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ep.2

目を開けると知らない部屋にいた。

(家出したんだった...)

さて、昨日の私を殴ってやりたいが、魔法をもってしてもそんなことは出来ないので諦めて、未だ醒めきってない頭で状況を整理する。

私は故郷の村を出て森を歩きこの町を見つけたらしい。

そこまではいいのだが目下の問題は宿代だろう。どれだけ眠ければそんな大事なことをすっぽかせるのか分からないが、これまた憎いことに今言っても詮無きことである。

部屋に置かれた時計は六時を指していた。どうやら半日以上寝たらしい。

女将さんは八時頃に朝食、と言っていた気がするがいつ起きてくるのだろうか。

持ち合わせがないわけではない、村で流通していた金貨が使えるのかというのが問題である。

金は金だしまったく価値がないということもないだろうがどうだろう。

店先に料金やその他もろもろ書いてあるだろうと辺りをつけて、さっと身支度をして外に出た。


予想は的中しそこには料金について書かれていたが、私の不安は杞憂で終わることになった。

この町は周りの町の中継地点のような場所らしく、立地上色々な場所から旅人が来るようだ。

そのため、あまり出回っていないような珍しい貨幣も一般に流通しているものと同じように使えるらしい。

変換もできるらしいが役場でしか取り扱っていないようなので、後で尋ねることにした。

私の村は割と断絶されたところなので不安だったが、どうやら私の貨幣は私が歩いてきた方向とは逆方向にほんの少し歩いた所にある町と同じもののようで、問題なく使用できるとのこと。

......いや考えるのはよそう。めでたしめでたし。

最も緊急の案件は解決したので次は...魔法使いがいるかということだがこれに関しては恐らくいないだろうと半ば確信している。

魔獣に魔力があることから魔法を使える人間にも恐らく魔力があるのだろう。

準備をしながら町に意識を張ってみたがそれらしい反応はなかった。

まぁ、まだまだめげる様なことじゃないだろう。

せっかく旅に出たんだし旅自体も楽しみたいところである。

女将さんが起きてきたら雑談がてら旅に必要なことや魔法のことについて聞こう。

そう考えて辺りを少しだけ散策した後、宿に戻った。


「おはようございます。女将さん」

「おはよう、昨日はよく眠れたかい?」


宿に戻って時間をつぶしていると女将さんが朝食の準備を済ませたらしく、部屋を訪ねてきた。


「お陰様でぐっすりです」

「そうかい、そうかい。...それにしても若いねぇ、いくつ?」

「今年で十三になります」

「じゅうさん!?しっかりしてるねぇ」


私の村では成人は十五歳だったが、これはどこに行っても同じなんだろうか。

どちらにせよ想定よりも子供だったことに相当驚いているようだ。

「うちの息子はまだ自立もせずに...」と愚痴る女将さんに曖昧に笑っておいて、豆腐と揚げが入った味噌汁を啜る。

うん、おいしい。心温まるというか、味噌が薄目で出汁メインの味付けはじんわりと体に染みわたる。

というかよく考えてみれば、豆腐も揚げも味噌も大豆由来なので合わないわけがない。

朝食のメニューは魚の煮つけ、ほうれん草の煮びたし、味噌汁に白米と和食で統一されており、はっきり言って毎日でも食べたいと思える程どれもおいしい。

どうやって味付けしてるんだろうなどと考えながら夢中で食べていると、女将さんが少しだけ神妙な面持ちになる。


「ところでマリエルちゃん、この村には何しに来たんだい?こう言うのもなんだけど訳アリなんだろう?」

「...どうしてそう思ったんです?」

「そりゃあ、大人びてるとはいえまだ十三の子供が保護者もつれずに泊まってったんだ。何もないほうがおかしな話さね」

「まぁ何もないわけではないんですが...」

「心配しなくても言いふらしたりしないしマリエルちゃんをどうこうするつもりはないよ?しばらく話し相手がいなかったのさ、めんどくさいババァに捕まったと思って話してごらん?」

「そう言って下さるのはうれしいんですが面白い話でもないですよ?ただ単に家出したってだけですので。それと女将さんはとってもお若いです!」


なんとなくだが女将さんの言っていることに嘘はないと思う。本当にどうこうするつもりはなさそうだ。話相手云々は...まぁ気を使ってくれたのだろう。

ただそれとこれとは話は別だ。

女将さんに話せるならまず先に両親に話しているし、大層な話ではなく個人的なわがままのようなものだから余計人には話せない。


「久しぶりにお世辞なんて言われたよ、まぁ無理強いするもんでもないからね。困ったら大人に頼るんだよ?」


女将さんが困ったように眉を八の字にして言った。

ホントにいい人だな。うん。


「はい、無理だと思ったらすぐに大人に頼るようにします」

「よろしい」


女将さんがにじり寄って頭をなでてくる。

向けられる眼差しは慈愛に満ちていて、女将さんへの信頼を強める一方、悪い人に騙されないかと生意気にも考えてしまう。

...女将さんに仇成す輩はこの手で粉みじんにしてやろうと固く心に決めた。


朝食を食べた後、女将さんに周辺の地図や貨幣のこと、危険区域について教えてもらった。どうやら危険魔獣の住処や、政治的、文化的に重要な場所は国が立ち入り禁止にする場合があるらしい。

女将さんは別れる寸前まで名残惜しそうにしていて、そんな女将さんにくすりと笑ってから「また来ます」と伝えて宿屋を後にした。




その後、役場から依頼を受けてしばらく放浪できるであろう分の日銭を稼いだのち、町から出発した。

それからは町から町を転々する日々が続いた。

来る日も来る日も大小さまざまな町に足を運び、魔法使いについて尋ね、必要があれば魔獣を狩る。

旅自体は楽しかった。最初に訪れた町の女将さんを初めとして会う人はみな親切にしてくれるし、喰いっぱぐれる心配もないのだから悠々自適に過ごせる。


―ただ、このまま旅をしていったとして魔法使いは見つかるのかという不安は日に日に影を増していた。

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