表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覇王譚  作者: 砂糖は甘い
王の再来
27/32

第二十七話 創り造られ

「これは……」


 俺は渡された書類を見てそう呟く。地下室にあった資料は幾ばくかは燃やされてしまったが大半は残っていた。

 主に資料にはここで行われていたであろう実験の過程や成果が書かれていた。


 案の定というべきか、ここでは魔導人体改造の実験が行われておりその実験には魔物や実験動物だけでなく人間も使われていたらしい。奴隷や犯罪者などを秘密裏に入手し実験材料としている旨が資料に書かれていた。中には魔族も居たそうだ。


「……なあ、実験に使われた人たちは生きているのか?」


 研究者に問いかける。

 残念ながら魔物を使った実験の結果などは残っているのだが人体実験の結果は一部を除いて焼却されてしまった。


「……」

「だんまり、ねぇ。体に聞いてもいいんだが?」


 この世界、人権なんて考え方は未発達もいいところなので拷問しようが最悪、殺してしまっても犯罪者が相手であれば許されたりする。

 とはいえ、普通の人間であれば良心の呵責から積極的に行おうとはしないだろうが。まあ、俺にとってはそんなの気にするようなことでもないのだが。


 しかし、拷問というのは非常に繊細なものだ。一歩間違えれば対象を殺してしまうことさえある。素人である俺が拷問なんてしたら確実に誰か殺す。

 別に俺がやる必要もないし大人しく憲兵に任せるとしよう。


 それよりも、奥の扉の先を見に行かなければ。もっと増援が来てから行こうと思っていたが時間がかかりそうとのことだったので先に見てしまおう。

 ギシ、と扉は軋み音を立てる。さっきから地下室、見てて思ったけどかなり古いよな。器具や家具も高品質であるのは間違いないのだが微妙に古い装飾だったり構造だったりしている。もしかしたら古代の遺跡をそのまま研究室として流用したのかもな。

 それならこんな地下にあるのも納得がいく。


「これは、随分厳重だな」


 扉一枚挟んだ先にはもう一枚、扉が設けられていた。その扉は一枚目と違い、金属製であり金庫の扉のように堅牢だ。魔法金属が使われているのか微かに魔力も含んでいるらしい。

 そして、ここに入ってくるときの壁のように幾重もの防護術式が書き込まれている。素材も相まって1トン爆弾が直撃したとしても十分耐えることができる強度を持っているだろう。


「……」


 術式にはロックも掛かっていたのでちゃちゃっと解除して進む。上の壁に施してあった術式と違って若干古めかしく慣れない作業だったため、上のよりも時間がかかってしまった。


「!」


 扉を開いて一番に目に入ったのは多数の牢屋と其処に入れられている奴隷の姿だ。部屋には腐敗臭や汚泥のような匂いが混ざった形容し難い匂いが充満している。牢屋に入れられている人たちは皆、ボロ切れのような服を着せられ血色は悪く手足はやせ細っていた。

 入っている人に統一性はなく老人から子供まで節操なく入れられていた。よく見てみれば入っているのは人間やエルフなどの人類だけではなく腐りかけの肉塊や魔獣と人の混ざったような化物も入れられている。そいつらはよくわからないうめき声を発しながら意味もなく体を震わせていた。

 体を震わせるたびに彼らを繋ぎ止める鎖がじゃらり、と音を立てる。


「これは……何だ」


 唖然として呟いた。

 化物の解析鑑定をした結果が間違いなくコイツラは人類であると言っているのだ。遠目からの解析鑑定の結果のため直接、体の一部などを取り込んで解析すれば結果が変わるかもしれないが相当強い妨害(ジャミング)を受けていなければ大きくは変わらないだろう。


「まさか、失敗作か……」


 失敗作

 文字通りの失敗した実験体のことだ。先ほど読んだ資料には被験者の末路こそ書かれていなかったが人体実験の結果は一部、表記があった。

 曰く、魔導人体改造は魔物の力を取り込み人を人のまま魔物の力を使えるようにする禁忌の術だ。成功すれば適合種と呼ばれ魔人となり魔物の力を我が物とし、さらなる力を手にすることだろう。失敗すれば獣魔種と呼ばれ不完全な改造人間となりもはや人の身ではなくなるだろうがそれであっても理性は保たれる。しかし、完全なる失敗となれば話は別だ。もはや被験者は()()()()()()()へと成り下がる。いや、それは生き物かも怪しくなり合成獣(キメラ)のような醜悪な化物へと堕ちる。

 いずれはその力に耐えきれなくなり肉体はぐずぐずに腐り溶け単なる肉塊になってしまう。人としての最低限の誇りすらなく肉へと成り下がる可能性を孕んでいるからこそこの実験は禁忌なのだ。


「特徴と合致しているな。やはり、失敗作か」


 まあ、だからといってどうにかするわけでもないが。

 とりあえず、ここに囚われている人たちを助けなければ。餓死寸前とまでは行かずとも皆、顔色は悪い。


「おーい!!憲兵!!こっちに来てくれー」


 大きく声を上げれば扉の先からガチャガチャと鎧の擦れる音が聞こえてくる。数秒待てば憲兵が二人、こちらにやってきた。もう二人はあっちにいる技術者たちの見張りをさせているらしい。


「ここに入れられている人たちの保護を頼む。あそことあそこのにはなるべく近づかず解放もしなくていい」


 失敗作の入った折を指さして注意をする。流石にあれを解放しようとするのはよほどの能天気(考えなしのバカ)くらいだろうが注意喚起はしておく。俺の命令を聞いて解放したら殺されたなんて洒落にならないからな。


「俺は奥見てくるから何かあったら呼べ」


 そして、そのもっと先にはもう一つ、扉があった。

 開けばそれまでとは打って変わって近未来的というべきかなんというべきかサイバーパンク的な魔導器具や培養カプセルのようなものが多数、置かれていた。恐らくだが、ここが地下室の心臓部であり実験室とでも言うべき場所なのだろう。


「なかなかいい趣味しているじゃないか」


 この機材、全部売ったらめちゃくちゃ金になりそうだな。いや、売らないけど。


 そんなことはどうでも良くてだな、重要なのは培養カプセルの中身だ。ところどころ中身が入っており胎児のようなものが大半だがモノによっては成長して今にも動き出しそうなヤツもある。


「急いだほうがいいかもな」


 一応、もう、応援は呼んであるから待つだけなのだが、それでは何か落ち着かないので実験室を歩き回り物色する。書類もところどころ残っており各個体についての情報が得られた。

 その中でも危険度の高い個体が三体いた。

 一体目はエディン。巨人(ジャイアント)の因子を持つ元人間。身長と体格が常人よりも優れている。適合種であり非常に強い筋力と身体能力を持つ。魔力は多いが魔法は基本的に不得手とされる。しかし、魔力や魔法による身体強化とは親和性がある。

 試験運用の後、体の適応のため、培養カプセルにて眠っている。

 二体目はアッハ・イシューカ。いくつかの馬系の魔物の力を宿し白肌と高く発達した脚力が特徴。エディンほどではないが魔力も豊富であり魔法も得意としてる。

 こちらも試験運用の後、カプセルにて眠っている。


 三体目だが資料が焼き切れており名前しかわからなかった。この資料を見た瞬間、ゾクッと背筋が冷えるような感覚がした。そこにはただ一つ、こう書かれていた。


 戦狂乙女(ヴァルキュリア)、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ