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第三話 穢れた魔法 その1

「うわぁ…すっごいお屋敷…」


そびえ立つ屋敷や敷地内をキョロキョロと眺めながら虹乃なないろは声を上げた。


「この街にこんなお屋敷なんてあったけ?」


日笠薫が、ふと疑問をもらすと

昼田操(ひるたみさお)がふふんと鼻をならしながら自慢げに答える。


「ど~お?なかなかいいところでしょ?」


と、そこへ何者かが声をかけてきた。


「みさおさ~ん!」


声のする方、屋敷の正面玄関へ目を向けると

そこには数人の女性達が立っている。

操は彼女らに向かって軽く手を振り、

一番背の高いグラマラスな女性に駆け寄り挨拶をすると

薫に向き直り紹介し始めた。


「あ、紹介するわね。こちら寮長のミス・ストーン・ラヴァー」


ミス・ストーン・ラヴァーと呼ばれた女性は上品な仕草で軽く会釈をすると

優しく微笑みながら、なないろと薫に声をかけた。


「お二人共、ようこそ~!魔女の家へ!」


「っていう事は、皆さんは・・・」


疑問を口にするなないろの横に立つ少年、

ユニベルサリス=命ミコトが言う。


「そう!皆、魔法使いですよ!」


魔法使いの操が連れてきた場所なので予想はしていたが

あまりにも想像と違うその様子に

なないろと薫は少し拍子抜けしてしまった。


「続いて紹介するわね。あと・・・」


操がミス・ストーン・ラヴァーの後ろに立つ少女達を紹介しようとするが

小柄で小麦色に日焼けした元気いっぱいの少女がそれを遮り前に出る。


種苗田実里(しゅなえだみのり)だよっ♪実里って呼んでね」


実里と名乗った少女はなないろの手を握りぶんぶんと振る。

なないろはその勢いに少々押されながらも答えた。


「う、うん、よろしくね」


さらに薫の手を取ろうとする実里をポニーテールの少女が遮る。


「こらこら!実里っ!二人共困ってんでしょーが!」


実里と名乗った少女を引き寄せ、呆れ顔で一瞥しつつ

ポニーテールの少女は続いて挨拶をする。


「私は雨宮静流(あまみやしずる)。よろしく」


そして、最後に、

落ち着いた物腰の美少女がなないろ達の前に歩を進め語りかけた。


恋華憩(こいはないこい)です。此処の班長をやってるの。

 何かわからないことがあったらなんでも聞いてね」


実里の勢いにタイミングの取れなかった二人は

安堵のため息をつき挨拶をする。


「ど・・どうも虹乃なないろです」


「日笠薫でっす!よろしく!」


一通り自己紹介が終わった後、

操はキョロキョロと周りを見回し憩に問いかけた。


「あれ?キズナと安留葉(あるは)は?」


「あー、キズナはちょっと石になってる。」


「ああ、な~る・・・」


憩の答えに何かを察知した操はうんうんと頷き納得した。

それらのやり取りを見届けたかのように

命ミコトが切り出す。


「では、僕はミス・ストーン・ラヴァーと話があるので

 皆さんは、どうぞ中の方へ・・・」


ミコトの言葉に実里は残念そうに独りごちる。


「え~、私、ユニベルサリスにサイン貰おうと思ってたのに~…」


「後にしなさい」


「む~…」


静流に諭されるが実里は不満げな声を漏らした。


パン!


と、突然鋭い破裂音が響き渡り皆がその音の方に目を向ける。


その場の空気を仕切り直すかのように

操が手を叩いたのだった。

ニッといたずらっぽい笑みを浮かべる操。


「さて!それじゃあ屋敷の中を案内するわね」


操と憩の後に付いて、なないろと薫が歩き出すと

その後を着いていこうとする実里の腕を静流が掴んで止める。


「あんたは自重しな!」


「え~!なんで~!」


「大勢で案内しても二人に気を使わせちゃうだけだろ!」


「む~っ!」


二人のやり取りを見ていたなないろは笑顔で実里に声をかける。


「えっとシュナエダさん、だっけ?よかったら一緒に案内してくれると嬉しいな!」


ふくれっ面をしていた実里の表情がぱぁっと明るく変わる。


「うん!いいよ!ななちゃん!あと、『実里』でいいよ!」


コロコロと変わる実里の表情を見て呆れ顔の静流だったが

なないろのほうに向き直ると実里を指差し、笑顔で語りかける。


「ごめんねぇ、こんなやつだけどよろしくね!」


ぞろぞろと屋敷の中へと入っていく一同。

少し遅れてクマルマルがいそいそとついて行く。


そしてミコトの腕に抱かれたクロシロウがなないろ達に手を振りながら声をかける。


「それじゃ~後でね~」


振り返り手を振るなないろ。

その一番後ろについて歩く静流を、じとっと眺めながら実里がぼそっと呟いた。


「…結局、静流ちゃんもついてくるんだね…」


「しょうがないだろ!あそこで私だけ別行動とったら逆に感じ悪いわ!」


少しムキになって答える静流。

そのやりとりから感じられる二人の仲のよさに、なないろからは自然と笑みがこぼれる。



「ところで、私達を連れてきたかった場所って此処?え~っと、魔女の家?だっけ?」


「そう、此処。魔女の家。此処は魔女会に所属する者達の為の寮、といったところかしら」


「なんかまんまのネーミングっすね・・・」


「シンプル・イズ・ベスト!いいでしょう?」


「うーん…もっとこう、カッコイイ名称ないの?『魔女の穴』とか…」


「え、何それ、下ネタ?」


操と薫の会話に割って入った静流の指摘に薫は一瞬考え込むと、

直ぐ様、大いに焦り否定する。


「ちがうて!?」


よく解らない薫の提案などを聞き流しつつ

操は更に屋敷の中を案内していく。


「此処は食堂よ」


広い食堂の豪華なテーブルの上に置かれた本を取り

薫が声を上げる。


「うおっ!?なにこの分厚いメニュー表!」


「ふふっそれだけじゃなくて、メニューに無いものも大抵作ってくれるわよ」


「マジっすか!?」


「なんなら、何か食べてく?」


「あ、でも料理長、今、買出しに行ってるって」


「う~ん、残念」


薫達は食事は諦め次の部屋に移動する。


「んで、ここは浴場」


「でっか!温泉みたい!」


これまた広く豪勢な造りの浴室に

なないろと薫は簡単のため息を漏らす。


「全員で一緒に入れるわね、こりゃあ…」


「そうなると、みたいっていうか温泉その物だよね・・・」


次々に屋敷の部屋を案内する操について

一同はぞろぞろと部屋を移動する。


「んで、ここがリビング兼遊戯室。大体皆ここに集まっていることが多いわね」


操の後に部屋に入ったなないろと薫が見渡すと

立派に設えられた広いリビングには

ゆったりとしたソファーに大きなモニターや飲み物の自動販売機、

さらに一角にはビリヤード台やピンボール台等が設置された小洒落た作りになっている。


だが、最も目を引くのはソファーの近くに設置された奇妙な石像。

美少女の石像であることは分るのだが、何故か額に『肉』と書き込みがしてある。

それに何故こんな邪魔な場所に設置されているのか?

何故こんな珍妙なポーズなのか?

そしてこの何とも言えない間抜けな表情は一体…?

この石像は一体何を表現したいのだろう?

そこらへんがよく解らない。


「うっわ…趣味悪ぅ~」


「ちょっと薫ちゃん…でも、なぜこんな所に石像?」


なないろと薫が訝しげにそれを眺めていると

突然何かを思いついた薫がぽんと手を叩き言い放つ。


「そうだ!この石像は、浴場に置けばいいんじゃね?…

 んで、口からお湯がダーっと出るようにして……」


薫の言葉にそのさまを想像する魔女の家のメンバー。


浴槽の中、裸でくつろぐメンバーの横で間抜けなポーズのまま

しかも口からはお湯がダーっと流れ落ちるキズナの石像…


その姿をありありと想像したメンバーは思わず吹き出してしまう。

そんな皆の想像を知ってか知らずか、

自らの提案のあり得なさに意見を訂正する薫。


「ゴメン、やっぱ、ないわ」


笑いながら憩は石像の肩を抱くと説明しはじめた。


「ああっと、この娘は愛染(あいぞめ)キズナっていうの。この屋敷の名物娘よ」

「『よろしくね!アヘペロ♡』」


声色を使い石像に声を当てる憩。


「「はぁ、ヨロシクオネガイシマス・・・」」


よくわからないが石像に挨拶をし、ぺこりと頭を下げる薫となないろ。

そして憩はキョロキョロと辺りを見回し始め、呟く。


「う~ん、デンタータは部屋に戻ちゃったのかな?」



そんなやり取りをしつつ

薫は疑問に思っていたことを切り出した。


「でさぁ、さっきから色々と案内してくれるのはいいんだけど

 私たちを此処に連れてきたのは何か別の理由があるんでしょう?」


薫の質問に、操は大きな柱時計を見ながら答える。


「ああ、予定より遅れてしまったけど、そろそろいい頃合いかもね。ついて来て」


一同は操を先頭に部屋を出る。

階段を上がり3階に至るとさらに廊下を進む。

その先には先程までの階段と比べると細い階段が有り、上にある一つの扉へとつながっている。

操は扉を開けその部屋の中になないろと薫を招き入れた。


「さあ、入って入って」


なないろ達は恐る恐る足を踏み入れるが、そこは予想に反し

綺麗に設えられた部屋であった。

上品に飾り付けられた、女の子好みの可愛らしい部屋。


そしてその部屋の中では無数のぬいぐるみ達がせわしなく動き回っている。

甲斐甲斐しく動き回るぬいぐるみたちの多さに、なないろと薫は驚きの声を上げる。


「わぁ~、すっご~い・・・」


「なんか、文字通り『ぬいぐるみ王国』って感じ…」


そんなぬいぐるみ達を一括する操。


「あんた達!作業は終わったの?」


操の問にぬいぐるみ達は一斉に敬礼をし

なないろと薫には理解できない異国風の言葉で声を上げた。


「よし!あと5分で仕上げること!いいわね!」


それを聞いたぬいぐるみ達が顔を見合わせ、一斉に冷や汗を垂らし

次の瞬間、大急ぎで動き始めた。


「あと3分で仕上がるから待ってて頂戴」


そのセリフを聞いてビクっと反応したぬいぐるみ達の動きがさらに慌ただしくなる。


「待つのはいいんだけど、この部屋に私たちを連れてきた理由って?」


「それね、あなた達にはこれからこの屋敷で生活してもらいたいの。

 そして、此処ががあなた達の部屋、ということでOK?」


「「はい?……はいぃぃぃぃぃ!?」」


「まあ、急造した部屋だけど魔術的防御は完璧よ」


「いや、そういうことじゃなくて、私達が?此処に?住めって言ったの?今?」


「言ったけど?」


しれっと答える操。

そんな操の態度に薫が食ってかかる。


「いやいやいや、なんでそんな話になってんの?ここが?私達の?部屋って??」


「そうだけど?ああ、引越しに伴うもろもろの事や、

 ご両親方への説明は全部セバスチャンに任せればいいし、

 今日から住んでもらっても構わないわよ。ってかむしろそのほうがいいわね」


セバスチャン?確かここに来るときに車を運転していた人だったよな?

などと思いつつ

今の問題はそんなことではないと思い直す。


「いやいやいや、なんでそういう話になってんの?

 そもそも私達はなんにも聞いてないし、勝手に決めないでよ!!」


そんな二人のやり取りを見た実里がそっとつぶやいた。


「あららら?ちょっと雲行きが怪しくなってきたみたい?」


薫はさらにまくし立てる。


「いきなり勝手すぎるでしょ!?私達の意思はまるっきり無視なわけ!?」


「でもね、あなた達二人を守るのには一緒にいてもらったほうがいいのよ、

 こっちの戦力を分散させずに済むから……」


「にしても!やり方が気に入らない!!」


「気に入ろうが気に食わなかろうが、あなた達はあたしに従っていればいいのよ!」


売り言葉に買い言葉。

操の挑発するかの言動に薫はますますヒートアップする。


「おいおいおいおいおい!」


そんな薫の手を掴み、なないろが諌める。


「薫ちゃん!落ち着いて!」


「ななは納得できるの?勝手にどんどん進めてさぁ!」


「それは…まぁ、あれだけど…」


重い雰囲気の中をきって憩が話に割って入った。


「あっあ~、今のやり取りで大体見当がつくんだけど、

 操ちゃん、一人で突っ走っちゃった?」


操はそっぽを向いてぷくっとふくれっ面をし不満げな表情を見せる。

普段は大人ぶっているが、こういうところは子供のまんまだ。


そして憩は、ひとつの提案をする


「しょうがないなぁ……このまま言い合いしてても円満解決するでなし、

 どうでしょう?今日のところは普通に帰宅してもらって

 一日考えてからどうするか決めてもらうってのは?」


薫に変わってなないろがいそいそと答えた。


「そ、そうだね、それが一番いいと思う。

 ね?それでいいよね?薫ちゃん?」


言いながら薫の顔を覗き込むなないろ。

薫は操と同じようにふくれっ面をしたまま頷く。


「それじゃあ実里、二人を車まで案内してあげて?」


「らじゃ!」


実里はなないろと薫の手を取ると軽やかに歩き出す。


「行こっ!二人とも!」


「う、うん・・・」


引かれて歩き出すなないろと薫であったが

去り際に、なないろは振り返り操に声をかけた。


「操ちゃん!今日は、色々とありがとう!」


だが操はそっぽを向いたまま答えることはしなかった。


階段に消えていくなないろ達を見送ったあと

憩は操の肩にポンと手を乗せ語りかける。


「勇み足になっちゃったけど、今日はがんばったね……ご苦労さま」


だが操はふくれっ面のままだ。

その瞳は少し涙で潤んでいるようにも見える。


憩は

こんなところは年相応の女の子だな、

などと思いながら、操の肩を抱きグイっと引き寄せた。


「まあ、今夜は私とキズナも護衛にあたるから任せて?」


ふくれっ面のまま操はポツリとつぶやく。


「……あの子は自分がどんな状況に置かれているか、まるで解ってないのよ……」












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