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覇王譚  作者: 砂糖は甘い
王の再来
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第三十二話 決着

「く……」

「勝負アリだな」

 エルリアはヴァルキュリアの体を踏みつけ宣言する。痛みに彼女は喘ぎ顔を顰める。傷を治すために魔力を流すが体内の魔力回路が哭崩(ホロウ)によってボロボロになっているため、上手く回復が進まない。エルリアの手に魔力が集まり魔法が構築される。

 見覚えのある魔法だ。何万年も前、一度目の死を経験したときに見た。それによって死んだ。殺された。エルリアは確実に殺すつもりなのだ。一片の塵さえ残さず。


「今、持っている情報を全て話して投降しろ。そうすりゃ命は助けてやる」

 きっぱりとした口調で展開した魔法陣を突き付けながら言う。要求という体で言って入るものの実質的にこれは命令であり、断ればすぐにでも死が待っていることだろう。

 エルリアは特に声を荒げるでもなく怒気を発しているわけでもない。だが、その圧倒的な容姿と態度が威圧感を生み出し話しかける相手を圧迫している。


「はッ、随分と舐められたものだな。この程度の脅しで私が諦めるとでも?」

「そうか。なら、死ぬか?」

 そう言われたヴァルキュリアは薄い笑みを更に深めると自身を踏みつけているエルリアの足を掴み持ち上げる。同時にエルリアは魔法を発動させ爆音とともに閃光があたりを包み込む。


星の降る夜(ステラ・オブ・テラー)

「ッ――」

 魔法は発動し彼女に直撃した。しかし、こちらも無傷とはいかず投げ飛ばされ右腕は曲がってはいけない方向に曲がり顔は一部、凍りついている。

 ヴァルキュリアの様子は煙と散乱した物で見えないがこの魔法の直撃を喰らって彼女は果たして生きていられるのだろうか。魔法に当てられた実験器具が限界を迎えバラバラ、と崩れ落ちる。


「さっさと死体確認して上の援護行くか」

 しっかりとヴァルキュリアの死亡を確認するために煙に近づく。砂煙のようなものではなく実験用に置いてあった液体が混ざり合ってできた煙らしく一向に消える気配がない。しかも、これ、飽和チャフの様に魔力探知を阻害するタイプのものだ。魔力感知の出力を上げれば探知自体は可能だが圧倒的に精度は落ちる。五感に頼ったほうが確実なくらいには。

 ともあれ、その目で死体を確認するためにエルリアは煙へと一歩、踏み込む。先が見えないというのは実に不安なものだ。たとえそれが十メートル四方の狭い地下実験室であったとしてもそれは変わらない。


「……どういうことだ?」

「フフフ、やっぱり君は詰めが甘い。最後の最後で油断していつも負ける」

「……そうかもな」

 背後から声が聞こえる。エルリアは振り返ることもなく返事を返す。顔は忌々し気に歪んでいる。確かに殺したはずである。星降る夜(ステラ・オブ・テラー)は精神体にもダメージを与えることが出来る。この技は元々、ヴェルの技であり、彼女は精神干渉系の魔法を得意としていた。

 魔法が使えないヴァルキュリアが到底、受け止められるものではない。異能だけで大量に魔力の込められた彼の魔法を防ぎきるのは今のヴァルキュリアには不可能である。

 どういうことなのかと頭を捻るがパッとは思いつかない。蘇生魔法はそもそもとして神聖系魔法と相性の悪い彼女は使えない。彼女以外の存在が遠距離から発動させた可能性もあるが、目視も出来ない場所からの蘇生などほとんど不可能である。

 だとすれば異能の力だと考えるべきだろう。


「お前が蘇生を使えたなんてな……」

「ハハハ、驚いたかい?やっと君を驚かせれたよ」

 非常にウザったい。しかし、彼女は思っていたよりも素直に蘇生したことを認めた。

 彼の驚いた顔を見れたからなのかヴァルキュリアは上機嫌になっている。気持ちの悪い笑みを浮かべながら高笑いをしている。

 彼からすれば気色悪い以外の何者でもないがそんなことは関係ないとばかりに笑う。イラっとしたせいか少し、口調に棘が現れる。

「よく死にかけの分際で余裕かませるな」

「その方が君はイラつくだろう?」

 全く、本当に鼻につく物言いである。戦闘中に心を乱されるのは未熟な証なのだろうが。

「その力、異能か?」

「うーん、正解でもあるしハズレでもある」

 エルリアに向き直り教師のように口調をあらためて話し始める。

「私のこの力は異能の応用の応用」

 なんの躊躇いもなくペラペラと自分の力について話していく。昔から説明好きな一面はあった彼女は今も楽しそうに話している。


 曰く、蘇生は『戦士の終(ヴァルハラ)』の力の応用の応用だという。そもそも、『戦士の終』の能力が何かという話だが、『戦士の終』は氷と魂を操る。それだけであれば蘇生はできない。理解するには、まず、拡張術式から話す必要があるだろう。

 拡張術式とはなんぞや、という話だがいくつか前提として話さなければならないことがある。

 まず、異能が自身の願望に拠るものである、そして、思念の強さによって強度が変わること。これらが異能における絶対の摂理である。

 拡張術式はこれらを応用したかものだ。拡張術式を習得した者は異能の能力の解釈を広げ本来の力以上の能力を行使できるようになる。例えば炎を操る能力の異能であれば拡張術式は『限定的な熱変動の操作』にでもなるだろう。本来の能力から大きく逸脱した力は使えないが関連性のある能力であれば十分、拡張術式として使用が可能である。

 しかし、拡張術式は高度な技術であり一般的には認知さえされていない。そして、心の奥底の願望を自身の思念で捻じ曲げられる(解釈を広げられる)者はそう多くない。かくいうエルリアやルフェアも拡張術式は持っていない。

 前提として拡張術式がどういったものになるかイメージできなければ発現しないので実力者でも持っていない者のほうが多い。連想ゲームを思い浮かべてもらえば分かりやすいだろうか。連想のしやすい能力であるほど拡張術式は作りやすく単純で明快な異能ほど作りにくい。先述の二人はどちらかと言えば後者よりの異能であるために拡張術式を保持していない。

(確かに、あいつの異能は色々と連想ができる。拡張術式もさぞ作りやすかったことだろう)

 彼女は『戦士の終』の氷を操る能力から凍結させる能力を派生させた。効果は名前の通り『凍結させる』だ。空間、物質、時間、状態、魔法、遍くすべてを対象として凍結させる。

 正直、これがメインの能力になってもおかしくないくらい強力な効果である。

 ただ、当然、これだけ強力なのだから魔力消費量も必要とする演算能力も比にならないほどに増加する。恐らくだが彼女のもう一枚の切り札なのだろう。

「いいのか?そんな簡単に」

「ふふふ、驚くのはまだ早い。私の力の真骨頂はここからだよ」

 さて、ここまで長々と語ったが結局、蘇生のからくりは何なのか。簡単……でもないが言葉にすると分かりやすい。

 彼女は攻撃を受ける直前に自身の魂を操る力で自身をデジタル化させ拡散しないように拡張術式でデータとして凍結。データ化した相手に魔法は当たらずやり過ごした後に自身を解凍し再び物質化する。これによって擬似的な蘇生を可能としたのだ。

「……」

 エルリアの頬を冷や汗が垂れる。ここに来てから何度か驚くことはあれどここまで驚いたことはない。七面倒が増えた。自身をデジタル化するだけでもとんでもない離れ業である。だというのにあまつさえデータ化の後、凍結させて攻撃をすり抜けさせるなんてかなり無茶をしているのだろう。


「と言うか、これ、蘇生と言うか回避じゃね?」

「そうとも言う。まあ、分類なんてどうでもいいじゃないか……ん?」

 ヴァルキュリアは一回首を傾げると耳の辺りを抑えて黙り込む。先程、一瞬、思念が彼女に向かって飛んで行っていたので思念伝達だろうか。

 エルリアの思念伝達は相変わらず通じない。


「ふむふむ……」

「なんかあったか?」

「いやぁ、ちょっとそろそろ帰らないと行けなさそうだ」

 頭をかきながらそんなことをのたまう。既にスイッチの入っているエルリアは彼女を逃がす気はない。

「逃がすとでも?」

「ふふ、上、気になるでしょ?私も退くからここは君も譲歩してくれないかな」

 確かに、気になっていないと言えば嘘になる。彼は実際にさっきから定期的に思念を飛ばしたりしていたというのに一向に繋がる様子は無い。時間だけが過ぎ焦りはつのるばかり。

 出来れば短期決戦、最悪、こいつを放置するか地上に連れ出そうと考えていたがそれは最終手段であった。

「……」

 一回、冷静になって考えてみればそう悪い提案ではない。ヴァルキュリアは退却しエルリアは地上の様子を見に行ける。

 今の彼では彼女の異能を圧倒しきるのは不可能である。実際、このまま、戦えば苦戦は必至。それでも倒せれば御の字ってところだ。それは望む結果ではない。

「……分かった。さっさと失せやがれ」

「ふふ、やっぱり君は物分かりがいい。ここは一旦、退くけどいつか、決着はつけに来るからね」

 それまで死なないでくれたまえ、と言い残し空間転移を発動させる。発動の瞬間を奇襲してやろうかとも思ったが思いとどまる。ここで下手なことをするわけにはいかない。


「はぁ、全く……」

 まあ、これで地上の増援に向かえる。

 これ以上の面倒ごとが無ければいいが。

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