第二十話 鍛冶屋
「シェリア、フィル」
「何ですか?」
「何でしょう」
俺が呼びかければ少し後ろを歩いていた二人が駆け寄って来る。
「ここからは単独行動だ。手当たり次第に店を回ってリエールについての情報を聞き出せ」
鍛冶オタクのあいつの事だ。絶対に工房があれば寄っている筈だ。それに、リエールが鍛冶技術を学んだのもこの街だったらしいから恐らく一回は来ている。そうであれば何かしらの情報くらいはあると思う。
「……エルリア様はどうなされるので?」
「俺も情報を集めながら買いも……ゲフンゲフン、リエールを探してみる」
十中八九、今は居ないだろうがもしかしたら、と言う事もある。
「分かりました。合流は何時頃に?」
「陽が沈み始めたらでいいだろう。そしたら宿を取っておくから中央の広場に集合だ」
確認が済めば二人は歩いて行く。
三人で手分をして情報を集める。俺は今いる南側一帯を、シェリアは西を、フィルは東で情報収集をする。
「さぁて、どうするかな……」
二人にああ言った手前、何もしないことはできないが、買い物もしたい。ぶっちゃけ、大した情報なんかあるはずないのでここにリエールが来たことあるか無いか確認が取れればいいかな。
さっき、良さげな店を幾つか見つけておいたので少し街道を戻っていく。
100メートルも戻れば大きな店が増えてくる。ここの区画では中央の方に行くと新しい鍛冶屋が多いが端の方に行くと昔からの大きな鍛冶屋が多い。
さっきの店もここら辺にあるはずだ。
「お、あったあった」
この地区にある店の中でもひと際大きく目立った店だ。店頭に飾られている武器も装飾品のような物から実用的な武具があり、どれも高い品質を誇っている。
階位で言うのであれば希少級ってところだろうか。店頭に飾ってあるのでこれならかなり期待が出来る。
……しかし、高いな。買えない訳ではないがこの飾ってある剣一本で軽く家が建つぞ。
「まあ、高位の武具の値段なんてそんなものか」
「何だ嬢ちゃん?不満か?」
「えっ……と」
店頭で展示されている武具を眺めて値段に驚愕していると突然、強面のエルフに話しかけられた。
「……いや、不満ってわけじゃねぇんだけど、やっぱ値は張るなって」
「そりゃあ、そうだろうよ。こんな武器、扱える奴らはそれ相応の収入を持ってるんだからよ」
確かに、希少級ともなればしっかり扱うにはそれなりの実力が必要だ。そして、それだけの実力があればそこそこ冒険者として成功できるだろう。
で、あれば収入も増える訳でこれくらいの値段設定で妥当……なのか?
「ハハハ、それに、ここは特別生産もやっているからな」
「そりゃ何だ?」
「魔物とか鉱石とかとにかく素材を持ち込んでくれればそいつに合わせて武具を作ってやるっつーサービスだ」
おお。まさにオーダーメイドだな。
にしても、こういったことをしてくれる店は意外と少ない。冒険者単体でやって行けるほど鍛冶屋は稼げるわけじゃない。基本の収入源は7割軍隊や騎士、3割冒険者と言ったところだ。
だから、普段は統一された規格品を作っている。購入した武器の微調整くらいはやってくれるが一から作ってくれる店は少ない。
しかも、聞けば費用は素材が持ち込みのため製作費やその他一部費用だけで済むらしい。普通の武具よりも製作費は上がるが値段はかなり抑えられるとのことだ。
「ふーん、随分と充実してるね」
「まあ、でかい店だしな。それに、客商売なんだ。近頃は軍隊も鍛冶屋からじゃなく自分たちで武器を作っているしそうなれば冒険者向けにこういうのをやってもいいかなって思ったんだよ」
軍隊からの購入が減った?
自分で作ってるってことはお抱えの鍛冶師を増やしたとかかな。まあ、珍しいことではないかな。
「どうだい?店、見ていくかい」
「ああ、そうさせてもらおう」
いつまでも店の前でくっちゃべっている訳にもいかないので店の中へ。
エルフのおっさんはそのまま、どこかへと行った。
ガチャ、と小さく音を立てて扉を開ける。大きな室内に鈴の音が響いた。
店内は広くたくさんの武具が飾られていた。量産品から一品ものまで幅広く展示されている。
「いらっしゃいませ」
店員は愛想よく挨拶をしてくる。洗練された接客スマイルだ。
そのまま幾つかの武器、防具を見ていたのだが目ぼしいものは見つからない。店頭にはいいモノが置いてあったから少し期待したんだが……早とちりかな。
並んでいる武具は大体がちょっと性能の良い一般級か下位の特上級だ。
「何かお探しでしょうか」
一瞬見ては別の場所に移り、を繰り返していた俺を不審に思ったのか店員が話しかけてくる。
「ん?ああ、いや。実はもっと高位の武具を見たくてね。ここの店にはいいモノがあると聞いていたんだが」
「……これ以上となりますと、特上級や希少級になりますが」
「ソレ、見せてくれない?」
「失礼ですが……ご予算の程は」
そう言えば店員が怪訝な顔でこちらを見てくる。
何故、と思ったが直ぐにピンときた。まあ、そりゃあ少女の格好した奴がいきなり希少級見せろなんて言ったら怪しいわな。
因みに、さっきから言っているこの希少級とか一般級とかって言うのは武器の階位。武器の性能を現すもので下から一般級、特上級、希少級、古代級、特質級、伝説級、神話級、創世遺物級の八つに分類される。
基本的に冒険者や軍が使うのは一般級か下位の特上級。性能の良い特上級や希少級なんてのは一般人には手の届かないものだ。
それを買おうとする少女が居たらそりゃあ怪しいだろうさ。
「希少級程度であれば買えるくらいにはある」
「……高いですよ?」
「問題ない」
それでもやっぱり疑念は晴れないのか疑うように聞いてくるが素っ気なく返す。
店員も俺が本気だと理解したのか「お待ちください」と言い店の奥へ品を取りに行った。
「お待たせいたしました」
暫くすると長物を抱えて店員が戻ってきた。厳重に布が巻かれている。
カウンターに置いた長物から布を剥いでいく。剥がれきれば中身がよく見えた。槍、というか斧槍だな。これ。
「こちら、当店が誇る逸品で御座います。銘はありませんが非常に優れた品であります」
うむ……困った。困ったぞ。確かにいいモノではあるが俺、長物、苦手なんだよな。剣とか刀とかの方が使いやすくてあんま使ったことないし。今回の買い物、この前、レクレールに壊された刀の代替えを探すってのもあるからあんまり使いずらい物、選ぶわけにもいかないんだよな。
「これ以外には?」
「残念ながら……在庫には御座いません」
「そうか……ん?在庫には?」
「ええ、当店には特別生産というサービスがございます」
そう言うとパンフレットのようなものを手渡された。内容は特別生産について書かれていた。
「職人と上手く交渉しそれ相応の素材を渡せるのであれば……或いは」
「ふむ。では、それを頼む」
特に躊躇う事もないので頼んでおく。相談するだけならばタダらしいので。
「分かりました。鍛冶師はこちらで見繕った者になりますが、よろしいですか?」
「ああ、問題ない」
そう言うと「ついて来てください」と店の裏方へと入っていく。カウンターの後ろの扉を開ければ倉庫がありその更に奥の扉を開ければ工房と繋がっていた。ドアが開いた瞬間にムワッとした熱気が外へと飛び出し肌を照り付けた。
カンカンと金の音が絶えず鳴り響いている。
慣れているのか店員は一切、反応を示さずずかずかと奥へ向かっていく。壁際で作業をしている鍛冶師の前にまで来ると名前を呼んだ。
こいつ、どっかで見たような……
「シェルさん!!お客さんです!」
金の音に負けないように声を張り上げ店員は鍛冶師を呼んだ。
するとごつい体の一見するとドワーフと見紛う程の肉体を持ったエルフがゴーグルを外してこっちを向いた。
「ああ……そうかい。ちょっと待ってくれ。今終わらせる」
一瞥だけすると残っている剣を再び打ち始めた。
「すみません。仕事の途中だったらしく……」
「大丈夫だ」
にしても、ちょっと驚いた。
さっきのおっちゃんがここの鍛冶師だなんてな。




