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第五話 トリックスター その1 それぞれの朝

 「なな!なな!」


日笠薫は結界の中で一人、なないろの姿を探していた。

不思議な色彩を持つ結界を歩いていると、何やら奇妙な音が耳に入る。


ダン!ダン!ダン!ダン!・・・


薫が、ひっきり無しに聞こえてくる音の聞こえる方に歩いていくと

やがて、暗い影に覆われた少女の後ろ姿が見えてくる。

一心不乱に何かを地面に打ち付ける少女。


「・・・なな?」


恐る恐る薫が声を掛けると少女はピタッと動きを止め、ゆっくりと振り向く。


「あ、薫ちゃん・・・待ってて、もう終わるから・・・」


影の少女が振り向くと光と影が反転し、なないろの顔が現れる。

そして、なないろが叩きつけていたモノの姿も顕になった。

なないろが叩きつけていたもの、

それは血まみれの日笠薫。

虚ろな目でうなだれる自分自身の姿であった。


ハッと気づくと、

薫の意識はいつの間にか、なないろに打ち付けられていた自分へと移り

もうひとりの自分が怯える目でなないろを見つめている姿が見える。


「・・・もう、終わるから・・・」


呟いたなないろの背中からあの恐ろしい翼が生えてくると

空を覆い隠していく・・・


 なな!やめてぇ!!


薫は力いっぱい叫ぶが、その言葉は声となって響くことはなかった。

なないろはゆっくりと動き出し、動けない薫をひときわ大きく振り上げると

地面に向かって振り下ろした。


「うわあああああああああ!!」


ベッドの上で日笠薫が悲鳴を上げて飛び起きる。


パコーン!


「あ()っ!」


悪夢にうなされた日笠薫は、飛び起きた拍子に、

魔女界の魔法少女、種苗田実里(しゅなえだみのり)の頭に自らの頭を打ち付けてしまった。


「イテテテテ・・・」


「ご、ごめ~ん、急に起きるなんて思わなかったから・・・」


種苗田実里は、自分と薫の額に手を当て、治療魔法を試みるが

あんまり上手くいかない様子。


「夢・・・夢か・・・」


「?怖い夢でも見たの?」


問い掛ける実里の言葉に顔を上げた薫は、

なないろの家にいたはずの自分が見慣れぬ部屋に寝かされていることに気づき、

慌てて周りをキョロキョロと見回す。


「・・・ここは?」


「此処?魔女の家よ、昨晩、(いこい)達があなたを運んできたの

 精神的に不安定のようだったから、って」


薫の問いに答えたのは実里と同じ魔女会所属の魔法少女の

雨宮静流(あまみやしずる)であった。


「んで、二人はそのあと操ちゃんに着いてお医者さんに行ってる」


「操・・・そうだ!操はだいじょうぶなの!?生きてるの!?」


「安心して・・・

 ああ見えて操も強力な魔法使いだからね。

 ちょっとやそっとのことじゃ死んだりしないから大丈夫だよ」


「昨晩は大変だったみたいだね。今日はここでゆっくり休んでいって?」


しずるの横から実里が口を挟む。


「でもでも、昨日はこっちも大変だったんだうお!

 ヘル・レコードって奴らが襲撃してきて、

 でもでも、ミス・ストーン・ラヴァーと静流とセバスチャンが反撃して、

 でもでも、なんとその時!」


まくし立てる実里を一括する静流。


「あ~、もう!アンタは!

 薫が困っちゃうだろ!少し自重しな!!」


「むぅ~~~」


ちょっと不満そうな顔の実里。


「な、ななは?」


恐る恐る聞く薫。


「ななならユニベルサリスらと家に残ったよ」


「そう、なんだ・・・」


薫はちょっと考えたあと

ごまかすように話題をそらす。


「えっと、今、何時?」


腕時計を見て答える静流。


「6時ちょい前」


「そっか・・・学校行く用意しなくちゃ」


「今日は休んだほうがいいんじゃない?」


「休んだら両親に心配かけちゃうから」


「それならセバスチャンに任せれば上手く話をつけてくれるよ」


ウインクしながら、薫に耳打ちする静流。

横から実里がグイっと乗り出し、話に割って入る。


「ほんとほんと!セバスチャンったら、何でも丸め込んじゃうんだよ!

 交渉事ならなんでもござれ、ついでにお小遣いアップの交渉もお願いしちゃえ!」


「ふふ、な~に~?それ?この悪党どもめ!

 私はずる休みはいたしません!」


薫は胸を張り、元気を装って冗談を口にする。


「あはは!その様子なら大丈夫みたいだね、

 待ってて?報告してくる」


部屋から出ていこうとした静流が指し示しながら言う。


「あ、着替えとか、鞄とかはそこに置いてあるから」


続いて部屋を出てドアを閉めようとした実里もまた、部屋を振り返り言った。


「あ、それとシャワー浴びたければ自由に使っていいからね~」


二人が部屋を出ていくのを見送ったあと

薫はベッドから降りると部屋のカーテンを開ける。

眩しい朝の日差しが部屋を照らす・・・


窓の外、魔女の家の敷地内では

多くの従者(フォロワー)達が忙しなく行ったり来たりを繰り返し

何やら作業していた。


薫はそれをしばらく眺めたあと、振り返り朝の身支度をはじめるのであった。





 朝の日差しが街を照らし、小鳥が囀り始めた頃、

八雲ナルミはマンションのベランダからはるか向こうの虹乃家を眺めながら言った。


「昨晩は案の定騒がしかったようだけど・・・」


それを受け、晴山ルカがカメラの超高性能ズーム機能を調整しながら答える。


「そうっすかぁ?別に何も変わったことはなかったような」


「呑気なものねぇ・・・いつもの事だけど改めて思うわ」


ナルミは大げさなジェスチャーで呆れ果てる。


「集中して周囲をよく観察してご覧なさい」


「周囲~?」


レンズを覗いたまま周囲を見回すルカから、カメラを取り上げるナルミ。


「ほら!精霊の数が多いでしょう?」


「あ!ホントだ!こんな街中で、この数!め~ずらし~い!」

 

どこまでものんきなルカの態度にあきらめを覚えつつナルミが話し続ける。


「アイツ等は王冠持ちの力に惹きつけられて来たものよ」


「えっ?!ということは・・・」


「なないろの中の王冠持ちの力が解放された、ということでしょうね」


「でも、それなら此処辺は・・・」


不思議がるルカを手で制しナルミが続ける。


「そう、結界なんぞ吹き飛んで、大変な事になっていたでしょうね・・・

 しかし、そうなってはいない、ということは?」


ナルミが手を伸ばし、ルカに答えを促す。


「王冠持ちの力は完全に解放されなかった?・・・わかった!

 ユニベルサリスだ!ユニベルサリスが封印したんだ!」


「そう!いい感じよ、昨晩の状況、及び今朝の魔女会の動きを鑑みると

 それが正解でしょうね!

 さてさて、それでは今までの情報からまとめた、あなたの意見を聞かせて?」


「ななの中の王冠持ちが目覚めそうになったからユニベルサリスが封印した!!」


間髪入れず力いっぱい即答し、ドヤ顔のルカ。


「・・・で?」


「で?って・・・ななの中の?王冠持ちが?目覚めそうになったから?ユニベルサリスが封印した?」


予想を大幅に下回るルカの答えに

がっくりと肩を落とし、盛大にため息をつくナルミ。


「はぁ~~~~~~~・・・・・・・・・・・・」


きょとんとするルカ。


「減点1」


「ええ~?!」


「ええ~、じゃないわよ、もっとこう、あるでしょ?得られる答えが!」


「えられるこたえ?」


「・・・・・・もういいわ・・・部屋に戻って朝食にしましょう・・・」


ナルミは振り返り部屋の中へ向かいながら呟いた。


「弟子の選択間違えたかしら?」


「そんなぁ~、アタシほど師匠を愛してる弟子はいないっすよ~!」


ルカはナルミの胸元に抱きつくと顔をグリグリと押し付ける。


「はいはい、ウザイから離れて」


そんなルカを片手でグイっと押しのけるナルミに

ルカはちょっぴり寂しそうな顔をする。


「そんなぁ~~~・・・」


部屋の中では倉持良子(くらもちよいこ)が楽しそうに朝食の準備をしていた。


「あら?鳥の観察は終わったの?『都会における野鳥の分布傾向』だっけ?

 星の観察といい、勉強熱心な親戚を持って、私も鼻が高いわ」


「親戚?」


良子の言葉にキョトンとするルカに

ナルミが説明する。


「そういう設定にしておいたわ」


「ああ、な~る・・・」


椅子に腰掛けるナルミとルカ。

テーブルの上には

半熟の目玉焼きと鮭の切り身、ほうれん草の和物や大豆の五目煮、

そして各自の前に、綺麗な模様の入った茶碗と、可愛い猫の箸置きの上に箸が並んでいる。


シンプルな料理ではあるが見た目や小皿への気配りなどから

倉持陽子の料理の腕前が見て取れる。


「お待たせ~、お味噌汁も用意できました!」


良子は、木製の盆に蓋がついた三つのお椀を載せ、

其々へと配膳する。


「では、いただきま~す」


「はい」


ルカの大きな声に良子が返答すると

ルカは大きく口を開け鮭の切り身にかぶりつく。


「ん~!おいし~い!」


無邪気なルカの一言に笑顔で答える良子。


「ふふふ、喜んでもらえて嬉しいわ!」


それを眺めながらナルミも、いただきます、と呟き、

お椀の蓋を外す。

ふわっと湧き上がる味噌汁の香りと温かい湯気。


「ふふっ、みんなで朝食をとるのも、なんだかいいものね!」


笑顔で、言う良子を無視して、

ナルミは真顔になると味噌汁を見ながら言った。


「・・・なにこれ・・・」


「ああ、それ?玉ねぎのお味噌汁よ、私の『家庭の味』なの」


良子の言葉にナルミは無遠慮に言い放つ。


「私これキライ!!」


「え?」


「私、お味噌汁って大好きなんだけどさ、

 唯一許せないのが玉ねぎ入りのやつなんだよね~」


「で、でも・・・美味しいわよ?栄養もあるし・・・」


「あっあ~」


呆れるような仕草で手を振り、良子の言葉を遮るナルミ。


「私、今そんな話してたっけ?」


「え?え?いや、その・・・」


「ん?」


「ご、ごめんなさい、私なにか、気に障るようなこと言っちゃったかしら・・・」


「栄養とかなんとかっての、私、一言もいってないよね?

 玉ねぎのお味噌汁が嫌いって話だったもんねぇ」


先程までの楽しげな空気はどこへやら、良子はみるみると意気消沈していく。

だがナルミは更に畳み掛ける。


「それに美味しいかどうかなんて私が決めることだし!ね?」


「・・・はい」


「だいたいさー、香りが良いお味噌汁に匂いの強い玉ねぎを入れるなんて

 そんな発想してる奴ってどうかしてると思うんだ、私」


ナルミはきっぱりと言う。


「私これ食べれない!作り直して!」


「で、でも・・・これ・・・どうしたら・・・」


「捨てれば?」


「・・・・・・」


お椀を持ったまま涙ぐむ良子。

ルカはどうしたものかとオロオロとし、

食卓が不穏な空気で包まれる。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「まぁ、でも・・・」


と、ナルミが口を開いた瞬間、

緊張に耐えられなくなったルカが口をはさんだ。


「あ!ああ、それならそのお味噌汁、わたしが全部いただくっすよ~!」


そして、お椀を素早く取ると一気に煽り、飲み干した。


「お、美味し~い!おかわり!」


ぎこちない笑顔で空になったお椀を差し出すルカを見て

良子が少し安堵する。


「ルカさん・・・ありがとう」


良子は涙をこらえて再び味噌汁を盛り付けるため、席を立つ。

その後ろ姿を眺めつつ、ナルミがルカに問う。


「あんたも玉ねぎ嫌いじゃぁなかったっけ?猫舌のルカさん?」


「いやぁ、このお味噌汁なかなか美味しいっすよ?うん、あちゃかったけど・・・」


「無理しちゃって・・・取り敢えず減点1ね」


「えっ!?なぜに!?」


「あんたがフォローして好感度上げてどうすんのよ」


「だって良子ちゃん、泣いちゃいそうだったし、これからも一緒に住むんだから

 仲良くしないとって思って・・・」


「アメとムチ!最後に私自身でフォローしないと意味ないでしょ!

 これじゃぁ私、ただの嫁いびりする姑みたいじゃない!」


「あはは!確かに、そんな感じだったっすね!」


「・・・師匠の意図を読み取れない!無知な子は原点2!」


「え~~~!?そ、そんなぁ~~~・・・」


むずがるルカを無視してナルミは箸を取るとご飯をひとつまみ口の中へ放り込んだ。





 ベットで丸くなりながら朝を迎えたなないろは、

あれから一睡もできず、ずっと一人で考え込んでいた。

脳裏によぎるのは日笠薫の怯え切ったあの目・・・


ベッドに残る残香に、

日笠薫を身近に感じるなないろであったが、

今、なないろと薫の間には大きな溝ができてしまっている・・・

 

『ばけもの』


なないろに向けて放たれた一言がなないろの脳裏に残響する。


カーテンの隙間から差し込んだ朝日がなないろの顔を照らすだすと

なないろは静かに体を起こし、カーテンを開いて朝の日差しを迎え入れた。

朝日はなないろの部屋を優しく彩り、

机の上に立てかけてある大事な写真の入ったフォトスタンドに光が反射する。

なないろが幼い頃、母と父と撮った写真・・・

なないろのもうひとつの宝物・・・


心を癒してくれるフォトスタンドを手にとったなないろは、そっと写真を覗き込んだ。

すると何故か、なないろの手がブルブルと震え始める。


「・・・えっ?・・・これ・・・なんで・・・」


毎日のようになないろを癒してくれた写真に写る母、(ひかる)の笑顔を見たなないろが驚き声を上げる。


「なんで・・・」


写真の中の母の顔


「私・・・」


いつも見慣れたはずの母の顔


「お母さんの事を・・・・・・思い出せないの?!!」



だが、今のなないろの目には母のその笑顔が、初めて見るものとして写ったのだった・・・









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