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第四話 驚異の魔王 その1

 恋華憩(こいはないこい)は、なないろの部屋を出ると、

胸の前で腕を交差させ小声で呪文を呟く。

すると、彼女の周囲に光のベールが発生し頭部を覆い始め、

水のように体へ流れていき全身を覆うと

彼女の装いを魔法使いの戦闘形態『エレメンタル・スタイル』へと変えていく。


蒼いバトル・ドレスに輝くクリスタル、

両サイドにまとめられた、いわゆるツインテールの髪の毛に

それぞれ大きなリング状の髪飾りが特徴的な華麗な姿、

これが恋華憩のエレメンタル・スタイル、その魔名『フリー・フリーズ』


フリー・フリーズがなないろの部屋のドアに触れ呪文を唱えると

その手を中心に、レースを編みこんだフリル状の光のベールがドアを、壁を覆っていく。


これぞフリー・フリーズの能力『フォースベール』を応用した技『スウィート・ルーム』!


いまや、なないろの部屋は外からは絶対に侵入する事の出来ないフィールドに包まれたのだった。


フリー・フリーズはなないろの部屋のフィールドに『鍵』をかけ終えると

踵を返し階段を飛び降りる。

飛び降りる間、眼下に階段を駆け上がっていくグラン・ギニョールの使い魔・クマルマルを確認すると

そのまま頭をむんずと掴み胸元に引き寄せる。


「クマルッス?!」


フリー・フリーズは驚くクマルマルを抱きながら階下に静かに着地すると

一気に廊下を駆け抜け、玄関のドアから表に飛び出した。


視界に広がるのは通常と変わらぬ街の景色。

周りを見回したクマルマルが魔法使いにしか理解できぬ言葉で何やら報告するが

フリー・フリーズが答える間もなく、周囲の空間が揺らぎ、怪しげな陽炎に包まれると

異様な景色がみるみると広がっていく。

荒涼たる大地、捻くれた尖塔、サイケデリックな色合いの空に点在する幾何学模様…

そう、『暗い日曜日』の手の者が  バトルフィールド『魔法使いの世界』を展開させたのだ!


「こんばんは!恋華憩」


「オ晩デースー!」


揺らぐ陽炎の中からエレメンタル・スタイルをとった二人の魔法使い、

バルチャーズ・ドーターことアンジェラ、

ホワイト・ストークことワトクが現れる。


アンジェラ…ワトク…二人だけ?


フリー・フリーズが注意深く観察していると二人の背後から憩の見知ったひとりの少女が現れる。

つば広のトンガリ帽子にローブを纏うその少女は妖しく微笑むとゆっくりと口を開いた。


「ごきげんよう、恋華憩」


「ジーナ…いや、ドクター・ダーク・ドーン!!」


今やドクター・ダーク・ドーンに意思を乗っ取られたジーナ・マカラの登場に

驚きを隠せないフリー・フリーズ。

対照的に落ち着き払ったジーナ=ドクター・ダーク・ドーンが淡々と言葉をつなげていく。


「ふむ、丁重に御挨拶、といきたいところだがあいにく急いでいるのでね。

 早速で悪いがこの二人のお相手を願おうか」


ドクター・ダーク・ドーンとフリー・フリーズのやり取りの間にも

アンジェラは一人、我関せず、といった面持ちで

懐から何やら小さく四角い紙包みを取り出し、ワトクに渡そうとするが

ワトクは軽く手を振ってそれを断る。

ドクター・ダーク・ドーンが、それをジロリと睨むがアンジェラは一向に意に返さない。


「アンジェラ、ワトク…お久しぶりね?」


「デスナ~」


フリー・フリーズの問に答えながら手にした紙包みを解くアンジェラ。

包の中みは茶色く小さなキャラメル。


アンジェラはキャラメルを上へ放り投げ、落ちてきたところを口で受け止めようとするが

落下してきたキャラメルは舌に弾かれ横にそれてしまう。

だが、ワトクが素早い動きでそれを掴み取るとアンジェラの口の中へ放り込んだ。


「モゴモゴ…オウ、アリガトゴザイマ~ス…ン~ガッグッフ!」


キャラメルをのどに詰まらせるアンジェラを無視しフリー・フリーズに語りかけるワトク。

 

「無駄だとは思うけど一応聞いておく…

 虹乃なないろを渡してもらえるか?」


無言のフリー・フリーズの決意を読み取ったワトクがため息を漏らしながら呟いた。


「だよな」


「ストーク!御託はいい、さっさと虹乃なないろを確保するぞ!」


「ん?ああ」


ダーク・ドーンの叱責に答えるワトク。

そして、改めてフリー・フリーズが声高らかに宣言する。


「我が魔名『フリー・フリーズ』!ここから先は何人たりとも通さない!!」


「仕方がない、邪魔する者は排除する!それが我らに与えられた命令だッ!」


対してワトクも名乗りを持って答える。


「我が魔名『ホワイト・ストーク』!……

 ……アンジェラ?」


戦いが始まろうというのに名乗りも上げず、

押し黙ったままのアンジェラを不思議に思ったワトクがふと見ると

アンジェラは真っ青な顔をして苦しそうに喉を掻き毟っていた。


「…ンゴ……ンガ……」


「?」


ワトクは一際大きなため息を着くとドーターの背中を強く叩く。

その拍子に喉につかえたキャラメルをポンッと吐き出すドーター。


「あ~、死ぬかと思った…アリガトデ~ス」


冷や汗を掻きながらアンジェラは吐き出したキャラメルをじっと見つめた後

ワトクへと差し出しながら呟く。


「オ礼トイッチャア、ナンデスガ…」


「いらんわ!」


ドーターのボケに突っ込むストーク。

二人のやりとりに呆れながらドクター・ダーク・ドーンが叫ぶ。


「やりなおーし!…ハイ!」


ドクター・ダーク・ドーンの合図に名乗りなおす二人の魔法使い。


「我が魔名『ホワイト・ストーク』!」


「我ガ魔名『バルチャーズ・ドーター』!」


「いざ!!

     参る!!」」

「イザ!


ドクター・ダーク・ドーンに支配されていることを除けば

いつもと変わらぬ凸凹コンビっぷりを発揮する二人。

だがフリー・フリーズはそんな二人の様子にさえ辛さを感じていた。

なぜなら、自分はこれから全力を持って彼女らを止めなければならないからだ。

そう、たとえ殺してしまうことになっても…

勿論、フリー・フリーズは二人を『封印』するつもりではあるが

それが叶わぬ場合は最悪の事態も覚悟せねばなるまい…  


「クマルマル!」


「クマルッス!」


フリー・フリーズの号令に答えたクマルマルが脱兎のごとく進み出る。

風を切り力強く武道の型を披露するクマルマル。

両腕を広げ片足で立つその構えは鶴か!鷹か!いや熊だ!

鋭く光る眼光はバルチャーズ・ドーターを、ホワイト・ストークを捉える!


「オゥ、グラン・ギニョールノ使い魔デスネ。

 ソレナラ、コチラモ使い魔ヲ使ウマデデェース!」


バルチャーズ・ドーターは、そう言いつつ、腕を軽く振ると

手の中に短めのタクトが現れる。


「クルクルクルクル…」


手にしたタクトを前にかざしクルクルと回転させ始めると

タクトの周りに絡みつくように白い煙が現れ渦を巻いていった。


「召喚!フモフモフ!」


ドーターがある法則に従い、踊りを舞うかのように一定のリズムで空中に図形を描くと

煙はその図形に沿って凝結し、やがて白いモフモフの体毛に覆われた

可愛らしいく二本足で立つアンゴラ兎を彷彿とさせる獣の姿となった。


「テーレッテッテー♪」


モフモフの獣はピョンピョンと二、三度飛び跳ねた後、

片腕を地面に突き刺すように着地する。

その姿は『俺、カッコイイだろう?』とでも言いたげに誇らしげ。


これこそアンジェラ=バルチャーズ・ドーターの使い魔『フモフモフ』!


召喚されたフモフモフはリズムを取るように軽くステップを踏んだかと思うと

ビシッとポーズを決め、

手のひらを上に向け指先を二、三度クイクイっと動かしながらクマルマルを挑発する。


挑発を受けたクマルマルも自信に満ちた様子でゆっくりと進み出ると

フモフモフを上回る速度で華麗にステップを踏み、ビシッとポーズを決めドヤ顔でそれに応える。


「いや、オマエら、そういうのはいいから」


後方で高みの見物を決め込んでいたドクター・ダーク・ドーンが思わず呟く。


にらみ合う両陣営の魔法使い達は、ふわりと浮き上がると

一瞬の間を置いて一気に間合いをつめる。


最速(さいそく)で、一際高く飛び上がったバルチャーズ・ドーターが己の体重を乗せた猛烈キックを見舞う!


「アチョー!」


轟く怪鳥音!

だがフリー・フリーズは紙一重でそれを躱し、ドーターの横っ面に裏拳を見舞った!


もんどりうって倒れるドーター。

流れこむ魔力は光の文字列(ランゲージ)となってドーターの頭部から体へと流れる。


いける!


文字列(ランゲージ)を打ち込む手に確かな手応えを感じたフリー・フリーズはそう確信すると

バルチャーズ・ドーターの後ろに回り込み、腕をひねり上げる。


 「アタタタタタ!」


ワタワタともがきながら逃れようとするドーター。


 よし!このままユニベルサリスの到着まで拘束すれば…


拘束魔法の呪文を唱えドーターを絡めとろうとするフリー・フリーズ。


「ユニベルサリスガ来ルマデ、時間稼ギヲシヨウト思ッテイルデショウ?」


「?!」


「デモ、残念、ミルイ達ガ足止メシテイルカラ遅レルト思ウヨ……」


フリー・フリーズの思惑を見透かしているドーターが精神的な揺さぶりをかけてくる。

その隙にホワイト・ストークが虹乃家へと突進する!


「止めろ!クマルマル!」


クマルマルに指示するフリー・フリーズの一瞬の隙を逃さずに

驚異的なパワーでフリー・フリーズを弾き飛ばすドーター。


「ぐぁっ!?」


吹っ飛ばされたフリー・フリーズは地面に叩きつけられ、

ゴロゴロと転がりながらも片膝をつき、体制を立て直さんとする。

ストークはその間を縫って虹乃家目指してひたすら直進する。


「アンジェラ!フモフモフ!後は任せたぞ!」


それを阻止せんとクマルマルが駆け寄るが、さらにフモフモフがその目の前に立ちふさがった。


「モッフアァァァァァァァ!」


雄叫びを上げるフモフモフのアッパーがクマルマルのアゴを捉える!

強烈な一撃をモロにくらい吹っ飛ぶクマルマル!

ホワイト・ストークは跳躍し、空中のクマルマルを踏み台にし、蹴り落とすと

その反動を利用して悠々と虹乃家の敷地内へたどり着いた。


素早い動きで起き上がったクマルマルとフモフモフの両使い魔がにらみ合う。




『フッ、フモフモフ…噂に違わぬモフっぷり…いいパンチだったぜ…

 やはりこちらも本気を出さねばならないようだな!』


意を決したクマルマルの腕が左右に別れ、光るチェーンソーが現れる。

その姿を見たフモフモフがニヤリと笑うと高らかに宣言した。


『クマルマル敗れたり!』


『なに?!』


『我々モフモフ族にとってモフモフ感は命!可愛さこそ力!

 そんな奇をてらっただけのゴツイ武器を出し、モフモフ感を失ったお前は

 すでに負けているのだ!』


『世迷言を!

 そう言えばミラクル・チェーンソーを引っ込めるとでも思ったか?』


回転するチェーンソーの刃は、さらに複雑に光を反射し、まるで自ら発光しているかのようだ。


『しかし、いいだろう!あえて、のってやる!』


せっかく展開したチェーンソーを収納するクマルマル。


『貴様はこの拳で直接!ボコボコに叩きのめしてやるクマーーー!!!』


『フン!ボコボコにされるのは貴様の方だと知れモフーーー!!!』




……などという 会話があったか どうかは 定かでは ないが

とにかく戦闘を開始する二体の使い魔!


「「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」


雄叫びをあげ次々と攻撃を繰り出すクマルマル!


「ボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコ!!」


これぞクマルマル奥義『ボコボコ・ラッシュ』!!

どんなモフモフ者でもボコボコにするぞ!


対するフモフモフも奥義でかえす!!


「モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ!!」


これがフモフモフ奥義『モフモフ・ラッシュ』!!

一見、癒されそうなモフモフ感だが当たれば多分、痛い!


まるで、じゃれ合ってるようにも見える光景ではあるが、

激しさを増す両者の拳は、ぶつかるたびに火花を散らす!


その間、小心者のドクター・ダーク・ドーンも周囲を警戒しながらワトクの後に続き

虹乃家へとたどり着く。


「よし!これで、なないろを、確保したも同然だな!」


「果たしてそうかしら?」


フリー・フリーズはゆっくりと立ち上がりながら答える。

それを一瞥し、ドクター・ダーク・ドーンが吐き捨てる。


「フン!如何にフリー・フリーズ自慢の結界といえど、ワトクの手に掛かれば造作もあるまい」


「そう?でも 私達の 技は、そんなに甘くはないのよ?」


その言葉に呼応するかのように 何かに反応するドクター・ダーク・ドーンとストーク。


「む?!」


訝しがるストークの周囲が一瞬歪んだあと、万華鏡の様に蠢き

やがて天にも地にも広がる幻想的な景色と化してゆく。

屹立する塔、巨大な観覧車、回転するメリーゴーラウンド…

その全てが可愛らしい装飾でデコレーションされている幻想的な空間が

周囲の『世界』を一気に塗り替えていった。


「なるほど、短期間の内にこんな手の込んだトラップまで用意しているとはな…だが」


ドクター・ダーク・ドーンがストークを一瞥すると、

ストークは慌てる様子もなく、両手に計八枚の羽毛を取り出すと

周囲に広げるように投げ放つ。


「何も問題はない」


投げ放った羽毛はコウノトリの姿となり周囲に飛び立ってゆく。

だが、その時、

無数の影がコウノトリ達に取り付くと、そのまま大地へと引きずり下ろしていった。

地面に落下したコウノトリを押さえ込む影、

それは可愛らしいヌイグルミ達であった。


「やっぱり密かに護衛に当たっていて正解だったわ」


「「?!」」


「フフッ、残念だけど只のトラップってワケじゃ~ないのよね」


「おまえは…」


驚くドクター・ダーク・ドーンの視界に小さな少女が現れる。

体の各所をぬいぐるみ型のアクセサリーで飾り付けた可愛らしいドレスを着たその少女は

スカートの裾をつまみ上げ、優雅にお辞儀しながら名乗りを上げた。


「我が魔名『グラン・ギニョール』そして、ようこそ!我が『世界』!我が『王国』へ!!」


「…なるほど『結界』内に『世界』を展開し固定したか…」


「そういうこと。

 いでよ!我が臣民たちよ!!」


グラン・ギニョールの号令の下、空から、物陰から、大地から無数のぬいぐるみ達が現れ

ホワイト・ストークをドクター・ダーク・ドーンをバルチャーズ・ドーターを取り囲む。


「クマルッス~!!」


多くの同胞の登場に歓声を上げるクマルマル。

多くのモフモフ的ライバルの登場にたじろぐフモフモフ。


グラン・ギニョールはクマルマルに優しく微笑みかけると

一変してストークを睨みつけ、部下の使い魔たちに向かって命令する。


「臣民たちよ!其者達(そのものたち)を捕縛せよ!」


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