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覇王譚  作者: 砂糖は甘い
王の再来
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第二十五話 作戦前夜

 クロード卿との会談から約一週間。

 俺らは王都のジェンヌ家の屋敷へと移り立ち入り検査当日まで待機していた。クロード卿に交渉したところシェリアとフィルも参加が認められた。何もないに越したことは無いが保険はあればあるほどいい。


「エルリア様、少しよろしいでしょうか」


 俺が与えられた部屋で寛いでいるとフィルがやってきた。手にはクロード卿から渡されたベルト家の屋敷の見取り図が握られている。


「どうした」

「一つ、気になる点がございまして……」


 そう言いフィルはテーブルに見取り図を広げる。たくさんの書き込みがされており入念に準備をしていることが分かる。


「ここ、おかしいと思いませんか?」

「?俺は建築には疎くてな。何かおかしいのか?」


 フィルが指さしたのは大広間から二階へと続く階段の下だ。

 大きく空洞が開き何もない。


「普通、これだけの大きなスペースがあれば何かしら……部屋や倉庫とか色々と作ることが出来ます。ですがここには一切そう言ったものが無い。間取り的にも部屋を作るにはピッタリな場所だというのに、です」

「つまり、何だ?そこに何かあるかもしれないと?」

「あくまで推測ですが」


 ふむ、確かに、そう言われれば怪しい気もしてくるがそれでも現時点では俺らの妄想に過ぎない。一応、クロード卿には言っておくがあまり気にしすぎる事もないだろう。


「分かった。伝えてはおくがあまり気にしすぎる事もないだろう。俺らの仕事はあくまで護衛だ。捜索して証拠を集めるのは憲兵の仕事だ」


 そう、俺らはあくまで護衛が仕事なのだ。こういうのは餅は餅屋、だ。下手に首を突っ込んで憲兵の足を引っ張るのだけは勘弁願いたい。憲兵はそう言う事を専門にやっているんだから素人がやるよりもずっと信頼できる。


「そうですね。ああ、あとそれから鍛冶師の方が来ていらっしゃいます。今は応接室におりますが、エルリア様に御用があるそうで――」

「鍛冶師?」


 鍛冶師って……ああ、シェルの事か。もっと時間がかかるもんだと思っていたんだが、もう完成したのか?


「よし、今すぐ行こう。案内してくれ」

「エルリア様、私は貴方の臣下ではありますが屋敷の案内でしたら私よりも適任の者がおりますよ」


 メイドを指しながら面倒くさそうに言う。まあ、そうだが。ここのメイドの方が屋敷に詳しいのは当たり前だがお前だって俺の部下なんだからそれくらいやってくれてもいいと思うんだけどね。

 ともかく、俺はメイドさんに案内されて応接室へと着いた。

 相変わらず屋敷が広くて道を覚えるのも一苦労である。昔居たことのある魔王城はこれよりもずっと広かったが要所要所に地図や矢印の看板が置いてあり広大な場内であっても殆ど迷うことは無かった。それでも、来たばっかりのころは迷ったが。


「待たせたな」

「おお、待っていたぞ。坊主」

「嬢ちゃん呼びから今度は坊主かよ……」


 開口一番、坊主呼びされた俺は不満そうに顔を顰めるとシェルは面白そうにエルフにしては浅黒く濃い顔をクシャッと歪ませて笑う。

 嬢ちゃんと呼ばれたと思ったら今度は坊主と言われてしまった。嬢ちゃん呼びは精神的にちょっとあれなところがあるが、坊主はこの見た目で言われるととんでもなく違和感がある。

 何せ、この体、何処からどう見ても(自分で言うのもあれだが)少女なのだ。見てくれだけは本当にいいのでそんな状態で坊主言われると違和感だらけだ。


「じゃあ、嬢ちゃんって呼んでやろうか?」

「うッ……」


 嬢ちゃん呼びに戻してやろうか、と言われたがそれはやめて欲しい。時々、話した相手から言われることはあるがそれでも、それは一瞬の事だからいいようなもののこれから何度も顔を合わせるであろうヤツに嬢ちゃん呼びされるのは何というかむず痒いというか気持ちが悪いというか。

 兎に角、やめて欲しい。女っぽいのは分かっているのだが(というか見てくれは少女そのもの)切実にやめてくれ。それならまだ坊主呼びの方がいい。


「ガハハ、冗談はここまでにしておいて……ほらよ。約束のモンだ」


 シェルが脇に置いてあった木箱を机の上において開く。中に入っていたのは刀だ。

 刀身は鈍く蒼玉色(サファイア)に輝いている。


「これは――」

「いい出来だろう?俺の腕もあるが坊主の持ってきた素材が飛び切りいいのばかりでな。しかも、魔鋼が大量に手に入ったんでな、金属部分は全て魔鋼製だ」

「マジか」


 となると予定よりも値段が高くなったりするのか?これだけの出来ならば予定の値段よりも全然上がってもいいと思うんだが。


「いや、要らん。俺も今回、なかなか打てない貴重な素材を使わせてもらった。コイツは大いに勉強になったぜ」

「そう、ならいいけど」

「っと、取り敢えず、この刀、握ってみてくれねぇか?まだ、微調整が済んでなくてよ」


 本来であれば製作時に同時に行うものなのだが、俺が慌ただしく動いていたこともあって調整する時間が無かったのだ。

 調整というのは本当に大事でどれだけ武器本体の出来が良かろうと持ち手が手のサイズに合っていなかったり重量が重すぎる、軽すぎるがあれば一気に使うのが難しくなる。逆に自分に合う武器であれば使いづらさを感じずに手足のように使いこなすことが出来るだろう。


「うーん、柄の部分がちょっと大きいかな……握りにくい。重量は問題ないけど、もう少し重心を刀身の中心の方に寄せられる?」


 握ってみて感じたことを率直に言う。あまり大きくは変えることはできないが逆にある程度であれば今の状態からでも加工が可能だ。ちょっと重心が下に寄りすぎている気がしたので中央に寄せてほしいと言えば二つ返事で承諾してくれた。

 他にも幾つか要望を伝えるとシェルは刀を仕舞った。


「こいつは傑作だがまだ銘はねぇ。本当であれば俺が付けるんだが……オーダーメイドだからな。お前さんがふさわしいと思う名前を付けてやってくれ」


 武器への名付け。本来であればただ、名前を付けること以上の意味はない行為だが熟練の鍛冶師が丹精を籠め作った武器には魂が宿るとされそれらに名付けを行うと魔物と同じように強大な力を得ることもあるそうだ。


「ま、今すぐつけろってわけじゃねぇ。いつかつけてやってくれ。それは上手くいけば伝説級なんか目じゃねぇくらいの武器になるかも知んねぇんだ」

「そうか。本当にいいんだな?代金は」

「ああ。値上げは俺の主義に反する」


 思っていたよりもシェリアは義理堅いらしい。

 この場合、値上げは別に理不尽だとは思わないし寧ろ妥当だと思うんだが、まあ、それが彼の流儀らしいのでここは言葉に甘えておくとしよう。


「俺はこの屋敷で鍛冶場を借りさせてもらう。何か言いたいことがあったら鍛冶場に来い」

「分かった。俺もあと数日はこの屋敷に居るだろうから何かあったら言ってくれ」


 この屋敷、鍛冶場なんてあったんだな。流石、鍛冶の街を統治する公爵家なだけあるな。シェルとか関係なく後で俺も行ってみようかな。シェリアも鍛冶には興味があるみたいだし、シェルにちょっと教わってみるのもいいかもしれない。

 取り敢えず、これで安心して作戦に取り組むことが出来るだろう。

 さて、かの家には何が眠っているのやら。今から楽しみだ。

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