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覇王譚  作者: 砂糖は甘い
王の再来
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第二十六話 突入

 シェルが来てから早数日。着々と準備は進み家宅捜索の決行日当日となった。


「エルリア様、我々も参りましょう」

「分かった」


 今回、参加する人員は憲兵約100名、ジェンヌ家私兵約30名、王室情報局局員2名。そこに俺ら3人が加わる形だ。普通なら過剰なのだが屋敷はかなり広いらしく、これでも足りるか怪しいらしい。


 とは言っても屋敷は王都のど真ん中にある訳で何かあったとしても逃げるのは困難だろう。

 王都は王家の庭。至る所に目がある。そんな場所で逃げ回れるはずがないからな。


「ここか」


 集合場所では既に家宅捜索が始まっていた。

 憲兵は屋敷へと押し入りベルト家の警備を担当している私兵がそれを押し返そうとして逆に憲兵に拘束されている。

 暫くすれば閉じられていた門も開き中に憲兵がなだれ込んでいく。俺らもそれに続いて中に入っていく。屋敷内ではドタバタと慌ただしく使用人が動いており書類や物品を隠そうとしているのが見えた。


 今回の家宅捜査は事前通告一切なしの完全抜き打ちだったため相手方も相当、焦っているのだろう。それに、この屋敷はジェンヌ家の私兵が周囲を固めているため、現在、王宮に居るベルト家当主、ベルト・クライネ・ラーディアに連絡がいくことは無いだろう。


「A班とC班は一回を。B班は2階を、D班は庭園を捜索しろ。少しでも怪しいと感じたものがあれば直ぐに報告するんだぞ」

「フィルはB班に、シェリアはD班に着いて行って。俺はA班とC班に着いて行くから」

「分かりました」

「了解です」


 屋敷の中は思っていたよりも装飾品は少ない。こう、クロード卿から聞いている話では悪徳貴族のような印象だったためもっとごてごてしている物だとばかり。


 護衛と言っても何か事が起きない限りやることが無いので憲兵の手伝いをしたりしながら時間を潰す。途中、何人か逃げようとしている使用人を見かけたので一応、拘束して引き渡しておいた。


「ああ、そう言えば、フィルが階段下がどうとか言っていたような……」


 調べておいてやるか。何もなければ御の字だし何かあってもそれはそれで憲兵さんの仕事の手伝いになる。


「ここだな」


 階段下の通路にやってくればそこは行き止まりでありぱっと見は何もないように見える。

 ペタペタと壁を触ったり軽く叩いてみたりしたが異常は見当たらない。やはり、考えすぎなんじゃないかな。


「ん?」


 これは……隙間だな。だけど、こんなところに隙間なんてできるか?

 近くで見ればかなり目立つぞ。修理はしなかったのだろうか。推理小説の読みすぎかもしれないが隠し扉の鍵穴だって可能性もある。

 ちょっと気になったので隙間を除いてみれば一見、何もないただの壁面があるだけ。ただ、これを見た俺は目を剥いて声を上げた。


「うおッ?!」


 幸い、周囲に人が居なかったから気付かれることもなかったがそこに見えたのは大量の魔法術式である。この壁一帯にびっしりと魔法術式が埋められている。主に、物質操作の術式が多く恐らく起動すれば扉のようにここの壁が動くだろう。

 他にも対人結界や魔力認証用の結界、後は不審者迎撃用の術式、警報用の術式なんかも組み込まれている。一介の魔術師が出来るような芸当ではないだろう。


「これは……隠し扉ってやつか?術式的にもそう考えるのが妥当だろうが……」


 まさか、本当にあるとは思わないだろう。

 それに、この術式、とんでもなく隠蔽性に優れている。直接、術式を目視するまで一切気付かなかった。

 取り敢えず、憲兵を呼ぼう。


「すんませーん。憲兵1人、2人、借りられませんかね」


 屋敷中央で指揮を執っている隊長らしき男に話しかける。

 男は険しい顔をこちらに向けると瞬時に笑い気前よく5人も憲兵を貸してくれた。この隊長さん、事前の打ち合わせでもやけに友好的だったな。

 どうやら、冒険者に憧れがあるらしい。基本的に冒険者と憲兵って仲悪いんだが、珍しいな。


「さて、まずは、防衛機構の解除からだな」


 壁を無理やり壊して押し入ることも出来なくはないがそれをすれば防衛機構が発動して非常に面倒なことになる。

 具体的には壁や周囲の建造物を巻き込んで自爆する。

 安全に開けるために防衛機構の解除は必須だ。面倒だが、俺以外にできる人間がいないからやらなければ。

 幸い、そこまで複雑じゃねぇから解除に時間は掛からないだろうが。


「ここをこうして……こっちの術式を中和しながらこれを切ると……解除完了ッ!!」


 術式解除と同時に魔力を流しドアの開閉術式を作動させる。

 ズズ、と大理石の擦れる音が鳴り正面の壁の一部が動く。一通り、動き終わった後には壁に人が3人程度並んで入れるくらいの穴が開いていた。


 奥には階段が続き底は暗くて見えていない。最近、使われたのか一部の松明の火は未だに階段を照らしている。

 この感じだと奥にももしかしたら人が居るかもしれない。


「1人は戻って隊長に報告を。残りは全員、俺について来い。あまり離れるなよ。何があるか分からんからな」


 一歩、階段に踏み込めばこつん、という小さな足音が嫌に響いた。音の響き具合からも分かるがこれ、相当深いぞ。

 ひんやりとする石畳の階段を下りていく。道中には蜘蛛の巣が張っていたりしておりあまり綺麗ではないが、やはり松明が付いている場所があったりと全く使われていない訳ではないのだろう。


「……」


 2、3分歩き続ければ底が見えてくる。

 地下はところどころの松明しか光源のない階段と違って煌々と魔法と蝋燭によって明るく照らされている。

 慎重に降りて行けばガヤガヤと人の声が聞こえてくる。衣擦れの音に紙の燃える音、ガラスの砕ける音。他にも沢山の音が混じっている。

 これは……急いだ方がいいな。


「おい!!証拠隠滅される前に突入する!急げ!」

「はッ」


 考えられるのは……何だ?地下と言えばあれだな。研究施設だな。となると、魔導人体改造の研究施設か?

 そうだとしたら、ここで証拠隠滅されるのは防ぎたい。既に始まっている様だが急げば全て破棄される前に摘発出来る筈。


 階段を飛び降り一気に地下に降りる。

 普通だったら骨折必死の高さだがこれでもランクSなんでな。この程度では痛くもかゆくもない。


「手をあげて地面に伏せろ!!憲兵隊だ!!」


 暫く遅れて憲兵たちが入って来る。

 周囲を見渡して驚いた様子を見せたが直ぐに武器を構えた。


「なッ、早すぎる!!話と違うぞ!」

「何なんだこいつらぁ!!」

「いいからさっさと燃やせ!!これが見られたら終わりだぞ」


 地下に居たのは白衣を着た男達だった。全員が研究職のようでこちらに向かってくる様子は無いがせっせと書類を薪にくべている。


「うし、投降の意思なしと判断。拘束しろ」


 俺の言葉と同時に全員が動き出す。何人かは抵抗しようとビーカーや鉛筆を投げつけてきたが所詮、素人であり直ぐに制圧され拘束された。


「にしても、ここは何なんだ?」

「答えるものか……」


 研究者の中でも一番位の高そうな男に話しかけてみるがにべも無し。

 ただ、書類も沢山残っているからそれを見れば何かくらいは分かるだろう。奥に扉があったから一応、その奥も確認しておかないとな。

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