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第一話 その魔名ソルキュート その3

日曜日に投稿する予定でしたが今日は『奇術の日』(日本奇術協会)らしいので

魔法少女王!ソルキュート!第一話その3 投稿いたしました!

 『王冠持ち』と呼ばれる巨大な精霊王。

その姿を確認したユニが右腕を前に突き出しグイっとひねると、

瞬時に拳の両脇から長い棒状の物が伸びる。

伸びた勢いのままに二度三度とそれを振り回すと

大きく振りかぶり地面に向かって振り下ろした。


白地に金の装飾が施されたその杖の先端には楔状の部品が取り付けられていて、

打ち付けられた楔は杖から外れ、

楔尻がグリっと回転しより深く地面にめり込む。

そして表面に刻まれた文字のようなものが激しく発光し始めると

森林公園の外周に同じように打ち込まれた楔も

それに呼応して発光し始める。


「よし!『道』を固定しました!」


後方に控えていたサクーラが全速力でユニの傍らに駆けつけると

公園の隅々にまで届けとばかりに、力の限り叫ぶ。


「うおっしゃーーーー!!出て、こいやーーーーーーーー!」


それを合図に

ユニとサクーラの周囲を埋め尽くさんばかりに無数の人影が出現する。

その姿は

あるものはジーナと同じ典型的な魔女スタイルの少女、

また、あるものは派手なトリコロール・カラーのマントを翻すマスクマン。

中には学生服の女学生や

スーツ姿で髪の薄い中年男性もいる。


あるものは空を舞い

あるものは地を走り、

また、あるものは地面から滲み出るようにして現れた彼ら、

ユニを中心に一定の間隔で配置につく彼らこそ、

『王冠持ち』の管理のために選ばれた魔法使い達。


その数およそ300!


「いくぜ!みんな!全ッ力ッ全ッ開!!ダァーーーー!!!」


サクーラは言い終わると同時に全身に力を込める。

ミシミシと音を立て膨張する全身の筋肉が、サクーラの体を鬼神のごとき気迫で包む。

そして素早く武闘の型のようなキレのある動きをしてみせた。

流れるようなその動きはサクーラ自身の研ぎ澄まされた筋肉美と相まって

まるで舞い踊っているかのようにも見える。


それに続き、魔法使い達は各々がそれぞれに動き出す。

あるものは歌い、

あるものは描き、

あるものは呪文を唱える。

そして、あるものは華麗に舞う。


「うおおおおおおおおおおおお!」


サクーラが力の限り叫び、拳を天に突き上げると、

その体を覆うように紅蓮の炎が巻き上がる。

そして顔には悪魔的な笑顔を浮かべながら両腕をガバっと広げ

口からは炎を吹き出した。

最後に両拳を叩き合わせると

サクーラの筋肉がさらに盛り上がり

着ていた衣服が炎と弾け飛ぶ。

弾けた炎は一瞬停止したかと思うと

再び瞬時にサクーラの体へと戻る。

体表に固着した炎は、一部が衣服へと変化し

一部は結晶と化す。

そして一部はそのまま焔の帯となった。


屹立する炎に祝福されたサクーラの姿からは

たった今見せた荒々しさは嘘の様に消え去っている。

焔の生地に光の刺繍が施されたドレスを纏う貴婦人。

今のサクーラは

まるで炎の女神の化身とでも言える美しさに包まれていた。


そして他の魔法使いたちもサクーラと同じように

各々独特に姿を変える。

氷に覆われ美しさに包まれる者、

風と共に舞い上がり強さに包まれる者、

大地を割り気高さに包まれる者、

花に覆われ優しさに包まれる者・・・

様々な姿に変わった魔法使い達は続々と名乗りを上げる。


彼らが変身した姿、

これこそ『エレメンタル・スタイル』と呼ばれる

魔法使いの戦闘形態。


最後に再び武闘の型を披露し、

声の限りに名乗りを上げるサクーラ。


「遠からんものは音にも聞けい!近くばよって目にも見よ!

 我が魔名『グレン・フィーネ!』いざ!参る!」


ズラッと並んだ魔法使い達。

それを背にして立つユニが右手を高々と上げると

彼らは皆動きを止め、じっとユニの動きを注視する。


ユニが号令をかけようとした、その時

右肩の上に乗る白黒猫の耳が何かの音を捉え、ぴくっと反応した。

かと思うと集団の後方から、慌てた少女の声が響いてきた。


「ごめんなさい~~~~~っ!通して!ちょっと通してっ~~~~~!!」


「うを!」 「なんだ!?」 「ぎゃふん!」 「ちょっと~!」 「ふぎゃ!!」


飛び交う怒号をぬって少女のものと思われる悲鳴が近づいてくる。

集団の一部が波のように開くと

そこから箒の箸に掴まったジーナが 箒に引っ張られて 飛び出してきた。


「はわわわわ~~~~~~~~~!!」


魔法使いたちの注目を一身に浴び、飛んできた箒とジーナ。


グレン・フィーネが矢のように飛んできた箒の柄の部分を片手でバシッ!とつかみ

クリッと捻る。

だが、箒とともに半回転したジーナはその勢いのまま止まれず地面に叩きつけられそうになるが

既の所でユニが両腕で優しく受け止めた。

図らずもお姫様だっこ状態になってしまったジーナ。

年頃の少女のジーナにとっても

『万能の人』と呼び声の高いユニベルサリスに抱きかかえられるのは悪い気がするはずもなく

つい見とれてぽわ~んとなってしまう。


「ど・・・どうも・・・じゃなくて!遅れてごめんなさい!・・・は、おいといて!」


が、なにやら要領を得ないジーナを見てグレン・フィーネが言い放つ。


「まずは、落ち着け。話はそれからだ。」


その一言にハッとしたジーナは深く息を吸い込み呼吸を整えて報告する。


「さ、『三重に偉大なる結界』が悲鳴をあげてます!応急処置は施しましたが急がないと!!」


目を見開いて驚くグレン・フィーネ。


「それを早く言えよっ!」


「だからぁ~~・・・」


泣きっ面に蜂状態のジーナが何か言いたそうに呟いが

グレン・フィーネはそれには答えず、ユニに目配せをして頷き合う。

険しい面持ちのユニがジーナをおろし語気を強めて叫ぶ。


「『マグナ・マグス』!あなたは結界の保持に回ってください!」


ユニが支持をすると大柄な中年男性が前に進み出た。

鋭い眼光に大きめの鼻、

真一文字に結ばれた口もとには豊かな髭を蓄えている。

袖の広いゆったりとした白い法衣に身を包み、

その表面には金銀のラインで魔術的図形が描かれていて

頭には鍔の広い尖り帽子をかぶっている。


「うむ!了解した!」


マグナ・マグスと呼ばれたその男はふわりと中に浮き上がる


「たのんだわよ~マグマグ~♡」


「はいな!クロシロウさん」


白黒猫の『クロシロウ』に声をかけられたマグナ・マグスは

気さくに声を返した後、踵を返し猛スピードで飛んでいく。

それを見送る暇もなくユニが続けて叫ぶ。


「聞いたとおりだ!みんな!自体は急を要する!」

 

ユニが片手をあげると魔法使いたちに再び緊張が走る。


「各自、予定通り!『一文字』づつ確保するだけでいい!決して無理をするな!いいな!」


ひと呼吸おき腕を前に振りかざし叫ぶ。


「進めーーーーーーーーーーーー!」


ユニの号令の下、一斉に周囲に展開する魔法使い達。

それと同時に宙に飛んだユニの体を光が流れると

その光が瞬時に真っ白なスーツと化し

背中には幾何学的な形状のクリスタル状の翼が出現する。

その姿を例えるなら、まさに水晶の天使。


『エレメンタル・スタイル』となったユニも、グレン・フィーネも『王冠持ち』に向かって突進していく。

それに呼応して『王冠持ち』の周りの精霊たちも魔法使い迎撃のため展開した。


精霊たちの背後で悠然と周囲を見渡していた『王冠持ち』がギロリと

魔法使いたちに一瞥をくれる。

恐ろしい程に大いなる魔力を秘めたその視線を感じサクーラが叫ぶ。


「目をあわせるな!!持ってかれるぞ!!」


その言葉に一瞬戸惑う魔法使い達もいたが、すぐに気を取り直してさらに進撃する。


ユニベルサリスが指揮する魔法使い連合

『王冠持ち』の配下の大精霊団


今、その戦いの火蓋が切って落とされた!


・・・が、一人ぽつんと出遅れたジーナ・マカラ。


ちょっとばかり右往左往したジーナは

すぐに気を持ち直して立ち止まり

『エレメンタル・スタイル』への変身を開始する。


顔を赤らめつつ恥ずかしそうにウインクし、

指で帽子の縁を傾け、ピンっと跳ね上げる。

すると瞬時に帽子が巨大化しジーナの体を飲み込むように落下する。


帽子を持ち上げて中から再び姿を現したジーナの衣装は

可愛いピンク色を基調とした、コケティッシュなデザインに変わっていた。

プリンっとお尻をふると可愛いパンツがちらりと覗く。


そして、持ち上げた帽子をクルッと回転させながら軽く上に投げると

帽子の中から光のシャワーが降り注ぎ、いくつかの塊と化す。


その光の塊はジーナの呪文詠唱に合わせて

ポンっパンっと音を立てながらジーナの体に付着していく。


♪「ぱん!」パン!「ぽん!」ポン!「ぴん!」ピン!「ぱん!」パン!「ふらわわわ~~~~!」♪


不可思議な呪文に反応して、光は付着しつつ弾けるように実体化し

魔法のアクセサリーへと変貌した。

それは、いかにも女の子が好みそうなファンシーなデザイン。

ジーナが傍らに立てた箒を掴み、くるくると回すと

箒も衣装に合わせたデザインに変化していく。

ピンク色で先端には星のエンブレムが輝く箒。

表面には光のラインが輝く。


ところどころ黒い宝石がついているのがアンバランスさを感じさせるが

可愛らしい、これぞ『魔法少女』といった姿に変わったジーナが

最後にたどたどしく名乗りを上げた。


 「わ・・・我が魔名『すぷりんぐ♡すまいる』!ま・・・参る!!」



 放課後、学生たちが帰路につく中、

なないろ達三人組は森林公園にほど近いところにあるコンビニで買い物をしていた。

勿論、猫との名約束を守るため、キャットフード『猫缶』を買いに。

 「ありがとうございましたぁ~」

店員の挨拶を背に

ビニール袋を手にしたなないろ、薫、メイの三人組がコンビニを後にする。

店を出た途端に雑談を再開する薫とメイ。


「しっかし、あの時のあいつ!エッロイ表情してさぁ・・・」


少し意地悪そうな表情をした薫が言うと

真剣な顔のメイがうんうんと頷きながら


「近くにいた男子生徒がまじまじと見惚れてましたわね・・・

 あれはきっと蘭さんのセクシーな表情にズバリ一目ぼれしてしまったんだと思いますわ」


意地悪そうな『にひひ顔』をしたまま、薫は七色に向かって視線を移す。


「王子様に一目ぼれしちゃった、ななちゃんみたいに?」


「もう!薫ちゃんったら!またそれ言う・・・!」


薫の言葉になないろは顔を赤らめながらぷくっとふくれっ面をして

ぷいっとそっぽを向いてしまう。

薫は「ななは相変わらずカワユイのう」などと

オヤジくさい感想を抱きながらそれを眺めつつ公園目指して歩いていく。


三人が進む先にある森林公園。

そこはいつもと変わらず静かで穏やかな空気に包まれていた。


公園入口の前まできた三人が立ち止まると、

東条メイがクルっと振り向き

薫となないろに対し申し訳なさそうに言う。


「できることなら、わたくしも御一緒したいのですが、今日はピアノのお稽古がありますので・・・」


メイが習い事で忙しいのはいつものことだし

いっしよに遊ぶ時間が少ないのも昔からのことだ。

習い事なんかなくなっちゃえばもっといっしよにいられるのに。

そう思いながら薫はねぎらいの言葉をかける。


「お嬢様の宿命だもんねぇ・・・相変わらず大変だぁ」


メイはチラっと寂しげな表情を浮かべたあと

モジモジしながら上目遣いでなにか言いかける。


「それでですね、あの・・・」


メイの考えを察したなないろがすぐさま答えた。


「解ってる!にゃんこの写真、いっぱい撮ってきてあげるね!」


「わぁ!やったぁ!お願いしますね♡」


いつもは大人びた雰囲気のメイがぱあっと年齢に見合った少女の笑顔を見せる。

そんな笑顔も素敵で私に元気をくれる、

なないろはそう思い微笑み返した。


「てかさ、メイのその上目遣いの仕草もなんかエロい!」


「まあ!」


薫のツッコミにメイは真っ赤になって両手で頬をおおった。


余談だが日笠薫は後にこの時の事をこう語る

「可愛すぎて結婚を申し込みそうになったわ!」

と。


そんなやり取りに笑い合う三人。



「それでは、ごきげんよう」


「「ごきげんよう!」」


お嬢様らしい仕草で別れを告げるメイに

同じように挨拶し返すなないろと薫。

これも毎日のように交わされるいつもの光景。


「それじゃ~行きますか!」

メイを見送った後、薫はなないろの手をぱっと握り

森林公園の入り口へと駆けていった。


「レッツらゴー!」





「薫ちゃんたら、おじさんっぽい~。うちのお父さんもよく言うんだ、レッツらゴー!って」


「え~マジで?ななのお父さんってカッコいいのに結構オヤジっぽい?」


「フフフ、薫ちゃん『オヤジっぽい』って自分で言っちゃう?」


「あーーー!謀ったな!おぬし!」


「うふふ、さっきの仕返し~」


森林公園から出てきた二人がそんな会話をしながら帰路につく。

ふと何かに気づいた薫が立ち止まり言った。


「あれ?なんで、なながこっちの道通ってるの?ななの家あっちでしょ?」


と薫が左の方向を指差す。


「あ!あれ?!」


目を丸くして驚くなないろ。

薫はにやりといやらしい笑みを浮かべる。


「ん?私の家に来たいのだな?愛いやつめ!よしよし!今夜は寝かさぬぞ~!」


おちゃらけた薫がなないろをグイっと引っ張り寄せて

後ろからギュッと抱きしめる。

驚いたなないろがビクっとなった拍子に

手にしたコンビニ袋がガサリと音を立てると二人の目は何故かそれに釘付けとなった。


「「ん~~~~~~??」」


コンビニ袋の存在に気づいた二人が同じように

眉間にしわを寄せて何かを思い出そうとし、

同時に思い出した。


「「!!あ~~~!!」」


二人はそれぞれ思い出したことを交互に叫ぶ。


「コンビニ!」

「にゃんこ!」

「餌!」

「「公園!!」」


森林公園に入ったのに、

いつのまに、

知らぬ間に、

出てきていた。


何が何やらわからないこの現象に

二人は一緒になって森林公園を振り返り、驚愕し叫んだ。


「「え~~~~~~?!どうなってるの~~~~~~」」










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