Ep1
少女は夢を見ていた。
自分は今…海に沈んでいる…あの2人に嵌められ、落とされたあの海に…
「(頭が痛い…体のあちこちが痛い…)」
しかし不思議と水の冷たさを感じないし、やけに体が重く、手足が動かない…体の痛みとは異なるモノだった。それだけじゃない、息苦しさも感じない。
まるで沈んでるのに、浮いてるような感覚だ…
その時光を差し込む海面に黒い影が伸び、光を遮った。影は光を遮断しただけでなく…人の腕のような形になり、浮かぶ少女に近付いてくる…
「(なに…)」
黒い腕が少女の顔に触れた瞬間、少女は目を覚ました。
▼△▼△
「はっ!」
黒い腕が顔に触れる瞬間に目を覚ました。夢で感じていた体の痛みはそのまま感じる。それに加えて喉の痛みに頭痛、怠さを感じる…。変な夢を見たが体は汗でびっしょりではなかった。
最悪な状態だが少女の目と頭ははっきりとしていた…
「(ここどこ!?)」
少女が目覚めた所は、先程いた何処かわからない地面ではなく、貴族の寝室のような豪華な部屋だった。フカフカなベットと柔らかな枕、そして額に置かれた濡れたタオル…
色々気になるが、体の痛みと怠さのせいで動く気にもならない。
頭を動かして見える範囲だけを確認すると扉が開く音と誰かが入ってくる音がした。
「まぁ 目が覚めたのですね」
「!!」
入ってきたのはメイド服を着た若い女性だった。メイドは慣れた手付きで額のタオルを変え、新たに冷たいタオルを乗せた。
よく見ると頭には小さな角のようなモノが生えてる…まさに悪魔の…小悪魔のようだった。
しかし小悪魔のような若いメイドは、小悪魔のように意地悪でなく、おっとりとした優しい女性だった。
「……」
「今お医者様を呼んで来ますよ、ちょっと待っててくださいね」
「!?」
メイドは優しく頭を撫でて部屋を去って行った。
少女には何もかもわからない事だった。
彼女は誰なのか、少女の容姿について何も言わなかったのか、此処は何処なのか…
…何より、頭を撫でられた事への戸惑いが大きかった。
…あんな事をされたのは初めてだ…実の母は既に亡くなってるし、父は撫でても抱き締めてもくれなかった。なのに全くの無関係な人が頭を撫でたのだ…
愛を知らない少女には信じられない事だった。
愛を知らないからと言って冷酷で残酷な性格、人格を連想するのは偏見だ。
確かにこの少女は愛を知らないが、警戒心が強い子でも子供の内から冷酷って訳では無い。
暴力と冷遇、虐待が当たり前だったフルアート伯爵家での事もあってか少しは警戒心は有る。でも誰も信用出来ない、信じられない人間(魔族)不信ではない。
本当にそうだったら、体が怠くても先程のメイドの手を弾いてたはずだ。そうしなかったのは少女がそこまでの子では無いって証拠だ。
「……(今、頭、撫でられたの?)」
しばらくすると、先程のメイドが老いた男性を連れて来た。彼には角は無いが悪魔、魔族の特徴でもある尖った耳をしていた。
しかしこれも偏見、恐ろしい人物だと見た目で判断してはいけない。
悪魔のような医師は少女を見て優しく微笑み声をかけてくれた。
「おはようございます。お嬢さん目が覚めたのですね。良かったです」
「……(誰?)」
「この方はお医者様ですよ~。緊張しなくても大丈夫ですよ」
「……」
喉の痛みのせいか声が出せない少女の心を読んだのか、メイドは医師と簡単に紹介した。
医師は少女の顔、口内、喉の腫れなどを確認した後、ブランケットを軽く捲り体を診た。
義母と義姉からの暴力での傷は毎回治療魔法で治していたから大丈夫だろう、この痛みは海に落とされたのと、何処かに落下した時の衝撃によるモノだろうから…
しばらくすると診察が終わった。
「軽い肺炎と全身打撲、それに栄養失調ですね…」
「だからこんなに細く小さいお嬢さんだったのですね…」
「うむ…この痩け方からして、親から食事をもらえなかったのかもしれない…子供向けの栄養剤とお薬を出しましょう」
「っ…最近多いですね…」
「えぇ…全くです…酷い話です…」
なんて世界だ…。親や大人から食事を貰えず痩せこけた子供が多いだなんて…
医師達がどんなに対策しても間に合わない…悲しい話だ。
医師はメイドに薬を渡した。メイドは少女の服を少し脱がせ全身に薬を塗った。優しい手付きだった…
メイドが薬を塗り終え服を着せると医師は手足に包帯を巻いた。
「しばらくは安静にしてくださいね」
「…….」
痛みで喋れない少女はコクリと首を縦に動かして返事をした。医師は返事をした少女を見て微笑み、また来ると言って部屋を去って行った。
すると、入れ違いに別の男性が入ってきた。
メイドは彼を見ると速やかに姿勢を正して頭を下げた。
「今『ジョルジ』から軽く話は聞いた」
「はい、先生の言うように軽い肺炎と全身撲、栄養失調と診断されました」
「そうか」
「(ま、また知らない人来た!ホントここどこ~!?)」
「…….」
「(こっちに来る!)」
体が痛いので頭を男性に向ける事は出来ないが、歩きながら近づく彼の凄まじい視線は痛い程伝わる…。恐怖を通り越して痛い…
しかし妙に既視感がある、この足音は気を失う前に聞いたあの足音に似ている。
「……」
「……」
紺色の髪に赤色と金色の変わった瞳(オッドアイではなく、瞳が二色)をした男性が近くに来た。顔は整ってるが…先程の医師よりも悪魔感が強い…まさに悪魔のような容姿をしてる。オマケに声もかなり低い…
彼が目の前に来ると、少女は変に目線を逸らすことが出来なかった。何故凝視されてるのかわからないが、高貴な存在に変な態度を取るのは命を手放すのと同じだ…
しかし体の痛みと怠さのせいで作り笑いすら出来ない…
男性は腕を少女に伸ばした。少女は小さく驚きながら目を閉じて彼の動きを待った。
…いつまでも経っても痛みは来ず、少女に来たのは暴力ではなく、メイドと医師から感じた優しい温もりだった…。男性は無表情だが少女の頭を優しく撫でていた。
「……」
「抱えた時に思ったがやはり小さいな…」
「(か、抱えたってなに!?)」
「あれから1週間も眠っていたぞ」
「(1週間!?)」
どうやら彼があの時の足音の主のようだ。しかしついさっき海に突き飛ばされ、未知の土地に落下したのが昨日の事だと思っていたが、あれから1週間も経っていたなんて…
1週間も眠っていた自分に驚く少女を見て男性は表情を変えずに少女に優しく触れてた。
しかし、1週間も眠っていたとなると…白銀の髪も少しくすみ銀髪になってる。長い前髪のせいで目ははっきりと見られてないが…洗われ、綺麗にされたらどうなるだろう。
しばらくして、男性はメイドに指示をして部屋を出ていった。
それから事
怠さと痛みで辛い身体に鞭を内、体に優しいミルク粥を食べ、しっかりと処方された薬を飲む生活が4日程続いた。
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