3話 異世界で味わうことになろうとは
「なるほど! 分かりやすい志望動機ですが、もう少し詳しく聞かせていただきますね」
「どうぞ」
「冒険者と言ってもピンキリです。冒険者としてはどの辺りを目指しているのですか? サトウさんも上級冒険者を目指すのですか?」
「いやいやいや。俺は腕に覚えもないし、戦ったこともない。薬草を取る仕事があると聞いてここに来たんだが……」
「なるほど。それならFランクからでも直ぐに仕事を受けることができますよ」
「それは良かった」
「最後にサトウさんのステータスを確認させてください」
「ステータス?」
「はい。サトウさんの今の能力値です」
「はぁ。どうすれば?」
「簡単です。この紙の上に手を置いていただければ」
俺は言われた通り、紙の上に手を置く。紙には変な模様が描いてある。
「もういいですよ」
猫耳娘は紙を手に取り目を通す。
「え? レベル1ですか……サトウさん。随分箱入りだったんですね。特殊能力や魔法スキルも無し……というか魔力そのものがないようですね。初めて見ましたよ! 魔力が全く無い人」
「俺の住んでいたところでは普通なんだがな」
「そ、そうですか?」
「何か問題あるか?」
「いえ。ただ薬草を取るクエストでも魔物とバッタリ遭遇してしまうことがあるので、このステータスだと心配です」
「それは困ったな~。直ぐにでも稼がないと生活出来ない。なんとかならないか?」
「……分かりました! サトウさんは私が初めて任された新人さんです! このレミが責任を持って面倒を見させていただきます!」
猫耳娘は立ち上がり、フンスと鼻息を鳴らす。
「レミちゃんだっけ? 助かるよ、本当。よろしく頼んます」
俺は頭を深く下げた。
その後、レミは薬草についてや、採取できる場所、レベル1でも倒せる魔物や危険な魔物など詳しく話してくれた。
「レミちゃん、ありがとう。オジさん、こんなに親切にしてもらって感無量だよ」
「プ! プハハハハ! オジさんじゃないでしょうが! サトウさんって面白いですよね。確かに見た目と中身にギャップはありますが、結構好きですよ!」
「俺は43才なんだが……」
「アハハハ! ハイハイ分かりました。じゃあこれから頑張ってくださいね、オジさん!」
「ああ! 本当、ありがとね」
俺はなんとか就職を勝ち取り、ホッとした。
安堵の気持ちを噛みしめながら、クソガキにケツを蹴飛ばされたことも忘れ、ギルドを出た。
空は夕焼けで宿の方から食欲をそそる匂いがしていた。
(一安心したら腹が減ってきた。今日はゆっくり休もう。明日からは仕事との戦いだ!)
俺は宿に帰り、ゆっくりと食事を取った。
その後は部屋に戻り、ベッドに横になった。
「レミちゃん親切だったな~。……やっぱ猫なのかな?」
俺は昔から猫に好かれることが多かった。
「……昔から、女子にモテたことはないが、猫がすり寄ってくることは多かったもんな。猫に好かれる体質が異世界で役に立つとはな……」
(そういや子供とか、施設のじいさん、ばあさんにも結構好かれたな。女子にはモテたことなかったが……女子には……)
悲しくなるのでそれ以上考えるのはやめて、寝ることにした。
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次の朝、小鳥のさえずりで目が覚めた。
色々なことが起こった割に、昨夜は結構ぐっすり眠れた。
(後、2日でこの宿を出なければならないな)
「ようし! 今日は稼ぐぞー!」
俺は朝食のパンを水で流し込むと、ギルドへ直行した。
ギルドのドアを開けると、直ぐにレミがこっちを見て駆け寄って来た。
手には何枚か紙を持っている。
「おはよう、サトウさ~ん! いい仕事があったから取っておいてあげたよ~」
「おはようレミちゃん、いい仕事だって? ぜひ聞かせてくれ!」
俺はまだ早朝で空いているテーブルに座り、レミからクエストの説明を受けた。
「と、まあ、今のサトウさんのステータスでも行けそうなのはこの3つです。魔力回復(小)の薬草、傷回復(中)の薬草、解毒(小)に使う薬草。全部受けてもいいですけど、達成出来ないと逆にお金を支払わなければならないので、最初は1つだけ受けることをおすすめします」
「なるほど。じゃあ、傷の薬草にしようかな。この中では一番単価がいいし、場所も分かりやすい。ようし! 早速行ってみるか!」
「分かりました。あの辺は比較的魔物もでませんし、魔王種が出現した場所とは反対方面です。でも、十分に気をつけてくださいね。無理は絶対しないでください」
「分かってるよ。俺が死んだらレミちゃんの仕事のモチベーションを下げてしまうもんな。そんな恩を仇で返すような真似はしないよ。十分に注意して行ってくるよ」
俺はレミに礼を言って、足早にギルドを出た。
薬草が採取できる場所は、俺がこの街に来た道とは逆の方角へ10km程行ったロリ山の麓だ。
レミがくれた地図を見ながら歩いていくと、1時間もしないうちに、樹海にたどり着いた。
「結構、近かったな」
ロリ山は富士山程高い山ではないが、標高2000mくらいはありそうで、長い傾斜の楯状火山の形をしていた。
地図に従い、歩いていくと少しずつ樹木も大きくなり、薄暗くなってきた。
(ふ~。もうスグだろうが、少しだけ休もう)
俺は湧き水が出ているのを見つけ、顔を突っ込んでごくごく飲んだ。
「プヒャ~! うめえ!」
よく冷えていて、身体に染み入るようだった。
ふと顔を上げると、赤いホタルのような光が森の奥へ飛んでいくのが見えた。
「赤ホタルっているんか?」
少し気になったが、今は仕事が優先である。
俺は気にせず、再び目的地へ向かった。
目的の薬草は直ぐに見つかった。
木々が開けた場所に群生していた。
「このスポットって、かなり有料級なんじゃないのか? 取り放題じゃん。レミちゃん、秘密の場所って言ってたもんな。いつか、ちゃんとお礼しないとな」
俺はレミに感謝をして、持てるだけ薬草を採取した。
「さーて。こんなもんか」
採取した薬草を束ねて、背中に担ぐと、俺は来た道を引返すことにした。
ちょうどさっき水を飲んだ場所まで来ると、今度は青いホタルが飛んでいた。
(青ホタル。ちょっと気になるな)
既に薬草は確保してあったこともあり、俺は好奇心から光の飛んでいった方へ行ってみることにした。
しばらく歩いてみたが、それっきり青ホタルは消えてしまった。
「ここで迷うとレミちゃんに迷惑をかけてしまうな」
そう思って引き返そうとしたとき、茂みの影に青い光がチラチラ見えた。
近づいていくと、それはホタルではなく妖精だった。
チョウチョのような羽に人形の身体をしていて、大きい目が独特で可愛らしい。
(カワイイな。……いいモノが見れた。でも、驚かせると可哀想だ。引き返すか)
そう思ったが、少し困っているように見えた。
動きも慌てているように感じた。
(はて?)
もう少し近寄ってみると、もう1体妖精がいた。
最初に見た赤ホタルだ。
赤い妖精が地面に横たわり、青い妖精が心配そうに周りを飛び回ってる。
(そういえば、レミちゃんが万が一の時にって、ポーションってのを持たせてくれたな。妖精にも効くだろうか?)
俺はダメもとで試してみることにした。
俺が近寄ると、すぐに青い妖精は気付き、警戒して距離を取ったが、赤い妖精を心配してか、一定の距離から俺の様子を見ている。
「驚かせてごめんな。大丈夫。心配しなくていい。このポーションでお前の友達を直せるかもしれない。だから心配しないで見てておくれ」
俺はグッタリしている赤い妖精にポーションをふりかけた。
「おお?」
赤い妖精が一瞬、パッと光り、大きな目をパチパチさせた。
「よかった、よかった。効いたようだな。どうだい、飛べそうか?」
俺が尋ねると赤い妖精は元気に飛び回って見せてくれた。
「もう大丈夫だな?」
赤い妖精は俺の肩にチョコンと座って頷いた。
「お前が元気になったようだから、俺はもう行くよ。お前も友達が待ってるから、もう行きな」
そう言うと赤い妖精は青い妖精と一緒に森の奥へ消えていった。
(妖精か~。なんともいえない可愛らしさだったな。今度、お菓子でも持ってきてやろうかな? って言うか何食べんだ?)
そんなことを思いながら俺はレミの待つギルドへと急いだ。
ギルドに戻るとレミが薬草をたんまりと担いでいる俺に気付いて、カウンター越しにガッツポーズを取って来た。
俺も敬礼をして、意気揚々とカウンター前に並んだ。
どうやら本日最後の冒険者は俺っぽい。
俺以外の冒険者は殆どが魔物の素材を高額で交換していたが、俺は俺、他人は他人である。
そんなことは気にしない。
俺はなんとか生活できればそれで満足だから。
俺の番が回ってくるとレミはニンマリとして薬草を受け取って、報酬の入った袋を渡してきた。
「どうやら上手く行ったようですね。薬草だけでこの報酬は上々ですよ」
「全部レミちゃん、いやレミ様のお陰です!」
俺は直角にお辞儀をした。
「明日もいい仕事が、あったら取っておきますね。オ.ジ.サ.ン」
「あざーす! よろしくおねがいします!」
俺はもう一度お辞儀をした。
「それで、魔物には遭遇しませんでしたか?」
「お陰さまで、魔物には出会わなかったが、妖精に会ったよ」
「ああ、メルモですね」
「メルモ?」
「はい。雑種の妖精のことです」
「……雑種の? 雑種とかあるの?」
「1つの身体に1属性を持つ妖精は強く、時を経ていずれ精霊、上位精霊、大精霊へと進化する事ができます。ですがメルモは1つの身体に複数の異なる属性を有しています。そのせいで、成長が妨げられ進化する事ができません。属性が異なる複数の魔法が使えますが、力が分散し、どれも中途半端になってしまい、弱い個体が殆どです。メルモは純粋な妖精たちとは共に暮らせないので、魔力の濃いあの森を住処にしているのでしょう」
(メルモちゃんってマンガあったな~)
「へ~。そうなんだ。雑種ねぇ……でも、可愛かったよ。あっ! それで、レミちゃんが持たせてくれたポーションなんだけど、赤いメルモちゃんが怪我をしていたから使っちゃったんだよね」
「え! 使っちゃったんですか?」
「まずかったかな?」
「……いえ。ただ、あれはサトウさんの万が一の時にと思って、とっておきのポーションだったんです。残念ですが、また差し上げることはできないんです。とっておきだったので……」
「ああ! 俺なら大丈夫だよ。怪我をしなければいいんだから」
(ちょっとやっちまったかな?)
レミはちょっとだけうらめしそうに俺を見ていた。
「さて、明日も頑張るぞ! レミちゃん、今日は本当にありがとう。この恩は出世払いで、きっと還すから!」
「期待しないで待ってますよ」
「明日もよろしく!」
そう言って俺はギルドを出ようとした。
「レミちゃん、ああいうのが好みなの? 珍しく入れ込んじゃって」
「イ、イヤだな、マリさん。初担当のルーキーですから、頑張って欲しいじゃないですか」
「ふ~ん。それだけ~?」
「それだけです~!」
何やら背中越しにそんな会話が聞こえてきたが、聞こえないふりをしてギルドを出た。
外はすっかり暗くなっていた。
宿の方からいい匂いがする。
(まずまずの収入を得て、今日は安心して食事を楽しめそうだ)
そう思って歩き出した途端、誰かが俺の肩を掴んだ。
「よう、新人。ちょっと面かせや!」
昨日、俺のケツを蹴り上げたビンスとかいうクソガキだった。
「なんだ、クソガキか。お家に帰って母ちゃんの皿洗いでも手伝…グフッ!」
俺は能書き中に意識を失った。
「……きろ! オラ! 起きろ!」
頬をバッチバッチ叩かれ、俺は意識を取り戻した。
どうやら気を失ってる間に人通りがない町外れに連れてこられていた。
膝をついて頭を振る俺の前にはビンスの他に2人同じような悪ガキが立っていた。
「……それで、何の用だ。お前らみたいなクソどもに割く時間は…グッフ~!」
取り巻きのガキに腹を思いっきり蹴り上げられた。
息が出来ず悶える。
今にも糞が出そうだった。
「今日は随分頑張ったようじゃねえか。薬草なんかでこれだけ稼げりゃ、ある意味優秀なのかもな」
ビンスは俺が今日稼いだ金をポンポンと宙に浮かせてニヤリと笑っていた。
「それは俺の……グフッ~!」
また腹を蹴られた。
「おい、こいつすんげ~弱いぞ、ビンス。ほんとに冒険者なのか?」
俺の腹を蹴ったビンスの手下が、少し呆れたように言った。
「強さはどうでもいい。薬草取りの才能があればな。要件は1つだ。これからもこの調子で働いてくれ。ホラ、これが今日のお前の取り分だ」
ビンスは報酬袋から1枚コインを投げてよこした。
「いい加減にしろ!」
俺はブチ切れた。
手に握っていた砂を近くの手下の顔にかけ、ビンスに殴りかかった。
「ぎゃあああ!」
ビンスは俺の腕を躊躇なくへし折った。
俺はあまりの痛さに足をバタつかせた。
「ホラ痛いだろ? 黙って従えばこんな思いはしなくて済むんだ」
ビンスはニヤついたまま、俺の腕に回復魔法をかけた。
折れた腕がみるみる治っていく。
「腕は大事な仕事道具だ。俺のために働いてくれるな」
「……ペッ!!!」
俺はビンスの顔にツバを吐いてやった。
「ザマア!」
ビンスの米噛みに青筋が浮かび上がる。
「そうか、そんなに痛いのが好きか? なら期待通りにたっぷり味あわせてやるよ!」
ビンスは治った俺の腕を再びへし折った。
「ぎゃあああ!」
(なんでこんなガキにこんな力があるんだよ!)
俺の誤算はすっかり異世界だということを忘れていたことだった。
この世界ではlevelというもので強さが決まる。
俺のいた世界のように筋肉がどうとか、武道やってました的な話ではなく、見た目と強さは全く関係なく、レベルが重要な世界だった。
ましてや、ビンスはC級冒険者だ。
俺は完全に舐めていた。
ビンスは容赦なく俺の足や腕の骨を順番に砕いて行った。
(こ、殺される……)
まさか、おやじ狩りというものを異世界で味わうことになろうとは……