覚悟と仕事③
その時、左翼では予想だにされていない事が起ころうとしていた……。
「おいおい、なーんかこっち……デカくね?」
龍樹さん、リンさんが割り当てられたのは左翼、人数は五人。普通に龍樹さん達にとっては余裕……なはずなのだが問題点があるとすれば……全員のガタイが尋常じゃない。身長は全員ニメートル近くあるだろう。武器もしっかりと持っている。
「一筋縄じゃいかなさそうですね……先輩」
「うん、どうする?」
だが大前提、普通にこいつらとやるだけなら龍樹さんが少し本気を出すだけで終わる。
でもそれには周りの建物の被害は必至、それは避けなくてはならない。
(なら、やれることは一つ)
「先輩、俺が奴らの隙をつくります。そのうちにテーザーガンを撃てるだけ撃ち込んでください」
「わかった……」
「ッシャアアアア!!」
その声と同時に龍樹さんが一気に踏み込む! そうして壮絶な斬り合いが起こり辺りには金切り音が無数に鳴り響く!
しかし、その時予想外が起こる。そう、ゴロツキ全員が刃を持っていたのだ!
(くそ、まずいな)
龍樹さんの得物である両手斧は素早い動きができず、狭い場所では近距離相手は難しい。
それに多対一の状況で狭い空間、それも逆風になっている。そして徐々に龍樹さんの体から血飛沫が舞う、しかし後退はしない。
だって、
(俺はコイツらを倒す必要はないんだからよ)
「ぬおらぁ!」
その瞬間、龍樹さんは瞬時に斧を手放し、一番前の奴の顔面に拳を叩き込んだ! そいつが倒れると後ろの二人も押されて倒れる。
殴られたやつは失神してる。
(残り。三人!)
そのまま斧を手に取り、もう一人に向かって思いっきり振り回す! そして奴の膝を砕いた!
「ぐおっ!」
奴はその場に倒れた。だがその瞬間、他の二人が龍樹さんの左右に回り込む!
「くっ、しまっ!」
その時、龍樹さんの両脇腹に鋭い痛みが走り血が滴る! 奴らのナイフが深々と刺さっているのだ。何とか歯を食いしばって痛みに耐えている。
その時、龍樹さんがニヤリと笑った。
「テメェらの敗因はよ……相手が一人だと思い込んだ事だ!」
次の瞬間! 奴らの体を無数の弾丸が襲う! その先にいたのは、リンさんだ。先輩が持っているのは連射式のライフル、それも二丁だ。そのまま男達は感電しすぎて気絶した。
そしてリンさんが駆け寄ってくる。
「龍樹さん、大丈夫……だった?」
「まぁね、傷もすぐ治るから」
「そうだね……」
「さて、他はどうなっているのか……」
その時、中央では僕が奮闘していた。
(一人はテーザーガンがまだ効いている。もう一人は悶絶中……なら、目の前に集中する!)
そして双方同時に踏み込む! そして相手の逆袈裟が跳ね上がる!
(見える!)
そのまま攻撃をしてカウンターの突きを飛ばす!
「甘いねぇ!」
奴はそう言いながら突きを見切る! そしてお返しとばかりに拳を僕の腹に打ち込んだ!
「ぐっ!」
後退りをするが奴の猛攻が止まらない。今のところ受けれてはいるがそれでも徐々に削られていく。
(何とかしないと……)
その時、大丸さんが声を上げる!
「ヨウタ! お前の武器はその二つだけか?」
その一言で思い出す。
(そうだ!)
次の瞬間、奴が強烈な突きを放つ! 僕はそれをギリギリで躱す。だが頬の皮が裂けて血が噴き出る!
その瞬間、懐から黒い物体を落とす。
(なんだ?)
奴が正体を確認しようと視点を下げる。その先にあったのは、黒色の十二面体。
その瞬間! それが全方向に向かって煙を吐き出す!そう、昨日使った煙玉を今回も準備もしていたのだ。
(こらそこ、さっきまで忘れてたやんなんて言わない)そのままあたり一帯が白い煙でおおわれる。
突然のことに奴は反応が遅れる。
(隙あり!)
僕はそのまま奴の背後に回り、峰で強烈な唐竹割を奴の頭に叩き込む!
(やっと、三人仕留めた……)
その達成感に驚戒心が緩む。その瞬間! なんと新手が煙の中から僕を襲う!
(誰だ?)
考えられる可能性は一つ、最初にテーザーガンを撃ち込んだ奴だ。確か気絶まではしていなかったはず。
(クソッ! 完全にミスった!)
そして奴は僕の頭めがけて角材を振り上げる!
(もう、ダメか……)
そうして諦めかけていると不思議なことが起きる。なんとゴロツキが急に動きを止め、その場に倒れたのだ。僕が唖然としていると煙が晴れてその原因が明らかになる。
その場に立っていたのは大丸さんだ。初陣で、しかも自分の不注意で助けられるなんて……少し情けない。
「あ、ありがとうございます」
「別に。さぁ、親玉の尋問と行こうか」
そして全員で集まり、残った一人を囲んだ。
ん? 一人数が足りないだって? それならさっき大丸さんが半身地面に埋めてたよ。
雑談はそこまでにして尋問の時間だ。最後の男はもう縛られていた。
「まず、何でここを襲った?」
大丸さんが冷たく聞く。
「なんでだ? そんなん、楽しいからに決まってんだろ!」
その口から出てきたのは思いもよらないほどのクズ発言。そのまま男が続ける。
「ここは犯罪と欲望の渦巻く街なんだからよ!何しようとも許されるだろうが!」
(……コイツ!)
一瞬にして怒りが湧き上がってくる。もう他のメンバー、とりわけ龍樹さんは今にも殴り殺しそうだ。
そして奴が気色悪い笑い声を上げていると大丸さんが動く!
「ヒャハハハッ……ゴベッ!!」
笑いが途切れると同時に奴が縦回転しながら吹っ飛んだ。大丸さんの方を見ると左手が出ている。それに手のひらからはほのかに煙が出ている。
(やったな……)
心の中で静かにガッツポーズする。そう、大丸さんが思いっきりビンタしたのだ。吹っ飛んだ奴は白目を剥いて右頬はありえないくらいに腫れていた。すると龍樹さんが安子おばあちゃんに駆け寄った。
「おばあちゃん、大丈夫?」
「うん、龍樹くんもリンちゃんもありがとねえ」
おばあちゃんは店から顔を出して感謝した。そこから覗くだけでも店の中はかなり荒らされているのがわかる。するとリンさんが口を開く。
「派手にやられましたね。大丈夫、ですか?」
「うん、今まで中々なかったけど、立て直せるよ。それがこの街の良いとこさ」
「そうそう」「あんちゃん達のおかげで商売できてんだ」
周りの店の人達も顔を出して口々に言う。
(大切にされてるんだな)
心の中に温かいものが広がっていく。何だか地域の和というものを感じた気がする。それと反対に大丸さんは険しい顔をしていた。
「よし、お前ら、戻るぞ。司法府にも連絡しておけ」
「分かりました」
そう言ってシオンがどこかに電話をかける。そのまま現場を後にし、アジトに戻る。そして着替えないままで召集がかかる。
「すまんな、実は今回のことでどうにも合点がいかないのがあってな」
「……はい、俺も感じてました」
みんなが真剣な面持ちだ。もちろん僕は何が何だかわからない。
「何で奴らはあそこを襲ったんだ?」
「はい、どうにも分かりません」
何の話をしているのか分からなくって我慢できず大丸さんに聞く。
「大丸さん、ここは歓楽街なんですからどこで襲撃があってもおかしくないと思うんですけど……」
「ああ、じゃあ説明しようか。前にこの街は様々な組織が分割して統治してるって話したろ?
実は今回の事件が起こった安子おばあちゃんの店がある通りは隣の武闘派組織、佐々木組とのシマの境界線なんだ」
まだ話が全くわからない。
「つまり、反対側の建物に被害があった瞬間に奴らも出てくる」
「ということは、一歩間違えれば両組織から狙われていた?」
「御名答。奴らがどれだけ腕に覚えがあってもリスクがデカすぎる。なのに奴らはあそこを襲った。これがどうも引っ掛かるんだ」
「ど、どうしてもあそこを襲いたかった……とか?」
「安子おばあちゃん達に恨みがあったのでは?」
そしてあーでもないこーでもないと意見が飛び交うが中々結論が出ない。しかしとあることが気になる。
「倒した輩から情報は聞き出せないんですか?」
そう、奴らに尋問すれば目的などがわかる筈だとかんがえたのだ。
「だめだ。奴らは既に司法府に身柄を引き渡した」
「そう、でしたね」
(この世界には管察のような公的機関はないが、民間で犯罪者に罪に見合った労働をさせる司法府というものが存在する)
そうしてみんなが考え込んでいるとリンさんが口を開く。
「裏に、誰かいたのでは..….?」
その言葉にみんなが固まる。確かにあり得る話だ。
でも、
「いたとしてもどうやって探すの?」
シオンが言ったとおり探すことができない。この街はその性質から人でも組織でも簡単に隠せてしまう。
黙っていると百合さんが口を開く。
「ならば、街の防犯カメラを使ってみては? 奴らが20人で動いていたならばどこから来たかもわかるでしょう」
「なるほど、やってみる価値はあるな」
大丸さんに続いて全員が頷く。この街にも最低限防犯カメラはある。それを利用するのは良い案だ。
「じゃあリンとヨウタは明日の朝イチから防犯カメラ映像を探れ。今日中は俺達と一緒にあの付近で聴き込みだ」
『はい!』
そうして作戦が決まり、僕達は大規模な捜索へと赴いた?
さて、いかがでしたか?投稿の期間も空いてしまい申し訳ありません。実は短編作品の「先輩はコワイヒト」を手直ししていたらこちらが遅くなってしまいました。次回作は物語の転換点(?)になるので楽しみにしていただければ幸いです。では、もしよろしければ感想やレビューなどお気軽にお願いします。




