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覇王譚  作者: 砂糖は甘い
王の再来
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第十七話 二人目

 シェリアの家を後にした俺は中央の広場へと向かう。

 里はそこまで細かく区分けされている訳ではないがそれでもある程度、場所ごとで分かれている。

 折角だから紹介しておこう。


 里の中心から向かって北側。

 ここには近くに鉱山、そして大河が流れていることから鍛冶場がいくつか並んでいる。規模はそこまで大きくなく作られるものも質がいいとは言えないが農具や武具はここで賄われている。

 民家は他に比べ少なく住んでいるのも鍛冶師とその家族くらいである。


 次に東。

 民家が多く一番人の多い地区。食堂や会議場など施設がいくつかある。特筆することのなく一番地味な場所だ。

 西は北側と同じく大河と近いため、農地があり小規模ながら農業をしている。茶葉や一部、野菜類などを作っている。生活の足しにはなるがそれを加味しても全く足りているとは言えない。

 作った茶葉は偶に人間や他の魔物に売ったりしてお金に換えているらしい。


 南側には訓練場がある。元々、闘争本能の強い魔族のため、戦いを求める奴らも少なくないらしく息抜きの場として使われているらしい。

 狩猟班の訓練にも使っている。


 因みに俺の家は希望によって東側につくられるそうだ。

 ルフェアの家は南の方に建てられているのでてっきり近くにつくられると思っていたのだが。


「……しかし、この現状はどうにかせねばな」


 先述した通り、里では食料始めあらゆるものが足りていない。

 狩猟だけでは武具の性能や周辺の魔物の脅威度から賄いきれずだからと言って大規模な農作をする技術も土地もない。

 外から仕入れが出来ればまた話は違ってくるのだろうが他の魔物であればともかく、魔族の交渉に応じてくれる人類が居るとは考えにくい。


「問題は多いな」

「そうですね」

「うぉ?!」


 誰にともなく呟けば背後から返事が返ってきた。

 吃驚して変な声が出てしまった。


「失礼、不躾でしたかな?」

「いや、そんなことは無いんだが、お前が……」

「ええ。私がフィル、今回、遠征にご同行させていただくうちの一人で御座います」


 立っていたのは金の長髪を綺麗に流した美丈夫(イケメン)。体つきもがっしりとしているが細身で暑苦しさは感じない。

 しかし、魔族ってのは美男美女しかないのか?


 まあ、いい。

 ともかく、こいつが今回の遠征で御付きをする二人目、フィル。

 普段は狩猟をしていていつも戻って来るのは夕方だとか。ライトグランドの深部で狩りが出来る、というだけで実力に期待が出来る。

 それにしても……


「何というか、シェリアとは違っていいとこの坊ちゃんみてぇだな」


 シェリアと比べてこいつはキャラがかなり違う。

 こいつは良いところの御曹司のような気品を感じるがシェリアは田舎の優しいお兄さん的な感じだ。どちらが良い悪いは無いが話しかけやすいのはシェリアだろう。


「ハハハ、シェリアと比べられれば誰であろうとそうではないですか?あいつの人畜無害さには敵いませんよ」

「……そうか」

「そう言えば」


 納得したように頷いていればフィルが思い出したように切り出した。


「メルドルン行きであることは伝えられていますが……その目的までは知らないんですよね。言えないことなのでしょうか?」

「いや、そんなことは無い。恐らくルフェアの伝え忘れだろう」


 それを聞いたフィルは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして驚いていた。まあ、そうなるわな。

 ルフェアを知る者からすればあいつが報連相を怠ったなんてのはあり得ないようなことに思えてしまう。


「と、なると後ほど連絡がある感じで?」

「あるかもしれないが面倒だからここで伝える」


 確かに後で連絡があるかもしれないが別にここで伝えてしまっても問題はないだろうからな。二度手間になる可能性はあるが伝え忘れのリスク低減のためだ。


「して、何をしに行かれるので?」


 簡潔に先ほどシェリアに伝えた時と同じように目的を話す。シェリアと違ってこちらは多少、目を丸くして驚いていたがフリーズすることは無くわりかしスムーズに飲み込めているらしい。

 頭の回転はこっちの方が速いのかもしれない。


「……しかし、エルフの王族ないし親族をスカウトですか」

「そうなるな」

「難しいでしょうな」


 しかし、返ってきた反応はシェリアと似たようなものだった。あいつほど大袈裟なものではないがそれでも難しい顔をして唸っている。

 そりゃそうだ。


「ご存じではあるでしょうが……エルフの王族は大変な権威を持っております」

「ああ、分かっている。簡単ではない。でも、それが一番、可能性があって現実的なんだ」


 そう。ここまで二人には語っていないが俺がリエールに拘る理由は知り合いである以外にもある。

 魔族と言うのは世界的に嫌われている種族と言うのは幾度も言ってきたが技術者だって例外ではない。人類に属する以上、「魔族の里で技術者をやってくれ」なんて言ったら間違いなく良い顔はされないだろう。十中八九、断られるのが目に見えている。

 でも、リエールであれば問題はない。

 元々、魔王の元、魔族の国で働いていたのだ。魔族に対して偏見や嫌悪感と言うのは限りなく低い筈だ。少なくとも魔王とは仲が良かったのだ。だからこそ、断られる可能性が低いリエールに拘る。


 それを知ってか知らずかフィルは頷く。


「まあ、彼の鍛冶師は限りなく奔放であり何にも縛られないと聞きます。対価さえあるのであれば雇い主関係なく基本的に仕事は受けていると」


 やはり、理解が速い。

 シェリアも頭が悪いわけではないだろうし十分に理解も早かったが何というか俺の事を若干、子供として扱っている節がある。

 見た目は子供で心は17歳の高校生だがそれでも内面は(自分で言うのもなんだが)遥かに長い時を生きているんだ。知恵だって、力だってこいつらよりもある。


 それに比べてフィルは俺の事を目上の者として扱っている。ルフェアにやっているように対応しているのか何処で覚えたのかは分からないが少なくとも自分よりも格上として扱っているため会話がスムーズだ。


 シェリアの対応が嫌と言う訳ではないがこと、事務的な会話においてはフィルの方が快適だ。


「ま、本当に受けてくれるか行ってみないと分からないからな。明日の明け方には出るから準備を済ませておけ」

「ええ、承知しました」


 その後はフィルの家まで歩きながら雑談をした。

 主に俺が愚痴を言ってフィルが相槌を打って逆にフィルからは里のここを直してほしいとかの要望を聞いていた。

 家に着くころにはすっかり日は落ちて月が昇っていた。周りの家から漏れ出る明かりによってそこまで真っ暗ではないが視界は良くない。家に泊っていっては、と誘われたが断っておいた。

 俺の仮の寝床を用意してもらっているんだ。使わなければ意味がないし失礼だろう。


「そうですか。では、明日からよろしくお願いいたします。そして、良い夜を」

「ああ。頼んだぞ」


 フィルが頭を下げ俺が命じる。

 シェリアとは少し違った別れ方だが、そこに壁は感じない。主と(しもべ)。そうであっても確かな絆を感じさせてくれるものだった。


 分かれた後、機嫌が良くなり暫く歩き回って怒られたのは別の話。

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