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月に沈む。  作者: おこげ
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舞い上がる疑問

「いただきます」とみんなの声がひとつになる。

恐る恐る口にした伊吹はしばらく無言でもぐもぐと噛み締めていたがやがて口を開く。


「…不味くはねぇけど旨くもねぇな。」


「味がないです。まぁ味付けしてないから当然なのですが。硬くもないし柔らかくもないですね。かと言って食べられないわけでもない。」


様々な感想を言い合う中、蓮は閉ざしていた口を開く。


「……それで…これから俺たち…どうする?」


「それも大事だけど一番知りたいのはなぜ夜のままなのか。僕はそれが気になるな。もしかしたらとんでもなく夜が長いだけ?」


蒼乃は月に手を振る。まん丸のような、どこか歪のような月は変わらずただ静かに浮かび上がって薄暗い光を纏っている。


「それはないだろ。でも相変わらず月のままだな。このままずっと夜が明けないんじゃねぇの?」


「明けない夜か…なんかいいね。」


空気の読めない蒼乃。もはや無視されているが本人は気にしていないようだ。蒼乃など眼中にないかのように唸りながら顎に手をあて、考えに浸る。

伊吹の頭の片隅には抑えきれない疑問が現れていた。


「…明けない夜に…得体の知れない怪物。ガスも電気もない。そして俺たちの記憶も。もしかしてここは…"存在していない"のか…?」


「存在していない…?伊吹、それはどういうことだ?そんなことあるはずがないだろう。」


眉間に皺を寄せ、ため息をつく蓮と周りの人達。

伊吹は少しムッとし、肉を食べ続けながらも言葉を吐き出す。


「…否定から入んなよ。明けない夜はない。で、存在していないから存在しない怪物もいる。俺達以外に誰もいないし、何も無い。そう言ったらちょっとは考えが変わるか?」


琥珀はわけがわからないと言ったように伊吹の言うことに首を振る。


「そんなこと……有り得るの……?」


「俺、方向音痴だから周りを探索しているとき迷子にならないように壁を伝って歩いたんだ。そして気づいた。ここは多分、出入口のない箱のようなものだって。真っ直ぐ進めば角があり、その角沿いに進めばまた角がある。そして最終的にはまた元の位置に戻ってきた。言わば鳥籠の中の鳥、虫かごの中の虫状態って訳だ。しかしこっちの方がもっと厄介だな。鳥籠も虫かごも出入出来る場所はあるけどここにはなさそうだし。」


「手分けして食料探そうって言ってたのにまさかそんなことしてたなんて。」


「あ!待て!ちゃんと食料も探したって!たまたま気づいたんだよ、たまたま!」


焦る伊吹、睨みつける緋色。蒼乃は楽しそうに二人を見学しながら肉を食べていた。まるで映画を見ているように。叶多はその様子をちらっと見ながら落ち着かせるように目を閉じる。


「出入口がないって…じゃあ僕たちはどうやってここに来たんだろう。」


「…そうだよね。夜なのも何か関係あるのかな…」


雨音は伊吹を見ながら首を傾げ、答えを求めるように伊吹の言葉を待っている。


「さあな。それがわからないからこうやって話し合ってるんだろ。とにかくさ、もう少し待ってみようぜ。太陽が登るかもしれねぇし。それからみんなでこの辺りを見に行けばいい。他人の目より己の目で見た方が間違いなく信じるだろ。」


「君は本当に呑気だね。気楽そうで羨ましいよ」


「…蒼乃、お前の気持ちが初めてわかった。俺も叶多のこと嫌いになりそうだわ。」


「な、なんでそんな事言うんだよ……」


叶多の悲しげな声がボソッと聞こえる中、伊吹は「あ、そうだ」というように手を叩く。


「俺、もうひとつ気になることがあるんだけど。明けない夜も箱のような空間もそうだけどさ、怪物たちの存在…さっき俺たちが食料を探している間、徘徊している数多くの怪物がいたよな?」


蒼乃と緋色を交互に見る伊吹は立ち上がりながら辺りを見渡す。遠くで数匹の怪物が揺らめいている。

しかし襲ってくる気配ははさそうに見え、しばらく眺めた伊吹は視線を一同に戻す。


「なんであいつらは襲ってこなかった?ここに来たときも、さっきも…あんなに俺たちを食い殺そうとしてたのに俺たちに見向きもしなかったよな。今もそうだ。視力が悪いのか嗅覚が悪いのか…それとも聴覚が悪いのか?」


「確かにそうでした。ですが怪物たちは私と目が合っても襲ってこなかったので視力が悪いという訳ではなさそうですね。嗅覚や聴覚はわかりませんが。襲う個体と襲わない個体がいるのか。それとも性格によって違うのか否か。何にせよ警戒はしておいた方がいいでしょうね。現に何度か襲われているんですから。」


緋色は腕を組みながら鋭い目で怪物を捉える。

まるで牧場にいる動物のような怪物達をじっと見つめ、視線を落とす。そんな緋色を見ながら蒼乃は人差し指を立てながら話す。


「まずまとめよう。夜が明けないこと。ここは箱のような空間なこと。そして襲ってこない怪物達…」




「…そして月が濁る現象。やはりそれも追加ですね。」


遮った緋色は顎で月を示す。緋色の言った通りだ。黄色だった月が徐々に濁みを増して力なく光っている。辺りは先程よりも暗くなり、少し寒く感じた蓮はよいしょと立ち上がる。


「……とりあえず小屋に入ろう。冷えるぞ。」


「先に行ってて。僕は上着を洗ってくるよ。汚れが落ちるといいけど。」


火を消しながら蒼乃の声に頷く一同。

哀しげに空に舞う煙とともにドアが閉まる音、蒼乃の足音が風となって消えていった。

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