席札遊びはみっともない、失敗すれば追放です——三家の決裂を止めた私に伯爵家の一席が空きました
「次に失敗すれば、あなたは追放です」
追放の条件が晩餐一回とは、叔母様は私をずいぶん手頃にお見積もりである。
ヴィルヴェ叔母様は白い扇で私の胸元を指した。真珠の留め具が、ぱちん、と鳴る。
「社交界には二度と出しません。一生、裏方で働かせます。従姉の代理も満足に務まらない娘を、人前へ出しておけませんもの」
代理は働く。従姉は休む。失敗すれば代理だけが追放される。たいへん無駄のない仕組みだ。無駄にされる側が私でなければ、拍手していたかもしれない。
その日の顔合わせは八名だった。
私は受け取った招待状と返礼を日付順に重ね、卓上へ席札を並べた。赤い封蝋の夫人は左利き。青い封蝋の老紳士は右耳のほうが聞こえやすい。菫色の便箋を使う令嬢は、婚約の話を向けられると食事が止まる。
「左利きのあなたは端へ。右耳で聞きたいあなたは、どうかこちらをお向きください。では最初の話題は温室の百合。婚約話は焼き菓子のあとまでお休みです」
高い声、低い声、急ぐ声。私は席札を一枚ずつ持ち替えた。
これが私の「返礼順の席札芝居」だ。
「無駄だ、やめなさい」
叔母様の指が、老紳士の席札を取り上げた。
「客の希望を一つずつ聞けば、公平な席次にならないでしょう。子どもの遊びではないのですよ」
「ですが叔母様のお席は、暖炉の前をご希望でしたので——」
「口答えをしない」
残りの札も扇の先で崩された。叔母様と従姉の席だけは、暖炉と上座に近いまま。
公平とは、よくできた椅子である。座れる方が決まっている。
私は札を拾った。
八枚。
私の分は、初めからなかった。
* * *
二度目も、私は一切やり方を変えなかった。
伯爵家の内輪晩餐。十二名。薄桃色の薔薇、磨かれた銀器、蜜色の蝋燭。食堂の隅に置かれた小卓で、私は招待状と返礼を順に揃えた。
「左利きのあなたは端へ。右耳で聞きたいあなたは、どうかこちらをお向きください。最初の話題は温室の百合。婚約話は焼き菓子のあとまでお休みです」
「まだやっているの?」
叔母様が従姉と目を合わせた。
従姉はレースの手袋で口元を隠した。隠れたのは口元だけで、含み笑いはたいへん元気に外へ出てきた。
「幼稚でみっともない独り芝居ですこと」
「同感だな」
低い声を落としたのは、三家の最年長当主タデウシュ様だった。
「会食は会食だ。座る前から一人で二役も三役も演じる必要はない。結論の出ない者ほど、枝葉を数えたがる」
十二枚の席札が、私を見上げている。
大丈夫。皆様は紙なので、笑うときにも品がよい。
晩餐は滞りなく終わった。
左利きの夫人は肘をぶつけず、老紳士は聞き返さず、菫色の便箋の令嬢は焼き菓子を二つ召し上がり、叔母様は自分が暖炉の前にいたことだけを覚えて帰った。
使用人が小卓を片づけようとすると、銀灰の礼装をまとったセドリック様が足を止めた。青い飾緒に蝋燭の光が走る。
「その札は残してください」
「もう宴は終わりましたが」
「ええ。ですから、順に並べたまま残してください」
それだけだった。
私は十二人分の椅子を引き、十二人分の食器を確認し、最後まで立っていた。
やはり私の席札はなかった。
* * *
三度目の依頼は、晩餐の七日前に届いた。
「九年間、同じ卓につかなかった三家を、一卓で乾杯まで導いてほしい」
セドリック様は、まるで雨戸を一枚閉めてほしいような声でおっしゃった。
三家二十四名。九年間の不仲。七日後に同席。
雨戸なら三枚ほど外れて飛んでいる。
「失礼ながら、三家の皆様が承諾なさった条件を、すべて拝見できますか」
「できます」
「招待状への返礼も」
「すべて」
「付添人の方へ、利き手と聞こえやすい側、それから避けたい話題を尋ねても?」
「尋ねる者はこちらで用意します」
セドリック様は一度も、手順を変えろとはおっしゃらなかった。
七日のうち、最初の二日で招待状と受諾の返礼を揃えた。
赤い封蝋の家は、タデウシュ様の右耳側から声をかけること。乾杯前に領境の話を出さないこと。
深緑の封蝋の家は、左利きの当主夫人を卓の端へ置くこと。相続に関する冗談を避けること。
金の封蝋の家は、若い当主をタデウシュ様の正面へ置かないこと。狩猟と婚約の話は、少なくとも一皿目が終わるまで出さないこと。
どれも王国を揺るがす大問題ではない。
けれど袖口に一滴ついた葡萄酒も、聞き取れずに三度繰り返させた挨拶も、笑えない冗談を笑わされた五分間も、された側の一夜からは消えてくれない。
三日目からは付添人の返答を札の裏へ書き込んだ。四日目には配膳の向きを決め、五日目には花器の高さを変えた。六日目、私は二十四枚の札を返礼順に並べ、一人で声を持ち替えた。
「私は右から聞きたい」
「私は左手で杯を持つわ」
「その話題を出したら帰る」
「ではこちらへ。あなたは端へ。そちらの話題は一皿目のあとまで廊下でお待ちください。勝手に入ってこないでくださいませ」
話題まで客扱いしてみると、ずいぶん図々しい客だった。招待していないのに必ず来る。しかも上座を欲しがる。
「ミルヤナ、そんな札は片づけなさい」
叔母様が食堂へ入ってきた。
「客を札の言いなりに座らせるつもり? 私と娘の席は暖炉の近くへ。セドリック様のおそばでなければ困ります」
「お二人のお席も、受諾条件に触れない範囲で暖炉側です」
「範囲など聞いていません。直しなさい」
セドリック様が食堂へ戻ると、叔母様の語尾はふっくらと丸くなった。
「この子は細かなことに夢中になりますの。本人のためにも、もっと作法に沿うよう教えなくては」
セドリック様は卓を見た。
「作法に反する札がありますか」
「そういう意味では——」
「では残してください。明日も、この順のまま」
片づけかけていた使用人の手が止まった。
二度目だ。
セドリック様は札を捨てさせず、私はまた二十四人の声を演じた。
私自身の声を置く札だけは、どこにもなかった。
* * *
開宴一時間前、食堂は花と光で満ちていた。
白い百合の喉には淡い金が宿り、青紫のデルフィニウムは燭台の銀を透かして夜明け前の空に見えた。低い花器には薄紅の薔薇、卓の中央には真珠色の小花。誰かが身を乗り出しても視線を遮らず、袖にも触れない高さで揃えてある。
赤、深緑、金。三家の封蝋に合わせた細い組紐を、席札の縁へ結んだ。
赤い組紐は深紅の礼装へ。深緑は象牙色の袖と翡翠の留め具へ。金は濃紺の上着と琥珀の飾り釦へ。
ああ、綺麗だ。
綺麗なものは、それだけで少し守りたくなる。今夜は二十四人全員、できれば料理が温かいうちに守られていただきたい。厨房の料理長が朝から煮込んだ琥珀色のスープを、政治的犠牲者にしたくないので。
「北側の扉、開きます」
「承知しました。赤の札からご案内を」
私は客の動線をもう一度たどった。
そのとき、セドリック様が先触れを迎えるため退室した。
叔母様の扇が閉じた。
「今よ。あなた、花器を一つ下げなさい」
近くの使用人へ命じ、叔母様は卓の上へ手を伸ばした。
赤い組紐。深緑の組紐。
タデウシュ様の札と、深緑の家の左利きの当主夫人の札。
二枚を、入れ替えた。
「叔母様」
「私の前にあの女を置くつもり? 会話が退屈なのよ。これなら娘の隣に若い当主が来るわ」
「受諾条件が崩れます。お戻しください」
「たかが二枚でしょう」
叔母様は私の手首を押しのけ、見ていた使用人へ顔を向けた。
「見なかったことにしなさい。口を閉じて。あなたの名が別の欄に記載されてもいいの?」
使用人の指が花器の縁で止まった。
叔母様は私のときと同じく、反撃できない相手にだけ言葉数が増える。たいへん効率がよい。公平な席次より、ずっとお得意だ。
「お戻しください」
「セドリック様には私から説明します。本人のためだと」
誰の本人だろう。
便利な本人である。いつも口を挟まず、叔母様の希望だけを持っている。
扉の向こうで先触れの杖が鳴った。
もう直せば客に見られる。直さなければ条件が崩れる。
叔母様は私の腕を離し、扇を開いた。
「失敗すれば追放。忘れていないでしょうね」
ええ。
たいへんよく覚えておりますとも。
三家二十四名が入場した。
深紅、濃紺、象牙、黒。金糸の葉、銀糸の波、葡萄色の宝石。女性たちの髪には白薔薇、青い羽根、粒真珠が光り、男性たちの肩章は蝋燭の火を細く切り取っていた。
これだけ綺麗な方々が九年間も顔を合わせなかったとは、もったいない。険悪な顔も色合わせだけなら満点である。
「こちらへどうぞ」
私は順に案内した。
最初の四名が座る。
次の六名。
深緑の当主夫人が、交換された席の前で止まった。左側には大きな燭台、右側には肘掛けの張り出した椅子。左手を使えば袖が火へ寄り、右へ避ければ隣席とぶつかる。
「端席と伺っていました」
「私も、右側から挨拶を受けられる席だと聞いている」
タデウシュ様が低く言った。
交換後の位置では、右隣が高い花器、左隣に深緑の若い当主。若い当主の声は、聞こえにくい側へ落ちる。
金の家の当主は、タデウシュ様の正面を見て足を止めた。
「受諾時の条件と違う」
一人が立ったままなら、後ろも座れない。
椅子を引く音が止まった。絹の裾が揺れ、金具がかすかに鳴る。二十四名分の視線が、一卓の上で行き場を失った。
「この席次なら、我々は帰る」
赤の家の一人が言った。
「深緑も同じだ」
「金もだ。条件を軽んじられた場で乾杯はできない」
三家が一度に扉を向いた。
九年間の決裂が、あと十歩で十年目に入る。
「まあ、お待ちくださいませ」
叔母様の声だけが甘くなった。
「ほんの手違いです。席など、どこでも同じではございませんか。ミルヤナが細かく考えすぎたものですから、かえって混乱を——」
なるほど。
席はどこでも同じで、暖炉の前だけは叔母様のもの。
公平とは本日も元気である。
私は交換された二枚を取った。
札の裏には、七日間で集めた返答がある。
新しい技など、ない。
最初から、これしかしていない。
「私は右から聞きたい」
タデウシュ様の低い口調を借りる。
「私は左手で杯を持つわ」
深緑の当主夫人の、歯切れのよい声を借りる。
「正面から睨まれる席では、乾杯する前に帰る」
金の家の若い当主の、少し早い声を借りる。
タデウシュ様が振り返った。
「あの独り芝居か」
「はい。みっともないほうでございます」
私は二枚を卓へ戻さなかった。
ほかの札もすべて取り、返礼を受け取った順に腕へ重ねる。
「一枚、二枚——足りないのは席ではありません。最初に笑う方が、まだ座っておられません」
「何をするつもり?」
叔母様が囁いた。
「最初からいたします」
私は扉へ向きかけた三家の客へ頭を下げた。
「赤い封蝋のご返礼を、最初に頂きました。杖をお使いのあなたは、通路側へ。椅子の右に杖台を置きます。深緑の封蝋は二番目。左利きのあなたは反対側の端へ。給仕は右から入り、杯は左へ置きます」
使用人たちが一斉に動いた。
燭台を半歩ずらす。
椅子を引く。
花器を下げる。
私は三枚目を掲げた。
「金の封蝋のあなたは、タデウシュ様の斜め向かいへ。正面ではありません。最初にお尋ねするのは、今季の温室花について。領境、相続、狩猟、婚約は一皿目が終わるまで、扉の外です。招いておりません」
金の家の若い当主が、扉から卓へ視線を戻した。
「話題を締め出すのか」
「お行儀の悪い話題ですので」
誰かが短く噴き出した。
笑いは一つで止まり、険悪さの端だけを少し欠いた。
「四枚目。赤の家のご夫人は、深緑の家のご令嬢の隣へ。お二人とも白百合をお育てです。五枚目。金の家の老紳士は、深緑の若君の右へ。聞き返すときは、どうか怒鳴らず近くから」
「私は怒鳴らん」
「では今夜、証明してくださいませ」
老紳士の口髭が動いた。
今度の笑いは二人分だった。
一枚ごとに、受け取った返礼を声へ戻す。
「冷気を避けたい」
「暖炉側へ」
「酒は弱い」
「杯は小さいものを」
「あの方とは話せない」
「隣にはいたしません。ただし乾杯のときは、同じ卓にいてください」
十八枚。
二十枚。
二十三枚。
最後の一枚はタデウシュ様だった。
私は卓の左端に札を立てた。右側から三家すべての声が届き、正面には白い百合がある。
「こちらなら、いかがでしょう」
タデウシュ様は席札を取った。
裏の文字を読む。
右耳。領境は乾杯後。最初の話題は百合。
「誰が、これを聞いた」
「付添人の皆様です。私がお願いし、伯爵家の方々が七日で集めてくださいました」
「全員分か」
「二十四名分です」
「あなたの希望は」
「私は給仕の邪魔にならない場所に立ちます」
タデウシュ様は、私の前に札がないことを見た。
それから椅子を引いた。
座った。
赤い家の者たちが足を止める。
深緑の当主夫人は端席へ移り、左手を一度伸ばした。袖は燭台へ触れない。
「これなら結構」
彼女も座った。
金の家の若い当主が斜めの席へ回る。
「一皿目までは、花の話だったな」
「はい。百合、薔薇、デルフィニウムの順であれば、二皿目まで持ちます」
「ずいぶん用意がいい」
「九年分でございますから」
彼も座った。
一脚。また一脚。
椅子の脚が絨毯を擦り、濃紺と深紅と深緑が、白い花を囲んで戻ってくる。
二十四名全員が座り直した。
給仕が琥珀色のスープを運び入れる。よかった。政治的犠牲者、回避!
最初に百合の話を始めたのは、深緑の当主夫人だった。
赤の家が球根の保存法を答え、金の家の老紳士が土の配合へ口を挟む。三言目には意見が割れたが、少なくとも誰も立たなかった。
一皿目が終わる。
二皿目。
タデウシュ様が杯を持った。
「九年ぶりの同席に」
三家の客が杯を掲げる。
「そして、二十四人分の小さな不便を、一つも小さいとして捨てなかった者に」
全員の顔が私へ向いた。
タデウシュ様は立ち上がった。
「ミルヤナ嬢。私は、あなたのやり方を幼稚だと笑った。今夜、私を席へ戻したのはその幼稚な遊びだ」
低い声が食堂の端まで届いた。
「その幼稚な遊びに、今夜は救われた。みっともなかったのは、数えもしないで笑った私のほうだ。言葉を改める」
深緑の当主夫人も立つ。
金の家の若い当主が続く。
やがて三家全員が席を立った。
「ミルヤナ嬢に!」
「ミルヤナ嬢へ!」
「ミルヤナ!」
二十四の杯が光を弾いた。
名を呼ばれるたび、花器の白百合までこちらを向いたように見える。
これは困った。
私の席札はないのに、私の名前だけが全席へ置かれてしまった。
私は給仕卓の陰で拳を握った。
叔母様。聞こえましたか。
みっともない遊び、本日二十四名様をお席へお戻ししました!
「それでは、ミルヤナを連れて帰りますわ」
乾杯が終わるなり、叔母様は私の腕をつかんだ。
先ほどまで細かった声が戻っている。相手が私だからだ。
「役目は済んだでしょう。家の者として、今後も私どもの晩餐を差配させます」
「叔母様、私は——」
「黙りなさい。失敗すれば追放と言いましたが、今回は成功したのです。家へ戻れることをありがたく思いなさい」
「家族を返しなさい」
叔母様はセドリック様へ向け、扇を閉じた。
「この子には私の後見が必要です。本人のためですの」
セドリック様は、私の腕をつかむ手を見た。
「離してください」
「ですが——」
「二枚の席札を交換したのは、あなたですね」
叔母様の指が緩んだ。
「あれは手違いでございます。本人のために席次を少し整えようと——」
「手違いは、使用人へ口を閉じろとは命じません」
花器のそばにいた使用人が進み出た。
「私が見ておりました。ヴィルヴェ様は二枚を交換し、見なかったことにしろと命じられました」
「あなた、何を勝手に!」
叔母様の声が鋭くなる。
三家の当主が振り返ると、その声は急に痩せた。
「——何か、誤解があるようですわ、皆様。ほんの、些細な調整で」
タデウシュ様が杯を置いた。
「その些細な調整で、三家が帰りかけた」
「ミルヤナが直しましたでしょう?」
「だから、あなたの働きになると?」
深緑の当主夫人が扇を閉じる。
金の家の若い当主も、扉脇へ退かない。
「この場で退席すべき者は決まったようだ」
セドリック様が家令へ目を向けた。
「ヴィルヴェ様のお帰りです。今後、伯爵家の門内へは通さないように」
「セドリック様!」
「作法を掲げる方ですから、まさか客二十四名の受諾条件を故意に破り、差配役を追放させようとしたまま居座りはしないでしょう」
静かな声だった。
静かすぎて、叔母様の扇が床へ落ちた音までよく響いた。
家令が扉を開く。
叔母様は私へ手を伸ばしたが、赤、深緑、金、三家の客たちがその間に立った。使用人たちも動かなかった。誰一人、私を叔母様の側へ押し戻さない。
「ミルヤナ! 帰りなさい。あなたには私の家しか——」
扉が閉じた。
玄関の扉。
鉄門。
二度、重い音がした。
追放されたのは、失敗させようとした方だけだった。
* * *
三家の馬車がすべて去っても、食堂には白い花と蝋燭の明かりが残っていた。
使用人たちが食器を下げる。
私は二十四枚の席札を集めた。
「そちらは片づけないでください」
セドリック様がおっしゃった。
三度目だった。
「次の晩餐だけを任せたいのではありません」
私は札を抱えたまま振り返った。
セドリック様は青い飾緒を外していた。銀灰の礼装からそれがなくなると、今夜が本当に終わったのだと分かる。
「あなたは、誰かが小さいと言った不便を、数から外さなかった。返礼を一通ずつ読み、二十四人の声を一人で持ち替え、帰ろうとした全員を席へ戻した」
「席札へ話しかける癖は、幼稚だそうです」
「やめてはいけません」
短い声だった。
「あなたの『返礼順の席札芝居』は、誰も枠の外へ置かない。私は、その癖をやめないあなたに、この家の一席を任せたい」
「差配役としてですか」
「いいえ」
セドリック様は、私が抱えた札のいちばん上へ指を置いた。
「当主の隣に座る、生涯の伴侶として。私と結婚してください」
白い百合の花弁が、蝋燭の熱でわずかに開いた。
宴の最中なら答えられた。二十四人の希望なら、順に並べられた。
けれど私の希望を書く札はない。
「一つ、条件を申し上げてもよろしいでしょうか」
「聞きます」
「宴のない夜にも、その席が私のものなら」
セドリック様は答えず、私が抱えた席札を一枚抜き取った。
「明日の夕食で、お返事を」
翌日、ヴィルヴェ叔母様から厚い招待状が届いた。
封筒の表には、従姉の祝いの晩餐を差配せよ、と追伸があった。家族なら戻れ。前夜までに席次を整えよ。
赤黒い封蝋は割らない。追伸にも、謝罪の一文字はなかった。
「差出人へ、そのままお返ししてください」
伯爵家の使者が未開封の招待状を持ち、門を出た。
鉄門が閉じる。
今度は、その音を食堂へ向かう廊下で聞いた。
夕食の食堂には、昨夜より小さな卓が置かれていた。
豪華な客はいない。礼装も、三家の封蝋もない。家令、料理長、侍女、従僕たちが仕事着のまま座っている。白い百合の代わりに、庭で摘んだ黄と青の小花。銀の燭台ではなく、背の低い蝋燭。焼きたての丸パンと、湯気の立つスープ、大皿の肉料理。
当主の隣に、一脚だけ空いていた。
席札が立っている。
ミルヤナ。
借り物ではない。裏返しても、誰かの希望は書かれていない。厚い紙へ私の名だけが記され、縁には青い組紐が結ばれている。
「昨日のものを片づけようとしたら、セドリック様が止められまして」
家令が椅子を引いた。
「こちらは片づけるな、と」
「明日も同じ場所へ置きます」
侍女が言う。
「明後日もです。宴がなくても」
料理長がスープをよそう。
「ミルヤナ様、早く座ってください。今夜は全員、あなた待ちなんです」
従僕たちが笑った。
「お帰りなさい、ミルヤナ様」
「お帰りなさい」
「お帰りなさいませ」
名を呼ぶ声が重なる。
椅子の上には、小さな青い箱があった。
中には鍵が一本。私の寝室の鍵。内側から施錠でき、合鍵を持つのは私だけだという札が添えられていた。
食べられる。
眠れる。
扉を閉められる。
朝になれば働き、夜になれば名を呼ばれて戻ってこられる。
私は鍵を握り、空いていた椅子へ座った。
それまで待っていた全員が、ようやくパンへ手を伸ばす。
セドリック様は隣で、まだ私の返事を待っていた。
「宴のない夜にも、この席は私のものですか」
「毎晩、あなたが帰る席です」
私は名入りの札を、倒れないよう指先で直した。
「では、セドリック様。お受けします」
家令が杯を上げ、侍女たちが私の名を呼び、料理長がいちばん大きな肉を私の皿へ置いた。
私の名の席札が立っている。
今夜の宴は、もう終わったはずなのに。




