なまえをわすれたにんぎょう
システム:神ノ箱庭の本編~139話で、幼い奏が持っていた手作り絵本です。
▼神ノ箱庭~転がる歯車(下)
https://ncode.syosetu.com/n0076hv/139/
にんぎょうはやわらかいくさのうえで、めをあけました。
「ここはどこ? 」
きょろきょろとまわりをみました。
だれもいません。
「わたしはだれ? 」
おおきなこえでさけびました。
なにもきこえません。
にんぎょうはあるきだします。
「なまえをさがしにいかなくちゃ! 」
おおきなきのしたに、しろいうさぎがいます。
「しろいうさぎさん、わたしのなまえをしりませんか? 」
「ごめんね、わからない」
にんぎょうはかなしくてないてしまいました。しろいうさぎはしろいハンカチで、にんぎょうのなみだをふきました。
「わたしのなまえもどこかにいちゃったんだ。いっしょになまえさがしにいってもいいかい? 」
にんぎょうはしろいうさぎとてをつないで、もりにいきました。そこにはたくさんのいきものがいます。
「ハリネズミさん、わたしのなまえをしりませんか? 」
「しらないね 」
「キツツキさん、わたしのなまえをしりませんか? 」
キツツキはきをつつくのがいそがしいようです。
「アライグマさん、わたしのなまえをしりませんか? 」
「おうごんのりんごをくれたらおしえてやるよ! 」
にんぎょうはこまってしまいました。スカートのポケットにはなにもはいっていません。
アライグマはいじわるそうにケラケラとわらっています。しろいうさぎはじぶんのきんどけいをアライグマにみせました。
「これならどうだい? これもおうごんでできているよ」
「これはたべものじゃない! 」
アライグマはおこってどこかにいってしまいました。
くらいもりにあめがふりはじめました。ドーンというかみなりのおおきなおとがきこえます。
「しろいうさぎさん、こわいよ」
「だいじょうぶだよ。さぁ、これをたべて」
しろいうさぎはにんぎょうのくちに、さとうでできたおかしをいれました。にんぎょうはあまいおかしを、くちのなかでコロコロところがしています。
「とってもおいしい! 」
「それはよかった」
しろいうさぎは、うれしそうにわらいました。
「それ、おれにもくれないか? 」
あたまのうえからきこえたこえにおどろいて、にんぎょうが、きゃーとひめいをあげました。しろいうさぎにしがみついて、ふるえています。
しろいうさぎはおそるおそる、うえをみました。
なんと、こえのぬしはおおかみのかいぶつでした。もりいちばんのあばれもので、みんなにこわがられているかいぶつです。
「おなかがすいて、しにそうなんだ」
おおかみのかいぶつはそういうと、たおれてしまいました。おおきなみみをしょんぼりとたおしています。
しろいうさぎはとてもまよいました。おおかみのかいぶつがげんきになったら、たべられてしまうかもしれません。
「わたしたちをたべないとやくそくしてくれますか? 」
「もちろんだ! めがみルルリカに『いのちのやくそく』をささげる! 」
すると、おおかみのかいぶつの『いのちのやくそく』が、あおいとりになってとんでいきました。あんしんしたしろいうさぎは、おかしのふくろをとりだします。
「おおかみのかいぶつさん、これをどうぞ」
「ありがとう、たすかったよ! 」
あっというまに、おおかみのかいぶつはおかしをぜんぶたべてしまいました。まんぞくそうにおなかをポンポンたたいています。
「おまえたちはいのちのおんじんだ! なにかこまったことはないか? なんでもいってくれ! 」
「なんでも?」
しろいうさぎはモジモジしているにんぎょうのせなかをぽんとたたきました。
「おおかみのかいぶつさんに、おねがいをいっていいんだよ」
「ありがとう、しろいうさぎさん! 」
にんぎょうはドキドキするむねにてをあてると、おおかみのかいぶつにききました。
「わたしのなまえをおしえてください」
おおかみのかいぶつは、きおくのひきだしをあけて、にんぎょうのなまえをさがしました。どこにもはいっていません。うんうんとうなりながら、あたまをかかえています。
「ごめん、わからない……」
おおかみのかいぶつは、ほかにねがいがないかをききました。しかしにんぎょうはかなしそうなかおで、あたまをよこにふるだけです。
「それなら、なまえさがしのたびにおれもいこう! きけんなやつらはぜんぶたおしてやるぞ」
にんぎょうもしろいうさぎも、つよいなかまができたことをよろこびました。おおかみのかいぶつといっしょならば、こわいものなしです。
3にんはさがしものがみつかるおまじないのうたを、うたいながらあるきました。
ありんこのむらやにんぎょがいるうみ、そしてゆきだるまのくになどのたくさんのばしょにいきました。それなのに、にんぎょうのなまえをしっているいきものがみつかりません。
あるひ、おおかみのかいぶつがいいました。
「おれたちがあたらしいなまえをあげるのはだめかな? 」
「それはいいかんがえだね」
しろいうさぎはすぐにさんせいしました。しかし……にんぎょうはハラハラとなみだをながしています。
「なまえなんていらないわ」
「どうしてだい? 」
しろいうさぎは、なまえをいらないりゆうがわかりません。あんなにいっしょうけんめいさがしていたのに、なぜなのでしょう?
にんぎょうはなきながらいいました。
「なまえをもらったら、ふたりとおわかれになっちゃう! 」
しろいうさぎとおおかみのかいぶつはビックリしてしまいました。そんなことを、いちどもかんがえたことがなかったからです。
おおかみのかいぶつは、あしもとにさいていたあおいはなをつんで、にんぎょうにわたしました。
「これからもおれたちといっしょに、たびをしよう」
しろいうさぎはあおいはなを、にんぎようのぎんいろのかみのけにさしました。
「わたしたちがかんがえたなまえを、もらってくれますか? 」
にんぎょうはうれしそうにうなずきました。そして3にんはうつくしいせかいで、いつまでもいつまでも……なかよくたびをつづけました。
おしまい。
システム:奏はこの物語をオーディン王の人形物語の続きとして、母親の百合といっしょにオリジナルの絵本を作りました。文字数が多いので絵本というよりも、ふつうの本ですねw
▼神ノ箱庭(外伝)オーディン王の人形物語~ヴィータの中のマキナ~
https://ncode.syosetu.com/n5531ig/
しかし、海で濡らして本はボロボロになってしまいます。人形の名前や白いうさぎ、狼の怪物の名前を書かなかったことと、読み返すことが無くなったことで、物語の内容は奏の記憶から徐々に薄れてしまいました。
----<おまけ『人形の本』>----
「奏、お人形の名前は? 」
「ララちゃん……サリちゃん……う~ん。どうしよう? 」
「いっぱい候補があるのね」
「うん、いっぱいあるのっ」
「本を作るのは名前が決まってからにしようか」
「ええーっ。やだよぉ! おかあさん、つくってよぉ」
奏は遊んでいた象の縫いぐるみを床に置くと、椅子に座っている母親の元に駆け寄り膝にしがみついた。
「ぼくね、まいにち、すてきな名前を考えるよ」
「そんなにお人形の本が欲しいのね」
「うん! お人形さんがしあわせになる本だから! 」
それから数日後、奏は人形と旅をする夢を見た。もちろん、白いウサギのブランと、狼の怪物ガンドルも一緒だ。皆んなと歌いながら、ねこじゃらしを振り回している。
「おかあさん、お人形さんはしあわせになったよ」
優しく微笑む母に頭を撫でられ笑みを零したカナデは……腕の中にある出来たてほやほやの本をしっかりと抱えた。
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それでは次回は神ノ箱庭の本編でお会いしましょう。
https://ncode.syosetu.com/n0076hv/
See you next week.