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妖狐佐々木戦争 決着

 ここは妖狐衆アジトから数百メートル離れたとある場所、そこを音を置き去りにするような速さで走っている人物がいた。


(あれから数秒……もうそろそろ始まる頃か)

 その影の正体は、お頭だ。お頭は屋根の上を走り、一直線に佐々木組の事務所に向かっていた。

 その時、お頭が奴らの事務所の目の前に到着した。


「おい! アンタ誰だ!」「うちの組じゃないな……」


 そのお頭を止めたのは事務所の警備にあたっていた佐々木の事務方構成員。


(めんどくせぇな……)

「すまんが、失礼させてもらうよ」


 お頭がそう言うと同時に奴らを押し除けて門の目の前に立つ。

 そして、軽く扉に拳をぶつけた。その瞬間、誰も通さぬと目の前に立ちはだかっていた巨大な扉がまるで空き缶を蹴り飛ばしたかのように吹き飛んだのだ!


((……は?))

 門番の2人は目の前の光景が信じられなかった。ただの中年男性かと思っていた奴がノックとも言えない軽い拳で扉を吹き飛ばした。

 それは異様どころではない。一瞬、2人の目にはこの男が神か悪魔のように写った。

 そしてお頭は悠々と事務所の敷地内に歩みを進める。その時、やっと門番の2人が動いた。


「待て! 止まれ!」「ここで殺す!」

 いくら事務方であっても最低限の戦闘訓練は受けている。2人がチャカを取り出して弾丸を放とうとする!

 しかし、それではあまりに遅すぎた。


「おやすみ」

 お頭はその時既に奴らの背後に回り、手刀で奴らを気絶させた。


「ぐっ⁈」「かっ⁈」

 結局、奴らは何もできず地に伏せた。そしてお頭は悠々と佐々木組の内部に侵入した。

 それと同じ頃、組長室には神妙な面持ちの梶野と佐々木の姿があった。


「……親っさん。本当に総力を向かわせて良かったのですか?」


 梶野が佐々木に聞く。


「無論じゃ……何より、各個撃破ではそれ相応にリスクがある」


「それは理解しています。あの件……ですよね」


 あの件。そう呼ばれるのは龍樹さんと蛇川、コブラの戦闘だ。

 武闘派幹部の中でも手練れの蛇川と伍人組のベテランであったコブラ、その2人が1人でいた龍樹さんを襲撃したのだ。しかし結果的にコブラは死亡、蛇川は行方不明となり完敗を喫した。

 それはつまり佐々木組の武闘派2人がかりであっても返り討ちにされる可能性があるということだ。

 そして今、両者の武闘派幹部の人数は同じ。それで各個撃破をすればどこかで綻んだ瞬間に負けが確定してしまう。


「あぁ、それならばいっそ奴ら全員を一度にやる方が勝率は幾分かマシじゃ」


「ですが、それならばせめて避難を! ここの守りを突かれれば親っさんが危険です!」


 しかし梶野が懸念しているのは総力の突撃による守りの薄さだ。警備をつけているとは言え万全ではない。


(最悪の場合、俺が死んでも止めないと……)

 梶野の頭を最悪のシナリオがよぎる。

 その瞬間、組長室の天井を突き破って何かが落ちてきた!


「なんじゃぁぁああ⁈」「親っさん! お下がりを!」

 2人とも驚愕の表情を浮かべると同時に梶野はチャカを構えていた!


(なんじゃあ? 何が落ちてきた?)

 梶野は瓦礫の山に目を凝らす。

 その時、


「ふぅ。お、ドンピシャだな」

 そう言って姿を現したのは……お頭だった。お頭を見た瞬間、佐々木が声を張り上げる!


「大丸! なぜ貴様がここにあるんじゃぁあ!!」

 その顔は怒気に満ち溢れていたが僅かながらに焦りも混じっていた。


「なぜって……テメェを殺しにきたんだよ。あと色々と問い詰めにね」

 そうしてお頭がゆっくりと一歩踏み出す。

 しかしその刹那!


「シュッ!」

 なんと梶野が一瞬で照準を合わせ、鉛玉を放ったのだ! その弾丸は正確にお頭の足、そのほんの少し前に着弾していた。


「動くな大丸。貴様の相手は俺だ」

 梶野がそう宣言した時、お頭の口角が僅かに上がった。


「ほぉ、面白ぇな。なら、やってみろよ!」

 お頭がそう言った瞬間、奴が3発の弾丸を放つ! それはお頭の眉間、心臓を正確に狙っていた!


(このまま突っ込む!)

 その時、弾丸と一緒に梶野が前に飛び出した! そして弾丸がお頭に食らいついた!


「ぐっ!」


(よし! 行ける!)

「オラァァァアア!!」

 そして奴がドスを振り上げた瞬間、


「甘いな」

 そう言いながらお頭が腕を伸ばし、梶野の顔面を鷲掴みにする!


「「なっ⁈」」

 梶野も佐々木も目の前の光景が信じられなかった。


(バカな……奴には確かに弾が当たったはず……)

 梶野はなんとか逃げようともがく。その時、お頭が反対の手を広げる。

 なんとその中に入っていたのは……潰された弾丸。


「まさか……貴様……」

 梶野の顔に驚愕の色が現れる。そう、お頭は弾をくらったフリをしながら全て掴んでいたのだ。


「クソッ……この野郎っ!」

 梶野はもがくものの拘束が解ける気配は皆無。その時、奴が苦し紛れにドスをお頭の喉めがけて振り下ろす!


(避けた隙に逃れる!)

 そして凶悪な銀閃がお頭の喉に喰らいつく!

 だがそれは、


 ―キンッ―


 お頭の肌を前に容易く折れた。


「なっ⁈ ……」

 それは明らかにあってはならない現象。刃に切る力と技が加われば人体を傷つけることができる。

 それは有史以前、人が武器を得た時より不変の事実として存在していたものだ。

 だが目の前の光景はその事実を嘲笑うかのように容易く捻じ曲げた。


「なんだぁ?」

 その時、梶野の顔面を掴むお頭の手に力が籠る。


「そんな鈍刀なまくらで俺に傷つけられると思ってたのか?」


「くっ……この、化け物が!」

 梶野がそう吐き捨てた瞬間、お頭は顔色一つ変えずに奴を片手で投げ飛ばした。


「ぐぅぅぅうう!!」

 その速さはまるで弾丸。梶野はその勢いを全く殺さず壁に突き刺さった。


「ふぅ、さて……年貢の納め時だぜ。佐々木」

 そう言ってお頭は佐々木に圧をかける。


「くっ……化け物がぁ……」

 佐々木は未だ、目の前の光景を信じきれていなかった。一組織の長であり最高戦力の男がこれほどまでに規格外だとは認めなくなかったのだ。

 お頭がゆっくりと歩きながら佐々木に問いを投げかける。


「佐々木ぃ。一つ聞いていいか? ウチの構成員が謎の男に襲撃されたんだ……でも情報じゃそんな男はし佐々木組の構成員にいなかった……」


「そ、それがどうした」

 佐々木は焦りを見せないようにしていたが顔には恐怖が滲んでいる。


「なぁ教えてくれよ……佐々木」

 そう言ってお頭が奴の目の前に立つ。

 そして奴に顔を近づけ、こう言った。


「マムシとどんな関係だ?」


 その言葉は今までにないほど重く、鋭かった。


(クソッ……話さなければ、殺される)

 お頭は一言もそんなことは言っていない。しかし、佐々木はそう感じた。

 そして佐々木が一つの決断を下す。


「分かった、わしの負けじゃ。洗いざらい話そう」


 なんとそう言ったのだ。そして佐々木がゆっくりと語り始める。


「アイツと会ったのは3ヶ月ほど前のことじゃ……」



 あの日は暖かく、心地よい日じゃった。わしが仕事を終え煎餅を食っていた時、奴が突然現れた。


「アンタ……佐々木忠徳だな?」


 その男は音もなくわしの部屋に現れこう言った。そしてわしが答える間もなく


「大丸嶽久率いる妖狐衆、そいつらの血が欲しい。手段は問わん。隙を作れ、金ならある」


 そう言って男はわしの目の前に巾着袋いっぱいの砂金を渡した。


「こ、こんな金どうして手に入れた?」


 わしはそう聞くが男は無言のまま……そしてそのまままた語り出した。


「これは前金だ。戦争でもなんでも仕掛けろ。できたならばこれの倍は払う」


 そう言って奴は窓から部屋を出た。



「わしも少しは考えたさ、じゃがお前らに対して義理もクソもない。寧ろ煩わしいとすら思っとったからな、だからやった」


 全てを聞き終えたお頭は暗い顔をしていた。そしてゆっくりと口を開く。


「なるほどな……じゃあもう、良いか?」


 そう言いながらお頭は拳を握る。だがそれを佐々木が止めた。


「待て、わしにも聞きたいことがある」


「どうせ死ぬんだ。別にいいぞ」


「アンタ……もしかしてだが、「ライテイ」……か?」


 その言葉を聞いた瞬間、お頭の表情が変わる。


「なんでそう思う?」


「わしもあそこにいてな。お前のアレを見て確信したよ。まさかあのお方がこんな所で裏社会にいるなんて拍子抜けもいい所だ」


「……もう良いか?」


「あぁ、殺れ」


 佐々木はそう言い残し、お頭は容赦なく奴を絶命させた。


(終わった……ようやく……)

 そうしてお頭は佐々木組事務所を後にした。



 1ヶ月以上にも及んだこの戦争は佐々木組の事務所内で静かに終焉を迎えた。

さて、いかがでしたでしょうか?

今回は思ったよりも書けませんでした! ……悔しいです。というのもこの「決着」では次のエピソードの半分くらいまで書く予定でしたがいつの間にか文字数がっ……という感じで悔しくはありますが大変大事な事は書けたのは何よりかなと思います。

それではコメントや感想、評価などありましたらしていただけると嬉しいです。


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