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三人で映画

 春休みも終わり、俺たちは二年生になった。

 この学校はクラスはそのまま持ち上がりのようで、それは一安心。

 そんなこんなで、二年生の最初の週は過ぎていった。

 そして、その週末。


「みんな予定が合ってよかったねー」

「そうだね」


 俺と絢さん、そして水野さんの三人は映画館に来ていた。

 それは俺が声優として出演したアニメ映画を観るためだ。

 俺は先行上映会でもうすでに観ているけれど、あの時は舞台挨拶のことを考えたり、観客の反応を観たりと作品に集中できなかったので今日これて丁度よかった。


「でもみんな結構忙しいのによく予定合わせられたよね。水野さんも結構積極的にオーディションやレッスン受けてるんでしょ?」

「そうですね。映画までの間に少しでも経験を積んでレベルアップしておかないとと思ってるので」

「凄いなぁ、桜ちゃんは。唯くんも最近結構な頻度でレッスン受けてるよね?」

「仕事がない時はね。撮影まで意外と時間ないし、あと少ししたらレコーディングもあるしMV撮影もあるしやることだらけだよ。今日も夕方からはレッスンだし」


 そう。今日も昼まではオフで夕方から夜にかけて雪月花のメンバーでのレッスンが入っている。

 だから、映画を観た後軽く話したら俺はそのまま事務所へと向かう予定だ。


「でも、そんなにずっと仕事とレッスンばっかりならまた去年の夏みたいに体調崩さない?」


 そんな俺の予定を知った絢さんは心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。


「それは大丈夫。一日ずっと仕事とかレッスンってわけじゃないし、休める時は休んでるからね。それに映画の撮影が終わったら少し長めのオフを取るつもりだから」


 一応前から咲さんと話して、映画撮影の後、一週間ほど完全なオフを取る予定になっている。

 俺としては完全なオフじゃなくて仕事の量を抑えるくらいでよかったのだけれど、咲さんが休みなさいと強制的にオフにさせられた。

 まあ、佐藤たちとも遊べるなら遊びたいし、咲さんの心遣いをありがたく受け取っておこう。


「そう? ならいいけど。でも、無理しちゃダメだよ?」

「はいはい、わかってるって」


 絢さんはやっぱりまだ心配なようで、きちんと念を押してくる。

 まるで母親みたいだなと苦笑してしまった。


「ふふふ。二人とも本当に仲がいいんだね」


 そんな俺たちのやり取りを見ながら笑う水野さん。


「え、そう見える?」

「うん。なんか気の置けない間柄というか、もう何年もずっと一緒にいるみたいな感じ?」

「まあ、密度だけなら相当だよね。ほぼ毎日会ってるし」

「そうだねー。学校でもずっと一緒にいるし、朝稽古もしてるし、そこらへんの友達やカップルよりも一緒にいるかも」


 よくよく考えてみたらそっか。

 なんならちょっと前まで同居してたし。

 多分この一年は雪月花のメンバーよりも絢さんと過ごす時間が多いのかも。

 そう思ったら本当にすごい密度だよなぁ。


「でも、それだけ一緒にいて空気が悪くならないのも凄いよね。普通はマンネリ化したり喧嘩したりしそうなのに」

「確かに私たち喧嘩したことないよね?」

「そうだね。喧嘩はまだないよね。というか、俺がそこまで喧嘩っていう喧嘩をしたことないかも」


 水野さんと絢さんに言われてふと思い返すと、雪月花のメンバーとも喧嘩をしたことがない。

 ていうか、俺らはある程度の距離感を保ってるし、そもそも各々がしっかりとやるべきことをやり、相手のことを気遣える。

 そんなメンバーなら、何かしら意見がぶつかったとしても喧嘩に至ることはなくきちんと話し合いで解決できる。

 あとは優斗が基本的に省エネだし、龍も人の意見を受け入れられる柔軟性もあるからというのも大きい。

 俺も俺で喧嘩に至るまで行くと自分が引いて距離を置くタイプだから、喧嘩まではいかないんだろうな。

 あと、喧嘩するのめんどくさいし疲れるし。


「やっぱり雪宮さんって大人なんですね。劇団だと結構お互いの芝居論がぶつかって喧嘩してる人いましたから」

「まあ、そういうこともあるよね。でも、ちゃんと自分の意見を持って言い合えるのならいいんじゃない? もちろん暴力を振るったり相手を否定するのはダメだけど」

「役者って結構確固たる自分の世界をもっている人が多いから、意見がぶつかることって多いんですよね。私もあまり引くことないから、そういうところは直さないと」

「へえ、水野さんってそういう感じなんだ。てっきり、引いちゃうタイプかと思ったけど」


 水野さんの言葉に俺は意外だと言葉を漏らす。

 俺の中の水野さんの印象は控えめで相手と衝突しそうになったら自分から引くタイプだと思っていたから。


「普通の時はそうなんですけど、芝居のことになっちゃうとどうしても。相手の言い分に納得できればすぐに受け入れられるんですけどね」

「なるほどね。でも、自分の中に信念があるってことはいいことだと思うし、相手の意見もちゃんと聞けてればそのままでいいと思うよ」


 相手の意見を聞けなければダメだけれど、きちんと相手の言葉を聞いた上で自分の意見を持っていれば喧嘩しながらでもきちんとすり合わせることができる。

 要は相手の考えを否定せずにちゃんと聞くことが大事なのだ。

 芝居でも相手の芝居をちゃんと聞けないと正しい反応ができないし、まともに芝居ができない。

 多分俺があまり人と衝突することがないのも、小さい頃から芝居をして、相手の話を聞く癖がついているからなんだろうな。


「っと、もう映画始まるみたいだね」


 二人と話していると、劇場の照明が落ちてスクリーンに流れる映像が変わった。

 俺たちは話を止めて、スクリーンに流れる映画のCMを眺める。

 そして、映画泥棒の映像が流れ、ついに本編が始まった。


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