなんぞどうでもいいのさ!!

 奴らはジーナを見捨てたのさ!!」


不安を煽られたマギナ・デンタータはイラつき、牙を剥く。


「図に乗るなヨ・・・アタシはまダ、オマエの提案を受け入れると決めた訳じゃないんだゾ?」


怒気を強めドクター・ダーク・ドーンににじり寄ってくマギナ・デンタータ。


「じゃぁ~~~どうするんだ?本気で手足をもぎ取り連れて帰るか?」


「・・・・・・・・・・・・」


「ハッ!脅しをかけても無駄なんだよ、安留葉!

 本当は何も出来ないくせに!

 ジーナを傷つけることなど本当は出来ないくせに!」


ドクター・ダーク・ドーンの挑発に、ついに怒りを顕にし、

乱暴に掴みかかるマギナ・デンタータ。

だがドクター・ダーク・ドーンは余裕の表情を見せ

逆にマギナ・デンタータの顔に鼻先を突きつけ、囁く。


「お前の気持ちは知っていると言ったろう?・・・安留葉」


ドクター・ダーク・ドーンはマギナ・デンタータに体を押し付けささやいた。


「私はず~~~~~~っとこの体の中でお前達を見ていたんだからな・・・

 お前がジーナに連れられ魔女の家に来た時も・・・初めてジーナと買い物に行った時も・・・」


「ヤメ・・・ロ・・・」


「勿論、あの夜の事も!!」


「ヤメロ!!」


ドクター・ダーク・ドーンの首に手をかけるマギナ・デンタータ。

だがその手はブルブルと震え力を込めることが出来ない。


「可哀想な安留葉・・・私の為に苦しんでいるんですね・・・」


ドクター・ダーク・ドーンの操るジーナの声の呟きの前に、

何もすることが出来ないマギナ・デンタータは、崩折れ膝をつく。


(ちょろいガキめ!私を手玉にとろうなんざ、五十六億七千万年早いわ!)


脳内で罵倒しながら、

ドクター・ダーク・ドーンはマギナ・デンタータを優しく抱きしめる。


(最後の決め手に衝撃の事実を突きつけてやる!そうすればもはやコイツは私に従うほか無いわ!)


そう考え、ドクター・ダーク・ドーンはにやりと笑うと言った。


「いずれにしろ、お前は私の提案に従うしかないと思うよ・・・何故なら・・・」



「何故なら、今、私からジーナを分離させたら

 『ジーナの存在そのものが消え失せ、消滅してしまう』

 のだから!」


驚き顔を上げるマギナ・デンタータ。


「ど・・どういうことダ?!貴様!ジーナに何をしタ!!」


「んんん~?」


ドクター・ダーク・ドーンは立てた人差し指を軽く振りながら答える。


「お前も見ていたはずだぞぉ?マギナ・デンタータァ・・・

 王冠持ち捕獲作戦での顛末を・・・」


「!?」


「あの時、真名を暴かれ絶体絶命のピンチに陥っていた私は、

 苦しま・・・計画通りにジーナの真名の一部を王冠持ちの真名に投げつけた・・・

 その時のことをよ~く思い出してみろ」


「!」


「そう!ジーナ・マカラの真名の一部が消滅するのをお前は見たはずだ!!

 森羅万象!あらゆる存在が内包する真実の名『真名』!

 それを失ったものがどうなるか!お前も知らぬわけではあるまい!」


「イヤ、ありえなイ・・・

 そんなに簡単に消滅する訳がなイ!ハッタリをかますナ!」


「オイオイ、相手が王冠持ちだという事を忘れるなよ、

 それに証拠もある・・・今それを見せてやろう」


ドクター・ダーク・ドーンは左手の薬指に付けていた指輪を引き抜く。


「いいか?チラッとだぞ?一瞬だかんな?私自身ヤバイんだから一回しかやらないぞ?」


意識を集中するドクター・ダーク・ドーン。

するとその体の至るところに、斑に文様が浮かび上がる。


マギナ・デンタータには、その文様に見覚えがあった・・・

それは、王冠持ちの力を得たなないろの体に浮かび上がったものと同質の文様だったのだ。


「はい!おしまい!」


ドクター・ダーク・ドーンの言葉とともに文様は綺麗に消え去っていく。

左手の薬指に指輪をはめなおすドクター・ダーク・ドーン。

その額から汗が流れ落ちる。


「ハハハ!驚いているな?そう!ご察しの通り!

 弱くはあれど、紛れもなく王冠持ちの力だ!

 今はまだ準備が整っていないんでこれ以上見せるのは無理だがね」


「頭のよろしくない安留葉にもわかりやすいようにシンプルにまとめてやろう・・・

 あの時、王冠持ちの真名に激突したジーナ・マカラの真名を通し

 王冠持ちの力が我が身に流れ込んできたのだ!

 その代わりにジーナの真名の一部は衝撃で消え去ってしまったがね」


「ではなぜその時ジーナの『存在』が消滅してしまわなかったのかわかるか?

 それは私のおかげだ!

 私がつなぎ合わせているのだ!

 私が寄生しているおかげでジーナの真名は全て消え去るのをまぬがれ!

 私が寄生しているおかげでジーナの体が消滅せず保たれているのだ!

 私の能力だけがジーナをつなぎとめられるのだ!」


「故に!ジーナと私が分離すればジーナは真名を維持出来ず消滅する!」



「ジーナが・・・消滅すル・・・?」


絶望に打ちひしがれるマギナ・デンタータ。


「何もかモ・・・何もかモお前の所為じゃないカ!ドクター・ダーク・ドーン!!」


怒り心頭に達したマギナ・デンタータの髪が怪しく揺らぐ。

だが、マギナ・デンタータが何もできないことを見透かしているドクター・ダーク・ドーンは

涼しいカオで答えた。


「そう怖い顔するなよぅ、マギナ・デンタータァ、話はまだ終わっていないぞ?」


「・・・・・・」


「そう、ここからがこの取引の重要な点だ・・・

 マギナ・デンタータよ、お前が私に忠誠を誓えばジーナを返すのみならず

 ジーナが消滅せずにすむ方法を教えてやろう!!」


ドクター・ダーク・ドーンは徐ろにポケットから取り出したものを投げつける。


「忠誠の証にそいつを首につけろ」


マギナ・デンタータの渡された物、それは黒い首輪。


「強制はせん・・・お前が自分の意思で決めろ」


「・・・・・・」


マギナ・デンタータは躊躇することなくその首輪を首に巻きつける。


「これデ・・・・・・いいんだナ?」


「フハハハハ!そぉ~だぁ~それでいぃ~いのだぁ~!ハハハハハ!」


(やった!堕ちた!精神的に支配してやったぞ!私の勝ちだ!!)


満面の笑みを浮かべ勝ち誇るドクター・ダーク・ドーン。


「さてさて、晴れて我が部下となった安留葉に早速やってもらいたい事があるんだが、いいかな?」


「・・・・・・」


「どこかに安全で生活しやすい隠れ家を用意してもらえんかね?

 誰かさんの所為で、ここは少し風通しがよくなりすぎてしまったのでね」


安留葉が食い破った扉を指し示しドクター・ダーク・ドーンがにやりと笑う。






 「ここまででいいです、後は歩いていきますんで・・・」


日笠薫は運転席の執事セバスチャンに声をかける。


「承知しました」


セバスチャンは森林公園から少し離れた場所にリムジンを止めた後、

運転席から降りて車両後部のドアを開け、薫を車外へとエスコートする。


「ありがとうございます」


頭を下げる薫


「いえ、これも私の努めですから」


薫のあとに続いて降りてきたクマルマルを見て

セバスチャンは腰をかがめて言った。


「それでは薫様の警護をよろしくお願いします」


敬礼をし、元気良く答えるクマルマル。


「クマルッス!」


その声を合図にしたかのようにリムジンから

グラン・ギニョールの従者(フォロワー)『臣民』達がぞろぞろと降りてきて

クマルマルの後に付き従って歩き出し、薫を取り囲む。

黒と白、モノトーンの臣民達。


「やっぱりちょっと多すぎじゃない?」


少し困った笑顔で言う薫にセバスチャンが説明する。


「ご安心ください、彼らはステルス機能に特化した隠密活動の精鋭、

 忍者部隊『潜行』

 例のご学友にも見つからぬよう特殊訓練を受けております」


「そうなんだ・・・んじゃ~取り敢えず、いってきます、セバスチャンさん」


「お気を付けていってらっしゃいませ」


セバスチャンと別れた薫は森林公園の第六出入り口へと歩いて行き足を止める。


そして、少し考えた後、

意を決して、公園内へと足を踏み入れた。


いつものように、なないろとの待ち合わせ場所にむかう薫であったが、

その足取りは重い。


どんな顔して会えばいいんだろう?


待ち合わせ場所にたどり着くも、

薫は考え続け、やがてポツリと呟く。


「・・・会いたく・・・ないな・・・」


しばらく思案した後、薫は躊躇いがちに駆け出すと、

何度も振り向きつつ、その場を後にした。






 「薫さ~ん!」


なないろとの待ち合わせをすっぽかし、

公園の第三出入口から飛び出した薫を呼び止める声が響き、

薫はハッとして立ち止まる。


「どうしたんですの~?そんなに急いで~?」


息を切りながら駆け寄る少女は

日笠薫と虹乃なないろの親友、東条メイ。


「ハァハァ・・・置いてけぼりなんてひどいです~・・・・・・

 あれ?ななは?お休みですか?」


「ああ、いや・・・・・どうかな?」


キョロキョロと辺りを見回すメイに、薫は言葉を濁すが

メイは更に質問してくる。


「電話では大丈夫だっていっていたけれど、やっぱり大事をとって?

 心配ですわ・・・溺れた事がトラウマとかになってしまってなければいいですけど・・・

 私、ななの家まで行ってこようかしら?」


「いや、大丈夫じゃないかな、ほら、なんていうか、あれですよ・・・あれ?」


矢継ぎ早に繰出すメイに圧倒された薫は答えるも、

慌てすぎて自分でも何を言っているかわからなくなってしまう。

不思議がるメイから視線をそらし、言葉を濁す薫。

それを見たメイが、大きく一息つくと言った。


「薫さん、もしかして、ななと何かありました?」


「い、いや、そんな訳でも、ないんだけどさ・・・」


更に言葉を濁す薫に

メイはちょっと納得したように呟く。


「珍しいですわね、お二人が喧嘩なさるなんて」


「い、いや、喧嘩とか、そんなんじゃなくって、

 えっと・・・私ちょっと急ぎの用事あるから・・・」


薫がその場から離れようとした時、

二人の背後から薫達を呼ぶ声が響く。


「薫ちゃん、メイちゃん」


振り向くとそこには虹乃なないろの姿があった。

一瞬たじろぐ薫とは裏腹に、

メイは喜び、なないろに走り寄る。


「なな!おはようございます!」


「お・・・おはようメイちゃん・・・薫ちゃんも・・・」


「う、うん、おはよう・・・なな・・・」


なないろの手を取ったメイは今度はなないろに質問し始める。


「なな!心配してました!もう大丈夫ですの?」


「ありがとう、もう、なんともないから」


なないろとメイが会話する中、

薫は居づらそうに二人をチラチラと見、

メイの質問を上の空で聞いていたなないろも躊躇いがちに薫を見る。


やがて質問が終わると東条メイが二人に告げる。


「それでは行きましょうか?」


「あ、うん・・・」


「・・・・・・」


「それでですね、昨日お二人と別れたあと・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


メイを挟み、いつもより距離をおいて無言で歩く二人。


「蘭さんとお話したんですけれど・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


いつものように話題を振るメイとは対照的に二人の沈黙は続き、

なないろも薫も暗い顔をしながら黙々と歩き続ける。


それを見てメイが大きく溜息をつき独りごちる。


「あ~あ・・・こんなんじゃ楽しくありませんわ」


突然、足を止めるメイ。


「二人共、いつまで喧嘩してるつもりなんです?」


済ました顔でメイが言う。


「どうせすぐ仲直りするんですから、いっそ此処で仲直りしちゃってくださいな!」


メイはなないろの腕を取り、続いて薫の腕を取ると

二人の腕を互いに握らせた。


「ほら、こうやっていつもみたいに・・・」


メイが言葉をつなげようとした時、


「うわあああああああああ!?」


突然、薫が叫び声を上げ、なないろの手を強引に振り払った。


「?!」


思ってもいなかった薫の反応に驚き固まるメイ。


薫は怯えた表情で2,3歩後ずさりすると

ぎこちない言葉で言った。


「ご、ゴメン!わ、わた、わたし、急用があったんだわ、さ、先、行くね!」


踵を返し、走り去る薫。


驚き、動揺したメイがなないろの方を振り返ると

なないろは悲しそうな笑顔を浮かべながら口を開いた。


「い・・・行こうか?メイちゃん・・・」


そう言いながら、なないろは前を向いたまま歩き出した。


二人の反応に困惑し、メイが声を搾り出す。


「わ、私、良かれと思って・・・私・・・」


普通ではなかった薫の反応・・・なないろの悲しそうな顔・・・


「どうしよう・・・私・・・」


メイは口に手を当て自分の軽率な行動を後悔していた。



二人から離れてもなお薫は走りながら思う。


「だめ・・・やっぱり私・・・ななが・・・怖い!」


そして、なないろ達から少し離れた場所では

魔法猫のクロシロウが公園猫と共に事の顛末を見守っていたのだった。



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