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覇王譚  作者: 砂糖は甘い
王の再来
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第十三話 覚悟

「お前、名前は?」

 俺はフードの人物に聞く。


「儂、いや私はルフェア。元魔導国指南役にして現世統括を任されておりました。お久しぶりです。エルリア様」


 そう言ってフードを下げ俺に跪く。

 驚きのあまり口から掠れた呼吸音のようなものが漏れ出し目は大きく見開かれる。そのフードの下にあったのは年齢を感じさせる白髪と皺の入った顔。自然と親近感を沸かせ柔和な雰囲気を感じさせる。何よりの特徴は頭の側面から大きく生える二本の角。

 その顔は俺が飽きるほどに見慣れた嘗ての師の一人と同じであった。


「ルフェア……本当に?お前、なの…か」

「ええ、と、言いましても証明する手立てはありませんが」

「……はは、軽口は相変わらずか」


 俺の口からは想像以上に弱弱しく乾いた笑いが漏れ出る。

 色んな感情が沸き上がり綯い交ぜになる。後悔に喜び、怒り。数え始めればきりがなく心の内は感情の坩堝のようになっている。

 結果、俺の捻り出せた言葉は無く蚊の鳴くような笑い声だけが木霊した。


「ああ……ハハハ、は、はは」


 何かを堪えるように嗚咽を抑え込んで笑う。何千年ぶりかにあった旧知の人物。本音をぶちまけられる程、信用できる人物。当然、嬉しい。死んだと思っていたのに、またこうして会うことが出来たんだ。滅茶苦茶嬉しい。

 でも、何でか激情がこみ上げてくる。気を抜けば今すぐにでも泣いてしまいそうなほどに。

 そんな俺の様子を見て何を察したのかルフェアは一度、目を深く閉じると溜息を一つ吐いて言った。


「泣きたいのであれば泣きなされ。貴方様は永く一人だった。ならば、今くらいは気が済むまで思いっきり泣きなさい」


 ……敵わないな。いつも、こいつには助けられた。俺が一人で突っ走った時も死にそうな時も、数えきれないくらいに貸しがある。

 ルフェアは泣け、と言ってくれた。でも、やはり嫌だ。恥ずかしいし。

 だから、笑って嗤って大笑いする。誤魔化すんじゃない。全部、感情を乗せて吐き出すんだ。中に溜まった鬱憤を全部。


「アハハハハ……ハッハッハ、そうか。生きて、いてくれたのか……ありがとう……」


 半ば泣き笑いのようになりながらも一しきり笑う。腹が捩れてつりそうになってもまだ笑う。そして、ある程度、満足したところで大きく息を吐いて落ち着く。


「ハハハ……はぁ、全く、生きていたんだな。ルフェア」

「はい。君主すら守り通すことのできなかったこの身ですが、与えられた命ですので自害などとても……」

「いや、そうじゃなくてな、勇者からよく逃げ延びたな」


 俺の問いに対して目を伏せて答えるルフェアにそうじゃないと返す。別に責めている訳ではないのだ。単純にあの状況で良く生き延びられた、と感心しているのだ。

 すると、ルフェアは少し意外そうにこちらを見ると「場所を変えましょう」と一言、言い放つとさらに奥地に進んで行く。


「どうした?」

「いえ、何があったかお聞きになりたいのであれば長くなりますので、立ち話も何ですし」

「すまんな。で、何処に行くんだ?」

「我が里に」


 里、と言ったな。

 ライトグランド内には数多くの種族が混在し村や里を作っている。ルフェアもまた、どこかの里で暮らしているのかもしれない。しかし、この戦乱極まる森で自分以外の種族をそうやすやすと受け入れる場所があるのか?

 それとも、魔族の里が……そうであればあの時の生き残りが他にもいるかもな。

 まあ、行ってみれば分かる話か。


「里、ねぇ」

「ええ、我々、魔族の生き残りが造った里です」

「魔族の里!!」


 着く前に答えが出てしまった。

 魔族の里だと!!やはり、こいつ以外にも生き残りは居たのか。

 やっぱりこいつらは最高だ。この分なら、まだやれる。


 数分、歩けば沢山の建造物が見えてくる。ただし、それらはボロボロと寂れており廃墟となっていた。少し奥に視線を移せば廃墟と比べてもかなり貧相と言わざる得ない家が並んでいた。

 ここが、魔族の里……か。随分と酷いありさまだ。先代魔王の面影が一歳と言っていいほど残っていない。廃墟はもはや利用できるものではなくだからと言って建てられている家も酷いものだ。


「これは……酷いな……」

 想像以上だ。悪い意味でだが。

 流石にここまでではないだろうと思っていたのだが、越えてきたな。


 里に近づいて行けば徐々に魔族たちが見えてくる。皆、襤褸切れのような服を着ている。よく見てみればルフェアの服も辛うじて人間の着ている服のように見えるがとても品質がいいとは言えない。

 見たことのない顔の俺を魔族は怪訝そうに観察してくる。ルフェアが言うには人口は数百もいないらしいから全員、顔くらいは分かるのかもしれない。

 そんなところに明らかに幼い人間が来たんだ。気になるってもんだろう。


 俺をジロジロと見ていた魔族は次にルフェアと目が合って慌てて視線を逸らして走り去っていった。


「すみませんな。礼儀がなっておらず」

「いいさ。そう頻繁に客人など来ないのだろう?ならば仕方ない」

「……そう言っていただけると幸いです」

「で、ここがお前の家か」


 里に入って直ぐ、ひときわ目立つ(とはいっても粗末ではあるが)家があった。ルフェアはその家の前で止まり中に入るように促してくる。

 さっきから思っていたがこいつ、この里じゃかなりの重役なんじゃないか?

 この状態の里でこれだけの家と服を持っていてさっきの魔族の反応も合わせればあながち間違っていないと思うが。それに、年齢的にも実力的にもルフェアは信頼できるだろうからな。こいつが長でも俺は驚かない。


 一人で勝手に納得しているとお茶を取りに行ったルフェアが戻ってきた。そのまま俺の前の席に座るとこちらに茶を渡してくる。これもまたあまり上質ではないがそこまで悪いものでもない。


「良い点前だ。ここは茶が有名なのか?」

「ええ、品種改良は余裕がなく出来ていませんがかなりいい茶葉がここらでは取れるのです」

「ふむ……話が横道に逸れたな。本題に入ろう」


 俺は表情を引き締め言う。

 今まで、何があったのか、俺が負けてからどうなったのか、詳しく聞かせてもらおう。


「そうですな……どこから話したものか……まず、最初に我々と魔王様は勇者に敗れ魔族側の現世にある都市は教会によって破壊しつくされました」

「ああ。それは覚えている」


 その時、俺は別の場所に居たからな。報告を受けた時は怒りと驚きでどうにかなりそうだった。

 その後、俺は勇者と戦った訳だが結果はお察しだ。実力だけなら負ける要素がないってのに負けてしまった。

 これより後の事はからっきしだ。新聞とかに載る様な事であれば把握しているが教会の都合もあってか殆どそのことが載らなかった。

 第一として魔族たちは魔王と言う庇護者を無くし教会と勇者によって追い立てられた。大半は人間の住まない大陸の奥地に逃げ込むか行方を眩ませた。故に、どうあっても居場所を掴むのは難しかっただろう。


「教会、勇者、果てには我々と同盟を結んでいた国々も神敵として殲滅を開始しました」


 ……確かに、そんなこともあったな。それまで三勢力で割れていたこの大陸の国々だが魔王が死んだ直後に大半が魔族側から寝返っていたんだったな。

 勇者、ひいては教会の手引きがあったのは確実だな。


「結果的に魔王様の死亡時にはまだ多くいた同胞は大半が殺され生き残った者も捕らえられ奴隷となるか我らのように極貧の生活をこの森の奥地でするしかなくなってしまったのです」


 ルフェアの言を聞くにかなり苛烈に魔族狩りは行われたそうだ。魔族や魔族と関りがある者は勿論のこと魔族が親類に居る奴や、果ては魔族を見たことがあるだけでも処刑されることがあったらしい。

 それと同時に魔族の奴隷化も進められた。これは俺も知っている。各地で放浪する魔族を捕らえ奴隷として売った。そんな様子を俺はかなり見た。

 魔族は人間よりも身体能力も魔力も強い。種族として人間よりも強い。故に奴隷として売れば途轍もない額が付くだろう。しかし、難点もある。

 捕らえるのが難しい。

 先述の通り魔族は人間よりも強い。基本、奴隷商では捕まえられても弱い魔族や子供だけ。成人した魔族はまず捕まえられない。

 だが、拠点もなく放浪するだけの魔族であれば、しっかり準備を整えれば無理ではない。


「そう……か。頑張ったな」

「……エルリア様、良ければ貴方様のお話もお聞かせ下さいませんか」

「いいが……お前らと違って……というのもどうかと思うが、つまらんぞ?」

「しかし、これは近況報告でありますれば私だけ話すというのは不公平(アンフェア)ではありませんか?」

「分かった分かった」


 お手上げだ、とばかりに両手を上げ軽く概要を話す。

 俺はルフェア達程、劇的な生活をしていたわけじゃない。勇者に敗れ、"あの子"に逃がされそこからはひっそりとただひたすらに教会と勇者に見つからないように生活してきた。

 平行して封印された力の欠片を探してもいたがあまり派手に動けないため進展はほぼ無し。

 最近は半ば惰性で生きるようになってきていた。


「こんな感じだ。面白い話ではないだろ」

「いえ、そうではありませんが……」


 ルフェアは微妙な顔だ。話がつまらない、と言う訳ではないだろう。こいつはそう言ったことをここまで露骨に出すことは無い。あれやこれやと考えていると躊躇いがちにルフェアが口を開いた。


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