第二十二話 作戦開始
二、三時間ほど経っただろうか?
日は傾き集合の時間が迫っていた。俺は街の中央にある広場の噴水にて二人を待っていた。
途中で買った串焼き美味いな。たれが甘っぽくて肉とマッチしている。飯と酒が欲しくなるな。売ってないかな。
「エルリア様、お待たせいたしました」
「すみません。お待たせしました」
「いや、時間丁度だ」
しっかり集合時間を守って二人は帰ってきた。
色々と話したいことはあるがここで話すと誰かに聞かれる可能性があるので一旦、宿に帰る。
そこまで距離がある訳でも無いので数分、歩けばすぐについた。
「さて、報告を聞こうか」
部屋に戻って第一にすることは情報交換だ。と、言っても俺以外は特に有益な情報は得られていなさそうだが。
「私の方ではリエール様に関する情報は見当たりませんでした。少なくとも見かけたことのある人間もいませんでした」
「私の方もです。特に使えそうな情報は……」
だろうな。元々、そんなに期待はしていなかったから驚きもしない。これに関しては二人の能力云々の前の問題だ。
「そうか。じゃあ、俺の方だな」
二人からの報告が終わったので次は俺の番だ。
俺はシェルから教えてもらった情報を二人に話す。二人にリエールの弟子が居たと言った瞬間、目を丸くして固まっていたのは面白かった。
「……偶然、と言っていいのでしょうか」
「まあ、気持ちは分かる」
「……しかし、情報が手に入ったのは喜ばしいことです」
「そうだ。これらの情報を踏まえて王宮への潜入作戦を練りたいと思う」
「潜入作戦、ですか……では、まず、どうやって王宮に入るか考えませんと――」
「それなんだけど……その鍛冶師の手引きで入れるから考えるのは潜入後の行動だね」
そう言えば言ってなかったな。
取り敢えず、シェルの伝手で王宮には入れることを伝えておいた。
んで、入ってからの行動だが、俺が今考えているのはこうだ。
①、王宮内でどこにリエールが居るのか聞き込みをする。(見つかればよし)
②、王に謁見する。(方法は後程)
③、リエールと話す。
簡単だろう?
大雑把なものだが基本はこれに従って動くことになるだろう。無論、多少の変更はあるだろうが。
仔細に関しては今から考える。
「王宮内での情報収集ですか……それは、難しいのでは?」
「何故だ?」
「それは――」
フィル曰く、王宮の武官はともかく文官や使用人は口が堅いらしくそう簡単に王宮内の事情を話すとは思えないらしい。
何故知っているんだ。
「……まあいい。ならば武官から話を聞けばいいだろう。冒険者なんだ。手合わせでもしたいと言えば会う機会もあるだろう」
文官からの情報が期待できないのであれば比較的に口が緩いであろう武官から聞き出すのみ。流石に高位の武官ともなれば口も硬いだろうが衛兵とかから噂くらいは聞き出せるだろう。
「確かに、そうですね」
➁の方も既に手を打ってある。順当に行けば遅かれ早かれ王の方から接触があるだろう。
王と接触ができればもう、チェックメイト同然だ。あとはリエールを引き摺り出すだけだ。
「随分、大雑把ですね」
シェリアが苦笑いをしながら言ってくる。
確かにだいぶと雑な計画ではあるが正直な話、何があるか分からない以上、下手にみっちり計画を立てて行動を縛るよりも大筋だけ立てて柔軟に対応できるようにしたほうがいいだろう。
「……エルリア様、よろしいでしょうか」
「何だ?」
考え込むようにしていたフィルが突然声を上げた。
「いえ、一つ、懸念事項がございます」
「言ってみろ」
そう言って先を促す。
フィル曰く、現在、この国は大規模な権力闘争の真っ最中なのだとか。
中心となっているのはジェンヌ公爵家を筆頭としている王党派、ベルト公爵家を中核とする貴族派。両者とも王族にルーツを持つ由緒正しい家でありジェンヌ家は代々、軍務大臣を務めベルト家は宰相を務めている。
「そんな国の中核を担う公爵家がなんだって権力闘争なんか……」
「これは私の推測になりますが……おそらく、連邦に対する政策の違いからでしょう」
連邦。正式名称、エノールム連邦。
大陸中央にあるライトグランドから向かって南側に存在するこの大陸最大級の国家。圧倒的な軍事力、そして、人口を有する独裁国家。
詳細は省くが平等を第一の目標とし、(建前上)身分の差を許さない国家でもある。
盤石な統治のためにも征服した土地の支配者階級は大半が殺され統合される。故にこの大陸の国家からは非常に恐れられている。
同時に閉鎖的な国家でもあり限定的な国家を除き外との関わりはほぼない。
何でもベルト家は近年、その連邦との融和策を強く主張しているそうだ。
だが、つまり、連邦を受け入れるということは即ち、連邦の支配を容認することにもなる。そうなれば十中八九、国体は維持できない。貴族はともかく、王族は間違いなく皆殺しだ。
それに不服を申し立てたジェンヌ家たち保守派貴族と連邦との融和を目指すベルト家率いる貴族派の対立が王宮では起きているらしい。
「それらの勢力による介入がないとは言い切れません。ご留意していただきたい」
「承知した。しかし、権力闘争か」
この国でそんなものが起きるとはなんとも意外だ。
案外、今、この国の王権は弱っているのかもしれない。
少なくとも俺のよく知るメルドルンでは王族が絶対の権力を持っていてその下にある貴族たちが権力闘争など起こせるはずもないのだが。
「そういえば、ですが、この国に入ってから冒険者をあまり見かけませんね。教会も見かけませんし、なんというか人類の都市に来た感じがしません」
「確かに、チラホラとしか見かけませんね」
シェリアとフィルが揃って疑問を口にする。
「それはだな……」
この国では立地上、何かと連邦とのパワーバランスを考えなければいけない場所である。故に、大陸連盟……連邦と対立する国際組織の下部組織である冒険者組合はメルドルンでの行動が大きく制限される。大国としては異常に少ないギルド支部、派遣される職員も少ない。
その上、実質的な緩衝国であり独自性の強いメルドルンに教会といえど土足で踏み込むわけにもいかず結果的に教会やギルドが少なくなっている。
「だから、この国には冒険者とか教会の人間が少ないんだよ」
まあ、他にも色々とメルドルン側もやらかしているのだがそれを今、言う必要はないだろう。
「そうだったのですか……」
「人類の政治とは面倒なものですね。全て武力で解決してしまえばいいものを」
「そうもいかないんだよ。そんなことばかりをしていては今頃、人類は絶滅していることだろうな」
そうだ。人類はその性質上、争うのを止めることはできないがいつも戦争をしているわけではない。確かに、戦争がない時間のほうが短いだろうがそれでも全ての国がいつも戦をしているわけじゃない。
少なくとも、四六時中、すべての国が戦争をしていたら人類は今頃、辺境で魔物と大差ない暮らしをしていただろう。
魔族とは違って人類は戦闘に特化していない。代わりに高度な文明を得た。
争いの場は武力から外交へと移り変わりつつあるのだ。魔族だっていつまでも殺し合いを続けているわけじゃない。どうにか魔界を平定し次へ進もうとしている支配者がいるのだ。
殺し合いから化かし合いへ。
争っていることに変わりはないがそれでも人死の少ない方策を考え続けた人類。その結果が今であろう。




