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覇王譚  作者: 砂糖は甘い
王の再来
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第三十一話 禁忌

『シェリア、フィル』


 エルリアは二人に思念伝達を繋げる。ここには妨害する結界もなく通信自体は直ぐに繋がるはずだった。


『おい、二人とも何故出ない。何かあったのか』


 しかし、そうはならない。聞こえてくるのはノイズのかかった音声だけ。更に思念を強くして通信を試みるがそれでも繋がらない。


 どうして繋がらない。戦闘中で出られない?

 自分の頭に浮かんだ考えを即座に否定する。エルリアはここに来る前に何があれば絶対に直ぐ、連絡するように言っていたのだ。

 ヴァルキュリアが何かをしている様子もなく、というか彼女は魔法が得意なくせに魔法の妨害が下手なのだ。

 ともすれば、二人の方で何かが起きている可能性が高い。結界で外界で遮断されている、もしくは普通にジャミングされている可能性もある。回線は繋いでおくが期待はしないでおこう。


「おや、気付いたかい?」

「何の事だ」

「おや、まだだったか。これは失敬」


 何か、非常に嫌な予感がする。あいつらなら早々、やられることは無いだろうが……


「どういうことだ」

「なに、じきに分かるさ」

「なん――」


 どおぉん、と低く唸るような音が地下に鳴り響く。少し遅れて地面が大きく揺れる。

 日本に居た時に一度だけ経験した震度五くらいの揺れかもしれない。

 何が起こったのかは把握できていないが地上で何かが起こっていることは分かった。隣の部屋からもどたどたと慌てるような音が聞こえてくる。


「命が惜しい奴は入って来るな!!死ぬぞ!!そこから状況だけ伝えろ!!」

「はッ……はいッ!上階にてベルト家の手の者と思われる魔人が暴れており兵士に多大な損害が出ております」

「シェリアとフィルはどうした」

「それが……お二人は強力な魔人と戦闘中であり余力がないとのことです」

「そうか。悪いがこちらも余力がない。もう少し耐えてくれ」


 助けたいがこちらにも余力があるかと言われれば全くない。むしろ、助けてほしいくらいだ。誰が好き好んで神話級の化け物と戦うってんだ。

 ここを放り出して他のところに行けるんだったらいいんだが、最悪なことにヴァルキュリアを抑えられるのは現状、エルリアしかない。


「ほらね。直ぐに分かった」

「そうだな。で、何をした?」

「私は知らないよ。私はただ、君の足止めを頼まれただけだもん」


 頼まれた?

 誰かがこいつに指示を出しているのか?だとすれば誰が……こいつが言う事を聞く相手なんて片手で、否、そもそも居るのかすら分からない。

 だとすると、何かしらの利害関係で繋がっていると思った方がいいな。


「やべ、これ言っちゃいけないんだっけ――まあ、いいか。君はここで殺すし」

「は、なら、教えてくれねぇか。その、足止めを頼んだ奴について」

「うーん、それはできないかな。流石にこれ以上、何かを教えるのも癪だし」


 いよいよこれは余裕ぶっていられなくなったな。早めに終わらせていくしかないな。


「ギアァ、上げるぜ」

「お、やっとかい」


 覇王(ロード)(・ザ・)亡者(アポカリプス)の出力を大きく上げる。1%未満の出力であった異能だが、少しづつ、出力が上がる。最終的には2%前後に落ち着く。一部では血管が裂けひびが入っている。

 過度な異能の出力による負荷の影響でエルリアの身体は既に限界に近い。全盛期とは違い体の物理的、魔法的な耐性とういうのは圧倒的に落ちている。本来であれば1%であっても自殺行為になりかねない。だが、エルリアは意志の力でそれをねじ伏せる。

 一歩、歩くごとに軋み今にも崩れ落ちそうな体を繋ぎ留め力を籠める。

 限界まで込められた力によって地面は砕け傷口からはエネルギーが垂れ流しにされる。


「こっちも本気で行かないと不味いね」


戦士の終(ヴァルハラ) 氷の曄(アブソリュート・ゼロ)


 宣言と同時にさっきまでとは比べ物にならないほどの冷気が解き放たれ周囲を焦がす。常人であればそこにいるだけで一瞬で凍え死ぬだろう。

 ヴァルキュリアは氷のドレスを纏い背中には折れた天使の羽を模した氷塊が出来ている。エルリアは知っていた。この姿はヴァルキュリアの本気だ。

 神へと彼女が迫った姿だ。あの時、あの瞬間、邪魔さえなければ確実に神を殺していたであろう。それほどに強力で驚異的で冒涜的な姿だ。


 幾らか出力は落ちていようがその力は健在だ。

 特Aランク程度だった魔力量が一気にSランク上位に匹敵するまでに増加した。当然、それに伴って身体能力も強化されていることだろう。

 今のエルリアはSランクと同等の戦闘能力を有している。個体によるが数値だけを見ればそう評価できる。そして、ヴァルキュリアはそんなエルリアに間違いなく並び、もしくは追い抜いている。


「それでこそだ」

「フフフ、期待してくれていいよ」


 エルリアは足に込められた力を一気に開放する。盛り上がった筋肉が収縮し爆発的な推進力を生む。踏み込みが行われた場所では小さな隕石でも振ってきたのではと思えるほどの爆音と煙、そして、衝撃が駆け巡り石畳は捲れ上がった。

 ヴァルキュリアもこれに合わせるようにエトワールを振るう。さっきとは違い優雅に踊るようにエルリアと切り結んでいる。多少の拙さはあれど戦い始めた頃と比べれば雲泥の差である。

 近接戦という苦手な分野を相手からの技術の吸収だけで埋めている。幾らエルリアの技量が生きた年数にしては低いとはいえ、これは異常である。

 ともかく、エルリアが目指すは短期決戦。反対にヴァルキュリアが目指すのはエルリアの足止め。どちらも全力を出しながら思惑は真逆である。


「相変わらずつめてぇなぁ!!」

「そっちは武器も無しで殴って来るとか私を舐めているのかい?」


 そう言うヴァルキュリアの手には先ほどから握られている凍星(エトワール)がある。心なしかさっきよりも輝きが増しているような気がしなくもない。恐らく、彼女本体が強化されたことによってこちらも出せる力が上がったからだろう。

 対するエルリアは素手だ。しかし、これは決して舐めている訳じゃない。と、言うかこの状態のヴァルキュリアを舐めて相手するのは自殺行為に値する。

 素手なのはエルリアの異能の特性上、仕方なくである。エルリアの異能は下手に武器に流せば武器の方が負荷に耐えられず破壊される。負荷に耐えるにはシェルにもらった刀では心許ない。だからと言ってエルリア所蔵の武器を使うとしたら許容量限界(キャパオーバー)で異能が暴発する。

 ついでに言うのであれば下手に使い慣れていない武器を介すよりも素手で直接殴った方が威力が高くなるから素手なのだ。


「しッ」

「はやッ――」


 武器が無い、と言う事は必ずしも不利であるとは限らない。もし、これが一般的な人間同士の戦いであればその限りではないが事、この二人においてはそうである。

 武器を持たず小回りの利くエルリアと長物を持ちスペースを気にしながら戦わなければいけないヴァルキュリアでは随分と差が出ていた。

 エルリアは素手だからこそ出来る高速機動で相手の防御を掻い潜って打撃を与える。一発一発は致命傷には程遠いがそれでも、無視できないダメージを与えていた。懐に潜り腹に一発、そこから顔面に向かってハイキック。

 エルリアよりも大きな彼女の体が浮き上がる。空中で身動きが取れないところに脳天にサマーソルトを叩き込む。地面にめり込んで肺からは空気が押し出される。

 かは、と小さく音を立てて地面に倒れ込む。頭からは血が流れ傷は一向に再生する気配を見せない。


「勝負、アリだな」

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