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覇王譚  作者: 砂糖は甘い
王の再来
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第十四話 本音

「ッ……」


 俺らしくない、か。

 ルフェアにはそう感じられたのか。こいつがどんな俺を想像していたのかは分からないが失望させてしまったかもな。


「……失言、でしたかな」

「いや、そんなことはない。俺もらしくないとは思っていたさ」


 まあ、俺も心の何処かでは思っていたことだ。こんな逃げ回るように各地を転々として惰性で生きる。夢も目的も無くただ、生きる。

 ”あの子"がいたらこうはならなかったかもしれない。全力でできること全てやって勇者を殺しに行ったかもしれない。だけれど、ここには”あの子"は居ない。結局、俺は堕ちた。

 気概も夢も捨てて。


「俺は、弱い。”あの子"がいなければ一度、負けただけで立ち上がることすらできなくなる」

 そうだ。俺は、弱いんだ。友達が死んだ。仲間が死んだ。あいつが、こいつが死んだ。

 それでも悲しみ悼むことはあっても折れることはなかったのに”あの子"一人、いなくなっただけで泥沼に沈み抜け出せなくなる。

 いつまでも、いつまでも。


「エルリア様」

「……何だ」

「貴方はなぜ生きるのですか?」

「なぜって……死にたくないから」

「それでいいではないですか。我々の生きる理由などそんなものです。人生の目的なんてのは"死なない理由"であって"生きる理由"ではないのですから」


 そうルフェアは言った。

 人間は"死なない理由"を持って生き、"生きる理由"を無意識で選ぶ。

 今は、それが裏返っているだけ。ならば、俺にだって"死なない理由"はあると言う。


「……それに、あなたは”あの子"が死んだ前提で話していますがおそらく死んではおりませんよ」

「は?」

「我々が襲撃され一連の出来事が終結したときに新聞に戦果が大々的に載せられたのです。私や一部の魔族は行方不明、魔王様とエルリア様は死亡、酒呑童子は封印と書かれておりました」


 しかし、その名前の中に”あの子"の名は無かったと言う。教会が目の敵にしてた”あの子"が死んだのであれば確実に記事になるはずだというのに。で、あれば、死んだ可能性は低いそうだ。


「それに、あなたは薄々、気付いているのではないですか?」

「それは……ッ」


 俺と”あの子"の異能は深く繋がっている。それを探れば生きているかくらいなら分かるだろう。でも、俺はしなかった。もし、死んでいたら俺は耐えられない。怖かったから。

 けれど……


「エルリア様、彼女は生きています。この程度で死ぬのであれば貴方の傍にああまで長く居続けることはできなかった。いつまで落ち込んでいるつもりですか?笑われますよ?彼女にも、魔王様にも」


 そうだ。

 あいつも、”あの子"も笑うだろうな。今の俺を見たら。それは……なんかやだな。ウザい。

 それに……

「一度、敗けただけだ。次に勝てばいい」


 ああ。生きているんだ。だったら、次に賭ければいい。そうやって今までも生きてきた。負けても足掻いて足掻いて最終的には勝ってきた。どんな手を使っても。

 なら、今回もそうするだけだ。

 いつだってやってきた。ただ、今回はちょっと難しいだけ。


 ……これだけ、沢山、失わないと気付けないんだな。たった、これだけのこと。

 まあ、でも、いい。これから間違わなきゃいいだけだからな。


「……ハハ、ハハハ、ハハハハハ。ありがとう、色々と、思い出せたし踏ん切りもついた」

「それは、良かったですじゃ」


 俺はさっきまでの弱々しい表情ではなく獰猛な肉食獣のように嗤ってみせる。それに対してルフェア優しく微笑んで来る。思えば随分とどうでもいい事で悩んでいたんだな。

 それでも、立ち直れたんだし良しとするか。


「そういえば、何か他にも言いたいことがあるのではないか?」


 勝手に俺の話で盛り上がってしまったが何か言いたいことがあったのではないか?

 ただの近況報告をするためだけにこの、困窮した里に呼ぶとは考えづらい。


「ああ、そうでした。実は本題はこちらでして、お願いしたいことがあるのですじゃ」

「何だ?悩みを聞いてもらったしできることなら聞いてやるが」

「この里の、長として我々を導いてほしいのです」


 ……は?

 今なんて?俺に長っつった?導いて……里の……え?

 俺に、この里の指導者をやってほしいってことか?

 いや、なんでだよ。俺は指導者には向かない。過去には何度も言ったはずなんだが……もしかして覚えていないのか?

 ともかく、無理だ。俺は、必ず独裁者になる。それは、皆にとって良くないだろう。


「無理……」

「そうですか、受けてくださいますか!!」

「……あのな」


 勢いで乗り切ろうとするルフェアに呆れた顔を向けて言う。

「俺は絶対に独裁者になるぞ?自分のしたいことをするクソみたいなやつになるかもしれない」

「なにか問題が?この世界の指導者なぞ程度に違いはあれど皆、同じようなものでしょうに」


 ……そういえば、ここ、中世だったね。王様の権力が強くなり始めた時期だったね。

 意外なことに王様が最も力を振るったのは15世紀から16世紀の前近代と言われる時代だ。つまり、正確に言えば中世ではない。

 理由は様々あるが一番は宗教だろう。地球において中世には教会が長らく権力を握っていた。その権威は各地の王族は勿論、時のローマ皇帝でさえひれ伏した。半ばヨーロッパ各国は教会の属国であった。

 しかし、国の制度が近代に近づくにつれて教会は排除され他の要因でも宗教勢力が弱ったこともありこのころに絶対王政が完成した。


 ただ、忘れてはいけないのはここが異世界であると言う事。

 時代的には中世でもいろいろな要因から絶対王政が既に完成しているのだ。要因としてはそもそも教会勢力が単一の勢力として独立していること、そもそも他国の内政干渉を好まないこと等が挙げられ国防の観点からもこの世界では王様の権力は強い。


「うーん……」


 見事に逃げ道を潰されたな。

 いや、別にやりたくない訳じゃないが……俺でいいのか?と純粋に疑問だ。


「それに、貴方様の最優先は自身の願望。で、あるならば我々も悪い方向に行くことは無いでしょう」

「……」


 確かに、手の届く範囲の仲間が笑顔で暮らすことは俺の願いでもあるんだが……それでも、俺は初心者だ。国政なんかやった事ないし、帝王学なんて一ミリも知らない。


「実は、我々、魔王様から有事の際はエルリア様を頼れと言付かっていまして……貴方であれば支配者たりえると、そう仰っておりました」

「あいつが?そりゃあ……ありがたいな。確かに、やってみるのもいいかもな。前は、あいつに任せっきりになっちまったし」


 それに。俺一人じゃどのみち厳しいだろうからな。選択肢は多いに越したことは無い。

 自信はないが、いっちょやってみるか。いつまでも、他人任せじゃいられねぇしな。


「分かった。その話、引き受けよう」

「よろしいので?」


 ルフェアは少し笑みを浮かべながら確認してくる。

 ああ、と返しこっちも笑い返す。


「にしても、勝手に決めていいのか?」

「ええ、文句は言わせません」


 とてもいい笑顔で言われてしまった。得も言われぬ迫力を醸し出して威圧するように微笑んでいる。この様子であれば問題は無さそうだな。この里じゃやることが多すぎて退屈しなさそうだな。

 忙しい方が暇よりもずっといい。それが、望んだ忙しさなら尚更だ。

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