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妖狐のハンコウキ  作者: 烏丸 和臣
妖狐衆
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成長と闘い①

 ベットの上で目が覚める。時間は分からないが大体6時位だろう。そして伸びをしていると違和感に気が付く。

(ここ、僕の部屋じゃない)


 そう思ってあたりを見渡してるとドアの向こうから誰かが部屋に入ってくる。


「おはよう、よく寝れた?」


 声の正体はシオンだ。そして、昨日のことを徐々に思い出してくる……。

 そう、僕は今日から妖狐衆の一員なのだ。


「うん、よく寝れたよ」


 そう返事をする。


「もうそろそろ朝ごはんだから、着替えて降りてきて。着替えはここだから」


 そう言って近くにある服を指さす。灰色の動きやすそうなパーカーに黒い半そでのシャツ、深緑のズボンだ。


「分かった」


 そういうと彼女は部屋から出ていった。着替えを済ませて下に降りるともう、大丸さん達が食卓を囲んでいた。


「おはよう」


 大丸さんが声をかけてくれる。


「お、おはようございます」


 長らく友達以外にしていなかったせいで少し言葉に詰まってしまった。


「じゃあ食べようか。いただきます」


『いただきます』


 そして朝食が始まった、朝食の献立は焼鮭にほうれん草のお浸し、白米にわかめと豆腐の味噌汁だ。

(豪華だな……)


 因みに昨日の夕飯はおにぎりと豚汁だった。正直な話、朝は基本一人だったからご飯は食べなかったりバナナだったりしたから結構豪華だと思てしまった。

 そして味噌汁を啜ると、とても美味しい。優しくてあったかい、こんなの食べたことがない。

 感動してると百合さんが口を開く。


「朝食は私が作ったのですが、どうですか? お口に合うかどうか」


「めっちゃくちゃ美味しいです! 食べたことない!」


 心の底から称賛する。ふと前を見るとある違和感に気づく。

 みんなの献立が違うのだ。龍樹さんは卵かけご飯山盛りに豚汁、リンさんは卵とわかめの雑炊、百合さんはトーストに目玉焼き、大丸さんはおにぎりと赤だし、シオンはハムサンドだ。


(こんなに用意するなんて……凄いな)


 なんでこんなに出来るのかは分からないが、今は気にせず、朝食を楽しもう。そして、全員が食べ終わったころで大丸さんが話し出す。


「よし、皆。今日の確認をするぞ」


 その瞬間みんなが大丸さんのほうを向く。僕もなんとなく体を向ける。


「まず、今日は龍樹、リン、シオンは午前中見回りだ。俺と百合、ヨウタは訓練場に来てくれ」


「分かりました」


 百合さんがそう返事をする。


「それと、今日は弘おじいちゃんの腰が悪いそうだ。気遣ってあげてくれ」


「他からなにかあるか?」


 大丸さんがあたりを見渡すとリンさんが恐る恐る手を挙げる。


「えっと、最近、死露刃羅と鬼人隊の動きが激しいようです。ご注意を」


(えっ、なんて? シロバラ? キジンタイ?)


 何を言っているのか全く分からない。


「分かった、それじゃあ各自持ち場につけ」


『分かりました』


 そして、みんなが食器を片付け始める。僕も片付けようとした時に百合さんから声をかけられる。


「ヨウタくんはこちらに……」


「はっ、はい」


 百合さんの後ろについていき、着いたのは一階の階段。


(何があるんだ?)


 わけがわからないでいると百合さんが床を触りはじめた。何をやっているのか覗こうとした瞬間、床が急に開いたのだ!

 そしてその奥からハシゴが姿を現す。


「こっ、これって」


「地下訓練場の入り口です、さあ来てください」


 そうして百合さんの後についてハシゴを降りる。20mくらい降りたところで背後が明るくなる。後ろを振り返るとコンクリートで造られた高さ5m、縦横15m程の巨大空間だ。

(すごいな)


 地下にこんな空間が広がっているのも驚きだし、コンクリート製なのも驚きだ。

(僕たちの世界では自然をもとの形に直すため、木材を中心に建築物を建てているためコンクリートは本当に珍しい)


 すると、前に大丸さんが立っているのが見える。


「おう、来たか」


 そう声を掛けられる。


「はい。で、ここは?」


 つい気になってしまい質問する。


「ここは、俺たち専用の訓練場だ」


 なるほど、だからコンクリート製なのか。


「それで、今日は何をするんですか?」


 訓練場なのだから予想はつくが、一応聞いてみる。


「ここでは戦闘術を学ぶ。妖狐衆たるもの、戦闘技術は重要だからな」


「わ、分かりました」


 ほとんど予想通りだ、要するに強くなれってことね。


「だが、まずはこのスーツを着てくれ」


 そう言って渡されたのは黒いダボっとした服だ。


「これですか?」


 服をもって見てみるが、明らかにオーバーサイズだ。


「おう、それにちゃんと今の服脱いでから着ろよ」


「はーい……ってえぇ⁈」


 なんで僕が驚いているのか?そんなのあたりまえだろ? なんてったって百合さんががっつり見てる中で着替えれないだろ⁈


「あの、百合さん……少しだけ向こう向いてもらえませんか?」


「はい、わかりました」


 そう言って百合さんが後ろを向いてる隙に素早く着替える。着てみて思うがやっぱり大きすぎる。

 何とか調節しようと試行錯誤していると大丸さんが


「胸のところを押してみる、それでサイズ調節ができる」


 と言った。言われたとおりにやってみると空気の抜ける音がしたのち、スーツが体にぴったりとフィットした。不思議に思っていると百合さんが何やら機械を触っている。


「なに、してるんですか?」


 質問すると大丸さんが答えてくれる。


「今はお前の武器の適性検査中だ。武術をやるって言ってもまず、自分にあったものをやらないといけないからな」


(なるほど……)

 言ってることは何となく理解できた。そうして待つこと2分後。


「できました」


「わかった」


 そう言って大丸さんが百合さんの元へと行く。僕も後をついて行く。

 そして目に入ったのは人の形をした図と円グラフだそれを見て大丸さんが口を開く。


「なるほど、適性は刀と拳銃か」


「はい、珍しいですね」


 何を言っているのかはなんとなく……わかんない。


「よし、ヨウタ。お前はこれから刀と拳銃をメインに使っていけ。百合、確か訓練用に木刀とペイント銃あったよな」


「はい、持ってきますね」


 そう言って百合さんは上へと行った。程なくして戻ってくると木刀とペイント銃を手渡される。


「これを使っていくんですか?」


「そうだ、まずはどれだけできるか見る」

 そう言って大丸さんが構えをとる。


「どこからでも打ち込んでこい」


「はっ、はい」

 僕も刀を構える。そして、


「やぁあああ!!」

 大丸さんの顔めがけて横薙ぎを繰り出す!


「遅いな……」

 そう言いながら大丸さんは顔を引いて避ける。


(くそっ!)

 僕は咄嗟に袈裟斬りに変える!


「ダメだな」

 そう呟いて大丸さんは一瞬で僕の眼前に迫る。そして強烈な拳を僕の腹へと打ち込む!


「がっ……」

 あまりの衝撃に呼吸が途切れ、その場に倒れ込む。

 腹を抱えていると大丸さんが言う。


「分かっていたがやっぱり基礎からやんないとダメだな」


「……はい」


 正直情けない。少し前まで学校で無双していたのにこんなにボコボコにされたのだ。そして大丸さんから一枚の紙を渡される。

 そこには筋トレなどのトレーニングメニューがのっていた。


「これをこれから毎日やれ、そうしたら絶対に強くなる」


 そう言われたが一つだけ気になるメニューがある。

(ロボ回避訓練……?)


「あの、これってどんな訓練なんですか?」


 我慢できず質問する。


「やるときになったら説明する。まずは筋トレと打ち込みを終わらせろ」


「は、はい」


 簡単に言っているがこっちもこっちでハードだ。だって腹筋、腕立て、スクワットを100回ずつ。打ち込みだって人型の模型に付けられた九つの的をそれぞれの斬撃で10セットやんなきゃいけないし。

(鬼だ……)


 今日、僕は初めて人に対して鬼だと本気で思った。だが立ち止まっていてもなんだから筋トレから始める。やってみて思ったのは僕は今まで自分のポテンシャルに依存していたということだ。


 勉強は毎日やって努力していたが運動は、筋肉を維持する程度のものでむしろ持久力を中心にしていた。

 そこからあたらしく筋肉をつけるなんて体がついてこない……。

 結果的に筋トレだけで3時間かかって体力も限界だ。そして休憩をした後打ち込みに入る。

 だがこれも楽ではない。


 なにせ大丸さんが次と言うまで同じ攻撃をしなければいけないからだ。これがきつくて全力でやらないと次にいけないのだ。筋トレで既にボロボロの筋肉に更なる追い打ちをかける。

 結局90回打ち込むころにはくったくたになり、お昼を回っていた。


「よし、回避訓練と行きたいが昼飯時だ。食いに行くぞ」


 そう言って大丸さんと百合さんは上に上がっていく。

 そして僕はこう思っていた。


(これを毎日って……やばいよ。明日には死んでんじゃないの?)

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