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第四話 驚異の魔王 その6

 倒したアンジェラをその場に残し、

虹乃なないろの部屋を目指し駆け出すフリー・フリーズとリボル・リボーン。

遠ざかる二人の魔法少女の姿が小さくなると

突然、アンジェラに寄り添う従者(フォロワー)のジッペイが牙を剥き唸りを上げた。


いきり立ち身構えるジッペイの目が、一人の少女の姿を捉える。


小柄で色白な、赤い目をしたその少女は

誰あろう魔法少女『マギナ・デンタータ』こと牧野安留葉(まきのあるは)


マギナ・デンタータは、遠ざかる二人を見送った後、

アンジェラを守ろうと威嚇するジッペイの姿を流し見ると

ふわりと浮き上がり、陽炎(かげろう)のように消えていった。






 「パパ!」


部屋の外から聞こえる父親のうめき声に、ついに部屋のドアを開けてしまった虹乃なないろ。

だが部屋の外に飛び出そうとしたなないろの目に映ったのは父親の姿ではなかった。

目の前にいたのはひとりの少女。

つばのひろいトンガリ帽子をかぶり、肩から豪華な金の刺繍の施されたローブを纏ったその少女は、

今やドクター・ダーク・ドーンに寄生された

魔法少女『スプリング・スマイル』ことジーナ・マカラ。


「ただいま、なぁ~な」


発するその声は、なないろの父親の声の響き。

続いてジーナの胸にある不気味な男の顔がギラリと目をむき、蛇のように首を伸ばすと、

なないろに顔を突きつけニタっと笑う。


「こんばんは、虹乃なないろ君、それと…」


「キャーーー!!」


目と鼻の先に近づけられた不気味なドクター・ダーク・ドーンの顔に驚き、

仰け反ったなないろは部屋の中に倒れこみ尻餅をつく。


「なな!大丈夫?!」


驚き、怯えた表情のなないろに薫が駆け寄り、手をかけ上体を起こす。


ガクガクと震えるなないろが見上げると半開したドアの縁にガシっと指がかかる。

細く白い指はグリグリと蠢きドアを掴むと、

その奥の空間からジーナ・マカラが覗き込み、なないろに続き日笠薫を一瞥する。


「それと…ひ~が~さァ~か~お~るゥ~ちゃ~~ん」


それに続き、ジーナの顔の数センチ下から、

ドクター・ダーク・ドーン自身の不気味な白い顔がヌルりと滑り込み、

日笠薫に向け言い放つ。


「オマエは後でたっぷりとお仕置きしてやる!

 そうだな…生まれてきたことを後悔するぐらいみっともない姿に魔改造してやろう!

 イ~ヒヒヒヒヒヒヒ!」


狂気の笑い声を上げるドクター・ダーク・ドーンの言葉に日笠薫は震え慄き、

声も出せずに目を見開いたまま硬直してしまう。


自らの作戦が上手くいったことにご満悦のドクター・ダーク・ドーンは

勝ち誇ったように、ゆっくりと部屋の中に入ってきた。


ズリズリと後ずさるなないろと薫。


「よし、まずはストーク、なないろを捕まえろ」


ホワイト・ストークは、ドクター・ダーク・ドーンの命令に従い

なないろの腕をつかみ引っ張り起こす。


「キャァ!」


「なな!」


なないろを取り返そうと掴みかかる薫にドクター・ダーク・ドーンが平手打ちを食らわすと

薫はもんどり打って倒れ込んだ。


「薫ちゃん!!」


「マキシモン!お前は日笠薫を見張れ!逃げようとしたら足を折っていいぞ!」


怒鳴り声を上げるドクター・ダーク・ドーン。

だが、アンジェラの従者(フォロワー)マキシモンは知らんぷり。


「チッ!ドーターが居なければ私の命令は聞かんというのか!・・・支配する価値もない使い魔のくせに!

 ストーク!こいつに命令しろ!」


ドクター・ダーク・ドーンの叱責に

ホワイト・ストークが懐からキャンディーを三個ほど取り出しマキシモンに投げ与える。


「ほら!マキシモン!悪いがこいつの命令を聞いてやってくれ」


軽快な動きで飛んできたキャンディーを全て口で受け止めたマキシモンは、

口をモゴモゴ動かし、器用にキャンディーの包だけをぺっと吐き出すと頬を抑えて叫んだ。


「ン、ボォ~~~ノ~ォ~~!」


マキシモンはビブラートの効いた声で一声叫ぶと、口の中でキャンディーを転がし、

満足げな表情を浮かべ日笠薫にピタリと張り付く。


「わ?!わわ?!やだやだやだ!とってぇぇ!」


ジタバタと暴れる薫に対し、マキシモンは


 かわゆい俺様にしがみつかれるなんて、むしろご褒美なのに…


とでも言いたそうに不満げ。


ドクター・ダーク・ドーンは、ジタバタと無駄にあがく薫の足をバシッと払う。


「うわっ?!」


倒れこみ、床に頬を打ち付ける薫。

さらにマキシモンが自らの腕を伸ばし、薫の腕に巻きつけてその自由を奪う。


ドクター・ダーク・ドーンは苦痛に歪む薫の顔を踏みつけると

見下すように語りかける。


「ジタバタするな…魔改造の前に顔を整形しなければならなくなるぞ」


薫が涙を浮かべながら睨みつけると

ドクター・ダーク・ドーンは満面の笑みを浮かべ、さらに挑発する。


「おお?悔しいか?悔しかろ~が!フハハハ!気持ちがいいナァ~!

 生意気なガキを懲らしめるのは!!」


「薫ちゃんに酷いことするなっ!」


薫への仕打ちに怒ったなないろは、

ホワイト・ストークに押さえ込まれながらも必死で足を伸ばし、

ドクター・ダーク・ドーンを蹴ろうとする。

だが、ドクター・ダーク・ドーンはその足を掴むと、グイっと上にあげながらなないろに詰め寄る。


「生意気なガキその2め!手足をもぎ取られたいのか?」


掴んだ脚をなないろの顔にぐっ押し付けると

さらにグイグイと力を込める。


「ついでに口を縫いつけてやるのも、いいかもナァ~」


「うあっ!!」


無理な体勢で責められるなないろが、苦痛の呻きをもらす。


「フフフ…まあいい、今はまずお前の真名を暴き、書き換えてやる事を優先しよう!」


ドクター・ダーク・ドーン=ジーナ・マカラの左手がなないろの胸に触れると

手の平が光を発し、なないろの体に流れ込む。

流れ込んだ光は一瞬揺らいだかと思うと

無数の魔法文字となり、なないろの体を覆い始めた。


「あっ!ああっ!」


なないろが苦悶の喘ぎ声を上げたその時、

突然、日笠薫を縛り上げていたマキシモンの体が痙攣しはじめる。


「マキシモン?」


ホワイト・ストークが訝しがり声をかけるが

マキシモンの痙攣は止まらず、薫を縛り上げていた腕もほどけてしまう。


「ドゥ…ドゥゥエ~ェェ~…~イィ…」


そして弱々しい声を上げたかと思うとマキシモンの体は徐々に光の粒子となり消えていった。

ハッとして叫ぶホワイト・ストーク。


「アンジェラが!アンジェラがやられた!!」


ホワイト・ストークが捕まえていたなないろを投げ出すと、

驚いたドクター・ダーク・ドーンも思わずなないろを掴む手を離してしまう。

バランスを崩し、倒れるなないろ。


「うおっ?!バ、バカ何をしている?!」


必死の形相で部屋を飛び出していこうとするホワイト・ストークを

ドクター・ダーク・ドーンが掴み、引きとめようとする。


「離せ!ナメクジ!私はアンジェラを助けに行く!!」


「アホか!そんなどーでもいい事より、こっちのほうが重要だろうが!!

 ってかオメーどさまぎにナメクジとか言いやがったなこんちくしょう!」


突然、何やら揉め始めたドクター・ダーク・ドーン達を呆然と見ていた薫であったが

すぐに意を決し立ち上がるとなないろの手を引っ張り、飛び出した。


「なな!」


「薫ちゃん!」


ドクター・ダーク・ドーン達の脇をすり抜け、

ドアの外へと駆け抜ける薫となないろ


「ああーー?!クソッ!まてぃッ!コラッ!」


二人を取り逃がしたというのにアンジェラを優先しようとするホワイト・ストークに

業を煮やしたドクター・ダーク・ドーンの怒声が響く。


「ええい!止まれ!ストーク!我が真名において貴様の真名に命ずる!!」


その途端、胸に光の魔法文字が浮かび上がりホワイト・ストークの動きがピタリと止まる。

彼女の胸に現れた魔法文字、それはホワイト・ストークこと塩谷和徳(しおたにわとく)の書き換えられた真実の名。

その名においての命令に彼女は決して逆らう事が出来ないのだ!


「う…うう…」


抗えぬはず真名の命令に抗おうとしているのか

ホワイト・ストークの表情が苦悶に歪み、冷や汗が流れる。


真名支配の力は絶対だ。

だがデメリットもある。

(それは、精霊などとは別に、主に人間に起こることなのだが)


『あまりにも本人の意思と相反する命令を繰り返した場合、精神が壊れてしまう事がある』


ということ。

そうなった者は最悪、自分で考えることが出来ず、ただ命令だけに従う操り人形と化してしまうだろう。

雑用だけをやらせるならそれでも構わないのかもしれない。

だが、自分の意思を微塵も持たぬものは部下としては失格だ。

なぜなら状況に合わせた臨機応変な対応ができないということなのだから。


そうならないように、

本来なら真名支配した後に、細かい微調整が必要なのだが

ミルイの魔改造にかまけていたドクター・ダーク・ドーンはそれを十分していなかった。


「まずいな…コイツが死のうがぶっ壊れようがどうでもいいことだが

 今はまだコイツの力が必要だ…」


ドクター・ダーク・ドーンはホワイト・ストークに寄り添うと

ジーナ・マカラの顔と声で優しく語りかける。


「ワトク、安心してワトク…

 アンジェラはミルイ達に助けさせるから大丈夫!(嘘だけどな!)」


「ほ…本当か?」


「ええ!名にかけて誓います!(勿論でまかせだけどな!)

 だから安心してなないろを確保した後、

 皆で揃ってアンジェラのケーキでお祝いしようよ!ね?」


名にかけた誓い、それは魔法使いにとって自らの誇りをかけたもの。

普通の魔法使いであればその誓いは決して裏切らないだろう。

特に魔女会の次期当主とうたわれたジーナ・マカラなら決して裏切らないといえた。

だがドクター・ダーク・ドーンにそんな誇りなど微塵もない。

口八丁手八丁、その場を凌ぐためには何でもやる男なのだ。


そして次第にジーナの声とドクター・ダーク・ドーンの声が重なり

落ち着きを取り戻し始めたホワイト・ストークに命令する。


 「「さあ!グズグズするな!逃げたなないろを捕まえろ!」」







 ユニベルサリスと魔法少女たちの激戦の末、

溶け落ちたブレイズン・カーフの従者(フォロワー)真鍮の牡牛ブレイズンから飛び出した物体、

それは大きな、人の右腕。

常人の三、四倍はあろうかという大きな拳がユニベルサリスめがけせまる!


しかしユニベルサリスは体をひねると、

こともなげにそれを避けつつ、軽く後ろに飛び退いた。


隙を突いた拳の攻撃は不発に終わったものの、

右腕の後から同じように左手が飛び出し、溶け落ちたブラストンの体に手をかけて力任せにこじ開け、

ぬっと姿を現すブレイズン・カーフ。


「ミルイ…その姿はやはり…」


ゆっくりと立ち上がるブレイズン・カーフ。

だが、その姿には先程までの面影はない。

3メートルはあろうかという巨体に研ぎ澄まされた筋肉、

肥大した腰のラインは丸太のように太ましい脚へと流れ、

両の拳は体にアンバランスなほど大きく、

全身の皮膚には斑上に金属の装甲が張り付く。

長い髪を振り乱す頭部には大きな二本の角が輝いている。

そして何よりも目を引く異形は、

大きく垂れ下がる二つの乳房の下に小振りな乳房がさらに二つあるということであろう。

例えるなら牡牛女、というよりホルスタイン女とでも言うところだろうか。


「やはり魔改造!」


橘ミルイの本来のエレメンタル・スタイルとは違うその姿に、声を上げるユニベルサリス。


だが、ブレイズン・カーフはそれに答えることなく、

たくましい足の先についた蹄で大地を削り、地響き上げて迫り来る!

 

両者の手と手がガシッ!と組み合い、筋肉が張り詰める。

ブレイズン・カーフはさらに力を込めてねじ伏せようとするが

ユニベルサリスはビクともしない。


純粋なパワーとパワーとがぶつかり合い、拮抗する二人の力が火花を散らす!








 「しまった!遅かったか?!」


なないろを守る為駆けつけたものの

既にもぬけの殻となっているなないろの部屋の前で

魔法少女『グラン・ギニョール』こと昼田操が落胆する。


だがそれに応えるかのようにグラン・ギニョールの左腕に巻きつけられたリボンが淡い光を発した。


「いや!まだ無事か!」


グラン・ギニョールが左手を翳し、右へ、左へと動かすとリボンの光が明滅し始める。


「こっちだ!」


明滅するリボンの光の導きの元、グラン・ギニョールは再び駆け出していく。









 ドクター・ダーク・ドーンの魔の手からのがれ

結界の中を息を荒げながら走るなないろと薫。


「「ハァハァハァハァ…」」


だが、迷路のような結界は、行けども行けども幻想的な景色の鮮やかな彩が続くだけ。


絶望的な状況と、ドクター・ダーク・ドーンへの恐怖から

日笠薫の目から思わず涙がこぼれ落ちそうになった時、

薫が手を引く虹乃なないろが声を上げた。


「薫ちゃん…待って、薫ちゃん!」


薫はなないろを不安がらせまいと涙を抑えて答える。


「な、なに?」


「これ、光ってる!」


なないろが指し示したのは、恋華憩から渡され、腕に巻かれたリボン。

明滅するリボンの光に二人は足を止め、まじまじとそれを見つめる。


「憩さんから渡されたリボン?!」


「いい?よく見てて!」


なないろがリボンの巻かれた腕を前後左右に動かすと

ある一方向へかざされた時に強く明滅し始めた。


「これ!もしかしたら私達を導いているんじゃないのかな?!」


そうか!憩さんから貰ったこのリボンはこんな時のためのものだったんだ!


そう思った薫は、なないろと頷き合い、

光るリボンが指し示す方角へと走り出すのであった。





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