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神様こんなの頼んでないよ!(仮題)  作者: 道端に落ちてる軍手
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二話


1994年4月8日

少年……桜庭 涼は生まれた。

両親と5歳年上の兄の4人家族で、特別裕福では無く至って普通の家庭だったが、少年は何の問題も無くすくすくと育ち4人は幸せに暮らしていた。


そう。あの日までは……


少年が小学生3年生になり、放課後に祖父の道場で師範相手に竹刀を振るっていた時の事だった。

少年が3倍の身長差のある師範の上段からの容赦の無い攻撃を見事に捌ききり、そのままの流れで反撃に移ろうとした丁度その時


ドクン


大きく心臓が脈動した。


突きをしようとしていた少年は、その脈動と共にピタッと動きを止め竹刀を床に落とす。そして少年は右手で自らの心臓を抑えて蹲った。

師範や遠巻きで見ていた少年達は息苦しそうに心臓を抑えている少年に慌てて駆け寄った。


他の人よりも冷静になるのが早かった師範は、直ぐに救急車を呼び、応急処置を施した。

少年は数分後近くの大病院に運ばれた。

その素早い対応が良かったのか、少年は無事助かった。

いや、無事とは言えないかもしれない。少年はもう二度と激しい運動をする事が出来なくなってしまったのだ。

少年の両親が医者に告げられた病気。その病気は心臓病だった。


医者曰く、進行状態が早くならなければ後5年生きる事は生きる事が出来るだろう。だかその場合でも5年を過ぎたらいつ死んでしまうか分からない状態だと……

心臓移植をすれば生きる事が出来ると言うが、肝心のドナーも見つからず、両親は次第に心痛により憔悴していった。兄も例外では無く、弟が命を落とすと言う事に絶望していた。


少年はそんな状態になっても明るかった。少年は自分が倒れたのは心臓が病気を抱えているからと理解し、両親や兄の憔悴する姿や夜中に啜り泣く声を聞いて自分はもう長く生きている事が出来ないんだと悟っていた。


だが、少年はその事を悲観しなかった。

寧ろ少年はその事に悲観せず、残された人生を絶望視するのでは無く少しでも人生を楽しもう。そう決意して精一杯生きていく事を決めた。


この時、少年の年齢は9歳だった。


それから1年の月日が流れ、心臓病が悪化してしまった。その影響で碌に学校に行けなくなり、入院と自宅療養を繰り返す日々。以前の様に遊ぶ事も剣道に打ち込む事も出来なくなった少年の元には次第に誰も来なくなり、友達も幼馴染みも教師ですら少年から離れていった。


それでも少年は幸せだった。

自分には大切な家族がいるからだ。

入院費を払う為に汗水垂らして毎日夜遅くまで働いてくれている両親。遊ぶ事も部活をする事もせずに授業が終わり次第直ぐに少年の元に駆けつけて退屈しないように話をしてくれる優しく、聡明な兄。1人になっても兄が持ってきてくれた本を読んで退屈を紛らわせていた。少年が絶望せずに幸せな気持ちでい続けられていたのは、そんな優しい家族がいたからだった。


だが、そんな日も長くは続かなかった。


少年と兄は喪服に身を包み葬式に出席していた。先日に事故で亡くなってしまった両親の葬式に。

2人は涙を流さない。いや、流さないのではない流す事が出来ないのだ。2人の目は既に真っ赤に腫れていて既に涙は枯れてしまっていた。


両親が死に遺されたものは遺産だけ。その遺産も少年の入院費に当てるので実質何もなかった。


兄は強かった。

両親が死んでしまったというのに自らの感情を押し殺して少年に対して明るく振舞っていたのだ。

幸せな日々は戻ってこない。兄である俺がいつまでも悲しんでいてはいけない。全ては弟の為、生きていく為だった。

ふとした瞬間に込み上げてくる辛い気持ちを心の奥底に沈めて兄は働き始めた。決まっていた高校に行くのを止め、朝から晩まで工事現場で働いた。


少年はそんな兄の姿を見て、自分だけが引きずっていてはいけない。そう思い少年もまた辛い気持ちを心の奥底に沈めた。


たが、碌に動けない自分では出来ることは何も無かった。兄に頼るしか無い。そんな自分が情けないという感情は抑える事が出来なかった。


自分が死ねば兄は楽になるだろうか?次第にそう考えるようになった。勿論兄はそんな状況を良しとせず励まし続けた。

その結果少しずつ少年に笑顔が戻り始めた。


だが、そんな少年の元に更なる不幸が起こる。

兄が死んでしまったのだ。

寝不足からの不注意で建設中のビルから落下。即死だったという。


大切な人達をたてつに亡くし、自分も長く生きる事が出来ない。

もう生きていく価値が無い。


少年の顔から笑顔が消え去った。


これが少年の重い過去。そしてこの過去によって冒頭の様な状態に少年はなってしまったのだ。


2005年3月23日

少年が日々細工し続けてきた医療機器は少年の異常ーーー心停止を担当医や看護師に知る事が出来無かった。

少年は1人寂しく息を引き取った。


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