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覇王譚  作者: 砂糖は甘い
王の再来
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第十六話 準備

 龍……もとい、レクレールを仲間にしてから数日。

 メルドルンへの出立の為に色々と準備をしていた。


「ルフェア、俺一人じゃ本当にダメなのか?」

「ダメです。貴方一人では何を仕出かすか分かりません」

「いや、そんなに無茶なことはしないよ」

「そうだとしても、です。その点において信用がないんですよ。貴方は」


 尤もなことを言われてしまい言葉に詰まる。最悪、暴力でどうにかしようと思っていたため、捻りだした反論の言葉も歯切れが悪い。


「しかし……一人の方が身軽だし……」

「私の最も信頼する者を付けましょう」

「リスクが増えるし……」

「かの国では教会であっても私刑は許されず王の名のもとに厳格な法治がなされています」

「……」


 どんどんと一人で行く理由が潰されていく。

 いや、確かに人数が多くても特に問題はないのだがそうなると遊んでいられないのだ。ルフェアに遊んでいたなんて報告が飛べばどんな説教が降りかかるか分かったものではない。

 折角、技術力の高いエルフの国だから宝飾品とか武具とか見ていきたかったんだけどな。


 まあ、我儘を言っていられる状況でもないから自重するけど。


「分かった。ついてくるのは良いがあまり人数を増やすなよ。本当に何かあった時に守り切れない」

「承知しております。御付きは二名。この里において私に次ぐ実力の持ち主で口も上手いですよ」

「そうか。頼もしいな」


 人選は終了。

 後は荷物を纏めて発つだけだ。


 と、言ったはいいが荷物自体は既にまとめ終わっている。そもそも、あんまり持っていくようなものもなく強いて言うなら冒険者証と金と食料くらい。

 金と冒険者証は俺が今持っているし食料に関してはもうちょっとで調達完了するとのことだ。

 幸い、レクレールは高位の龍だったため食事の量はとても少なくて済むらしい。何なら一週間くらいなら飲まず食わずでも大丈夫なようだ。


 今日の夜までには準備は終わるだろうから明日の明け方に出発する。

 レクエールは一番大きい状態であれば三人が乗っても十分に余裕がある。

 速度も中々のモノだから割と早くつくのではなかろうか。


 しかし、そうなると暇だ。自分の荷造りが終わっているからやることがなくなってしまった。下手に食料の事に口出すわけにもいかないし……


「ルフェア」

「何でしょう。エルリア様」


 名前を呼んだだけで何処からともなくルフェアが現れた。

 内心ビビったがそれを表に出すのも癪なので平静を装って話を続ける。


「連れて行く二人と顔合わせだけでもしておこうかな、と」

「そうでしたか……では、お呼びいたしましょうか?」

「いや、いい。何処に居るかだけ教えてくれ」


 一人目は現在作業中、二人目は家に居るだろうとのことだ。

 なら、二人目の方から行こう。

 家は里のはずれの方にあって簡素なものだ。


 ドアを叩いて反応を待つ。

 少しすればガサゴソと中から音が聞こえドアが開いた。中から出てきたのは魔族にしては珍しく褐色の大男だ。前世で会っていたらスポーツ選手と間違っていたかもしれない。

 筋肉質で大柄な体躯は相対した者に威圧感を与えるが、顔は対照的に穏やかで人懐っこい壮年の男性と言った感じだ。


「よぉ、お前がシェリアか?」

「ええ、そうですが……」

「そうか。俺はエルリア。ルフェアから話は聞いているか?」


 その瞬間、シェリアは、はっとした顔になって慌てて頭を下げようとする。

 俺はそれを手で止める。

 何もそんな仰々しい反応を期待していたわけじゃない。話を聞きたいだけなのでさっさと挨拶を済ませたい。


「そんなに畏まるな。俺はこれからメルドルンに一緒に行くチームメンバーとしてお前に話を聞きに来ただけだ」

「そ、そうですか?」

「ああ、この場において礼は不要だ。楽にしろ……というよりここはお前の家なんだから好きにしていいんだぞ?何なら寝転がっても……」

「流石にそれは……」


 まあいい。

 入口のところでいつまでも話していては色々と不便も多いだろう。家の中に入る。家は部屋が一つあるだけの狭いものだが、一人で生活するならばそこまで困らないだろう。

 寝台も囲炉裏もあって料理も寝る事も出来る。


「なかなかどうしてこういう家もいいもんだな」

「ハハハ、このような状態ですみません……何分、一人暮らしなので」

「いいさ。変に小綺麗なのよりこっちの方が落ち着く」


 部屋にはモノが沢山散らかってはいるが足の踏み場はまだあるし不潔さは感じない。単に散らかっているだけだ。不潔な状態ならともかくそうでないのならもともと小市民の俺は落ち着く。


「しかし、驚きましたよ。急にルフェア様からメルドルンに行けと言われた時は」

「まあ、それはそうだろうな」


 俺でも同じ立場なら驚く。

 何せ、あの"エルフ"の国に行けと言われたのだから。

 エルフと言えば現世において屈指の魔族嫌い。教会のように宗教上の理由からして神敵としている訳でも無く根本的に種族としての相性が最悪なのだ。

 方や自然を愛し感謝し知性を愛す比較的温厚で静かな種族。方や力こそ全てで何千年も争いを続け統一されたかと思うと直ぐに現世の国や神と戦争を始める蛮族のような種族。

 相性がいい筈がないのだ。


 魔族側はそうでもないのだがエルフがとにかく魔族を嫌っている。

 そんなエルフの国に行けと言われれば驚くだろう。


「んで、何でメルドルンに行くんですか?」

「ルフェアから聞いていないのか?」

「はい。いずれ説明すると」


 ほぉ……あいつにしては珍しく伝え忘れか?

 いや、本当に後で伝えようとしているだけかもな。どっちにしろここで話しても問題はないだろう。

 サクッとメルドルン行きの理由を教える。


 シェリアはまたも驚いたような表情で今度は固まっていた。

 フリーズした脳みそが再起動するまで暫く茶を啜って待っていれば再起動したシェリアが早口で疑問をぶつけてくる。

 大男が慌てたように言葉を紡ぐ様子は本人の温厚な顔も合わさって非常にシュールで笑いを誘う。


「ふふ……」


 少し笑いが零れシェリアは怪訝な表情でこちらを見てくる。


「すまん。で、何だって?」

「……()()リエール様とエルリア様が知り合いだってことだけで吃驚ですが、何よりエルフの王族なんですか?!」

「まあ、親族ではあるからな」


 そんな風に言えばシェリアは何故か呆れたように息を吐き俺をまっすぐに見据えて言う。


「分かっていないようなら言いますがエルフの王族に連なる者を連れ出すのは困難ですよ!!」


 シェリアが言うにはエルフと言うのは血統を重視しその系譜に連なる者は例えどれだけ血が薄かろうと割れ物のように大事に扱われるようだ。それ故に王族が国外に出向くことは殆どなく半ば王宮に軟禁状態のようだ。

 それを連れ出そうなぞ自殺行為である。


 一度、王室から離れていたとしても同じことであり現在、王宮にて王族自ら匿っているというのであれば連れ出すのは大変難しくなる。


「う~む……そうは言ってもなぁ。やってみないことには分からないし」

「死にたいんですか?身元不明者が急に来て王の親族に会わせろなんて言ったら即、逮捕ですよ」

「……まあ、その時はその時だ。王だって変わってなけりゃ俺の知り合いだし最悪どうにかなるさ」

「はぁ……知りませんよ。どうなっても」


 疲れたように頭を押さえ椅子に座る。

 その後は雑談をして時間を潰した。ルフェアはどうだとか、暮らしはどうだとか、俺の評判とかについても聞いておいたがいいモノと悪いものがあったので幾つか訂正しておいた。何故かさっきよりも呆れの含まれた目線で見られたような気がするがきっと気のせいだろう。


 暫く話していればすっかり夜更け。

 そろそろもう一人の方も仕事が終わるころだろう。お暇しよう。


「もうこんな時間か」

「おっと、もう日が傾いていますね。いやあ、久々にこんな話しましたよ」

「俺もだ。楽しかったぞ」

「私もです。明日からがちょっと楽しみです」


 来た時よりも明るい顔でそう言ってくれた。少なくともメルドルン行きに暗い感情は持たれていないようで良かった。


「もう一人の方に会いに行かなきゃならない。そろそろお暇させてもらう」

「分かりました。明日からはよろしくお願いいたします」

「こちらこそ」


 俺は固い握手を交わしシェリアの家を後にするのだった。

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