第三十話 破壊
「ああ、もっと、もっと頂戴ッ!!」
「く……」
攻めているのはエルリア。防戦するのはヴァルキュリア。だというのに彼女は嗤っていエルリアは忌々しそうに顔を歪める。
魔力、体力ともに両者、余裕は未だある。身体能力ではエルリアが、魔力でもエルリアの優位ではあるが魔法の強度で言うのであれば異能による強化を載せられるヴァルキュリアのほうが上だろう。エルリアの異能は良くも悪くも強力すぎる。故に気軽に使うことができず、今、魔法の強化に使っている権能も演算能力くらいであった。
「ぉらッ!!」
気合とともに相手の防御をすり抜けた一撃が重いダメージを与える。右腕を吹き飛ばし左目を深く抉る。大量に血が吹き出し如実にダメージの大きさを伝えてくる。
ごくごく微量だが異能の権能を自爆覚悟で使ったおかげもあって、傷の治りはさっきよりも格段に遅い。浅い傷は回復するが深い傷ともなればそう簡単には完治はしないだろう。
しかし、相手も手練れ。
痛みや衝撃に気を取られることもなく残りの左腕で氷槍を振るう。
攻撃の直後で武器が大きく振られていたエルリアは後ろに下がって攻撃を避ける。
刀の間合いからは外れ槍の間合いとなる。ヴァルキュリアの握る氷槍は室内用に使いやすくされているのか槍としてみると短い部類だが、刀と比べれば十分、リーチで優位を取れる。いくらエルリアの使う刀の刀身が長いものであったとしても長物には敵わない。
「く、くく。やっぱ、最高だね。エルリア君。あの出来損ないには勿体ない」
「お前に何がわかるってんだ。第一、俺は戦争が好きではない。戦争狂いのお前とは仲良くなれる気がしない」
戦を司る元天使である彼女は戦が大好きだ。そして、戦が最も多く起きるのは戦時。故に彼女は戦争を司る天使でもあったのだ。他にも幾人か戦や戦争を司る天使はいたが中でもヴァルキュリアは戦争狂で有名だった。
ある時、ヴァルキュリアはさらなる戦争を求めて旅をしていた。
暫くしてある大陸に住み始めた。他の大陸よりも発展しており人口も多い。彼女は大陸を保護し魔物の被害を減らし大陸外からの侵略を跳ね除け発展を手助けした。
人口はたったの200年程度で五倍近くに。いつしか争いは減り大陸には平和が訪れていた。商人は多く行き交い、西から東まで安全な街道が整備され始めていた。
一部では関所を通る際の通行税も廃止されより交流が盛んとなっていた。
これを見た他の天使や神はついに天使としての本懐に目覚めたのかと彼女を見直したという。
十数年後、その大陸はこの世界において最も危険で最も貧しく最も争いの絶えない土地へと変貌していた。始まりは大陸のとある王国での出来事であった。ある王国の王が他国を来訪した際、その国の王宮内で暗殺されてしまった。
それを受けて王国は懲罰戦争を開始。
一気に進軍し敵野戦軍を殲滅。首都まで攻め込んだ。だが、ここで王国の軍がヴァルキュリアによって半壊する。
そのまま、反撃を続けその国は王国との戦線を開戦前の状態に戻した。
どちらも兵力がその頃には充足し始め膠着状態に。
他にもこの大陸では同時期に様々な国が同時多発的に戦争を開始した。そこで複雑に絡み合った同盟網が働き規模は違えど世界大戦の様相を呈していた。
陣営は複数に分かれ被害は加速度的に増えていった。農民はとうに徴兵され尽くし貴族や王族は既に限界を迎えていた。だというのに一向に戦争が終結する気配はない。
かつて数億を超える人口を保有していた大陸はたった十年程度で総人口は一億人以下へと5000万程度へと減少してしまった。
なぜ、戦争を終結させる機会があったというのに頑なに続けたのか。なぜ、一斉に戦争が始まったのか、様々、疑問はあるが大抵が彼女によるものだとエルリアは考えている。と、いうか、そうでなければ説明できない。
結局のところ、この件を持って天界勢力はヴァルキュリアを完全に見放しそして、最終的にはエルリアや英雄たちの支援を受ける人間によって殺されることになるのだった。
「いやぁ、我ながらあれはいい出来だと思っていたんだが……ちょっと怒らせちゃったね」
全く悪びれた様子もなく言い放つ。
戦争は娯楽じゃないんだぞ、とエルリアは頭で考えながらも無視する。
実は戦争は娯楽ではない、とは考えているがそれはそれとして利益のためにするものだと考えているため戦争そのものを否定はしていないのである。
こういうところを見るに二人の本質は大して変わらないのだろう。
エルリアは自分の都合の悪いことから目を逸らし戦闘に集中する。既にヴァルキュリアは近接戦闘に加え魔法も併用しており非常に厄介なことになっている。絶え間なく剣戟の音と魔法による爆発音が部屋に響く。
「ま、何であれ私が君に勝てばいい話か」
「テメェみたいな羽虫に誰が負けるかってんだ」
売り言葉に買い言葉。
言い合う間も戦闘は続き激しく剣戟が鳴り響く。
全力を出すには早いがそれでもこのままでは埒が明かないと考えたエルリアは段階的に異能の出力を上げる。どっちにしろ今のエルリアにとって自身の異能は過ぎた力である。一瞬でも出力を上げて使用すれば体内の魔力回路がズタズタになり戦闘不能に陥りかねない。
ゆっくりとゆっくりと体に慣らすように少しずつ異能を回していく。普通の人間であれば到底、処理しきれない量の情報とエネルギーの奔流が駆け巡る。それらを全て完璧に制御して見せる。
薄ら寒いほどの制御能力と精神力だ。どちらか一つだけでもバランスが崩れればその瞬間に『哭崩』が暴発し最悪、死ぬ。
「はぁ、君、死ぬつもり?」
「んなわけあるか。お前こそ、死ぬ準備は出来ているか」
「ふふっ、いいね。そう言うのもいいね!!」
槍を受け止め受け流しカウンターで胴体を狙う。しかし、魔法の防御によって速度が減衰し引き戻された槍に防がれる。一回、離れてから抜刀の構えを取る。
姿勢を前に傾け鯉口を切る。音もなく刀は抜かれ瞬きの間に間合いは消える。刃が首まで迫り薄皮が一枚、切り裂かれた所で止まる。
「?!」
「ざんねーん。これ、凍星」
エルリアの抜刀はただの氷槍で防げるような代物ではない。少なくとも特質級の武具でなければ幾ら強化しようとも防げるはずがない。
故にヴァルキュリアが握っている槍はただの槍ではない。これは、凍星。ヴァルキュリアの愛用した槍で表面は霜で覆われている。
周囲には極寒を撒き散らし並みの者では握る事さえできない。下手に握れば皮膚が柄に焼き付くことだろう。
位階は神話級。一部の例外的な武器にのみ与えられる創世遺物級を除く、一般的な武具の最上位に位置する。
「きついんじゃなかったか?」
「エルリア君だって異能は使うのしんどいでしょ?」
こっちが切り札を一枚切ったから相手も一枚切ったと言う事か。
これで哭崩の破壊能力での武器破壊によるごり押しは現実的ではなくなった。抜刀で与えられたダメージも少ない。
戦況自体はエルリア優勢だが、これ以上の切り札は自爆とほぼ同義のエルリアと違い、ある程度、ちゃんと使える切り札を持っているヴァルキュリアでは余裕は彼女の方があると言える。
仕方がない。あいつらに頼るか




