第二十九話 お近づき
一人称を使うか三人称を使うか迷っています。
「さ、一対一だ」
氷像は破壊され一対一へと持ち込んだ。氷像の再生成にはそれなりに時間がかかるだろうから戦闘中に新たに作られる心配はしなくていいだろう。
『焼獄旋風』を解除し新しく打ってもらった刀を取り出す。魔力を流せば蒼玉色の刀身は白金色に輝く。光の少ないこの地下室においても輝きは一片たりとも損なわれることはなく眩く輝いている。
「大剣、使わないんだ」
「流石に、な。この状態で使うと死にかねん」
「ハハハ、分かるー。私も凍星使おうとするとめっちゃしんどい」
今しがた殺し合いをしているとは思えないほど両者は自然体で会話をしている。常在戦場、という言葉があるが二人はその対極とでも言える場所にいる。彼らは例えそこが戦場であっても自らを乱したりはしない。
戦場にあってこそ平常であれ。
常に戦場にいるつもりでいるのは良いがそれよりも戦場においても自然でいられるようにしたほうがいいのではないか。二人のように殺し合いが日常であるのならばなおさらである。
「ま、いいや。で、魔法の打ち合いするか?」
「いんや、殴り合いしよう」
言い終わると同時に眼前にまで迫る。少女と形容できるような体でそんな挙動をすれば普通、負荷に耐えきれないと思うがそれを魔力による身体強化だけで成立させているあたり、恐ろしい。
エルリアの場合はもともと、それをするだけの肉体強度があったがこいつの肉体は変容しているとはいえ恐らく、もとは一般的な人間。受肉している以上、肉体強度はある程度、受肉体に依存するはずなのだがそれが全くと言っていいほど感じられない。
「お前、近接戦は不得手なんじゃ――ッ?!」
「私がいつそんなことを言った!私は戦場を駆ける麗しの戦乙女!!戦狂乙女ッ!!戦に不得手などあろうはずがない!!」
突然の大声に若干引いたようにエルリアは表情を歪ませる。なんだかんだ言ってもエルリアはこいつら化物共の中では割とまともな思考回路している方なのだ。急に発狂にも似たことしだしたらそりゃ引くだろう。
「なにハイになってやがんだ」
「私は至って普通だよ」
「ええ……」、と内心で思わなくもないエルリアだったがなんだか口に出すのも負けたようで嫌なので閉口して刀を振るう。やはり、近接戦闘は苦手なのか隙が目立つ。かくいうエルリア自身も近接戦闘が得意分野かと問われれば素直にハイ、と頷くことはできない。能力の特性柄、遠近両方で戦闘を行うため双方、ある程度は対応できるが達人に比べれば大きく劣る。
良く言えばバランスがいい。悪く言えば器用貧乏。
しかし、そんなエルリアであっても経験数だけは多く、魔法戦を得意とするヴァルキュリアには優位に立てている。
「どんどん行くぞ!!」
言葉に後押しされるかのように二人はギアを上げる。氷で作られた槍は相手の頭を捉えしかし、それは空を切り銀髪を数本散らす。反対に腕を狙った刀は槍の柄に阻まれ弾き返される。
一瞬、動きが止まりそうになるのを気合で動かし追撃を防ぐ。ガン、と硬質な音が鳴り響き速度が更に上る。既に戦闘速度は音に近く常人であれば目で追うのさえ困難になっていた
氷槍の一撃を身を一歩引いて躱し首めがけて横薙ぎに刀を振るう。ヴァルキュリアは地面に伏せるようにして斬撃を避け足を狙って再び氷槍を薙ぐ。
それを戻した刀で絡め取るようにかちあげる。強引に手から引き離された氷の槍は負荷に耐えきることができずに氷塊へと帰す。
武器を近距離で失ったヴァルキュリアは一旦、離脱しようとするがそれを許さない。
既に上に振り上げてある刀を振り下ろし胴体を薙ぐ。
血飛沫が空中を舞い確かに肉を立つ感触が手に伝わる。血が飛び散り顔や体につく。べチャリとした感触に顔を顰める。血がつくのは勘弁してほしいところだ。体はベトベトになるし衛生面では対して気にする必要のない体だが放置も気持ちが悪い。
そんなどうでもいいことを考えながら追撃を仕掛けるべく刀を戻す。
「どこを斬っているんだい?」
確実に当たるはずの場所に振るった刀は空を切る。代わりに聞こえてきたのはムカつく脳天気な声。声の方を見ればエルリアから数メートルは離れた場所にヴァルキュリアが立っていた。傷口からは血がどくどく、と流れ出し普通なら助からないと判断されるほど大きな傷となっている。
しかし、そこは流石、魔人というだけあって既に再生は開始し端から徐々に傷口が塞がってきている。流血による影響も微々たるもののようだ。
「ちっ、転移……」
「その通り。君を驚かせようと思っていたんだが……昔からリアクション薄いよね」
「特別反応することでもないからな」
軽口を叩きながらも二人の眼は油断なく相手を見据える。
完全に忘れていたが転移が使えるのだ。まして、ここでは転移阻害もされていない。使用し放題だ。エルリアも使うこと自体はできるが権能の問題で実戦に織り交ぜて使うことができなくなってしまい、長らく戦闘で使っていなかったから忘れてしまっていた。
「君はやはり、肉体強度も下がっているがそれよりも能力や魔法関係の力が下がっているようだね」
「さあ、どうだろうな」
適当にはぐらかしておく。
実を言うとヴァルキュリアの言っていることは正鵠を射ていると言っていい。勇者との決戦後、エルリアは力の大半を封印された。その際、勇者は特にエルリアの異能と魔法の能力を危険視した。異能と魔法の力を優先的に奪っていった。
優先的に、というだけで身体能力についても大幅に減衰したが異能や魔力ほどではない。
「君、やっぱり相当、弱っているな」
ニヤニヤと苛つく笑みを見せながら氷の槍を再び握る。相手が近接戦にこのまま付き合ってくれるならいいがヴァルキュリアは気まぐれだ。いつ、気分が変わるかわかったものではない。そうなれば逃げるかもしれない。エルリアとしてはそれは、なるべく避けたいのだ。
空間封鎖を敷くという手もあるが無効化されるだろう。魔法戦では分が悪い。
結局のところ、近接戦にこのまま興じるしかないのだ。
「……」
睨み合いから一変、傷がいえきった瞬間、大気が揺れた。
今度、先に動いたのはエルリアだ。身を捻り遠心力で強力な一撃を放つ。出の遅い攻撃であるから防がれるが更に追撃。さっきとは違い、反撃主体の動きである所謂、静の太刀から攻撃主体の動の太刀に動きを変える。ここまでの苛烈な攻撃を予想していなかったヴァルキュリアは目を剥いて攻撃を防ぐ。
「く……」
「マジか」
ヴァルキュリアは徐々に攻撃を捌ききれなくなっている。腕から血が吹き出し、体中に裂傷が走る。防戦一方のヴァルキュリアを見ればエルリアの優勢は疑うべくもなかった。
だが、当のエルリアにそこまで余裕はない。
理由はヴァルキュリアの成長にある。エルリアと戦っている間、ヴァルキュリアはその動きを観察し自身で消化し吸収していた。とても常人にできることではない。
異常な成長速度を叩き出すこいつをエルリアは警戒している。
さっさと決着をつけるべきと判断したから攻めているのだ。
刀であれば攻め手に欠けだからといって切り札を切るには現状はまだ、早すぎる。
ないものねだりになるが、せめて、もう少し、魔力があれば。




