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覇王譚  作者: 砂糖は甘い
王の帰還
3/12

第三話 困惑

 蜘蛛を倒した後、凛は特に何をするでもなく空を眺めていた。

 戦闘が終わって冷静になった頭を冷やすため必死に考えを巡らせていたら逆に処理落ちに近い状態になってしまっていたのだ。

「あー」

 一旦、状況を整理しよう。

 まず、俺はカフェで寛いでいた。そこを銃で撃たれ目が覚めればここに居た。容姿が変わり見たこともないような化け物が居てそんな奴にたった今、素手で勝った。しかも、さっき手から雷が出ていた。

「えーっと、つまり?」

 考えれば考えるほど混乱する。まるでファンタジーでフィクションだ。さっきの化け物もそれに素手で勝った自分も今の状況も。

「ファンタジー?」

 そう言えば、こんな状況、どっかで見たような…

 ああ、そうだ。異世界、異世界だ。

 その考えは余りに突飛だ。突然、異世界だの言い出したんだ。普通であれば痛い中二病かヤバい奴だと思われてしまう。

 だが、この状況で考えるならそれが一番、説明がつくのだ。

 致命傷を受け目を覚ませば知らない場所。そこに居たのは見たこともない化け物(モンスター)にそれを圧倒した自分。更には謎に手から出現した雷も気になる。

「やっぱり、異世界ってやつなのか?」

 まだ断定はできない。だが、オタク脳である凛は少なからず興奮している。戦闘の余韻も相まって頬は上気している。


「…いや、でも仮に異世界だとしても素直に喜べる状況じゃねぇぞ」

 しかし、持ち前の思考力で冷静に考えてみればそう喜べる状況ではない。本来、異世界転生や転移であれば何かしらチュートリアルがあるはずなのだ。

 だが、ここにはそんなものはある様には思えない。当然、無ければこの世界での勝手も分からない。つまり、どういう世界で何をするべきなのかさっぱりなのだ。

「それに、さっきみたいなのがいるなら力も必要だろうし…」

 恐らく、この世界には魔法がある。さっきの不思議な感覚と雷が突然現れたのも魔法なのではないか、と考えている。

 だとすればこれについても知らなければいけない。知らない土地に放り出されたのだ。最低限、自衛のために使えそうな力は知っておいた方がいいだろう。

 しかし、生憎、ここにはそんな都合のいい人間はいない。

 で、あるならば手管が一つ、消えるの事になる。知っているのに使えない。しかも、それがあるという事しか知らないため常に警戒しなければいけない。しかも、この世界の人間ともし、戦うとなれば魔法を使ってくる可能性は高いだろう。そうなれば化け物だけでなく人間相手にも不利になるだろう。

 ナチュラルに人と戦うかもしれないと考えているがそうならないのが理想だ。


「うーん…使うこと自体は出来そうなんだけど…」

 さっきの感覚は覚えている。具体的にどうすればいいかは説明できないがそれでも感覚的に使えそうではある。

「でもなぁ…」

 理論的に何かを使うのと感覚的に使うのでは普通、大きく効率に差が生まれる。それが魔法に当てはまらないとも限らない。出来れば魔法についてよく知りたい。

「とはいえ、どれもこれも人に会わねぇとダメだな」

 重い腰を上げ歩き出す。特に躊躇もなく。


 数キロも歩けば川に着いた。

 大きな川、元の世界(仮)にあればそれなりの大河であっただろう。

「さて、どっちに行こうか」

 棒を倒して進む方向を決める。どの道、目的地が分からないのだ。好きに行こう。

 それに、少し移動して分かったのだがこの体、体力が異常に多い。何キロもノンストップで歩き続けているというのに足はまだまだ元気で息も切れていない。加えて身体能力も上がっている。

 走ってもほぼ疲れない。凄い、と思うと同時に少し前世との違いに困惑する。

 因みに走ったらとんでもないスピードが出たため大人しく歩いている。


「これは…何だ?」

 凛が辿り着いたのは森の中で小さく開けた場所だった。

 そこだけ木が生えておらず陽光が煌々と地面と台座を照らしていた。

 台座。そう。台座だ。明らかに人工物。剣も刺さっている。

 不思議なことに台座は古びているのに剣は新品のごとくピカピカである。

 何故かその剣に強く惹かれた。何か、懐かしい様な感触がした。手に取りたい。剣を振るいたい。

 欲求が渦巻いた。

 気付けば手が自然と台座に刺さる剣に伸びていた。

 力を入れればズボっと少し気の抜けた音と共に引き抜かれる。ずっしりと手には重みが伝わる。増えた筋力を考慮すればかなりの重量だろう。だが、もてないほどではない。逆にちょうどいいくらいの重さだ。剣など振ったことも握ったこともない人間が言うのもあれだが。

 剣をよく見てみる。

 見事な大剣だ。某狩りゲーの武器のように巨大でごつい見た目のモノだ。長さはもしかしたら今の自分よりも長いかもしれない。

 あれ?ならどうやって抜いたんだ?

 …それはともかく、大剣には華美な装飾など無くただ実直に戦う事のみを目的として造形されている。

 動きの阻害になるようなものもなく武骨でシンプルだからこそ厨二心をくすぐられる。


 試し切り、やってみたいな。

 そこらへんに生えている適当な木を選んで振るう。当然、武術などやったことがない為、腰は入っておらず腕の筋力だけで無理やり振っているような状態だ。

 しかし、そんな事さえ気にならないほどにすんなりと刃は通った。ズバっと子気味の良い音と共に木の上半分は斬り落とされる。

 断面は鋭い刃物で切られてかのように滑らかだ。良いモノだな。


 体を動かしたついでだ。魔法も試してみよう。

 と言ってもそこまで大がかりなものではない。まず、心の中で何をしたいのかはっきり思い浮かべる。次にそれを強く願う。最後に不思議な感覚がし始める為、それに意識を向け動かし体の外に出して狙った場所に放出する。

 簡単でしょ?

 嘘です。簡単じゃないです。

 最初はもっと苦戦した。ここに着くまで合間合間に練習していたが不思議な感覚…具体的には体の中に何か熱いものが走っているような感覚…を御しきれなかったりそもそもイメージが上手くいかなかったりした。

 だけれど、何度もやればできるようになった。流石に一瞬とまでは行かないがかなり速く魔法を発動させれた。因みになのだが不思議な感覚の元である体を走っている熱いナニカは魔力と呼ぶことにした。魔法を使うために必要だから魔力。安直だろう?


「おっとお出ましか」

「ガルルルル」

 人を求めて三千里。人を探してさらに歩く。最初の方は昼だけだったが今は夜も歩いている。モンスターに襲われることもあるがあまり強くないので戦闘方法の研究に付き合ってもらっている。

 異世界と言えば物騒なことが多いからね。

 どのタイミングで魔法を発動するか、どういう振り方をすれば効果的か実験台になってもらっている。その副作用と言うべきかなんというべきか、魔力の扱いが上手くなった。今では漠然と感じていた熱を魔力として魔法を使う際以外でも意識的に操る事も出来るようになった。加えて魔力単体でも色々することも出来るようになった。

「まずは一丁!!」

 魔法を一発、お見舞いする。予備動作も無駄も大きい魔法を放つ。

 当然、魔物(モンスター)避ける。余裕を持って回避される。が、避けた先に逃げ場を埋めるようにあらかじめ魔法を放っておいた。

「ギャィィ」

 数発の魔力弾が当たり魔物が悲鳴を上げる。致命傷ではないがダメージは与えられている。

 うーん、やっぱり、発動を早くすると威力が落ちる。威力を上げると発動が遅くなる。だが、短所を潰そうとすれば制御能力の問題でまともに動けなくなってしまう。

 戦闘中に動きが止まるのはよろしくない。

 ただ、これに関しては慣れと魔法の効率化によって解決できると思う。


「まあ、要改善ってところだな」

 魔物の攻撃を回避しながら呟く。

 幸いなことに魔力量には余裕がある。さっきの2つの魔法であれば消費よりも回復の方が速いくらいには多い。

 幾度か魔法を試したので今度は近接戦だ。

 何もないところに手を翳せばそこから柄が出てくる。引っ張ると大剣が出てきた。

 これも魔法だ。収納魔法とでも言おうか。大抵の物はしまい込んでおける。

 収納魔法を鞘のように使い振りぬく。魔物の前足を一本斬り落とす。


「グヒィィィン」

 返す刀でさらに斬りかかる。魔物は爪で対抗しようとしたが大剣の前に少しの抵抗も見せず砕かれ真っ二つになった。

 やはり、凄まじい切れ味だ。いや、大剣が切れ味良いというのはどうかと思うが。

 それに、この剣、一切傷どころか刃こぼれもしていない。心得のある人間が使ったならともかく全くの素人が使ってこれは凄まじい。


 しかし、人の里は見つからない。

 全くどこにあるのやら。

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