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月に沈む。  作者: おこげ
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肉塊、漂う匂い

諦めたように座り込む待機組を見ながら蒼乃はクスクス笑う。


「水はあったよ。小さな泉だったけどまぁ十分だろう。問題は食料。伊吹の言った通り何もなかったんだ。さっき伊吹が「木を齧るか」って言ったのすごく面白いね。名案だ。本当にそうするしかなさそうだけど?」


1人でニヤニヤしながら口元を押さえ、肩を震わせる。何が面白いのだろうか。誰にも理解はできないだろう。あの緋色でさえも少し引いているように見える。


「…蒼乃さん、何を…そんな冗談を面白がるとは…いや、私の理解力がないんですね…」


「冗談だって?僕は本気だよ。木しかないのにどうやってここで過ごすんだ。いっそのこと水だけでどれくらい耐えれるかやってみる?」


「くだらないこと言うなよ…ちゃんと見たの?ほら、暗いから見落としたりとかしてそうだし。話しながら歩いてたんだろ…もう一回行ってみるのはどう…?」


「…僕、叶多くんのこと嫌いになりそうだよ。」


傷ついた表情の叶多、軽蔑の眼差しを送る蒼乃。

雰囲気は邪悪になるばかりだ。

そんな雰囲気を突き破るように雨音が躊躇しながらも口を開いた。


「あ、あの……さっきの怪物のお肉を取るのはどうかな…?蒼乃くんのナイフで…。」


突然の残酷な提案に呆気に取られ、声を荒らげる。


「…うわ…マジで?かわいい顔してんのに言うこと全然可愛くねぇなお前。」


伊吹の不快そうな顔に雨音は素早く近づき腕を軽くつねる。


「…そうするしかないでしょ。木があるなら火も起こせるんじゃないかな。焼いて食べれば大丈夫だと思うけど…」


「…得体の知れない怪物の肉を食べるって?君は何を言って…」


叶多が呆れたように言う中、蓮は言葉を止めるように手を軽く突き出す。


「いや、俺は賛成だ。背に腹はかえられないだろう。嫌なら食べなければいい。それだけだ。蒼乃、そのナイフ貸してくれ。」


「…いいけど壊すなよ。あ、ついでに毛皮も剥いできて。あれも役に立ちそうだから。」


ナイフを渡しながら蒼乃はあれこれ指示する。

蓮はこくこくと頷きナイフを片手に外に出てしまった。そんな様子を見て琥珀は不思議そうに蒼乃を見つめる。


「……なにするの…毛皮なんて……」


「その小さな頭を回転させて考えてみなよ。毛皮はなんにでも使えるだろ。毛布にもできるし…他にも使えるかもしれない。持ってて損はないよ。」


そして突然何かを思い出したかのように窓を開け、外にいる蓮に叫ぶ。


「あと骨も置いておいて!僕が処理するから。こう見えて僕は物を作るのが得意なんだ。大きい骨があればどうにかナイフも作れそうだ。さすがに1本だとまた何かあれば僕が放り出されるからね。うん。」


皮肉そうに言いながらもどこか嬉しそうに見える蒼乃。暇なのか窓枠に寄りかかりながらべらべらと話し続ける。みんなは疲れ果て耳がおかしくなりそうだ。「もう勘弁してくれ」という目線を送るが蒼乃は止まらない。気づいていないのか、あるいは気づいているが無視しているのか、蒼乃の独特な世界観だけが広がっている。伊吹と琥珀は睡眠を取り、雨音と叶多は虚無を見ている。その中で緋色だけが相槌をうちながら静かに話を聞いていた。


「で、ここからがクライマックスなんだ…」


扉が軋みながら開き、蓮が戻ってくる。

止まる蒼乃の口、ほっとした顔の一同は蓮の手に持たれていた肉塊を眺める。音に反応し、目を開けた伊吹は起き上がり、くんくんと肉塊の匂いを嗅ぐ。


「無臭だな、変なの。まぁとりあえず焼いてみようぜ。」


みんなで協力し近場の木の枝を拾い集め、蒼乃が火を起こし始める。しばらくするともくもくと煙を立て淡い炎があがり、暖かな風が心を癒す。

無事に確保した肉塊を木の枝に刺し、焼けるのを待っている。まるでキャンプのような雰囲気に包まれ"この知らぬ場所"にいることさえも忘れてしまう。


「はぁ…暖か。寒くも暑くもないけど火があるとやっぱりいいな。なんとか食べれるものもあったし、野垂れ死ぬ必要はなさそうだ。な?雨音。」


「あ、伊吹くん。あまり近づくと危ないよ。」


月がみんなを見下ろす中、香ばしい匂いがゆらりと漂ってくる。「もういいだろう」と頷き、焼けた肉塊を配る。見た目は普通の肉と変わらない。


「早く食べようぜ。」


手を合わせる伊吹。蒼乃の重い声が耳に届く。





「ああ、食べてみようか。…そして話そう。消えない月、登らない太陽…この奇妙な空間のことを。」


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― 新着の感想 ―
キャラクターの会話から伝わってくる緊張感や場の雰囲気が、とてもうまい作品だと思いました! ぜひ、参考にさせてください。 私も様々なジャンルの作品を公開してます。 ぜひ、先生にも読んでいただければ幸い…
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