雑誌の取材
「雑誌の取材ですか?」
収録の休憩時間に咲さんから呼ばれ、雑誌の取材の打診を受けた。
「ええ。水野さんがこの前オーディションに合格してうちに所属したでしょ? それでオーディション雑誌の取材のオファーを受けたのよ」
「なるほど。それでなんで俺まで?」
「あの時、あなたが審査員として参加してくれたでしょ? だから対談形式であの時のことを振り返る企画をやりたいと言われたの」
「ああ、なるほど。ちなみに俺のスケジュール的には大丈夫なんですか?」
「ちょっと待って。……この日が取材の予定日。収録と収録の間の時間になるけれど、あなたさえよければ承諾したいと思ってるわ」
咲さんはタブレットを操作して俺のスケジュールが映し出された画面を見せてくる。
ふむ。朝からの収録と夜の収録の間の時間か。
収録が押したとしても余裕はあるな。
それに俺も水野さんとはもっと話してみたかったし。
「それなら俺はオーケーです。スケジュールに入れといてください」
「本当!? 助かるわ! 私も立ち会うとはいえ、流石に新人の初仕事を一人で受けさせるのは心配だったから」
咲さんは心底ホッとしたように胸を撫でおろす。
そして簡単な打ち合わせをした後、俺は龍と優斗の元へと戻り、再開まで三人で時間を潰した。
「絢さん、水野さんに何か伝えておくこととかある?」
「え、唐突にどうしたの?」
翌日の昼休み、絢さんを誘って空き教室でお弁当を食べる時に尋ねてみた。
「ちょっと仕事で水野さんと対談することになったんだけど、その時に彼女に聞いておきたいこととか伝えておきたいことがあれば俺が代わりに話しておこうかなと思ってさ」
「ああ、なるほど。だからこんなところでお昼しようって言ってきたんだ」
「そそ。流石に教室でできる話じゃないし」
いつもは教室で佐藤も含めて三人でお昼しているけれど、今日は都合よく佐藤が部活の友達と用事があるらしくて、それならと思い絢さんをこの空き教室へと誘った。
「もう、何かと思ってドキドキしちゃってたよ。全く唯くんは。本当にもう」
「あー、それはごめん。佐藤がお昼用事あるって知らなかったから、先んじて連絡することもできなくてさ」
佐藤から用事があるから二人で食べてと言われたのが昼休みに入ってすぐだ。
だから絢さんに前もって伝えることができなかった。
本当は下校中に駅に向かう道すがら尋ねようかと思っていたんだけど。
「それはまあ、仕方ないけど……。それで私が桜ちゃんに尋ねたいことだっけ?」
「そうそう。ていうか、水野さんと連絡先交換してるんだっけ」
「そだねー。あれから定期的に連絡はちょこちょことってるよ。ただ、レッスンが忙しいみたいで本当に少しだけだけど」
「ああ、ほぼ毎日事務所のレッスン室で姿を見るよ。演技だけじゃなく、歌とかダンスとかもレッスン受けてるし、まだまだ慣れるまでは大変だろうな」
役者志望とはいえ、ミュージカルや舞台で歌やダンスを行う作品に出演する可能性もある。
そのため、ボイストレーニングやダンスレッスンはうちの事務所だとレッスン必須になっているのだ。
俺や龍、優斗も定期的にレッスンを受けているし、絢さんがもしうちの事務所に所属できた場合、彼女も通る道になる。
「本当に頑張ってるんだなぁ、桜ちゃん。私も負けないように頑張らないと」
「うん、その意気だ。それで話は戻るけど、連絡とってるなら別に俺から伝えることはないかな?」
「あ、そうだった。うーん、そうだなぁ……」
絢さんは顎に手を当てて、考えを捻り出すように唸っている。
連絡先を知ってるならそこで話したいことは話してるか。
余計なお世話だったかもな。
「あ、そうだ! せっかくなら桜ちゃんとご飯行きたいかも! そこでゆっくり話したいし!」
絢さんは顎に当てた手を放して、良いことを思い付いたというようにパンと手を鳴らした。
「え、そんなことでいいの? ていうか、それなら普通にメッセージで聞けばいいのに」
「まあ、それはそうなんだけど、意外とそういう話にならなくてさ。忙しそうだし、こっちからは誘いづらくて」
「あー確かに。しかも今は特に大事な時期だしね」
「そうそう」
「わかった。じゃあ俺からそれとなく伝えておくよ」
「ありがとう! あと、できれば唯くんも一緒してくれたら嬉しいなぁ」
「え、俺も?」
突然のお誘いに驚いて、弁当を食べる手を止めてしまう。
数年ぶりに再会した幼馴染水入らずじゃなくてもいいのか?
普通に俺はお邪魔だと思うんだけど。
「唯くんとご飯もなかなか行けてないし、三人でゆっくり話したいなって。唯くんが忙しいのはわかってるけど、もしよければ」
両手の指を合わせて動かしながら控え目に尋ねてくる絢さん。
確かに、朝稽古や昼休みのご飯はほぼ毎日一緒にしてるけど、絢さんとの外食はオーディションの前くらいが最後だった気がする。
「俺と水野さんのスケジュールが合うかどうかはわからないけど、もし空きの時間が合うなら俺はいいよ」
「本当!?」
叶えられるかはわからないと付け加えて了承する俺を見て、彼女は目を輝かせた。
正直、可能性は高くはないと思うけど、とりあえず水野さんに尋ねるだけはしてみよう。
「ただ、もし行けるってなっても夜のそこそこ遅い時間になると思うけど、大丈夫?」
「うん! 大丈夫!」
「オッケー。じゃあ、取材の空き時間で水野さんに聞いておくよ。スケジュールが確定したら日程メッセージで伝えるから」
「はーい! 楽しみにしてるね!」
「俺が同席できる可能性は低いってことは念頭に置いておいてね」
「うん! 可能性がゼロじゃないだけで十分だよ!」
本当に嬉しそうにニコニコしながらご飯を頬張る絢さん。
その姿を見ると、少し無理してでも時間を作ってみようと思えてしまう。
俺、相当絆されてるなぁ。
「っと、早くご飯食べないとお昼休み終わっちゃうよ」
「ん、そうだね。急がないと」
俺たちはお弁当を食べる手を速めて完食し、お昼休みの終わりを告げるチャイムと一緒に空き教室を出るのだった。




