第二十一話 あなたはドワーフですか?それともエルフですか? YES/NO
「おお、さっきの嬢ちゃんじゃねぇか」
数分して仕事を終わらせたおっさんはこっちを見て驚いていた。
いや、こっちも驚いた。まさか鍛冶師だったとは。あまりに厳つい見た目していたからてっきり冒険者とかやっているのかと思っていた。
「さっきぶりだな。あと、嬢ちゃんじゃねぇよ」
「え?お前、その姿で?」
「うっせ」
軽口を叩きながら俺は差し出された椅子に座る。
「んで、何だったか?仕事?」
「それに関しましては私から」
俺が口を開くよりも前にここまで案内してくれた店員さんがおっちゃんに説明を始めた。
それを聞いたおっちゃんは驚いた顔をしてこっちを見てきた。疑うような視線も混じっている。さっきの店員さんの反応と似てるな。
「お前……高ぇぞ」
「ああ、知っている。財布には自信があるから安心しろ」
そう返せばさらに疑いの視線は濃くなる。
全身を一度、くまなく観察した後、もう一度、俺の顔を見て尋ねてくる。
「お前、お貴族さんかい?」
「ちげぇよ。俺は冒険者だよ」
「……相当高位の冒険者なんだろうな」
冒険者であると告げればさっきより少し、疑いの目が晴れた。
やっと、交渉に入れそうだ。
俺は崩していた姿勢を正して相手に向き直る。
「経緯は分かった。仕事は受けてもいい。しかし、一つ、条件がある」
やはり来たか。流石に希少級という一般的には超高位の武器をねだっているんだ。素材や金以外にも何かしら代価が要るだろう。
「俺の師匠、リエールを探してほしい」
「……人探し、か」
「そうだ」
特に表情を動かさずに答える。
しかし、内心では冷や汗ダラダラである。唐突に出てきた知り合いの名に吹き出したりしないように表情筋を固定するので手いっぱいで逆に素っ気ない反応になっている。
にしても、師匠?
アイツ、弟子なんか取ってたのか。
リエールは現在、行方不明。一応、世間一般ではそうされている。俺はリエールを知っているからこそある程度の確信を持って居場所を推測しているが他の奴らではそうもいかないだろう。
まして、自身の生い立ちの根幹にあるエルフの王族との関わりなんてたとえ弟子であっても教えないだろうな。俺も"あの事件"が無かったら知り得なかったことだからな。
「憲兵の仕事じゃないのか?そう言うのは」
「……憲兵は動かない」
憲兵が動かない?
……仮にリエールが王宮に匿われているとして見つかるわけにはいかない。だから、憲兵も動かない。っと待て。そもそも憲兵は国王の管理下。つまり、捜索の結果なんて幾らでも改竄、捏造できる。
なら、ポーズだけでも捜索はした方がいいのでは……国民からの捜索依頼を突っぱねたとあればいい印象は持たれないだろうからな。
「何故だかは分からない。だが、捜索願を出しても『捜索に踏み切る証拠が無い』の一点張り。無茶だとは分かっているが頼めな――」
「良いだろう」
俺はおっちゃんの声に被せるように言う。
決して大きな声で言った訳でも無いがこの少し高い声はよく通るな。槌の音が絶えず鳴り響くこの空間でもしっかりと相手に届く。
「良いのか?人探しなど冒険者の仕事では……」
「冒険者は依頼さえあれば何でもやる。それに見合った代価さえ払えるのであれば」
「……」
「そして、俺はあんたの作った武器が代価に相応しいと思っただけだ」
冒険者の仕事は何も魔物の相手だけではない。冒険者の本懐は依頼を受け報酬を得る事。依頼であり、しっかりとした報酬があるならば内容が何であろうと大した違いはない。
「そうか。分かった。なら、打とう。最高のモンを」
「期待しているぜ」
そこから俺らは武具についての交渉を始めた。必要な素材は今持っている物の中にあったため問題はなく金に関しても十分に足りている。
作ってもらう武器は刀。ここら辺ではそこまでメジャーではない武器だが問題なく引き受けてくれた。感謝だ。
「なあ、おっちゃん」
「何だ?」
俺が声を掛ければ何かを紙に書きながら視線だけをこっちに向けてくる。
手元見ないで良く綺麗に字、書けるもんだな。
「アンタの師匠――リエールについての情報ってねぇのか?」
「……あるにはある。が、探すのにはほとんど役に立たねぇよ」
「それでもいいから教えてくれ」
そう言えば「はぁ」と盛大に息を一つ吐いてから話始めた。
曰く、おっちゃん……シェルは三百年前、リエールに弟子入りしたらしい。最初は拒んでいたが類稀なる才能と熱意を受け取り弟子入りを果たした。
そこから約五十年は指導を受けその後、独立したそうだが定期的に連絡はしていたそうだ。
ところが、その連絡がここ数年、無くなってしまったらしい。
長命種であるエルフなら数年くらいすっぽかしても不思議ではないがリエールは一年に一回は絶対に連絡を寄こしたそうだ。
そのため、連絡が来なかったことを怪しみ独自に探してみれば居場所どころか足取りさえ全くつかめなかったらしい。
「だから、俺に捜索を頼んだのか」
「ああ。見たところアンタは高位の冒険者なのだろう?ならば、俺よりもいろいろと出来ることがあるだろう」
「まあ、確かにそうだがな」
腕が立つとはいえ市井の鍛冶師よりも高位の冒険者の方が出来ることは多いだろう。
「実はな、リエールの居場所に関してここに来るまでの道中で噂を聞いたんだ」
「何だって?」
俺は自分の推論を噂、というていで話す。
恐らく、リエールは王宮に居るだろう事。それには王族が関わっている事、等々。
無論、簡単に信じられるものではないが、実行者は俺だ。何かあってもおっちゃんに損害はほぼないし言ってみるだけ言ってみた。
「んでさ、王宮に紹介してもらえないかなって」
「俺、王宮に伝手なんかねぇぞ……」
「本当に?」
「ッ……?!」
俺の言葉にシェルは目を見開いた。さっきまで快活に笑っていた表情は凍り付き驚愕だけが見て取れた。
「おかしいと思ってたんだ。アンタ」
軍隊の武器の調達先を知っていたり置いてある武具も王国の王宮で作られている品と酷似していた。何よりこれまでの腕を持ち更にリエールの弟子であるシェルをこの国が放っておくはずがない。
「本当は王宮に仕えていたことがあるんじゃねぇか?」
「はぁ……お前は頭がよく切れるな。ああ、そうだよ。俺は元王宮付鍛冶師だ」
「おお……」
王宮付鍛冶師。この国において最高位の鍛冶師しか付けない役職だ。文字通り王宮で鍛冶師として働いている者たちの事だが全員が凄腕の鍛冶師だそうだ。
「で、実際どうなんだ?王宮には伝手、あるのか?」
「あるにはある。だが、お前が言うには師匠は王に保護されているらしいじゃないか。なら、王に謁見しなければ師匠に会うのも難しいだろう?流石に俺もそこまではやってやれんぞ」
「それなら大丈夫だ。考えがある」
そう。あんまり褒められたやり方ではないが一応、考えはある。無論、合法的方法で、だ。
一回、王宮に入れてしまえば後は割とやりようがあるのだ。
「まあ、なら入れてやるくらいは出来るか。『高位冒険者が王族に挨拶をしたがっている』とでも言えばいいか」
「どのくらいで入れそうだ?」
「申請して受理されるまで早くて三日、長いと一か月近く掛かるかもしれん」
「エルフの国ならそんなものか」
最短であれば三日後には入れるのだ。気長に待つとしよう。
「なら、俺らは武具の完成と申請の受理を首を長くして待っておこう」
「そうしてくれ。刀に関しても完成次第、渡そう。武器が無くて困っているんだろう?」
「いいのか?」
もしかしたら刀をもらって依頼を放棄するかもしれないのに前払いでいいのか。
「そうなったらその時だ。そうならないことを期待するがな」
ガハハ、と豪快に笑って紙きれを渡してくる。
そこには少し雑ながら地図のようなものが描かれていた。
「そこに俺の知り合いがやっている宿屋がある。俺が口聞いといてやるから依頼完了まではそこ使ってくれ」
「分かった」
「今日出来ることは取り敢えずこのくらいだ。また明日来てくれ」
「おう」
軽く挨拶を交わし鍛冶屋を後にする。
集合時間までまだしばらくあったため、一回、宿屋に向かう。チェックインくらいしておいた方がいいだろうからな。
幸い、おっちゃんが融通を利かせて宿泊料はあっち持ちだそうだ。
「最近、きな臭くって――」
「ベルト公爵家の方がクーデターを……」
「しッ、めったなことを言うんじゃない」
「こんちわー」
ちょっと興味深い会話が聞こえてきたが店の前で突っ立っているのは不審者なのでさっさと入る。
部屋を取って取り敢えず時間までそこで過ごすことにした。狭すぎず大きすぎず。ちょうどいい。随分と良い宿屋だな。
ちょっとやる気UPだ。




