小さな空間
どれくらい歩いただろうか。蒼乃は足を止めて2人を制止する。視線の先にはひとつの小屋があり、彼らは慎重に近づきドアを開ける。
「…誰だ!」
叫び声とともにガタイのいい男が伊吹に体当たりした。ふっ飛んだ伊吹は派手に地面転がり悲鳴をあげる。
「いてぇ!折れた!これ絶対折れた!」
肋を押さえながら騒ぐ彼を無視して蒼乃は部屋の中を覗く。中には数人の男女が驚いた目で蒼乃達を見つめていた。
「僕達以外にも何人かいたんだね。よかった。中に入ってもいい?」
蒼乃の言葉に答える代わりに大きな手で入口をサッと塞ぐ。
「いや、待て…お前たちはなんでここにいる?」
「気がついたらここにいたんだ。僕たちみんなね。それと記憶もない。何も覚えてないんだ。」
その発言に瞳孔が一瞬開き、すぐに真剣な顔で言う。
「…そうか…俺たちと同じだな……いいぞ。入ってくれ。」
男性は蒼乃達を中に入れ、うずくまる伊吹に近づき腕を差し出す。
「おい、少年。体当たりして悪かった。俺も気が立っていたんでな。ほら、掴まれ。」
伊吹を起こし上げ、支えながら小屋の中に入るとギシギシと軋むドアをゆっくり閉め、硬い地面に伊吹を座らせる。
「…俺たちもお前と同じだ。全く…どうしてこんなことに…」
蒼乃はため息をつきながら部屋の中を見渡す。
中はあまり汚れていないが椅子も机もない。
窓から差す微かな光が部屋の中を照らしている。
「…こうなったのもなにか理由があるはずだよ。まずは落ち着いて、自己紹介でもしようか。」
「あぁ、そうだな。俺は蓮だ。よろしくな。」
「僕は蒼乃。そしてこっちが緋色。…で、君の体当たりを食らった哀れな子が伊吹だよ。」
「……すまねぇな。」
気まづそうに苦笑いしながら座っていた伊吹の頭をポンポンと叩く。伊吹は目を見開き子ども扱いしてくる蓮に牙を向け乱暴に手を振り払った。
「子ども扱いすんな!」
「わかったわかった。ほら、他のやつも名前を教えてやれ。」
顎を軽く突き出すようにして後ろにいた男女に声をかける。
「えっと…僕は叶多。よろしくね。」
「…うちは…琥珀…」
簡易的な自己紹介が終わり蓮はしばらく考えたあと困った顔をしながら伊吹たちを見る。
「もう一人いるんだが…ついさっき体調が悪いって言って今は休んでるんだ」
彼が向ける場所を追うと冷や汗をかき、苦しそうな表情で横たわっている少女が瞳に映る。伊吹はそんな彼女をじっと見つめ上着を脱いで優しくお腹にかけてあげる。
「わぁ、伊吹くん。紳士的だね。僕がその子なら惚れてるかも。」
クスクスと笑う蒼乃と蓮を睨みつけながらイラついたように2人のスネを蹴り上げ満足そう微笑む。
そんな伊吹の頭に拳を叩き込む緋色、「落ち着いて」と緋色を羽交い締めにする叶多。呆れたように見つめる琥珀。騒ぎが納まった頃にはみんな疲れたようにその場に寝転んでいる。
「……少し寝ない?」
伊吹の言葉に同意し、ゆっくりと目を閉じる一同。
静寂に包まれた小さな部屋に彼らの規則正しい寝息が聞こえる。