第一話 死亡
「はぁ…」
カフェの中で一人、大きくため息を吐く。少年の名は黎堂凛。御年17歳の高校生である。
そんな彼は今、重大な問題に直面している。試験という重大な問題に。勉強が上手くいかず煮詰まっていたところ、友人から「一回外出てリフレッシュしろ」と言われたため現在、近場のカフェに入っている。因みにだが、凛自体の成績は全く悪くない。点数も平均以上は取っているし授業態度も悪くない。今のままで全く心配いらない状態だ。
「お待たせしました~」
窓際で外を眺めていれば頼んでいたカフェオレがやって来る。ゆっくりと飲めば程よい甘さとミルクの濃厚さが口いっぱいに広がっていく。
「はあぁ」
先程のため息とは質の違ったため息が出る。
「…怠いな。今日は休むか」
誰にともなく呟く。思えばここ最近、まともに休まずずっと勉強をしていたような気がする。偶にはゆっくり休むのも良いだろう。
「ん?」
片手でカフェオレを持ちもう片方の手でスマホをいじる。
そんな風にネットニュースを漁っていた凛は気になった記事があったのか指を止める。
「殺人犯…東京も物騒になったな」
記事にはここ周辺で起こった連続殺人事件について書かれていた。被害者は主に学生。特に高校生が多いらしく凶器は拳銃だそうだ。
が、特に関係もないことだと直ぐに別の記事を漁り始める。
一人の学生にとってはあまり興味の惹かれる内容ではなかった。
暫くの間、ちびちびとカフェオレを飲みケーキを頼んだりして暇をつぶした。参考書を開こうかとも思ったが休むためにここに居ることを思い出し留まった。日が少し傾き始めた頃、凛は席を立ち会計に向かった。
入れ替わるように店には一人の男が入って来る。年の頃は二十代後半。入り口で立ち止まっていたためどうしたものか、と少し挙動不審になっていると何やら懐をまさぐり始めた。
「え?」
懐からは一つの黒い塊が取り出された。一瞬、それが何か理解できなかった。
次の瞬間にはバン、バン、バン、という破砕音と共に閃光が瞬いた。
「ぐッ」
直後に胸から凄まじい痛みが襲ってくる。同時に地面へと倒れ伏す。
「きゃぁぁぁぁぁ」
「なッ何だお前!?」
「うた、人が撃たれたッ!?」
カフェの中の人たちが騒ぎ始める。その言葉の内容から自分がどんな状態なのかある程度、想像ができた。辛うじて動く腕を胸へと持っていき確かめる。
腕には生温かい感覚が伝い鉄臭い臭いが鼻を刺激する。
「黙れ!!お前らもぶっ殺すぞ!!」
ああ、俺、撃たれたのか。
薄れていく意識、体温の無くなっていく体。そんな状態の中、異常な程に思考は冷静でいつも通りだった。
「あ…そ、いえ…ば、裕の、漫画…借りっぱなし…」
そんなことをうわ言の様に言う。誰にも聞こえないほどにかすれた声で。
死が間近に迫っているというのにあまり恐怖心はわかない。それよりも脳裏に浮かぶのは漫画を返せなかった時の親友の表情と大嫌いなクラスメイトの面だった。一方には申し訳なさ、もう一方にはありったけの怨嗟をぶつける。
黒づくめの男は既にカフェの奥の方に行っておりここにはいない。それどころか通行人やギャラリーもこっちに近づいてこないから一人でポツンと倒れている形になっている。
逃げれないか体を動かそうとするが動かない。そもそも、朦朧とした意識でまともに動ける筈がないか。
途切れそうな意識を何とかつなぎとめていたがそれも限界だ。
一つ、大きく息を吐くと静かに、そして、余りもあっさりと息を引き取った。




