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体育祭 お昼休憩

 昼食の時間になり、佐藤は部活のメンバーとご飯を食べると去っていった。

 俺はというと……。


「はい、唯くん! これが私の渾身のお弁当だよ!」

「あ、ああ、ありがとう」


 絢さんと二人で彼女からのお弁当を食べるためにグラウンドからちょっと離れたベンチに並んで座っていた。

 そこで彼女から渡された可愛らしいお弁当の包みを受け取る。

 元々学校抜け出してコンビニで弁当でも買おうと思っていたけれど、その話をしたら絢さんがどうせならと俺の分のお弁当を作ってきてくれた。

 最初は遠慮したのだけれど、お弁当を一人分作るのも二人分作るのも手間は変わらないし、いつものお礼ってことらしいのでお言葉に甘えることにしたのだ。

 それに、部活をしている人が多いうちのクラスは、大半が佐藤みたいに昼食は部活の友達と集まるので必然的に俺や絢さんみたいな帰宅部は昼休憩の時間は孤立してしまう。

 一応いないことはないけれど、他の帰宅部も他のクラスの友達とご飯を食べたり、一人気ままに休憩したりとテントからいなくなってしまうのだ。

 絢さんはともかく俺は他クラスに友達はいないし、手持無沙汰になるはずだった時間を潰せるのはありがたい。

 ということで、さっそく絢さんのお弁当の包みを開いて蓋を開ける。


「おお、凄く美味しそうじゃん!」


 俺の目に飛び込んできたのは、白米と綺麗に並べられたおかずたちだった。

 蓋には水滴もついていなく、きちんとご飯やおかずを冷やしたあとに弁当箱に詰めたのがわかる。

 彩だけじゃなく、衛生管理もきちんとしてるのには舌を巻く。


「唯くんにも食べてもらうって思ったら気合入っちゃってさ。ちょっと奮発しちゃった」

「なんかごめんね。気を使わせちゃって」

「ううん。私から言い出したことだもん。じゃあ食べよっか」

「そうだね。じゃあ、いただきます」

「いただきまーす」


 二人で手を合わせてから、おかずの玉子焼きに箸を伸ばした。


「ん、この玉子焼き、出汁巻きだ! 美味しい!」

「あ、気づいた? うちじゃ出汁巻きが基本だったから私もこっちを作ることが多くてさ。甘いほうももちろん好きだけど」

「へえ、家庭の味ってやつだね。俺、この味好きだなぁ。ご飯も進むし」

「そ、そう? えへへ、喜んでくれてよかった」


 絢さんは照れくさそうに笑いながらおかずを摘まんだ。

 これはお世辞でもなんでもなく、本当に美味しかったから出た言葉だ。

 元々彼女が普段から自炊をしてることは知っていたけれど、まさかここまで美味しいとは……。

 いや、以前体調を崩した時に作ってもらったお粥もめちゃくちゃ美味かったよな。

 またこういう機会があったら絢さんの料理食べたいと思ってしまうくらいに、俺の舌に合う味だ。

 なんなら作り立ての温かい料理が食べたい。

 今度うちに来た時にお願いして作ってもらおうかな。


「からあげも美味しいし、あとこのピーマンの肉詰めも絶品だね! 塩分が疲れた身体に染みわたる」

「地味にまだ気温高いから、テントで応援してても汗かいちゃうもんねー」

「まさか見てるだけでもこんなに疲れるとは思ってなかったよ。でも、楽しいよ体育祭」


 ご飯を食べる手を止めて、ふうと一息つきながら天を仰いだ。

 こんな日差しの暑さも、騒がしい同年代の人たちの声も、こうやって友達と並んで食べるお弁当の味も、俺は知らなかった。

 それがこんなに楽しくて充実してるなんて、知らなかったんだ。


「初めてなんだっけ、こういう体育祭」

「そうだね。仕事だったり、日焼けや怪我を避けるためだったり、色んな理由でずっと練習から当日まで参加したことはなかったよ。まあ、今でも怪我しないようにきちんと気を付けてるし、日焼け対策も万全にしてるけどね」


 一応小学生の時から日焼けしないようにと事務所から言われてたし、その対策もやっていた。

 はしゃぎすぎて怪我をしないように自分を律してきた。

 でも、それ以上に学校側が気を回しすぎてまともに参加できなかったんだよな。

 小学生の頃は世間で話題の天才子役、中学に入れば大人気アイドルの雪宮唯。

 もしその子に学校の行事で怪我をさせてしまったら、学校に批判が来る可能性があること、日焼けでもさせてしまって、仕事に支障をきたしてしまった時も下手したら事務所からなにか言われるかもしれない。

 そして俺を学校行事に参加させれば余計な騒動を引き起こす恐れもある。

 なら最初からやんわりと参加させない方向に誘導したほうがいい。

 リスクの芽は先に摘むのは正しいことだし、そう判断した学校を責めるつもりもない。

 俺だって仕事で休みがちだったし、子どもながら早い段階から諦めもついていた。


 諦めもついていたはず……だったんだけどなぁ。


「じゃあ、今まで参加できなかった分、存分に楽しまなくちゃね!」


 ふと過去を思い出している俺にニコリと笑いかける絢さん。


 そうだな。存分に楽しまなくちゃな。


「だね。絢さんのお弁当で元気もでたし、午後の競技も楽しもうか」

「うん!」


 そして俺と絢さんはまたお弁当を摘まみながら他愛のない話をして、昼休憩の時間は過ぎていくのだった。

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