表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/43

第一話 その魔名ソルキュート 1

処女作です。小説書くのも初めてです。今回はテストも兼ねての投稿です。よろしくお願いします。

 穏やかな朝の光で溢れた森林公園。

広大な敷地内に設置された遊歩道を少女が走ってゆく。


小柄で細身の体型、幼さの残る整った顔立ちにお日様のような温かみを携えた笑顔。

セミロングの髪の両脇を縛った房が歩調に合わせユサユサと揺れる。

それがとても良く似合っている、チャーミングな女の子。


少女の名は『虹乃なないろ』

歳は14、名真学園に通う中学二年生。


いつもならもっと遅い時間に登校するのだが、学祭の出し物の練習のために早起きし

こうして友人との待ち合わせ場所に向かっている、というわけだ。


親友との待ち合わせ場所に到着したなないろが

頬を撫でる朝のそよ風の心地よさを感じながら

周囲の木々や花を眺めぶらぶらしていると、

ふと何かに気づき立ち止まった。


耳を澄ますと小鳥が激しく泣いている声が聞こえたので、その方向、

木々の生い茂る林に目をやると、

一本の木の下に巣から落下したと思われる鳥のヒナが目に入った。


大きく口を開け激しく鳴く鳥の雛。

すると突然、その木の脇に茂った藪の影から一匹の子猫が姿を現した。

雛を狙っているであろう、その子猫は、ジリジリと間合いを詰め、

今まさに飛びかからんとお尻を降り出しす。

その姿を認めるやいなや、なないろの表情は見る見ると強張っていった。


「ニャニャニャニャんと!?」


猛烈な勢いで前のめりになって走り出すなないろ。


「ふにゃ~~~!!」


雛を狙っていた子猫は、素早い身のこなしで突進してくるなないろの迫力に押され

「シャー!」っと唸り声を上げ、ササッと後ろに跳ね避けた。

なないろは走り寄った勢いのまま素早く慎重に雛をすくい上げる。

バランスを崩し倒れこみながらも、その勢いは止まらず、

両手のひらに包み込んだ雛を庇い、ゴロゴロゴロッと前転しながら転がっていき

ドンッと木にぶつかり停止する。


逆さまになり、スカートもめくれ上がりパンツが顕な、

あられもない格好のなないろ。

上からは衝撃で落ちてきた木の葉や小枝が降り注ぐ。


「きゅ~……」


と目を回しながら声を漏らすなないろ。

ハッと気を持ち直し、あわてて両手で包んだ小鳥を確認するが、

手の中の雛は鳴き声も発さず、ピクリとも動く気配がない。


「うそ?!死んじゃった?!」


瞳をうるわせ今にも泣き出しそうな表情のなないろ。

だが、とたんにに元気よく鳴き始める雛に安堵する。


「は~~~無事でよかったぁ~」


ゆっくりと体制を立て直しながら周りを確認すると

さっきの猫が身構えて、なないろをじっと見ている。


小鳥を片手に持ち替えたなないろは

ふうっと一息つきながら、バッと手のひらを猫にかざすと、

ゆっくりと諭すように子猫に語りかける。


「わかってる!わかってるわかってる!君も食べなきゃ生きていけないし

 弱肉強食!食物連鎖!それはわかってる!でも……」


小鳥に目を移しながら続けるなないろ。


「でも、これを見ちゃったからには無視するのもなんかモヤモヤするし!そこで取引!

 私はこの子をもらう、アナタには私のお弁当をあげる。

 ギブ・アンド・テイク!これでなんとかまるっと丸め込まれて欲しいです!

 お願いします!」


言いながらゆっくり立ち上がるなないろ。

ぱんぱんっと体についた土や小枝を払い始めると、

その仕草に驚いた子猫がババっと草むらの中に逃げていってしまう。


「ああっ!待って!ちょっ……」


あわてて追おうとするが、猫は既にすがたをけしてしまっている。


「あうううう~……ごめんねぇ~」


申し訳なさそうに、子猫が消えていった草むらに語りかけるようにつぶやいた。


「後でまた来るからねぇ~」


ふうっと一息つき落ち着いたなないろは

手のひらの中で、ぴよぴよと鳴き声を上げる小鳥に笑いかけたあと、

気を引き締め木の上の方に視線を移す。


目を凝らすと枝のあいだに小さな鳥の巣を確認する事が出来た。

小鳥はどうやら、そこから落下したようだが

雑草が生い茂っていた為、それが衝撃を吸収して無事だったのだろう。


「よしっ!」


なないろは自らに喝を入れるように声を上げるや、

スカートのポケットからハンカチを取り出し、ぱっと広げる。

ハートの刺繍が角に小さく施された、白くシンプルなカワイイデザイン。

その中央に小鳥を載せると、手際よくそれぞれの角を結び

つまみ上げ軽く揺らして結び目が解けないか確認する。

 

「よしっ!OK!」


その結び目を軽く口に加えて、


「へはっ!ひひまっふ!(ではっ!いきまっす!)」


と木の幹に手をかけ、ゆっくりと登り始めた。

女の子としては、あまり人には見せられないような、

ガバっと大股開きな恥ずかしい格好をとりながらも

木の幹の凹凸や枝を上手くつたい、

みるみると鳥の巣のある高さ近くまで到達する。


目指す鳥の巣はまだ少し離れた場所にあるが手を伸ばせば十分届くだろう。

中を見て、助けた雛と同じ種類の雛を確認することもできた。

なないろは足場とした太い枝をしっかりと確認しながら、

咥えたハンカチを解き、雛を優しく掴むと

片足でバランスをとりながら鳥の巣まで手を伸ばす。


「そぅ~っと」


だが、

もう少し

小指一本分で届かない。


「ん~~~もうすこしぃ~~~……」


顔を紅潮させながら踏ん張るがどうしても届かない。

七色が諦めかけた時、

手の中のひなが自分でピョンっと巣の中へ飛び込んだ。

一瞬あっけにとられたなないろだったが

巣の中で兄弟たちと囀り始める雛の姿を見ると、

すぐにニンマリとした笑顔を浮かべ呟いた。


「うん!いい子」


すると突然、なないろの頭に黒いカタマリが当たる。


「痛っ!」


予想外の事態に慌てるなないろ。

カタマリは二度、三度と頭めがけて当たってくる。


「な、何!?」


自らの頭をかばいつつ確認すると、

それは助けたひなの親鳥であろう二匹の小鳥であった。

なないろの事を巣を襲いに来た捕食者だと思っているのか、

攻撃の手を休めずに次々と体当たりを繰り返す。


「ちょ、違うの!誤解だってぇ!」


なないろは二匹の攻撃から逃れようと、木の幹に手をかけようとした。


が……


手の先に幹はなく、支える物の無い体は大きくバランスを崩し、

ズルリっと足を滑らせ、後ろに、仰向けになって倒れこむ。


「え?」


なないろの顔が驚愕に染まる。

思考が停止する。

一瞬の浮遊感。

その直後、

なないろの体は地面に向かって落下していった。


視界がぐるりとひっくり返り、

逆さまになった風景が過ぎてゆくのが

実際の時間経過よりも遥にゆっくりと感じられる、

すべてがスローモーションの世界。

落ちていく先、草の青く茂った地面を認識したその一瞬、

そこに立つ人の姿がなないろの目にうつった。

その人影はふわりと舞い上がりなないろの元へ近づいてくる。

『天使が迎えに来た?』

と、なないろはまるで人ごとのように思い目を閉じた。


その時、


なないろの体を羽毛のような感触がやさしく包みこむ。

軽い衝撃のあと再び浮遊感に包まれた七色は

ふと自分は、本当は一瞬のうちに地面に落ちて死んでしまったのではないのだろうか?

と思った。


体を包む柔らかな感覚に身をゆだねていると


「大丈夫かい?」


優しく語りかける声にハッとして目を開くと、

そこにはなないろを見おろす人の顔が。


黒い短髪に中性的で端正な顔立ち。

髪と同じように黒く美しい瞳に優しさを秘めたような、その笑顔に

(やっぱり天使だった)

と感じるなないろであったが、


「人間ですよ」


と答えた少年の言葉にハッとして我に返る。

つい声に出してしまったらしい。


「ダ、ダイジョブデス……生きてます」


そう答えたなないろが気を取り直し、

周囲を見回すと自分が足を滑らせた木の枝の上にいることに気づいた。

それも目が覚めるような美少年に抱きかかえられて。


「え?!あれ?!なんで?!え?!」


少年は慌てるなないろの唇に軽く人差し指を当てる。


「シ~……おちついて」


みるみる顔を赤らめるなないろ。

少年がその指をゆっくりと自分の顔の高さまで持ち上げると、

親鳥がその指にとまりピヨピヨと囀り始める。


「どうやら君が雛を狙っていたと勘違いしたらしい」


美少年がヒュヒュッと口笛を吹くと親鳥がそれに応えるかのように鳴き返した。

まるで親鳥と話をしているかのようなその姿を

なないろは不思議そうに見つめる。


ポカンとするなないろの顔の前に、突然もう一匹の親鳥が飛んでくる。


「キャッ?!」


ギュッと目をつむり小さく悲鳴を上げるなないろ。

再び親鳥の攻撃が始まるのか?と体を硬直させるが、

予想に反し、親鳥は胸の上に添えたなないろの手の上にとまった。


「『ごめんなさい』って言ってるよ」


「えっ?」


少年の言葉にそっと目を開くと、手の上からなないろを見つめる親鳥と目が合う。

クイッと首をかしげ、ピヨピヨと鳴き始める親鳥。

不思議だけど言われてみれば確かに謝っているように、なないろは感じた。


なないろがニコッと微笑みかけると、親鳥はパタパタと二、三度羽ばたいた後、

ピョンと巣に飛び移った。

再び少年が口を開く。


「さあ、僕にしっかりつかまって」


言葉を受けて、なないろは少年の首に手を回そうとするが、

ふと気づき顔を赤らめ手を引っ込め照れてしまう。

だが少年はかまわず枝の上から飛び降りる。

再びなないろを包む浮遊感。


「キャッ!」


咄嗟に少年の首に手を回し力を込めて抱きついてしまうなないろ。


次の瞬間に来るであろう衝撃に備え身構えるも

予想した衝撃は全く感じなかった。


少年は、木の上に舞い上がった時と同じように、ふわりと地面に着地し、

なないろをゆっくりと地面に下ろす。

パッと少年の方に向き直り深々とお辞儀をするなないろ。


「あ、あの、ありがとうございます!!その、助けてもらっちゃって」


笑顔で答える少年。


「心優しいお嬢さん、これからはあまり無茶をしてはいけないよ?

 いつも僕がいるわけじゃないからね?」


言いながら、なないろの胸に手を伸ばす少年。

心臓がドクンと脈打つ。

少年はなないろの胸のリボンをつまむと慣れた手つきでそれを直す。

ちょっと勘違いをした自分の考えに赤面し照れ笑いを浮かべるなないろ。


「えへへ……」


不思議な美少年との出会い。


なないろは今度は『自分は今、夢の中にいるんじゃないかしら?』

と思った。その時、


「なな~!そこにいるの?」


夢現のなないろが後の方から声をかけられ振り返ると

声のした方向からは身長はなないろより少し大きいぐらいだろうか、

シュートカットでなないろと同じ制服を着た少女が現れる


片手に持ったカバンを肩に担いでいる格好が様になっているボーイッシュな少女。

なないろの親友、日笠薫である。


「何してるん?カブトムシでもっとってんの?って、んなわきゃ~ないか~」


辺りを見回し、足元を確認しながら近づいてくる薫。

なないろは少年の方に向き直りながら答える。


「じゃなくて、今この人にたす……あれっ?!」


が、そこには少年の影も形もなく、

一陣の風が小さく木の葉を巻き上げるだけだった。


「えっ?!今ここに美少年が……」


訝しげに見つめる薫に、なないろは今おきた出来事を伝えようとするが、

しどろもどろな説明になってしまう。


「え、心霊現象?怖いのはちょっと……」


「ちがうってぇ!」


大げさに怖がる素振りをしてみせる薫に対して

いつものようにツッコミを入れるなないろ。

話を続けようとするなないろを遮り、薫は通学路を指し示しながら促す。


「言ってることはようわからんが……とにかく急がないと遅れるゾ!」


「えっと、だからね」


「はいはい」


なお説明を続けようとするなないろの腕を

ぐいっと引っ張ってスタスタと歩き出す薫。


「とーにーかーくー、詳細はCMのあとで」


「んにゃ~~~」


相変わらずよくわからない薫のギャグセンスに

諦め顔をしてついていくなないろだが

強引な薫に引っ張られながら、ふとこう思った。


「やっぱり、天使だった……のかな……?」


 遠ざかるなないろ達、

なないろを助けた少年が木の上に立ちそれ見送っている。

その少年の肩口から右半分が白色、左半分が黒色をした猫が

ひょっこりと顔を覗かせ喋り始めた。


「ん~『猫と取引』なんて面白い反応をする娘じゃなぁい?」


白黒猫は少年の様子をまじまじと見て、ニンマリすると続ける。


「ひょっとして気になる?」


「ええ、素敵な子ですね」


少年の素直な答えに目を丸くした白黒猫が芝居がかった仕草で言う。


「あ~ら~、初恋のよ・か・ん・?」


そんな一人と一匹の後方、別の枝に、

細身だが筋肉質の体に炎のように赤い髪をした女性がふっと現れた。


「ユニ!こっちの準備はOKだ!」


ユニと呼ばれた少年が振り向くと同時に

もう一人、小柄な少女が現れる。

つば広の帽子にゆったりとしたケープ、おまけに箒に跨り、

ズバリ、童話に登場する魔法使いといった出で立ち。

その少女もユニに告げる。


「私たち魔女会も皆、準備OKですよ!」


その姿を確認した赤髪の女性が気さくに声をかける。


「よう!ジーナ!」


「あ!サクーラさん、おはようございます」


ジーナと呼ばれた少女は深々とお辞儀をして挨拶を返す。

その立ち振る舞いから礼儀正しい性格が伺える。


「人払いも終わったし、そろそろ頃合じゃないか?」


「ありがとう、サクーラ、ジーナ。では僕は再確認に回ってきます」


ユニはそう言い残すと木から飛び降り林の中に姿を消す。

その姿を見送ったジーナが口を開く。


「でも、『道』がつながるのが此処でよかったです。もし人口密集地だったらと考えると……」


「ああ、それな、ユニが『道』を曲げたんだよ。ホントはもっと東寄りだったんだ」


サクーラが指し示す方角には

近代的なビルが立ち並ぶ文字通りの人口密集地帯がある。

驚くジーナ。


「そんなことができるんですか!?……さすが『万能の人』」


サクーラはコクコクと頷き神妙な様子で呟く。


「私は今でもユニが『支配』するのに賛成だけどね」

「ま、ひとまず皆で管理することに決まったんだから、しゃーないさ」


サクーラは言い終わると空を仰いで呟く。


「さて!あとは『王冠持ち』のお出ましを待つばかりだな!」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ