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妖狐佐々木戦争 策戦

 ここは妖狐衆アジト。その2階にある部屋のベッドでリンさんが寝ている。実はこの数時間前リンさんは佐々木組のヒットマンから襲撃を受けたのだ。

 お頭がすぐに救助したが背中には深い傷が刻まれ、気絶していた。運び込まれて処置を受けてから龍樹さんがずっと付きっきりで看病している。

 その間僕たちは下で作戦を練っていた。


「まず、奴らの戦力を確認しようか……」


 お頭が重い面持ちで話す。


「はい。現在確認されている戦力はこの通りです」


 百合さんがそう言いながら分厚いファイルを開く。


「まず、鎖鎌の蛇川。元忍の家系で武闘派構成員の中では珍しく隠密任務を得意としています。


 次に、剣豪 淺間。二刀流の剣士であり若手の教育も担っています。


 次に、2丁拳銃の赤坂。元は殺し屋で佐々木を狙っていましたが淺間に破れてから彼に憧れて佐々木組に入門。武闘派幹部の中で最も若手。そして最も戦闘経験が豊富です。


 そして最後に若頭の梶野。長年佐々木組を支えてきた男で個性の強い武闘派や多くの舎弟を統括する佐々木組のハブです」


 今挙げられたのが佐々木組にいる武闘派でも特に危険な人物だ。でもそいつらを抑えれば勝てる……そんな簡単な話ではない。

 佐々木組の真髄は圧倒的な人数による人海戦術だ。現在確認されているだけでも武闘派、事務方を含めて70人以上の構成員がいる。対してこちらの戦力はリンさんを除く5人。その中のほとんどが一流の戦闘者とは言え、なんの策もなしに戦うのは無謀だ。

 そう思っているとお頭が口を開く。


「いいか? これは向こうから仕掛けられた戦争だ。向こうは間違いなく徹底的に準備しているだろう。その為、正面から壊滅させるのではなく奴らの監視を掻い潜って先程の武闘派4名の戦線離脱と組長、佐々木忠徳の殺害を目標とする」


『はい』


「じゃあ詳しい策だが……」


◆◇◆◇


 一方佐々木組事務所。そこの組長室である男達が話していた。


「親っさん、すいません。大丸を取り逃しました」


 そう話すのは若頭の梶野。この男こそ大丸と佐々木の会談で隣に座っていた男だ。


「まぁ良い。奴も一流の戦闘者だ、一筋縄ではいかん。それよりも今後の策じゃ」


 そう話す佐々木の眼には自信と覚悟が宿っていた。


「はい、すでに作戦を開始しております」


 そう言って梶野は巨大な地図を広げた。そして作戦の説明を始めた。


「現在動ける構成員60名の内30名を奴らとこちらのシマの各所に散りばめ、奴らを監視しています。何か動きがあれば即座に連絡が来る様になっております」


「うむ、良いな……だが不安じゃな」


 そう言いながら佐々木は頭を抱えた。


「はい……」


 それに梶野も反応する。この2人の不安、それは一重に戦力が測れないことによる不安である。先程、梶野は会談の最中に大丸を襲撃した。それを皮切りに脱出不可能な部屋で大量の構成員による攻撃を行なった。しかし大丸は身動き一つせずにその構成員を薙ぎ倒し、分厚い部屋の壁に巨大な穴を開けたのだ。

 この事実は佐々木組にとってかなりの衝撃を与えた。佐々木組はこの街に古くから存在する組織。そのため他組織の戦力についてある程度の予想はついている。しかし先程の事によってその予想は当てにならないことが証明された。

 戦で敵の戦力を見誤ることは自軍の崩壊を意味する……そのためこの2人は采配に悩んでいるのだ。少しの沈黙の後、佐々木がとある決断をする。


「しょうがない……梶野、招集例を出せ。伍人組のな」


「なっ、本気ですか⁈ 親っさん……」


 それを聞いた梶野の顔が青ざめていく。


「本気だ。なんとなくだが、奴らは思っていたよりも強大な敵かもしれん……伍人組とうちの武闘派構成員の総力で当たらねばならぬほどのな……」


「くっ……承知しました」


 そうして梶野は悔しさを噛み締めながら部屋を後にした。この決断がこの抗争を地獄へと変えていくのだ……。



 そして妖狐衆アジト。僕たちは一通り作戦会議を終えてそれぞれの時間を過ごしていた。しかしそう言うにはあまりにも重い空気でありみんなの顔が厳しさを物語っていた。


 その原因は様々だが僕の場合は伝えられた作戦だ。


 今回の作戦では敵の監視を掻い潜って敵の幹部を直接討ち取らなければいけない。


 しかし全員が一斉にいなくなっては敵にすぐバレてしまう。


 そのためお頭とリンさん、もう2人がアジトに残り、残った2人が敵のシマ内にヤサを作って敵を撃破するという囮作戦が立案された……のだがその最前線に僕が配置されたのだ。


 ……まずい、もはやそんな程度ではない。僕は知られての通りここに入門してから日が浅い。確かに2度の実戦経験はあるもののそんなのが相手の武闘派に通用するわけがない。

 実力不足で足手纏いになるのは明白、だからこそ不安なのだ。もう1人はローテーションで変わるそうだが、


(冗談じゃない!!)

 なんで一番弱い僕が常に最前線に居なきゃいけないんだ! ということで今絶賛、少しでも強くなろうと技の反復をしてるのだ(効果あるのかはさておいてね)。

 そうして稽古をしていると突如アジト内を大きな音と衝撃が走る。


(な、なんだ?)

 僕は咄嗟に訓練場から上がって様子を確認すると龍樹さんがお頭に何か言っている。


(っ……もしかして!)

 僕は最悪のことを予想して穴から出る。


「龍樹さん! どうされたんですか⁈」


「おぉ、ヨウタ。ちょうどいい、お前も来い!」


 そうして龍樹さんは僕を半分引きずりながら2階に駆け上がる。そして部屋の中にいたのは……包帯を巻かれてベッドに座っているリンさんの姿だ。


「うおっ……」


(リンさん……もう……)

 なんと寝たきりだったリンさんが目を覚ましたのだ。


「リン!」


 少し遅れてお頭も上がってくるとその顔に安堵の色が浮かぶ。


「大丈夫か? 良かった……」


「は、はい。ご迷惑をおかけし、ました」


 その口調からもいつものリンさんだと分かり、僕も安心する。だがその横で何やら変な音が聞こえる。


(ん? なんだろ……)

 僕がそう思い振り返ると龍樹さんが目を覆いながら啜り泣きしている。


「え、龍樹さん……大丈夫ですか?」


 そう声をかけると龍樹さんが涙声で


「よがっだ……本当に。先輩が、目覚まじで……」


 と言った。それを聞いた瞬間なんとリンさんがクスッと笑った。


「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね……」


 その時その場にいたみんなが微笑み、場の空気は一瞬にして和らいだ。それから数分後、お頭が少しばかり真剣な顔をして聞いた。


「リン……お前誰にやられた? 悪いが、お前が闇討ちされるなんて只事じゃないぞ」


 と言い出した。確かに、今まで怪我のことばかりに気を取られていたが本来リンさん闇討ちされること自体おかしな話だ。というのもリンさんは銃火器を主に使うため近接戦闘はあまり強くない。

 そのためリンさんは周囲に敵を近づけないために周囲への警戒を怠らず、近づかれれば即座に反応するのだ。そんなリンさんには僕たちであっても間合いを詰めるのは難しい。

 お頭がそれを聞いた時少し黙ってから答えた。


「私は、確かにあの時襲撃されました。ですが、気づかなかった訳ではないんです……」


 そして語られたのは人の仕業とは思えない出来事だった。



 私はその時、佐々木組のシマの境界線付近を見回りしていました。でも街は至って平和で、問題なんて微塵もありませんでした。


(今日も平和だなぁ……)

 そう思ってもうそろそろ帰ろうとしていた時、明らかに異質なものを感じ取りました。


(これ……どこから……)

 感じ取ったのはドス黒い殺気。しかもこれ以上ない程に濃い、怨念を含んでいるような……そんな殺気。


(一体何が……)

 私は気合を入れて殺気の濃い方へ走りました。着いたのは、あそこ。私が倒れた場所です。そのくらい路地に入った時、殺気の出どころを掴みました。


(……後ろ!)

 恐る恐る振り向いてみると、そこにはフードを被りマントを羽織った男が立っていました。そして男はゆっくりと懐に手を入れた。


 それとほぼ同時、私は咄嗟にチャカで敵に弾丸を放ちました。放ったのは三発。ですが男はそれを皮一枚で避けました。私はすかさず追撃のライフルを抜いて弾丸の雨を降らせました。

 その時、男は背中に手を伸ばし円形の盾を取り出しました。そしてそれで弾丸を受け止めたんです。


(これはダメか)

 そう思い、私は瞬時にライフルを捨て炸裂弾を取り出した。そして炸裂弾を着火し投げたと同時、男が目の前から消えました。

 炸裂弾が虚空の中で爆ぜました。


(どこに⁈)

 私は辺りを警戒しましたがもう、遅かった。


「終わり……」

 なんと男は私の後ろに音もなく現れました。それはあまりに急な出来事。直後、男は私の背中に容赦なく斬撃を落としました。


「ぐっ……」

 鋭い痛みと共に血が流れているのを理解しました。そして私はその場に倒れてしまいました。



「その後お頭に救助されて今に至ります」


 リンさんが話し終えた後お頭は少し考え事をしていた。

 そして数分後


「龍樹、その特徴に合う男を司法府に問い合わせて探れ。今すぐだ」


「分かりました」


「それと全員に通達。その男を緊急暗殺対象とする」



 そうしてこの戦の歯車はもう、止まることはなくなった。

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