第二十四話 依頼
「リエールは現在、我が国で保護している」
予想通り、と言うべきか。やはり、リエールはこの国に居るらしい。しかし、保護、ねぇ。ちょっと引っ掛かる言い方だな。
「詳細な位置は教えられていないが王族のみが入ることを許されている奥の院に居たのだろう」
そうか。王族しか入れない……まあ、でも、クロード卿に会えたのだから王にだって紹介してもらえるように頼んでみるか。
「何よするつもりだ?」
「……単刀直入に言う。リエールに会いたい。出来ないか?」
そう言えばクロード卿は予想していたのか、さして驚くこともなく首を振った。
「できん。貴様が何者であれ手続きも無しに会わせることは出来ん」
やはり、難しいか。
いやまぁ、少し考えれば手続きも無しに名目上、冒険者の俺が王に会えるわけがない。それがたとえ、大臣からの紹介であったとしても、だ。
「そうか……」
「うむ」
クソ、近道はやっぱりできないか……
もう一つ、手段はあるが、あまり使いたくはない。俺の身の安全を確保するためにもなるべくそうなることは避けたい。やっぱり、忍び込むしかないか……
でも、なぁ……王宮に忍び込むのこっちもリスクがでかいんだよ。
どうしたものかね。
「会いたいのであればしっかりと申請するのだな、と本来であれば言うところなのだが……」
これは一度帰って作戦練り直しかな。
幾つか戻ってやりたいこともあるし……
「一つ、私の依頼をこなすのでれば多少の無理は聞いてやろう」
「へ?」
突然、クロード卿はそんなことを言った。
つまり、それは……
「つまり……」
「そうだな……王への謁見くらいはさせてやろう」
「いいのか?」
「言っただろう?依頼を受けてもらう」
「内容は?」
……クロード卿の依頼の内容によってだが、この話が本当なら近道できるかもしれない。
しかし、クロード卿が俺に依頼したいこと、ね。やっぱり政争がらみかな?
あいつらの報告を聞いてから少しこっちでも調べてみたが、ベルト家とジェンヌ家の政治闘争は最近じゃ武力闘争にまで一部では発展しており、この前もベルト家の私兵と思われる傭兵崩れが国軍の兵舎を襲っていたり逆に地方に派遣されていた軍がベルト家の私邸を襲撃したりもした。
どちらも事件は揉み消され大した問題にはされていない。
俺にジャンヌ家の尖兵を任せるつもりではなかろうか?
「近々、ベルト家への立ち入り調査を行う」
何でも最近、大きな被害を出している盗賊団にベルト家が関与している疑いがある為、立ち入り検査の護衛をしてほしいそうだ。
「護衛、ね。報酬は?」
「前金として50万ダルク、成功報酬で女王陛下との謁見、100万ダルクでどうだ?」
「ふむ……」
まあ、悪くはない。というか、女王への謁見だけでも相当無理聞いてもらっているのに前金だけで50万ダルク、成功すれば総額で150万ダルクも手に入るなんてな。護衛だけでこれだけもらえるならかなり割のいい仕事だろう。普通なら。
お貴族様の家宅捜索、しかも、政争相手の。穏便に済むか怪しい上に貴族となれば相当の戦力をため込んでるのではないか。
「今回、立ち入り検査を行うのはベルト家の保有している王都の屋敷だ」
曰く、警備についている私兵は居るだろうがごく少数でありクロード卿の用意する憲兵たちで十分、制圧できる規模だそうだ。なら、俺要らないのでは?と思ったのだがそう簡単な事ではないらしい。
近年、ベルト家は連邦と繋がっている可能性が王室情報局(王家直属の諜報組織)から上がっており王都の屋敷にも定期的に連邦の者と思われる人間が出入りしているそうだ。
それと同時に……こちらは昔からだが、ベルト家には禁忌の実験と言われる魔導人体改造を行っている疑いがある。魔導人体改造は魔法技術を駆使して文字通り人体改造を行い魔物や魔族を超える人間を作り出す技術だ。大半は失敗の上、被験者は死亡ないし心神喪失状態に陥るため非常に忌避され国によっては禁止されている。この国でも禁止事項である。
それが、もし、完成していた場合、憲兵だけでは制圧は困難であり最悪は近衛や軍を出動させなければいけなくなるらしい。
つまり、俺に期待されている役割は保険だ。もしもの時に時間を稼ぎ主力が到着するまで敵の相手をする足止め係。悪く言えば捨て駒ともいえるだろう。
「乗った……と言いたいところだが、最後に一つだけいいか?」
「何だ?」
「魔導人体改造についてやけに詳しいようだが……この国では禁忌じゃないのか?」
「それか……これから話すことは他言無用で頼む」
「ああっつってもここでの会話殆ど話せることねぇけどな」
かつて、太古の昔、この国では魔導人体改造を国策として推進していた時期があった。各地で獲得した奴隷や魔物を使い非道、否、外道ともいえる実験を繰り返していた。周辺の国々からは何度も非難されたが当時の王は「持たぬ者どもの愚かな喚き」と一蹴。
正確な人数は不明だが一万人以上が実験の被験者とされ命を落としたらしい。
しかし、進捗は確かにあり実験が進めば進むほど力の定着率は高まり死亡率も下がっていった。
王は仕上げとして完全なる魔導改造人体を作り出しそれに自身を乗り移らせ最強へと成ろうとした。
だが、その試みは失敗した。
完璧にして最強を求めたその肉体は魔導技師たちの制御を外れ研究所を蹂躙。周辺の街を二つ滅ぼし討伐されるまで殺戮の限りを尽くした。
結果、王は遂に国民、そして家族からも見放され娘に殺された。娘は女王として君臨しこの研究の一切を停止した。ただ、研究資料に関しては王家の分家が持っており、先王のせいで力の弱まっていた王家では破棄を命じることが出来なかった。
その時、研究資料を持ち出したのがベルト家であるが今はあまり関係ない。
資料は後年に大半が王家に返還されたが女王は焚書を命じるどころか厳重な保管を指示し現在では一部の人間は閲覧が許可されているそうだ。
「だから、いろいろ知っている訳ね……」
まあ、納得できる理由ではある。恐らく、クロード卿も研究資料を見たことがあるんだろう。しかし、そうなるとクロード卿を完全に信用しきるのもどうかと思えてくる。
無いとは思うが本当はジェンヌ家が実験をしているがそれに対する目を向けにくくするためにベルト家を追い詰めている、という筋書きもあり得るわけだ。
「まあ、いい。この依頼、受けよう」
しかし、ねぇ。メルドルンは歴史の長い国だがこんな話は俺は知らない。多分だけどこの国でも知っている人間など限られるだろう。
と、なると相当、前の話だな。
俺がこの大陸に戻って来る前の話ってことになるな。
「仔細を詰めよう。詳細な日時と場所、人員と予想される敵戦力を教えてくれ」
「分かった。今、資料を持ってこさせよう」
色々と心配事はあるが一応はただの家宅捜索だ。相手方だって真面なら目立った行動はしたがらないだろう。自らの首を絞めるような行為をするとは思えない。
それに、もし、相手がまともじゃなかったとしてもSランクでも連れてこない限り俺が負ける訳ない。
Sランクがいたら素直に逃げようかな。




