恋ちゃん華々しく参上
筆者が実際に勤めていたレンタルショップで実際にあった話を元に
一部アレンジを加えつつも、あったかさを伝えられたら幸いです。
(ウィーーン)
レンタル屋の自動扉が無機質な音を立てて開く。
開ききったと同時に、物が無造作投げ込まれた。
(ドサッ)
レンタル商品が返却カウンターに投げつけられる音が店内に響く。
投げた主は、新規会員で最近入会した近くの男子高校生である。
返却カウンターに、物を投げただけで何もなかったように、
背中を向けて歩き出す。
何一言も述べずに。
「・・・おい」
無作法な高校生の背中に、愛嬌も無い言葉が投げかけられる。
「あ?」
振り返りながら帰って来た返事も、これまた礼儀の「れ」の字もない。
「いらっしゃいませ、だ。このやろー!!!!!!」
高校生の振り返った先には、返却カウンターから身を乗り出し、
怒りに満ちた店員の顔があった。
「な・・・なんだ、てめぇ」
罵声を浴びた高校生は、怒鳴られた理由に気付かない。
「返却確認が終わるまでは、勝手に出てくな!!!」
その高校生は、目の前にいる中学生も見える女の子を前にして、完全に固まっていた。
その女の子の見た目は150cmもなく、髪型がボブカットと言うのが、さらに幼さを惹き立てている。
しかし、高校生が固まったのは、その見た目と、
口から出てきた言葉のギャップに驚いたのが原因だろう。
しかし、この店の店員である事は、この店のデニムエプロンに名札が付けて、カウンターに立っている姿をみれば、
一目瞭然である。
「おい、それがお客様に・・・」
「はぁ、あんた自分がお客様だと思うのは勝手だけど、お客様でも守らないといけないルールがある事ぐらい理解しろ!!」
ビシッと指を少年に指す女の子。
「なっ・・・」
完全に飲まれている少年。
「それとも、お客なら何しても良いって思っているなら、出るとこ出るか?」
にやり、と女の子の口端が上がる。
不敵な笑みを浮かべる姿に危険を感じた高校生は、もはや、戦闘態勢から降伏に方針を転換した。
「・・・あ、す、すみませんでした」
高校生には先ほどまでの威勢は無く、消え入りそうな声で呟く。
「はっはっはっ、バカめ、謝るなら初めから言うな」
左手を腰に勝ち誇ったように、右手で大学生を指差しながら大笑いしてみせる。
「おい、恋。何が、『バカめ』だ」
女の子、もとい、恋は後ろから投げかけられた言葉に殺気を感じ、一瞬にして固まる。
「え・・・、だってあれだ。アイツ、返却商品を投げつけたから・・・」
前を向いたまま、後ろの声の主に対して、小刻みに震えながら答える。
恋は、後ろを振り向く事が出来なかった。
理由は、恋の左右こめかみにゲンコツ突きつけられてロックオン体制に入られているからだ。
それはさながら、銃口を突きつけられている事を意味する。
恋は、最後の時を安らかな心で待っていた。
「俺、何度も言ったと思うけど、これ客商売だからさー」
銃口が火を噴く。
(ゴリゴリゴリメリメリギリギリゴリゴメリ・・・)
「ぎゃがやはや@かk塩splsplぱきjhdが。dさ;、。c」
言葉にならない声を発しながら、その場に突っ伏した。
「あ・・・の」
高校生は、目前で繰り広げられている食物連鎖の凄惨な光景に言葉が出ない。
「はぁ・・・・・・、いや、全部が悪いとは言わないけど、もうちょっと・・・な」
大学生の前で堂々とため息をつく長身の男は、
このレンタル店【シアター・イン・ザ・スカイ】の店長の小泉である。
カッターシャツにネクタイを締めた上に、デニムのエプロンを着ている姿に、
女子高生からOL、老人まで、小泉ファンはキュンキュンするらしい。
困惑している高校生に気付き笑顔を向ける小泉。
「返却の際は店員の確認が終わるまでは、お待ち頂けますようお願いいたします」
と言うと手際よく返却確認を行っていく。
ものの5秒で確認が完了する。
「はい、返却結構です。ありがとうございました」
最後にさらに笑顔の輝きをまして頭を下げる。
「あ、ありがとう」
高校生も何故か頭を下げて、そそくさと店から出て行った。
若干、小走りで・・・。
そう、ここは、どこにでもある町の絶滅し掛けている個人経営のレンタルショップで
繰り広げられる悲しくも楽しくもある物語である。
この作品自体は7年ぐらい前に作成した物語でした。
ずばり、何処に保存したかさえも忘れていたのですが、
たまたまフォルダ整理中に見つけたので、
若干の手直しを加えつつ、掲載に踏み切った次第です。
こういう個性的なスタッフに囲まれて過ごした時間は、
私にとって最高の思い出の1つとなっています。
時間があれば、書き残している内容がもう少しあるので
連載を続けていこうと思いますので、お付き合い頂ければとおもいます。