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5話 避けては通れないのか?

防具屋に入ると何人かの冒険者が、真剣な目で防具を見ていた。


俺は店主に声をかけ、袋に入ってる金の8割を渡した。


「この金で防具を見繕ってほしい」


すると店主は金を見て首をかしげた。


「どうかしたか?」


俺は気になって尋ねた。


「ああ、いえ。失礼ですが、その~。駆け出しの冒険者さんに見えたものですから、金額に少し驚きまして。どうぞお気になさらず」


「そうか」


(そういや俺はこの世界の金銭感覚はよく分かっていなかったな。金貨が50枚も袋に入っていたが、どのくらいの価値なんだろう? コルネオはいくら俺に貸したんだ?)


「それで、どのような装備をお探しですか?」


「ん~。実はあんたの言う通り俺は冒険者になったばっかでさ、あまり詳しくないんだ。この金はお節介なA級冒険者の先輩から、しっかり装備を整えるようにと渡された金だ」


「なるほど、A級の。良き先輩をお持ちですね」


店主は腑に落ちた顔をした。


「先ず、防御力重視なら少し重いですが魔力石が埋め込んである鎧がよろしいかと。こちらはウチの商品で防御力が最も高いものです。魔法耐性もついてありますから」


そう言って店主は店の中央に飾ってある鎧を勧めてきた。


(ん~。たしかに頑丈そうだ。これならちょっとやそっとで死ぬことはないだろうな。でも、戦わずに逃げる場合を考えると重くて走れないだろう。だって俺はレベル1だし)


「ふむ。悪くないが、できれば軽めの装備で揃えたいんだが。俺は素早い動きを重視したスタイルなんでな」


俺は鎧だと重くて逃走できないからという本当の理由はごまかすことにした。


「さようですか。それならクロムレザーの服と魔法耐性のあるアサシンコート、ドラゴンの皮で作った胸当てでどうでしょうか。これらは丈夫で、組み合わせることで鎧に近い防御力になります。軽くとても動きやすいかと」


「ふむ、それにしよう」


(なんだかよく分からないが軽けりゃそれでいい。店の店主の見立てだし、大丈夫だろう)


「早速、着て帰ろうと思うが構わないか?」


「もちろんです。あちらの部屋でお着替えください。それとこれはサービスです。素早さの上がる魔術付与がされたピアスです。あなたにピッタリだと思いますよ」


店主は緑色の石がついたピアスを渡してきた。


「ありがとう。ありがたく使わせてもらう」


俺は装備品を受け取り、別室で着替えた。


着替え終えて、鏡で自分の姿を見てみると黒いコートのせいか、裏稼業の色が強かった。


(見方によってはカッコいいのかもしれないが、俺らしくないな。なんか強そうに見えるし、なんか危ない匂いも出てるが、良しとしよう)


「店主、ありがとう。軽くて気に入ったよ」


「よくお似合いです。ぜひ、またご入用の時はよろしくお願いします」


「ああ、分かったよ。じゃあ」


俺は残りの金貨10枚を握り、隣の武器屋に向かうことにした。


武器屋に入ると客が全くいなかった。


「ウチに客が来るとは珍しいのう。ありがたいことじゃ。ひひひ。」


小汚い婆さんが小汚い店の奥に座っていた。


「武器を買いたいんだが」


そう言ってババアに近づくと、急に不愉快そうな顔をした。


「何だい! 冷やかしかい! 帰っとくれ!」


「なんだ、急に。武器を買いに来ただけだろうが。それが客に対する態度か?」


「客じゃと? ウチは魔剣専門で、お前が扱えるものは1つも置いとりゃせんわ。お前からはこれっぽっちも魔力を感じないわい! 魔力のない奴がどうやって魔剣を扱うんじゃ、このボケタレが!」


ババアはシッシと俺を追い払う。


「な、魔剣屋だったのか?」


「デカデカと外に書いてあるわい! 目が見えんのか、このウスラバカが! それとも何かい? 使えずとも、買ってくれるのかね? それならあんたは立派なお客さんじゃよ」


「い、いや。使えないものを買うつもりはない。ス、スマン!」


俺はそう言って走って外に出た。


「だったらすぐ出ていけ! 二度と来んな! ゴブリンのクソくって死に晒せ!」


キチガイババアは箒を振りかざして外まで出てきて、逃げる俺の背中に向かって喚き散らした。


「はぁはぁ。なんつうババアだ。ヒステリにもほどがあんだろ。看板を見落とした俺も悪かったが、そこまで怒ることかよ? 完全に冷やかしで店に入ったと思われたのか?」


俺は町の入口で息をきらしながら、独り言を言った。


「まあいい。とにかく別の武器屋へ行くか」


今度は看板に注意して武器屋をさがした。


武器屋は宿屋の後ろの路地の突き当りにあった。


「今度は間違いなさそうだ」


武器屋に入ると防具屋より客がいた。


防具屋の時のように店主に任せようと思っていたが、他の客の対応で忙しそうだった。


(まあ、適当に安いのを選ぼうか。どうせ刃物なんて包丁くらいしか扱ったことがないわけだし、万が一のときのためのポーションを買う金を取っておかなきゃ)


俺は店のおつとめ品コーナーみたいな場所から少し錆びついてる剣を1振り買った。


最後はポーションを買いにギルドへ戻るとコルネオが休憩所でレミと話していた。


「ふん。ちゃんと装備は整えたようだな。だが、何だその剣は」


俺に気づいたコルネオが剣を見て顔をしかめる。


「防具に金をかけたんだよ。どうせ俺は剣の扱いなんて素人だし。なんせ薬草取りがメインの冒険者なんだから」


「それは分かっているが、もう少し何とかなっただろう」


コルネオはヤレヤレとため息をついて言った。


「まあまあ、コルネオさん。防具にお金をかけるように助言したのは私なんです。そんなにサトウさんを責めないで下さい。よく似合ってますよ、サトウさん!」


「一端の冒険者には見えるな。剣がもう少しまともなら……」


「そりゃどうも」


しつこいコルネオをあしらうように気のない返事を返す。


「なぁ、ところで、俺が魔力ないのはレミちゃんも知ってるだろ? 魔力が無いやつが魔剣を売ってる店に入ると親の仇みたいに憎まれるのか?」


「もしかして、防具屋の隣ですか?」


「そう。知らずに入っただけなのに、『冷やかし』だの『さっさと出ていけ』だの、あそこのババアに散々罵られたぞ。最後は箒を振り回して追いかけてきた」


「ベルル婆さんですね。悪い人ではないんですが、色々ありまして。今はちょっと商売が上手く行ってないみたいです」


「色々?」


「魔剣と言っても色々あるんです。使い方に注意さえすれば安全に使えるものもたくさんあるのですが、強い力の代償として持ち主の魔力を吸い尽くしてしまうような危険なものもあるんです。半年くらい前に、ある冒険者がベルル婆さんの店で1振りの魔剣を買ったんですが、魔力を吸い尽くされ廃人になってしまいました。それが噂になってすっかり客足が遠のいてしまったんです」


「それはあのババアが悪いだろ!」


「俺はそうは思わないがな」


コルネオはレミを横目で見て言った。


「そうですね。私もコルネオさんと同じ意見です」


「なんで?」


「この噂の本当の話は冒険者が、ベルル婆さんから魔剣の説明を聞いた上で、それでも売ってくれるように頼みのこんだのが真相です。ベルル婆さんは、その冒険者の魔力では扱いが難しい剣だと断ったそうなんですが、その冒険者はどんな事になっても自分で責任を取ると、半ば強引に剣を買い取って行ったそうです」


レミは残念そうな顔で話した。


「本来魔剣を買う場合、店主が必要な情報を買い手に伝えてる以上、あとは買った人間の責任だ。廃人になったって野郎もそれは分かっていたはずだ。その婆さんに責任はない」


コルネオは頬杖を着いてダルそうに話した。


「じゃあ、あのババアは落ち度がないのに風評被害を喰らって、あんなにヒステリックだったのか」


「そういうことです。言葉は確かに悪いですが、いつもはもっと穏やかな人ですよ。それに魔剣を扱えないサトウさんに売りつけなかったわけですし。商売がうまく行ってないことで少し八つ当たりしたとは思いますが」


「まあ、ともあれ、お前も魔剣の怖さが知れてよかったじゃねえか。使うなら自己責任でってことだ。だが、サトウは魔力がないからもともと関係ない話だな」


「あと1つ聞きたいんだけど、二人も魔力のある、なしは感じ取れるものなのか? あの婆さん、すぐに俺が魔力無しだと分かったみたいだった」


「まあ、ある程度はな。だが、強い魔力は誰でも分かるが、弱い魔力の奴らの違いは俺は分からん」


「そうですね。サトウさんのように全くない人とただ単に魔力の弱い人の区別はつかないですね。それに、鑑定紙のようにきっちり数値化できる人はいないと思いますよ。ベルル婆さんは、商売上魔力を感じ取る力が人より発達しているのだと思います」


「なるほど。でも二人は何となく分かるわけだ。じゃあさ、今このギルドで魔力の強そうな人いる?」


二人は顔を見合わせて同じ冒険者を指した。


「おお! マジ? 全くわからん」


(やっぱり異世界人の俺は根本的に身体のつくりが違うんだろうな)


「サトウさんは魔力がないので、感じ取る機能もないんだと思います」


「しかし、珍しい奴だ。全く無いとなると、この世にサトウ1人かもしれんぞ」


コルネオは足元から頭までまじまじと見てきた。


「魔力がないということは、おそらく魔法も覚えられない体質だと思います」


「ならばサトウよ。今後は剣の腕をひたすら磨く他あるまい」


コルネオは立ち上がると俺の背中をドンドンと叩いた。


「ゲホッ。別に戦うつもりはない。逃げ足を鍛えればいいだろ」


「そうも言ってはおれんぞ。毎回、逃がしてくれるような魔物ばかりじゃない。お前が魔王種に出くわして助かったのは稀なことだ。逃走するにしても相手の隙を作り出す一時的な戦闘手段は身に着けねばなるまい。お前でも倒せそうな魔物を教えてやるから、明日からはレベル上げもしていけ」


「まぁ、そんな気はしてた。避けては通れなそうだな。やるだけやってみるか~」


「俺が直々に教えてやってもいいが、レベル20まで上げてからだな。ケガをさせてしまう」


「コルネオさん、レベルいくつ?」


「87だ」


「マジで? レミちゃんは?」


「私は既に引退してますから大したことはありませんよ。確か62だったと思います」


「ガ~ン! レベル1って、ゴミじゃあないか!」


「まあ、そう卑下するな。誰でも最初があるんだ」


「そうですよ。地道に経験を積んでいけば誰だって強くなれるんですから。とにかく無理はせず明日からはコツコツと頑張っていきましょう」


「……はい」


俺はガックリと項垂れて返事をした。

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