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ゴールド商会

「なるほど、アナタの魔力は風の属性でしたか」


「……そうなんですか?」


 俺の周りを渦巻くこの緑色の風が魔力だということをはじめて知り、属性とやらまで教えてくれたガウェイン卿に聞き返すとからかわれたと思ったのか彼は眉をひそめ、纏っている黄金の闘気(オーラ)が大きくなった。そしてガウェイン卿は剣を構え、『いざ!』と声をあげてこちらに斬りかかってくる。迫る刃を刀で受け止めようとしたが彼の剣筋の速度と剣が纏う魔力とやらを見て『やばいんじゃないか!?』と本能が問い掛けてきて俺は咄嗟に大きく後ろへ飛び退く。もはや映画でしか聞いた事のない刃音を鳴らしながらガウェイン卿の剣は空を斬り、彼はニコッと笑みを浮かべた。


「よく躱しました。今の一撃を受け止めていたならば私の魔力がアナタを焼き尽くしていたことでしょう」


「そういう怖いことを爽やかな表情でしれっと言うのやめてもらえます?」


 ガウェイン卿は微笑んだまま『失敬』と言って剣を振るい、俺もなんとか躱しながら刀で応戦する。しばらくして彼は剣を下ろし、黄金の闘気も霧散して風に乗って天高く舞う。俺も『やっと終わった』と思いながら刀を鞘に納め、魔力は風に溶け込んでどこか遠くへと飛んでいった。すると次の瞬間、ガウェイン卿が持つ剣の切っ先が視界に飛び込んできて俺は思わず『ひっ』と声を洩らしてたじろぐ。


「迂闊ですね、剣を手にした騎士を前にして武器を納めるなど」


「思いきり終わりの雰囲気じゃなかったですか……?」


 俺は両手をあげ、戦う気が無いことを全力で彼に示した。女神様から与えられたというスキルの詳細がわからないし、昨日 (?)まで普通の高校生だった俺がガウェイン卿のようなバケモノ級の騎士と戦っていたら命がいくつあっても足りない!その意図を汲み取ってくれたのか、彼は『ふむ』とつぶやきながら剣を納めてくれた。


「アナタは悪人ではない、それは認めましょう。しかし───汝がこの王国に仇なす者と定めた時、私は一切の躊躇なくアナタを斬り捨てます」


「わ、わかりました。肝に銘じます……」


 脅しではない、ガウェイン卿の言葉が帯びる迫力に俺は『コクンッ』と喉を鳴らしながら頷いた。そして先程までの険しい表情はどこへやら、柔らかな笑みを浮かべると俺をゴールドさんのもとへと案内した。


─────

───


 ウィンチェスター王国の街の中にそびえ立つ大きな建物、その前に立てられた石版には『ゴールド商会』の文字が印されている。なんでもゴールドさんはこの街で一番の商人であり王室や貴族、果ては世界各地へ飛び回って取り引きをしているんだとか……


 そんなすごい人を助けてしまってお礼はどんなものなのだろうかと不安が少しと期待でソワソワしながら商会の建物の中に入り、受付などの手続きをガウェイン卿がしてくれたので俺はスムーズにゴールドさんの待つ会長室の前にやって来れた。そしてガウェイン卿がドアをノックして俺が来たことを告げると中からゴールドさんの声が聞こえてくる。


「お待ちしておりました、ガウェイン卿も一緒に入ってください」


 ゴールドさんに招かれて俺たちが部屋に入ると彼は笑顔で俺たちを迎え入れ、自分の向かいにあるソファーに座るよう掌で指し示した。俺は『失礼します』とお辞儀してソファーに座り、ゴールドさんと顔を見合わせる。


「気を楽にしてください、アナタは客人なのですから」


 よほど緊張した表情を浮かべていたのか、ゴールドさんは俺の顔を見て『ふっ』と小さく微笑んだ。そして彼は傍に立つ秘書らしき女性に声を掛けると彼女はこの部屋から離れ、ゴールドさんがパンッと手を叩いて話し始める。


「さて、あらためて───我が商会の危機を救ってくださりありがとうございます。会長としてクラウス・サモンさんに御礼を申し上げます」


「い、いえ、そんな……ガウェイン卿たちの協力もありましたから」


 正直、あれだけの数の盗賊たちを撃退できたのはガウェイン卿ほか熟練の騎士たちが味方してくれていたからに他ならず、今ゴールドさんやガウェイン卿を前にして自分がそこまで活躍していたかと俺は段々自信を保てなくなってきた。


「謙虚な方だ、私に恩を売っておけばアナタにとってこの上ない利益になるというのに」


 彼は自信満々にそう語るが俺は商人ではない、利益よりもまず欲しいものがある。俺はゴールドさんとガウェイン卿に自分がこの世界にやって来た経緯とこの世界で生きていくための手段を知りたいと伝えた。するとゴールドさんはソファーにもたれかかり、ひとつ大きなため息をついた。


「そうですか、家族を庇って……」


 そしてぽつりとつぶやき、視線を俺に向けてきた。その眼差しはまるで俺を品定めしているかのようで一瞬、『ん?』と不思議そうな表情で首を傾げたがすぐに『うん!』と納得したように頷く。そして先ほどの女性が部屋に戻り、彼女はなにやら書類の束を持っていた。


「ちょうどよかった、では率直に言います。クラウスさん、うちの商会で傭兵として働きませんか?」


「え?」


 突然の誘いに俺は間の抜けた声を出してしまい、ゴールドさんは秘書が持ってきた書類を受け取ってテーブルに並べ、俺に熟読してサインをするように言った。その傍ではガウェイン卿が驚愕の表情を浮かべており、動揺しながらゴールドさんに詰め寄る。


「ゴールド様、このような素性もわからぬ旅人を商会に入れるのはいかがなものかと……!」


「素性ならたった今、判明したではありませんか。大丈夫、彼は悪い人間ではありません。私の鑑識眼を信じなさい」


 ガウェイン卿が必死に異議を申し立ててもゴールドさんは『大丈夫』と『私を信じなさい』と返すばかりで聞き入れようとしない。ついにガウェイン卿は音を上げ、額に手を当てて『なんてことだ』とぼやいた。そうしている間に俺が書類の記入を終え、ゴールドさんに渡すと不備がないか見返す。この世界での住所や所属しているギルド等々の項目は空欄だがそれについて尋ねられることもなく頷き、書類をまとめると秘書に渡した。


「アナタの住居は後日、準備しておきますのでしばらくは近くの宿に泊まっててもらえますか?」


「え、家まで!?」


 それからこの商会で働く上での簡単な注意事項を説明され、商会を出た俺は紹介されたギルドへガウェイン卿と共に赴き、ゴールドさんが話を通してくれていたおかげで登録の手続も無事に終わった。こうして俺はギルドに加入し、晴れてウィンチェスター王国の───この世界の住民となった。

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