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第二話 魔法使いの世界 その7

「週一で投稿すると言ったな?」


「あれは嘘だ」

「ねえねえねえねえ!今日来る子って、どんな子だと思う?」


何度目であろう、また同じ話題を出した金髪の少女、種苗田実里(しゅなえだみのり)

豊かな髪をポニーテール状にまとめた少女、雨宮静流(あまみやしずる)が呆れ顔で答える。


「またその話?あと一時間もすりゃわかるんだし、少し落ち着いたら?」


日焼けした小さな体を左右に揺らしながらそわそわする実里。

揺れるタンクトップの隙間からは白い地肌がちらちらと覗く。


「だってすごく気になるじゃん?すてきな子だといいな~!仲良くなれるといいな~!」


そんな実里に対し、静流が筋肉質な腕を組みながら呆れ顔で答えた。


「はぁ~・・・ジーナが大変なことになってるっていうのに、

 能天気でいられるあんたが羨ましいわ、ホントに・・・」


「うっ・・・そ、それは・・・私も心配だけど・・・」


イヤミを言われ、今までのハイテンションっぷりが嘘の様に落ち込んでゆく実里を見かねた

黒い長髪の少女恋花憩(こいはないこい)が、ゆったりとソファーに腰を掛け、

広げたファッション誌から目を離さずにゆっくりと答えた。


「今日来る子、うわさの『王冠持ちに見初められた()』らしいよ」


「ウッソ!?マジで!?」


「ユニベルサリスも付き添いで来るっていうんだから、まず間違いないでしょ」


憩は、こまかい彩色が施された爪で飾られた細い指でペンを握ると、

手にしたファッション雑誌に、なにやら書き込みながら答えた。


三人の会話を聞いていた赤毛の少女愛染(あいぞめ)キズナも驚いて会話に割って入る。


「ユニベルサリスも!?」


そして少し考えた後、綺麗に切り揃えられた前髪をかきあげながら毒づく。


「・・・まあ、それが賢明か、なんせここには『牙の魔女』がいるしな」


「ちょ、ちょっとキズナ・・・」


キズナがふと漏らした言葉を、憩が険しい表情で(たしな)めるが、

キズナは意に介さずさらに続ける。


「だってそうじゃん?ユニベルサリスをはじめとする優秀な魔法使いが300人もそろって

 暗い日曜日の残党が紛れ込んでるのに気づかないなんて、誰かが手引きしてるとしか思えない・・・」


「やめなよ!キズナちゃん!」


たまらず実里が声を荒げて止めにはいるが、キズナの言葉は止まらない。


「だとしたら、はぐれのデンタータが一番怪しいじゃん!」


「やめなって!!」


止まらないキズナを見かねて静流も割ってはいるが

ふと気づくと、

いつの間にかドアの横に自分達の口論の対象となっている少女、

マギナ・デンタータが立っているのに気づいた。


「あっ!」


「デンタータ・・・」


無言で立ち尽くすデンタータを前に少したじろぐキズナ。


「な、何よ?・・・いや、むしろ、ちょうどいいわ。この際だからハッキリさせましょう」


気を取り直すとデンタータに向かって言い放つ。


「聞いての通り、わたしはあなたが信用できないの。あなたが此処にきた時からね」


「勿論、あなたが『魔女会』に入るのも反対した・・・それはもう知ってるでしょう?」


「そもそも過去に『暗い日曜日』に組みしたこともある牙の魔女が『改心しました』っていったって

 信用できると思う?」


キズナは今まで溜め込んできたものを吐き出すかのようにまくし立てる。


「正直、あなたを王冠持ち捕獲に参加させたのは人選ミスだと思うし、

 あなたを選んだ人もどうかしてると思うわ」


マギナ・デンタータは責め立てるキズナの言葉にも顔色ひとつ変えずに答える。


「随分シンプルな思考パターンをしてるんだナ、うらやましいヨ」


まるで他人事のように興味なさそうに答えるデンタータに少しカチンときたキズナ。


「あら、そう?ならばシンプルに答えてくれるかしら?

 アナタ、『暗い日曜日』にジーナを売ったでしょう?」


だがキズナの口からジーナの名前が出たとたん、デンタータの態度が一変した。

語気を強め、キズナを挑発するデンタータ。


「シンプルに力ずくで喋らせてみたらどうだイ?

 アタシが怪我をしている今なら、アンタでも勝てるかもネ」


言いながら自身の首に巻かれたコルセットをつっと指でなぞる。

その言葉に、さらに機嫌の悪くなったキズナが腕を横に上げると

キズナの体をリボン状の長い光の帯がゆっくりと覆っていく。


「言ってくれるじゃない・・・ついでにその牙、叩き折ってあげましょうか!」


一触即発の二人。

だがその二人の間をとぼけた声が遮った。


「あらあらあら~?何かトラブルでも~?」


憩に連れられ部屋に入ってきた

長身で長い黒髪の美しい女性を見て、愛染キズナが驚きの声を上げる。


「げっ!?ミ、ミス・ストーン・ラヴァー!?」


その途端、キズナの体を覆っていた光の帯は一気に雲散霧消した。


ミス・ストーン・ラヴァーと呼ばれたその女性は柔らかい口調でキズナに問いかける。


「いったい何が起こっているのかしら~?私にも説明してくれるかしら~?」


キズナの表情からサーッと血の気が引いていく。


「きゅきゅきゅ急用で、出かけてたんでは?」


「ラップ?・・・ん~、それよりも~『今この状況』の説明をしていただけるかしら~」


「えっ!?あの、いや、これは、あの、その・・・」


焦るキズナを前にミス・ストーン・ラヴァーの声が冷たい響きを帯びる。


「・・・ケンカ・・・していましたね?・・・」


「うっ!・・・は、はい・・・」


観念したかのようにうなだれるキズナ。

それを見たミス・ストーン・ラヴァーはパンっと手を合わせ

他のメンバーに問いかける。


「やっぱり~。では次に周りの皆さんに質問で~す!今のは~、どっちが悪かったのかしら~?」


「は~い!キズナが悪いと思いま~す!」


「キズナから、ふっかけてたよね」


「キズナちゃんいいすぎ・・・」


間髪を入れずに、憩、静流、実里がこたえる。


「は~い!満場一致で悪いのは愛染キズナさんとでました~、ということで」

「・・・お仕置きが必要ですね・・・」


「え!?ちょ、まっ!?」


ミス・ストーン・ラヴァーは問答無用でキズナの手を取ると

キズナの体は、手から、足から、みるみる石へと変化する。

石になっていく自分の体を涙目で見つめながら懇願するキズナ。


「あああ!せ、せめて恥ずかしいポーズは勘弁し・・・」


言い終わらぬうちにキズナの体はすべて石と化してしまった。


「ふむふむ?」


石化したキズナをまじまじと見つめるミス・ストーン・ラヴァーは

何やら思案したあと、キズナの石像の肩に手をかけ、グイっと力を込める。

すると硬い筈の石の関節がゴムのようにぐにゃりと曲がった。


慣れた手つきで石像の体をいじるとテキパキとポーズを付けていくミス・ストーン・ラヴァー。

固く握られた石像の両手の指を二本ずつ立てて、いわゆるピースサインにし

顔のすぐ横に添え両肘を持って外に引く。

足の内側には自らの足を差し込み、軽く左右に振ると

はじかれた石像の膝がガクッとまがり、おもいっきり足を開いたガニ股になる。

そして顎を手のひらでつつみ、軽く力を入れると、石像の口がカクっと開く。

さらに開いた口に人差し指と中指をするりと挿入すると器用に舌をはさんで引き出した。

   

「うっわぁぁぁ・・・」


アホ丸出しのポーズにされたキズナを見てドン引きする一同。


「ん~??」


だが、自分の仕事に納得がいかないのか、ミス・ストーン・ラバーは

難しい顔をし、様々な角度から石像を眺めてはポーズの微調整を重ねていくと

やがて何かに気づき、その顔を撫でた。


そして指で石像のこめかみあたりを軽くぽんぽんと叩くと

石像の目線が上へクククっと動き、その表情がさらに間抜けなものとなった。


「ひ、ひでぇ!」


「お願い!もうやめてあげて!」


あまりにもあんまりなミス・ストーン・ラヴァーの仕打ちに

たまらず声を上げる静流と実里だったが

声を上げながらも、二人はほぼ同時にスマホを取り出し操作しながらつぶやく。


「「でも写メはとっておこう。面白いから」」


フラッシュの光とシャッター音の鳴り響く、

さながら、面白アイドル写真撮影会といったふうなその光景をつまらなそうに見ながら、

デンタータは部屋に設置された自販機からラムネを購入すると

ポコンと軽快な音を立てて栓を抜き、一気に飲み干した。


「デンタータ!」


恋花憩はマギナ・デンタータに駆け寄ると真剣な顔で話しかける。


「ごめんなさいね、デンタータ。キズナのかわりに謝るわ」


「別に気にしてないし、アンタが謝ることでもなイ」


「キズナって少し頭が固いとこあるから・・・」


「・・・もっと硬くなったみたいだけどネ」


デンタータの言葉に振り返った恋花憩は、石になったキズナを見て苦笑いを浮かべるとつぶやく。


「確かに・・・」


窓際に立ち、ぼんやりと夕日を眺めるデンタータ。

その姿に憩は、彼女が初めて此処へ来た時のことを思い出していた。


『あの日も、こんなふうに夕日が綺麗な日だったっけ・・・』


ジーナ・マカラに連れられて、『魔女会』の所有するこの屋敷にやって来た

マギナ・デンタータ=牧野安留葉(まきのあるは)

元は『魔女会』に敵対する『牙の大魔女ヴァギナ・デンタータ』の弟子であった少女だ。

今は改心したとはいえ、あの暗黒魔術結社『暗い日曜日』に組みしたこともあり

改心する前はジーナと激しく争い、憎みさえしていたという。

だが抗争の中、ジーナの心の本質に触れて和解したデンタータは

今ではジーナの大親友となっていた。


とはいえ、デンタータが幾多の魔法使い達に多大な損害を与えていたのも事実だ。

正義感が人一倍強い、いや強すぎるキズナにとってはそれが許せないのであろう。


此処にきたばかりのデンタータとキズナは事あるごとに対立していた。

しかし時が経つにつれ二人のわだかまりも解け始め

デンタータもジーナ以外の人間に笑顔を見せてくれるようになっていた。


だが、そんな矢先に『王冠持ち事件』が起こった・・・

皆の中心となっていたジーナ・マカラが『暗い日曜日』に囚われたあの事件が・・・


ジーナを失った悲しみと、

ジーナを救えなかったデンタータへの理不尽な怒りが

キズナの中にデンタータに対する疑惑を再び沸き起こし始め

そして今さっき、それが爆発した・・・


すべてが振り出しに戻ってしまったかのような虚しさを感じる憩。


他の魔法使い達の中にもデンタータを疑っているものは少なからずいるだろう。

だが今までデンタータと一緒に生活をし、見てきた私には分かる。

彼女が『暗い日曜日』にジーナを売るなんてことは絶対にありえない。

だってデンタータは・・・


「あ・・・」


ぼんやりと考えながら窓の外を眺めていた憩の視界の端に、広い門をくぐるリムジンの姿が写る。


「みんな!例の()が到着したみたいよ!」


「マジマジ!?マジで!?いこいこ!憩!みんなで見にいこ!」


ガヤガヤと騒ぎながら正面玄関へと急ぐ実里たちを見ながら、

憩はデンタータに声をかける。


「行かないの?」


「アタシは、いいヤ」


「そっか・・・」

「どれ、私は班長だから(むかえ)に出ないとね!」


ドアへ向かって歩いていく憩は、キズナの石像の前で立ち止まると

徐ろにペンを取り出し額に何やら書き込んでいく。


「じゃあデンタータ、キズナをよろしく!」


憩はキズナの石像の頬をペチペチと軽く叩きながらデンタータにそう告げると、

軽く伸びをしながら部屋を出て行った。


部屋に残ったデンタータはキズナの石像をちらりと見る。

するとその額には


 『肉』


と漢字一文字が書き足されていた。

それがいったい何を意味するものか解りかねるが

彼女らのあいだで通じる冗談のようなものなのであろう、と思った。


デンタータは再び窓の外、沈みゆく夕日を眺めるとポツリと何かをつぶやく。


だが、それを聴いてくれる者は

今、此処にはいない。







 


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